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番外編

■砂漠で愛を知る■

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 乾いた風が大地に吹き荒れた。
 灼熱にも思えるほどの熱さに、思わず顔をしかめた。この国では汗すら乾いてしまう。
 こんなところでよく生きていけるなというのが、失礼だが初めて感じた印象だ。

 なにしろほとんどが砂漠で年中夏の気候であるこの国と違って、アレンスデーンは四季がはっきりと分かれているし、日本とよく似た気候だ。
 日中外に出ただけで、命の危険すら感じるような経験などないのだ。

 アレンスデーンの使節団一行は、夜を待って船から下りて、港町からピョールと呼ばれるらくだに似たものに乗って、首都カンフルに入った。

 カフールと呼ばれる頭に巻き付ける布の隙間から、カンフルの町を覗き見た。
 砂漠の真ん中にある、オアシス。どこもかしこも、人で溢れている。いたるところで市が開かて活気があり、老若男女、みんな生き生きとしているように見えた。
 それでも、それなりに治安が悪いところもあるらしく、ピョールからは下りないようにと言われていたので、賑やかな市を、こっそり眺めるだけにとどめた。

「時間があったら寄ってあげるよ」

 あまりに釘付けになっていたからか、すぐ後ろから声をかけられた。ピョールは二人乗りが出来るので、当然のように二人で乗ることになったのだ。

「いいよ。忙しいでしょう。仕事できたわけだし」

 クスリっと笑う声がすぐ耳の側で聞こえる。この体勢はどうにも恥ずかしくて困る。

「さっきまで、私にもたれかかって、グーグー寝ていたのに、ここに来たら急に起きて目を輝かせているのだから、連れていってあげたくなったよ。私の可愛い奥さん」

「ちょっ………フェルナンド!」

 また耳元でそんなことを言われたものだから、顔から湯気が出そうになって下を向いた。
 こんな時に、顔が隠せるカフールは便利だと思ってしまった。
 カフールは、そもそも日除け用なのだが、他の者はさらりと頭に巻いて下に自然に流しているのに、リリアンヌは何故か顔中ぐるぐる巻きにされてしまった。女性でもそんなに、巻いている人はいないので絶対におかしいと思うのだが、着いてすぐフェルナンドに、自分と二人きり以外の時はこのままでいて欲しいと言われて、その時はよく分からなくて了承した。

 先程から町の人々の視線を感じるような気がするし、子供達が指を指して笑っているので、これは、間違いなく自分のことだと思って、リリアンヌは恥ずかしくて丸くなった。

「バラ王宮に着いたら、これ絶対取るから……」

「だめだよ。ルーミニアの男は情熱的なんだ。呼吸をするみたいに女性を口説くやつらなんだよ。フレイムは変わり者だから例外だけど」

「フェルナンド……、おおげさだよ。いくらなんでも人妻に声をかけるような人はいないよ。絶対、自意識過剰だって笑われる」

「いや、そういう国民性なんだよ。言っておくけど、もし変な目でリリアンヌを見られるような事があれば、私は暴れると思うから」

 外交問題になりかねない冗談をさらりと言うフェルナンドは、見たくないけど、多分ニヤニヤと笑っているだろうとリリアンヌは呆れた。


 フレイムの住む砂漠の王宮は、円形でその複雑な形状から、バラ王宮と呼ばれていた。

 ほどなくして、一行はバラ王宮に入った。
 今回の視察の目的は鉄鉱石だ。砂漠にある鉱山では、アレンスデーンでは採掘が難しい鉄鉱石が豊富に取れる。
 鉱山を見学して品質を確かめること。輸入に関しての取り決めやルートの確保など、アレンスデーンの専門家も同行しての大がかりな視察だった。
 フェルナンドとフレイムは旧知の仲という事で、より有利な条件で交渉が進められるように、フェルナンド自ら視察することになった。

 そして、かねてからフェルナンドが宣言していた通り、リリアンヌも同行することになった。しかし、もちろん政治的な交渉に参加できるスキルなどないので、ただ邪魔をしないようにお供するだけというリリアンヌには身軽な旅であった。

