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【BAD】 ナイトメア・エンド
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けれど、運命は残酷でした。
あと一歩というところで、闇の帝王が引き起こす災厄から世界を守ろうとする光の聖女達が、皇宮に攻め込んできたのです。
ネプチューンの副官であるデゼルは、儀式の間を守れと言い渡されていました。
背けばガゼルを殺されてしまいます。
光の聖女達が攻め込んでくるなら、何の罪もない相手を殺さなければなりません。
デゼルには、デゼルを魔女だと信じて倒そうとする光の聖女達を返り討ちにすることができませんでした。
だからといって、ネプチューンのいる儀式の間に通すこともできません。
デゼルはついに、涙を伝わせながら命乞いをしました。
「お願い、私はどうなってもいい、ガゼルを殺さないで! 彼に罪はないの、私があやつっていたの!」
聖女と呼ばれるだけのことはあり、光の聖女達は、デゼルの懇願を聞くと、攻撃の手を止めてくれました。
それどころか、優しい笑顔で言ってくれたのです。
「デゼル、私は知っているわ、あなた達は優しい人よ。あなたは彼をあやつっていないし、二人で、みんなを助けてあげていたでしょう? ここを通してくれるなら、二人とも見逃すわ。だから、もう、闘うのはやめましょう」
優しい言葉に、また、デゼルの美しい蒼の瞳から涙があふれて零れ落ちました。
「ありがとう、優しいのはあなたよ。どうか、ガゼルは見逃して。だけど私は――」
デゼルは涙を伝わせながら、ガゼルに優しく微笑みかけました。
「ガゼル、ずっと、傍にいてくれてありがとう。ずっと、あなたを愛してた」
「デゼル!?」
デゼルはそれから、光の聖女達に向き直りました。
「私が生きてあなた達を儀式の間に通したら、裏切り者とみなされてガゼルを殺されてしまうの。あなた達を通すなら、私は死なないと――」
デゼルは世にも儚く綺麗に笑うと、身をひるがえして、切り立った崖際のテラスへと走りました。
「デゼル!」
「待って、駄目よ!」
ガゼルと光の聖女が懸命な様子で止めようとしましたが、デゼルは最後に一度だけふり向いて、テラスから身を躍らせました。
デゼルの瞳は最後まで、ガゼルの姿を映して、そして――
ガゼルがかけていた月齢の首飾りが砕け散りました。
「デゼル、なんてこと――!」
光の聖女はデゼルの死を悼みながらも、約束通りガゼルを見逃して、光の十二使徒を率いて儀式の間へと向かいました。
**――*――**
デゼルにはひとつだけ、知らなかったことがありました。
ガゼルにかけた記憶の封印は、鍵がなくとも、デゼルが死ねば解けてしまうものだったのです。
デゼルの死と同時にすべてを思い出したガゼルは、愕然として膝をつきました。
やがて、激しい怒りと怨嗟に、目の前が真っ赤に染まって見えました。
ガゼルが儀式の間に追いつく頃には、光の聖女達がネプチューンを追い詰め、瀕死の彼を涙ながらに説得していました。
「私は知っているの、あなたは本当は優しい人よ!」
光の聖女が、デゼルにかけていたのと似たような言葉をネプチューンにかけるのを聞いた時、ガゼルの視界は驚くほどの朱に染まりました。
君は、何を知っているつもりなの。
優しい? その男が、公国とデゼルに何をしたか――!
ガゼルは絶対零度の微笑を刻むと、気配を断って剣を抜き、瀕死のネプチューンの背後に回りました。
光の十二使徒の幾人かはガゼルに気がついたようでしたが、ガゼルの邪魔をしようとはしませんでした。
あるいは、彼らもまた、光の聖女の説得に必ずしも納得して、ネプチューンを許していたわけではなかったのかもしれません。
ガゼルは世にも冷たい笑みをはりつかせたまま、背後からネプチューンを一突きにしました。
悲鳴を上げた光の聖女が、愕然としてガゼルを見ました。
「なんて卑怯な、酷いことを! 彼は悔い改めていたのに!!」
ガゼルが光の聖女に許されたいことは、何ひとつ、ありませんでした。
彼が許されたい相手は、守れなかった公国の二十万の民と、そして、デゼルだけです。
すべての苦しみをデゼルに背負わせて、何の罪もないデゼルが身を投げることさえ、止めることができなかったのです。
光の聖女に何を言われても、ガゼルは謝罪することも、釈明することも、悔い改めることもしませんでした。
ただ静かに、血の海を見詰めていました。
そのうち、何かの衝撃がガゼルを撃ちました。
光の聖女の光魔法でした。
ガゼルもまた夜明けの公子であり、その属性は光です。
光魔法はあまり効かず、二度、三度と撃ち抜かれ、ネプチューンの剣を取った光の聖女に貫かれてようやく、ガゼルにもまた絶命の時が訪れました。
「あなた方に、慈悲があるなら……この身をどうか、デゼルと同じ……崖……下に………」
