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月姫がやってきた
遥かな旅路へ
食べられなくて、骨と毛ばかりになってしまった子猫を定価で買うという奇特な客の出現に、店員さんは驚いていました。
高齢猫の介護をしているので、2時間おきの給餌は苦にならないこと。
たぶん、月ちゃんに今一番必要なのは、安定した環境だと思うこと。
私なら、家に辿り着けさえすれば、月ちゃんを元気にしてあげられると思うことを伝えました。
問題は片道七時間の帰路です。
二時間ごとの給餌どころではありません。
最悪の場合、七時間飲まず食わずです。
健康な子猫ならまだしも、月ちゃんがこれに耐えられるのか――
投薬して、螺旋菌がいなくなれば少しは元気になるのではないかということで、
引き渡しは当初の予定通り、9月30日に決まりました。
トイレしてもいいようにキャリーケースにペットシートを敷いて。
非常食にとろりっちとカルカンとお水をカバンに詰めて。
あとは祈るしかない七時間。
運命の9月30日。
初めて会った月ちゃんは、私の手にすりっと頭をこすりつけ、そのまま、私の手に甘えるように、机の上で寝転がりました。
ホントなのかセールストークなのか、いきなりこんなに甘えるなんてすごい、と店員さんが驚いていました。
そして商談にうつっていきます。
なにしろ、月ちゃんはとても弱っていました。
食べたり食べなかったりで、同じ週齢の他の子猫に比べて小さく軽く、ふれるとアバラの感触がしました。
骨と毛ばかりなのです。
その辺り、きちんと説明してくれたペットショップはとても誠実でしたし、給餌や投薬、各種ケアの手際もよく、ペットへの愛情を感じました。
こういったケアは一朝一夕では身につきません。
動物虐待で槍玉にあげられがちなペットショップだけど、保護団体と違って、ペットショップはペットを死なせてしまうと利益どころか損失が出ます。
毛艶の悪い、瀕死の子猫をわざわざ買うのは私くらいのものでしょう。
だからこそ、ペットの飼育に最も気を遣い、深い愛情を注ぎ、飼い主への指導も最高峰に的確に行うのは、実はペットショップなのではないか――
店員さんのケアの手際のよさを見ながら、そんなふうに感じました。
「嫌がること(爪切りや耳掃除や強制給餌)をするから、私を見ると逃げるんですよ」
と、店員さんは苦笑していたけど、それらはすべて月ちゃんのため。
さすが、プロのお仕事。
お客様への対応も親切で丁寧。
何の話でしたっけ。
思い出しました、月ちゃんがとても弱っていた話です。
誠実な店員さんは、生体保証をつけた方がよいと勧めてくれました。
お迎え後、一ヶ月以内に子猫が死んでしまった場合に、全額、返金してくれる保険があるそうです。
正直、心が揺れました。
――でも。
「代金を取り戻せれば、月ちゃんが死んでしまってもいいわけではないので」
お断りしました。
私は私の判断で、ペットショップのマニュアルと違うケアをするつもりだったので、それで月ちゃんが死んでしまった場合に、返金してもらうのって。
何か違うと思ったのです。
なぜ、マニュアル通りにしないのかって、ペットショップがマニュアル通りの飼育をした結果に、月ちゃんがこんなにも弱ってしまったからです。
おそらく、マニュアルが間違っているわけではありません。
他の子猫たちは元気いっぱい、すくすくと育っているのだから。
だけど、生命に例外はつきもの。
なかなか、マニュアル通りにはいかないもの。
月ちゃんは、マニュアル通りでは弱ってしまう子猫だったのだから。
私の判断で、私が最善と信じる独自のケアをする以上、その結果の責任は私が持たねば、かえって後味が悪くなると思ったのです。
まず、今日、骨と毛ばかりの月ちゃんに、七時間もかかる旅行をさせようということから、私の判断なのだから。
この判断が正しいか間違いか――
責任はすべて私が取るべく、生体保証はお断りしました。
お礼を伝えてお店を出る時には、お店のスタッフさんがみんな、月ちゃんを心配して、別れを惜しみに出てきてくれました。
今日まで、また食べてないよ、強制給餌するの? 死んじゃったらどうしようって、スタッフさんを心配させまくってきた月ちゃん。
ウソかホントか、私なら大丈夫と、生体保証すらつけない客が、新幹線で遠くのおうちに連れてゆく。
元気でね! よかったね! 店員さんの笑顔に見送られ、いざ、長い、長い、七時間の旅路へ――
投薬2日目で、お薬が効いて食欲が出てきて、たくさん食べたんですよって。
骨と毛ばかりなのに、お腹だけはパンパンだった月ちゃん。
「すっごい、お腹パンパン!」