 ピョールを下りると、出迎えの者達が集まってきた。先頭に出てきた男が恭しく礼をした。

「遠いところ、お越しいただきありがとうございます。心より歓迎し、ルーミニア王国ご滞在中は不自由がないようにお世話させていただきます。私、フレイム王子の側近を務めております、ジーニーと申します。なにかございましたら何なりとお申し付けください」

 褐色の肌に、カフールをさらりと巻いている若い男だ。カフールからは金色の髪が見えて、同じ金色の瞳をしている。一般的なルーミニア人だが、よく鍛えられた体をしていた。男性は薄着なので、それがよく分かる。

「それで、今回は妃殿下もご一緒ですとか。美しい花はどちらにいらっしゃるのですか?」

「ああ、妃はこちらに」

 ジーニーはカフールでぐるぐる巻きのリリアンヌに目を向けて、目を大きく開いて一瞬固まった。まぁ、分からない反応ではない。

「あっはははは。これはまた面白いカフールの使い方ですね。ルーミニアの女は新しいものや、流行に敏感ですのできっと流行るかもしれませんね」

 そんなわけないだろうと、リリアンヌはカフールの中から、ジーニーを睨んだ。口が上手く動く調子のいいやつだとみた。

「ささ、フェルナンド様はこちらへ。フレイム様がお待ちしております。歓迎の宴にはルーミニアの美しい花を揃えておりますので……」

 ジーニーが小声でフェルナンドに話しかけたのをリリアンヌは聞き逃がさなかった。
 王のためのハレムがある国だ。たくさんの女を喜ばせることが出来てこそ、一人前の男とされる。
 フェルナンドは国民性と言っていたが、なるほどそういう扱いなのだと、リリアンヌはフェルナンドをジロリと見たが、目をそらして気まずそうな顔をしていた。

「久しぶりに会うのでしょう。楽しんできてくださいな」

「……リリアンヌ、ごめんね。終わったらすぐ戻るから、部屋で大人しく待っていて。私はリリアンヌがいないと熟睡できないんだ」

 そう言って、フェルナンドはリリアンヌのかぶるカフールの上からキスをした。

 宴の招待客で女性は参加出来ない。その理由はあまり考えたくないところだった。

 フェルナンドと別れ、リリアンヌは宿泊する部屋に通された。
 そこで、ぐるぐるに巻いていたカフールをやっと外した。アレンスデーンのドレスは暑すぎて船を下りる前に、カフレットと呼ばれるルーミニアの女性のドレスに着替えていた。砂漠を移動するので、素材は薄いが比較的肌の露出が少ないもので、動きやすくて気に入っていた。

 失礼しますと声がして返事をすると、先ほど挨拶をしたジーニーが現れた。

「……これはこれは、アレンスデーンの妃殿下は噂に違わぬ美しさですね。あっ、失礼しました。思わず目を奪われてしまいました」

 ジーニーは人の良さそうな顔で笑っているが、フレイムの側近を務める男だけあって、単純な良い人ではなさそうだと感じていた。
 ただ、本当に息をするように、美しいなどと言葉が出てきたので、不覚にも顔が熱くなってしまい、急いで窓の方に向きを変えた。

「ありがとうございます。必要なものは用意していただいておりますので、私のことはどうか気にせずに……」

「おや、リリアンヌ様は、ずいぶんと素直な方のようですね。我が王があなたを見たらきっとハレムに閉じ込めるでしょう。私としてもアレンスデーンとの争いは避けたいので、どうかお部屋で大人しくしていてください」

 よくまぁペラペラと冗談が出てくるものだとリリアンヌは呆れた。
 言われなくても、邪魔にならないように部屋で過ごすつもりだったので、分かりましたとだけ言って、ジーニーには早々に下がってもらった。

(今頃、フェルナンドは、ルーミニアの美女に囲まれてウハウハかぁ……)