その言葉を最後に、ガゼルもまたこときれました。
あと一歩というところで、闇の帝王が引き起こす災厄から世界を守ろうとする光の聖女達が、皇宮に攻め込んできたのです。
ネプチューンの副官であるデゼルは、儀式の間を守れと言い渡されていました。
背けばガゼルを殺されてしまいます。
光の聖女達が攻め込んでくるなら、何の罪もない相手を殺さなければなりません。
デゼルには、デゼルを魔女だと信じて倒そうとする光の聖女達を返り討ちにすることができませんでした。
だからといって、ネプチューンのいる儀式の間に通すこともできません。
デゼルはついに、涙を伝わせながら命乞いをしました。
「お願い、私はどうなってもいい、ガゼルを殺さないで! 彼に罪はないの、私があやつっていたの!」
聖女と呼ばれるだけのことはあり、光の聖女達は、デゼルの懇願を聞くと、攻撃の手を止めてくれました。
それどころか、優しい笑顔で言ってくれたのです。
「デゼル、私は知っているわ、あなた達は優しい人よ。あなたは彼をあやつっていないし、二人で、みんなを助けてあげていたでしょう? ここを通してくれるなら、二人とも見逃すわ。だから、もう、闘うのはやめましょう」
優しい言葉に、また、デゼルの美しい蒼の瞳から涙があふれて零れ落ちました。
「ありがとう、優しいのはあなたよ。どうか、ガゼルは見逃して。だけど私は――」
デゼルは涙を伝わせながら、ガゼルに優しく微笑みかけました。
「ガゼル、ずっと、傍にいてくれてありがとう。ずっと、あなたを愛してた」
「デゼル!?」
デゼルはそれから、光の聖女達に向き直りました。
「私が生きてあなた達を儀式の間に通したら、裏切り者とみなされてガゼルを殺されてしまうの。あなた達を通すなら、私は死なないと――」
デゼルは世にも儚く綺麗に笑うと、身をひるがえして、切り立った崖際のテラスへと走りました。
「デゼル!」
「待って、駄目よ!」
ガゼルと光の聖女が懸命な様子で止めようとしましたが、デゼルは最後に一度だけふり向いて、テラスから身を躍らせました。
デゼルの瞳は最後まで、ガゼルの姿を映して、そして――
ガゼルがかけていた月齢の首飾りが砕け散りました。
「デゼル、なんてこと――!」
光の聖女はデゼルの死を悼みながらも、約束通りガゼルを見逃して、光の十二使徒を率いて儀式の間へと向かいました。
**――*――**
デゼルにはひとつだけ、知らなかったことがありました。
ガゼルにかけた記憶の封印は、鍵がなくとも、デゼルが死ねば解けてしまうものだったのです。
デゼルの死と同時にすべてを思い出したガゼルは、愕然として膝をつきました。
やがて、激しい怒りと怨嗟に、目の前が真っ赤に染まって見えました。
ガゼルが儀式の間に追いつく頃には、光の聖女達がネプチューンを追い詰め、瀕死の彼を涙ながらに説得していました。
「私は知っているの、あなたは本当は優しい人よ!」
光の聖女が、デゼルにかけていたのと似たような言葉をネプチューンにかけるのを聞いた時、ガゼルの視界は驚くほどの朱に染まりました。
君は、何を知っているつもりなの。
優しい? その男が、公国とデゼルに何をしたか――!
ガゼルは絶対零度の微笑を刻むと、気配を断って剣を抜き、瀕死のネプチューンの背後に回りました。
光の十二使徒の幾人かはガゼルに気がついたようでしたが、ガゼルの邪魔をしようとはしませんでした。
あるいは、彼らもまた、光の聖女の説得に必ずしも納得して、ネプチューンを許していたわけではなかったのかもしれません。
ガゼルは世にも冷たい笑みをはりつかせたまま、背後からネプチューンを一突きにしました。
悲鳴を上げた光の聖女が、愕然としてガゼルを見ました。
「なんて卑怯な、酷いことを! 彼は悔い改めていたのに!!」
ガゼルが光の聖女に許されたいことは、何ひとつ、ありませんでした。
彼が許されたい相手は、守れなかった公国の二十万の民と、そして、デゼルだけです。
すべての苦しみをデゼルに背負わせて、何の罪もないデゼルが身を投げることさえ、止めることができなかったのです。
光の聖女に何を言われても、ガゼルは謝罪することも、釈明することも、悔い改めることもしませんでした。
ただ静かに、血の海を見詰めていました。
そのうち、何かの衝撃がガゼルを撃ちました。
光の聖女の光魔法でした。
ガゼルもまた夜明けの公子であり、その属性は光です。
光魔法はあまり効かず、二度、三度と撃ち抜かれ、ネプチューンの剣を取った光の聖女に貫かれてようやく、ガゼルにもまた絶命の時が訪れました。
「あなた方に、慈悲があるなら……この身をどうか、デゼルと同じ……崖……下に………」
その言葉を最後に、ガゼルもまたこときれました。
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