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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第95話 悪役令嬢は風神の巫女を装う【前編】
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山賊に襲われかけた村に戻ると、村の人達が随分たくさん、墓地に集まっていて、僕はひどくいやな予感がしたんだ。
まるで、村全体が悲しみに包まれているようだった。
デゼルの話では、光の聖女のゆくところ、出会う人々、みんな、幸せになる運命だから、村の人達はみんな助かって、死者も怪我人も出ないはずだったのに。
逆に、闇の聖女のゆくところ、出会う人々、みんな、不幸になる運命だから、私は死んだ方がいいのかもしれないって、馬鹿なこともデゼルは言っていて、僕が幸せだからそれは絶対に間違いだよって、何度も言い聞かせたけど。
「山賊も闇主も京奈たちが倒したはずなのに、どうして!?」
「村の人達に聞いてみよう」
僕達は早足で、墓地に向かった。
立ち並ぶ、花が供えられたばかりの墓の多さは、異様だった。
がっくりと肩を落とす村人に、震える声でデゼルが尋ねた。
「あの、何があったんですか?」
「この村は呪われてしまったとしか思えないよ。二日前、悪名高い闇巫女デゼルとそのしもべの闇主たちが現れてね。それ以来、続々と死者が出るんだ。あんたは旅人かい? 綺麗なお嬢さん、こんな村はすぐに出て行った方が身のためだよ」
僕は冷たくなったデゼルの肩を、しっかりと抱いて支えた。
そうしたら、倒れ込むように僕の胸に頭をもたせたデゼルが、涙声で囁いたんだ。
「ごめんね、サイファ様。悪名高い闇巫女の闇主で、本当にごめんなさい」
「デゼル、僕なら、平気だから」
僕も、デゼルの耳元にそっと囁き返した。
デゼルは呪いをかけたりしない。
ケイナ様だ。
今まさに、埋葬しようとしているお墓もあって、棺の中の子供の顔を見た僕は、心臓が止まるかと思ったんだ。
僕が助けるはずだった、あの子だった。
いったい、なぜ?
聖サファイア共和国の聖女様が、なぜ、聖サファイア共和国の人々に呪いをかけて殺してしまうんだろう。
こんな、いたいけな子供まで――
オプスキュリテ公国の運命は、過酷な災禍に見舞われてなお、闇の聖女がエリス様の依り代にならなかったことで、良い方向に軌道を変えた。
逆に、聖サファイア共和国の運命は、ネプチューン様に裏切られた光の聖女がエリス様の依り代になってしまったことで、悪い方向に軌道を変えた……?
「みなさん、私は風の聖女ユリシーズ。この村を祝福するために訪ねました」
何人かの村人達が、デゼルに注目した。
それを待って、美しい風神の姿になったデゼルが、墓地に慰めの風花を散らした。
もちろん、見ていた村人達は、すごく驚いてどよめいた。
この村の人達は、何の悪事も働かないデゼルを悪役にしてしまう証人なんだけど。
デゼルはそれでも、黙って、助けてあげようとするんだね。
僕はそんな、優しいデゼルが大好き。
たとえ、僕達に濡れ衣を着せて怨む村の人達でも、助けようとするデゼルを止めたりしない。
デゼルの悪名のために、僕やエトランジュまでが石を投げられることを、デゼルのせいだとも思わない。
陛下とケイナ様のせいなんじゃないかとは、つい、疑ってしまうけど――
だけど、このやり方は違う。
黙って受け入れたら駄目だよ、デゼル。
僕は一歩、前に進み出ると、声を張り上げた。
「この村を呪ったのは、僕達の友人デゼルではありません。デゼルこそは、この村が呪われていると気づいて、僕達に知らせてくれたのです」
真実だと信じることを、伝えてみる前に諦めたら駄目だよ。
信じてもらえるとしても、もらえないとしても。
僕達は、真実を伝えてみるべきなんだ。
だって、それだけが、エトランジュに投げられる石を減らすために、僕達にできること。