 平気なふりをして強がってみたが、お腹の中は黒い煙が立ち込めて嫌な気分だった。

 それでも、フェルナンドが戻ってくれば、気持ちも晴れると思っていたが、その日、フェルナンドはいくら待っても帰って来ずに、ついに窓から光が差し込んでしまい、リリアンヌはベッドの上で深いため息をついて朝方になって目を閉じたのだった。

 □□


 実のところ、夜の深い時間に使いの者が来て、フェルナンドはルーミニアの地方から集まった首長達に飲まされてしまい、朝までかかりそうなので、先に休むように連絡があった。

 だから、ずっと待っていたのは、リリアンヌが待ちたかったからであって、フェルナンドのせいではない。
 リリアンヌも宴の場が外交の場でもあることは、よくよく分かっている。

 だが、リリアンヌが目を覚ますと、フェルナンドが帰って来た形跡はなく、すでに一日目の視察に向かってしまったようだった。

(私は役立たずだし……、分かってたけどさ……)

 鉱山まではすぐに往復出来る距離ではない。着いてから見て回るとしても、数日はかかるだろう。

 何をして過ごそうがと外を眺めていると、扉を叩く音がした。
 身の回りの世話は、アレンスデーンから連れてきた者と、バラ王宮の使用人も手伝ってくれていて、すでに身支度は終わっていた。
 誰かと思い扉を開けると、そこにはカフレッルと呼ばれる薄い外套を頭からかぶった人が立っていた。

「あなたが、リリアンヌ様ね。さすが、アレンスデーンの女性は肌が白くて透けるようだわー。羨ましい!」

 声からして女性のようだが、何事かと思い返事に困ってしまった。

「え……?あの、あなたは?」

「質問は後よ!男達だけ楽しむなんて、ルーミニアの女は許さないのよ、ほら、こんなところに閉じこもっていないで、行くわよ!」

「え!?あ……あの?」

 腕を取られて、あっという間に部屋から連れ出されてしまった。他国の女性を無理に振り払うわけにもいかず、引かれるまま連れてこられたのは、金で出来た豪華絢爛な扉だった。
 門番の者と何か言葉を交わすと、重そうな扉はゆっくり開かれた。

 中に入るとむせかえるような花の匂いがした。そして見渡す限り、女しかいない。
 しかも、女性達は露出高めの服を来て、寝そべったり、話したり、何か食べていたりと、大きな空間にたくさんの扇情的な格好をした女性達がいた。

「あぁ、暑い。これ苦手なのよね」

 リリアンヌをここへ連れてきた女性が、バサリと外套を落とした。
 現れたのは、褐色の肌に長い黒髪の女性だ。つんと高い鼻が特徴的で、キリッとした目をした美人で、胸の大事な部分だけ、宝石で隠されていて、腰布はざっくりとスリットが入っていて、足は丸見え、もうほとんど何も着ていないようにしか見えない。

「ようこそ、ハレムへ。現サリム王の第三側室のイグリットよ。ちなみに側室は24人いて、その中でも数字が若い方がお気に入りってこと。だから、私は他の女より、色々許されているの。ハレムを出てバラ王宮の中なら自由に移動できるのよ」

「ここが……、ハレムですか……」

 ハレム、女性の園。
 リリアンヌが見渡すと大広間の真ん中には、水が流れていて、ほぼ裸の女性が体を清めているのが見えた。

(うへ!ちょっと……これは目のやり場に困るんだけど!)