食べてくれたと喜んでいた店員さんの笑顔。
月ちゃんのこの状態がフラグだったとは、店員さんも私も、知る由もなかったのです――
高齢猫の介護をしているので、2時間おきの給餌は苦にならないこと。
たぶん、月ちゃんに今一番必要なのは、安定した環境だと思うこと。
私なら、家に辿り着けさえすれば、月ちゃんを元気にしてあげられると思うことを伝えました。
問題は片道七時間の帰路です。
二時間ごとの給餌どころではありません。
最悪の場合、七時間飲まず食わずです。
健康な子猫ならまだしも、月ちゃんがこれに耐えられるのか――
投薬して、螺旋菌がいなくなれば少しは元気になるのではないかということで、
引き渡しは当初の予定通り、9月30日に決まりました。
トイレしてもいいようにキャリーケースにペットシートを敷いて。
非常食にとろりっちとカルカンとお水をカバンに詰めて。
あとは祈るしかない七時間。
運命の9月30日。
初めて会った月ちゃんは、私の手にすりっと頭をこすりつけ、そのまま、私の手に甘えるように、机の上で寝転がりました。
ホントなのかセールストークなのか、いきなりこんなに甘えるなんてすごい、と店員さんが驚いていました。
そして商談にうつっていきます。
なにしろ、月ちゃんはとても弱っていました。
食べたり食べなかったりで、同じ週齢の他の子猫に比べて小さく軽く、ふれるとアバラの感触がしました。
骨と毛ばかりなのです。
その辺り、きちんと説明してくれたペットショップはとても誠実でしたし、給餌や投薬、各種ケアの手際もよく、ペットへの愛情を感じました。
こういったケアは一朝一夕では身につきません。
動物虐待で槍玉にあげられがちなペットショップだけど、保護団体と違って、ペットショップはペットを死なせてしまうと利益どころか損失が出ます。
毛艶の悪い、瀕死の子猫をわざわざ買うのは私くらいのものでしょう。
だからこそ、ペットの飼育に最も気を遣い、深い愛情を注ぎ、飼い主への指導も最高峰に的確に行うのは、実はペットショップなのではないか――
店員さんのケアの手際のよさを見ながら、そんなふうに感じました。
「嫌がること(爪切りや耳掃除や強制給餌)をするから、私を見ると逃げるんですよ」
と、店員さんは苦笑していたけど、それらはすべて月ちゃんのため。
さすが、プロのお仕事。
お客様への対応も親切で丁寧。
何の話でしたっけ。
思い出しました、月ちゃんがとても弱っていた話です。
誠実な店員さんは、生体保証をつけた方がよいと勧めてくれました。
お迎え後、一ヶ月以内に子猫が死んでしまった場合に、全額、返金してくれる保険があるそうです。
正直、心が揺れました。
――でも。
「代金を取り戻せれば、月ちゃんが死んでしまってもいいわけではないので」
お断りしました。
私は私の判断で、ペットショップのマニュアルと違うケアをするつもりだったので、それで月ちゃんが死んでしまった場合に、返金してもらうのって。
何か違うと思ったのです。
なぜ、マニュアル通りにしないのかって、ペットショップがマニュアル通りの飼育をした結果に、月ちゃんがこんなにも弱ってしまったからです。
おそらく、マニュアルが間違っているわけではありません。
他の子猫たちは元気いっぱい、すくすくと育っているのだから。
だけど、生命に例外はつきもの。
なかなか、マニュアル通りにはいかないもの。
月ちゃんは、マニュアル通りでは弱ってしまう子猫だったのだから。
私の判断で、私が最善と信じる独自のケアをする以上、その結果の責任は私が持たねば、かえって後味が悪くなると思ったのです。
まず、今日、骨と毛ばかりの月ちゃんに、七時間もかかる旅行をさせようということから、私の判断なのだから。
この判断が正しいか間違いか――
責任はすべて私が取るべく、生体保証はお断りしました。
お礼を伝えてお店を出る時には、お店のスタッフさんがみんな、月ちゃんを心配して、別れを惜しみに出てきてくれました。
今日まで、また食べてないよ、強制給餌するの? 死んじゃったらどうしようって、スタッフさんを心配させまくってきた月ちゃん。
ウソかホントか、私なら大丈夫と、生体保証すらつけない客が、新幹線で遠くのおうちに連れてゆく。
元気でね! よかったね! 店員さんの笑顔に見送られ、いざ、長い、長い、七時間の旅路へ――
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骨と毛ばかりなのに、お腹だけはパンパンだった月ちゃん。
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