無駄かもしれなくても、エトランジュのために、僕とデゼルのために、そして、村人達のために。
なぜって、僕が村人の立場なら、間違いで優しい人を憎んだり、苦しめたりなんてしたくないから。
まるで、村全体が悲しみに包まれているようだった。
デゼルの話では、光の聖女のゆくところ、出会う人々、みんな、幸せになる運命だから、村の人達はみんな助かって、死者も怪我人も出ないはずだったのに。
逆に、闇の聖女のゆくところ、出会う人々、みんな、不幸になる運命だから、私は死んだ方がいいのかもしれないって、馬鹿なこともデゼルは言っていて、僕が幸せだからそれは絶対に間違いだよって、何度も言い聞かせたけど。
「山賊も闇主も京奈たちが倒したはずなのに、どうして!?」
「村の人達に聞いてみよう」
僕達は早足で、墓地に向かった。
立ち並ぶ、花が供えられたばかりの墓の多さは、異様だった。
がっくりと肩を落とす村人に、震える声でデゼルが尋ねた。
「あの、何があったんですか?」
「この村は呪われてしまったとしか思えないよ。二日前、悪名高い闇巫女デゼルとそのしもべの闇主たちが現れてね。それ以来、続々と死者が出るんだ。あんたは旅人かい? 綺麗なお嬢さん、こんな村はすぐに出て行った方が身のためだよ」
僕は冷たくなったデゼルの肩を、しっかりと抱いて支えた。
そうしたら、倒れ込むように僕の胸に頭をもたせたデゼルが、涙声で囁いたんだ。
「ごめんね、サイファ様。悪名高い闇巫女の闇主で、本当にごめんなさい」
「デゼル、僕なら、平気だから」
僕も、デゼルの耳元にそっと囁き返した。
デゼルは呪いをかけたりしない。
ケイナ様だ。
今まさに、埋葬しようとしているお墓もあって、棺の中の子供の顔を見た僕は、心臓が止まるかと思ったんだ。
僕が助けるはずだった、あの子だった。
いったい、なぜ?
聖サファイア共和国の聖女様が、なぜ、聖サファイア共和国の人々に呪いをかけて殺してしまうんだろう。
こんな、いたいけな子供まで――
オプスキュリテ公国の運命は、過酷な災禍に見舞われてなお、闇の聖女がエリス様の依り代にならなかったことで、良い方向に軌道を変えた。
逆に、聖サファイア共和国の運命は、ネプチューン様に裏切られた光の聖女がエリス様の依り代になってしまったことで、悪い方向に軌道を変えた……?
「みなさん、私は風の聖女ユリシーズ。この村を祝福するために訪ねました」
何人かの村人達が、デゼルに注目した。
それを待って、美しい風神の姿になったデゼルが、墓地に慰めの風花を散らした。
もちろん、見ていた村人達は、すごく驚いてどよめいた。
この村の人達は、何の悪事も働かないデゼルを悪役にしてしまう証人なんだけど。
デゼルはそれでも、黙って、助けてあげようとするんだね。
僕はそんな、優しいデゼルが大好き。
たとえ、僕達に濡れ衣を着せて怨む村の人達でも、助けようとするデゼルを止めたりしない。
デゼルの悪名のために、僕やエトランジュまでが石を投げられることを、デゼルのせいだとも思わない。
陛下とケイナ様のせいなんじゃないかとは、つい、疑ってしまうけど――
だけど、このやり方は違う。
黙って受け入れたら駄目だよ、デゼル。
僕は一歩、前に進み出ると、声を張り上げた。
「この村を呪ったのは、僕達の友人デゼルではありません。デゼルこそは、この村が呪われていると気づいて、僕達に知らせてくれたのです」
真実だと信じることを、伝えてみる前に諦めたら駄目だよ。
信じてもらえるとしても、もらえないとしても。
僕達は、真実を伝えてみるべきなんだ。
だって、それだけが、エトランジュに投げられる石を減らすために、僕達にできること。
無駄かもしれなくても、エトランジュのために、僕とデゼルのために、そして、村人達のために。
なぜって、僕が村人の立場なら、間違いで優しい人を憎んだり、苦しめたりなんてしたくないから。
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