 リリアンヌになってずいぶん経つし、フェルナンドと結婚して、まぁそういう関係にもなっているので、すっかり心も体も女になっていたが、さすがに、裸体の美女達がひしめき合う空間に立たされると焦るものがある。
 浮気とは言い難いが、ある意味緊張して、顔は赤くなるし、変な汗も出てきた。

「あら?どうなさったの?リリアンヌ様?もしかして……生娘?まさかね、慣れないだけかしら?それとも純粋なお方なの?可愛いわね」

 耳元で可愛いと囁かれて、ビクッと体が跳ねた。
 この国の人間は男も女も冗談が過ぎる気がする。まさに国民性かとリリアンヌはショックを受けた。

「アレンスデーンのお妃様が来ていると聞いて、急いで会いに行ったのよ。さぁ、リリアンヌ様、女は女同士、楽しみましょう」

 イグリットが妖しげに微笑んで、リリアンヌのドレスに手をかけた。上の留め具をパチっと外すと、ドレスはバサリと落ちた。
 ルーミニアのドレスは、実に効率的に出来ているなと、なぜか納得してから自分の格好を確認して、リリアンヌは頭が真っ白になってギャーっと声を上げたのだった。


 □□


 フェルナンドがバラ王宮に戻ってきたのは、出発してから三日が経っていた。
 リリアンヌとの自由時間を確保するために、フレイムに言って出発を早めてもらった。なんともお気楽な国民性だが、歓迎の宴は三日三晩続くと聞いて、さすがに呆れてしまった。
 そんなに飲んだくれていたら、体がもたないし、リリアンヌも怒ってしまい、口を聞いてもらえないかもしれない。

 明け方、リリアンヌの様子を少しだけ見に行くと、よく眠っていたのでおでこにキスをして部屋をそっと出た。

 視察が早く終われば自由時間ができるし、ここから少し離れた楽園と呼ばれる、緑豊かな町に宿を取ってゆっくりすることもできる。
 新婚旅行もちゃんと行けていないので、仕事で出てはいるが、そういった時間も作っておきたかった。

 視察を無事終えて、フレイムとの話し合いも順調に進んだ。
 鉱山についてはフレイムが王から任されているので、手っ取り早く話し合いもできて、何もかも順調だった。

 砂漠の夕日は実に美しかった。早くリリアンヌにもそれを見せたいと思って町を抜けた。
 彼女は何をしているだろうかとふと思った。
 変に物分かりのいいリリアンヌは、あまりわがままは言わない。
 フェルナンドが、大人しくしてくれと言えば、ちゃんと部屋で大人しく過ごしているだろう。

 この国に来て心配だったのは、リリアンヌが目立ちすぎることだ。
 ルーミニア人は褐色の肌が基本だが、たまに色白の者も生まれる。特に女子であれば、王に献上されるくらい好まれるのだ。
 リリアンヌはアレンスデーンの女性の中でも、肌は透き通るように白くて美しい。

 なるべくなら、誰の目にも触れさせたくないと、布でぐるぐる巻きにしてみたが、大変嫌そうだった。
 カフールの隙間から、怒った目でこちらを見るリリアンヌの顔を思い出して、クスッと笑ってしまった。

 正式に妃となってから、半年ほど経つが、いつ見ても愛らしく愛しい。目の中に入れて持ち歩きたいくらい可愛くてたまらないのだ。

 早く顔が見たいと部屋に戻ってみたが、どういうことが、いつも走ってきて迎えてくれるはずのリリアンヌがいなかった。

「………フェルナンド様。お疲れのところ、大変申し上げにくいのですが……」

 振り返ると戸口に、初日に案内してくれたジーニーという男が立っていた。

「なんだ?リリアンヌはどうした?何かあったのか!?」

 フェルナンドは瞬時に顔色が変わり、ジーニーに詰め寄った。

「落ち着いてください。元気に過ごされているのですが……」

「だったらなんだ?」

「サリム王のハレムの女性達が、えらくリリアンヌ様を気に入ってしまい……、オモチャに……じゃなくて、楽しく過ごされていますが、その、返してくれないのですよ」

 私には権限がなくて、あそこには干渉できなくて、困っておりまして、などとジーニーは全く頼りないことを言った。

 このまま、あのフレイムの親父に見初められたりでもしたらとんでもないと、フェルナンドは青くなった。
 急ぎ、フレイムを呼びつけて、二人でハレムの扉を抜けて中へ入った。

 むせかえるような花の匂いが鼻に付いた。これが、サリム王の趣味なら自分は無理だなと思った。

「ごめんねー、ハレムの女性陣はいたずら好きなんだ。ここのことはイグリットに聞けば分かるよ。彼女が取り仕切っているから」

 こちらの焦りをよそに、いつも通りのんびりとフレイムが、おーいと手を振ってイグリットーと声を上げた。

 ほどなくして、黒髪の長い女性が現れた。アレンスデーンでは、ありえない露出の高い服装に目のやり場に困った。

「あら~!やっぱりフェルナンド様はイケメンですわね。リリアンヌ様ってば、フェルナンド様の話ばかりするのよ。本当、愛し合っていて羨ましいわ」

「イグリットー、頼むよ。リリアンヌ返してあげてー。このままだとフェルナンド、キレちゃうからさぁ」

 ポリポリと頭をかきながら、またのんびりとした口調でフレイムは、イグリットに頼んだ。

「こちらですよー!ハレムの女達が、腕によりをかけて、アレンスデーンの妃殿下をおもてなししました。香油を塗り込んで、マッサージをして、全身くまなくルーミニアの美の技術を堪能していただきましたわ」

 イグリットとは別の女達が、わらわらとやって来て、その中から顔が真っ赤になったリリアンヌが出てきた。

「待って!この、格好じゃやだって言ったのにー!フェ…フェルナンドお帰りなさい。ちょっと手違いで…こんなことに……。ごめん!やっぱりこっち見ないでー!」

 リリアンヌはイグリットよりも、過激な衣装をで登場した。衣装というより、ほとんど布が使われていないシャラシャラとした金のヒモのようなもので、申し訳程度に隠せそうなところを隠しているだけで、その姿は突き抜けて神々しくもあった。

 完全に目を奪われて、見入ってしまったが、横でフレイムがピューと口笛を吹いたので我にかえった。

 頭に巻き付けていた布を乱暴に剥がして、フレイムの目元にぐるぐるに巻き付けた。

「あーー!ちょっと、フェルナンド何を……」

「……フレイム、そのまま目隠しして動くな!私達が出るまで絶対に見るなよ!見たら殺す!!」

「へーい。命が惜しいので動かない」

 そのまま、つかつかとリリアンヌのところへ歩き、着ていた男性用のカフレを脱いでリリアンヌの頭からかぶせた。

「サリムの花達よ、わが妃を美しくもてなして頂きありがとうございました。しかし、私は非常に心が狭い男なので、ルーミニアのドレスは美しすぎて、余計に我が妃を他の者に見せたくなくなってしまいました。狭量な私に免じて、今日はこのまま連れて帰りたいのですが、よろしいですね」

「あらぁ。残念。もっと喜んでくれるかと思ったのに。フェルナンド様、リリアンヌ様はとっても甘くて美味しかったですわ、ふふふっ」

 そう言ってイグリットは妖しげに微笑んで、退出用のベルを鳴らした。
 間もなくして、金色の重厚な扉は音をたてて開かれた。

 フェルナンドはリリアンヌを抱き上げて、廊下を走るようにして進んだ。一刻も早く部屋に入らなければ、リリアンヌの服はまだまだ足りないし、半裸の自分も、こんな格好で歩いていたら、おかしく思われるだろう。

 それにしても、自分が女性に嫉妬する日が来るとはフェルナンドは思いもしなかった。

 そこまで心配する必要があるのかと、軽く頭痛を覚えたのであった。


 □□


 フェルナンドに抱き上げられて、部屋まで連れてこられたて、ベッドの上に下ろされた。
 ずっと帰りたいと言っていたのに、ハレムの女性達はあれこれ言いながらはぐらかして、外に出してくれなかった。

「フェルナンド……、イグリットがなんか変なこと言ってたけど、何もないよ、ただ綺麗にしてもらっただけで………」

 いたずら好きのイグリットが、フェルナンドに冗談を言っていたので、変な誤解をされたら困ると思って、リリアンヌは一応訂正しておいた。

 フェルナンドがかぶせてくれた服から、むくむくと顔を出すと、ちょっと怒った顔のフェルナンドが隣に座っていた。

「それは、分かっているよ。いくらハレムの側室でも、他国の妃に手を出すなんてことはないだろうけど……、だろうけど……、あの顔!絶対何かやった気がする!リリアンヌが気づかないように、絶対なんかやった!」

「ないってば。イグリットは香油でマッサージしてくれたんだよ。ほら、女性が頼むエステみたいなものでしょう。変なことされなかったし……」

 頭を抱えたフェルナンドは、小声でマッサージマッサージと繰り返していた。

(ったく、変に心配性なんだよな。女同士で何を心配することがあるんだか……)

 それより、久しぶりに会えたのだから、こんなところでだらだらお話するのはとうかと思った。
 リリアンヌは、かぶせてもらった服を頭をくぐらせて何とか脱いだ。

「フェルナンド、見てよこれ。全部金の糸で出来ているんだって、もう二度と着ないけどさ、すごい服だよね」

「……………あぁ、女神が隣に座っている」

「それ……、絶対に外で言わないでよ」

 私の女神と言ってフェルナンドはリリアンヌを抱きしめてきた。
 フェルナンドから砂漠の砂の香りがした。急いで帰って来てくれたのだろうと思うと、リリアンヌの胸はトクンと鳴った。

「ちょっ、ちょっと!フェルナンド!そんな乱暴に引っ張らないで、これ返さないといけないんだよ」

「こんなもの、私のリリアンヌに着せたやつが悪い!」

「だめだって!これちゃんと留め具があって……ぎゃー!今、ブチっていったよ!まずいよ!待って……」

「無理、もう我慢できない」

「待ってってばーーーー!!!」

 リリアンヌは、まだ叫んでいるが、これから二人の甘い時間はやっと始まるのだ。

 きっと、町の市場をまわり、楽園で楽しく過ごして、アレンスデーンへの船旅へと続く。

 そして、この砂漠の地で、また一つフェルナンドの愛の深さを知ることとなり、ますますどっぷりとはまっていくのだろう。
 その溺れるような愛に、リリアンヌはこの上ない幸せを感じるのであった。



 □□□
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みんなの感想(7件)

トラベラー
2021.04.17 トラベラー

一気読みしました!面白かったです!これからもいい作品を是非お願いしますd(˙꒳​˙* )

朝顔
2021.04.17 朝顔

神風様

こんにちは。
感想ありがとうございます😊
わぁぁ✨一気読みいただき嬉しいです😃
嬉しいお言葉もありがとうございます。励みになります。
またぜひよろしくお願いいたします✨

解除
ぐっさん
2021.04.17 ぐっさん

前世男の令嬢がヒロインの話は今まで読まなかったのですが、すごく面白くて一気読みしました!興奮のあまり気絶するフェルナンドwよくキスできたな!二人に幸あれ!続きがまだ読みたい〜

朝顔
2021.04.17 朝顔

ぐっさん様

こんにちは。
感想ありがとうございますー!
面白いと言っていただけて嬉しいです😆✨
ここぞというときに気絶しちゃうフェルナンド(笑)
リリアンヌの天然に振り回されつつ、愛情溢れる素敵な旦那様になりそうです。
短いお話ですが、二話続きがあるので後ほど追加しますのでぜひ😀
お読みいただきありがとうございました。

解除
choko
2021.04.16 choko

なろうの方で繰り返し読んだお気に入りの作品がこちらでも読めるとは!
何度読んでもいいものは良いですね。
今後の活動も応援してます(*^^*)

朝顔
2021.04.16 朝顔

choko様

こんにちは😃
こちらでも、読んでいただき嬉しいですー!ありがとうございます✨✨
一人で一周年を記念して、こちらに投稿させていただきました。なろう版とは若干ですが修正を加えています。
温かいお言葉ありがとうございます😊
またお読みいただけたら嬉しいです。

解除
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