57 / 79
第六章 冥王招来
6-3a. ニセ姫と皇帝陛下
しおりを挟む
ヒョオオォォォ――
風の吹き上げる、渓谷。切り立った崖の上に、その館は位置していた。
いったい、誰が何を思ってこんなところに館を建てたのか、謎すぎる佇まいだ。
まるきり魔女の館だった。
そんなそびえ立つ館を前にして、皇帝は深い感銘を受けていた。
「ううむ、何と言う絶景……! わかるか、この地には地の力、風の力、陽の力、そして水の力までが結集しておる。魔術を使うに、これほど適した地もあるまいて」
手勢を率いてそこを訪れた皇帝は、まず、門を叩いた。返事はない。
「まあ、返事なぞしまいがな。少々、荒っぽく行くとするか……」
残念ながら墓地ではないので、あいにくとゾンビは呼び出せない。しかし、こんなこともあろうかと、死兵軍団と呼ばれる、カムラ最強の死霊部隊はちゃんと連れてきているのだ。これに方術師団と魔道師団を加え、小戦闘なら十分こなせる軍容だ。
「よし、まずは門を吹っ飛ばせ!」
途端、バンと門が開き、命じた皇帝の方が吹っ飛んだ。
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
門内には、嫣然と微笑む美女二人。
一人は月糸のような銀髪を、細い黒絹のリボンでまとめた風格ある女性。透き通るような蒼の瞳が美しく、精霊のような存在感の希薄さ、神秘、美貌を備えている。純白のドレス・ローブを身にまとい、その上から漆黒のケープを羽織った麗姿には、これが魔女というものならば、まずは跪かねばと思わされる。
一方、挨拶をしたいま一人は、淡く輝くようなプラチナ・ブロンドを一つにまとめ、緩く流し、そこに澄んだエメラルド・グリーンの瞳が映える美しい人。優しげな儚さがあり、こちらはこちらで絶品。白に寒色系のアクセントを入れた、涼しげな軍服を身に着けている。
ただし、男装の麗人を装ってはいるが、その正体は単なる王子。それでもパッドを入れてしっかりと胸を作っている辺り、芸は細かい。
「おお、お会いしたかった、アディ姫」
吹っ飛ばされ、3転もしたのに何のその、ダメージは鼻血くらいしかうかがえない様子で、皇帝が歓喜の言葉を述べた。
「残念です、皇帝陛下。先の縁談、アディはもう、お受けすること叶わぬ身」
「何と!? 何故なのか、姫!」
理由はいくらだってありそうだ。皇帝につき合わされている方術師、魔術師たちは、やる気がないと気付かれない程度に傍観を決め込んでいる。
問われたアディスはいよいよ麗しく、幸せそうに、見る者全てを魅了してやまない笑みを見せて答えた。
「この魂を我が君、イシス様に奪われましたゆえ。――皇帝陛下、もしも我が君に手向かわれるなら、まずはこのアディが相手になります。私の屍を踏み越えてお行きなさい!」
おお! と。
小気味好い啖呵にやんやの喝采を送りたいところ、立場上、ぐっとこらえる一同。
その一方で、皇帝はむうと唸った。
「なんと、麗しの姫よ、なるほど、蠱惑の術に……良いのう、魔術というのは。わしにもぜひ、伝授してもらいたいものだが……」
――何の話。
しかし、皇帝は不敵な笑みを浮かべると、
「相手に取って不足なし!」
そう、豪語した。
「陛下、おめでとうございます。魔女様も大変にお美しい方で」
側近の一人が合いの手を入れる。
「うむ、全くだ。シグルドのたぬきじじいめ、茶番であればただでは済まさぬと思うたが、これはしたり。さぞや、姫君の安否を気遣い、心を痛めておいでのことであろう。フフフ、わしが必ずや、救い出して差し上げましょうぞ、姫君」
何をもって茶番ではないと判断したのか、怪しいところだ。
風の吹き上げる、渓谷。切り立った崖の上に、その館は位置していた。
いったい、誰が何を思ってこんなところに館を建てたのか、謎すぎる佇まいだ。
まるきり魔女の館だった。
そんなそびえ立つ館を前にして、皇帝は深い感銘を受けていた。
「ううむ、何と言う絶景……! わかるか、この地には地の力、風の力、陽の力、そして水の力までが結集しておる。魔術を使うに、これほど適した地もあるまいて」
手勢を率いてそこを訪れた皇帝は、まず、門を叩いた。返事はない。
「まあ、返事なぞしまいがな。少々、荒っぽく行くとするか……」
残念ながら墓地ではないので、あいにくとゾンビは呼び出せない。しかし、こんなこともあろうかと、死兵軍団と呼ばれる、カムラ最強の死霊部隊はちゃんと連れてきているのだ。これに方術師団と魔道師団を加え、小戦闘なら十分こなせる軍容だ。
「よし、まずは門を吹っ飛ばせ!」
途端、バンと門が開き、命じた皇帝の方が吹っ飛んだ。
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
門内には、嫣然と微笑む美女二人。
一人は月糸のような銀髪を、細い黒絹のリボンでまとめた風格ある女性。透き通るような蒼の瞳が美しく、精霊のような存在感の希薄さ、神秘、美貌を備えている。純白のドレス・ローブを身にまとい、その上から漆黒のケープを羽織った麗姿には、これが魔女というものならば、まずは跪かねばと思わされる。
一方、挨拶をしたいま一人は、淡く輝くようなプラチナ・ブロンドを一つにまとめ、緩く流し、そこに澄んだエメラルド・グリーンの瞳が映える美しい人。優しげな儚さがあり、こちらはこちらで絶品。白に寒色系のアクセントを入れた、涼しげな軍服を身に着けている。
ただし、男装の麗人を装ってはいるが、その正体は単なる王子。それでもパッドを入れてしっかりと胸を作っている辺り、芸は細かい。
「おお、お会いしたかった、アディ姫」
吹っ飛ばされ、3転もしたのに何のその、ダメージは鼻血くらいしかうかがえない様子で、皇帝が歓喜の言葉を述べた。
「残念です、皇帝陛下。先の縁談、アディはもう、お受けすること叶わぬ身」
「何と!? 何故なのか、姫!」
理由はいくらだってありそうだ。皇帝につき合わされている方術師、魔術師たちは、やる気がないと気付かれない程度に傍観を決め込んでいる。
問われたアディスはいよいよ麗しく、幸せそうに、見る者全てを魅了してやまない笑みを見せて答えた。
「この魂を我が君、イシス様に奪われましたゆえ。――皇帝陛下、もしも我が君に手向かわれるなら、まずはこのアディが相手になります。私の屍を踏み越えてお行きなさい!」
おお! と。
小気味好い啖呵にやんやの喝采を送りたいところ、立場上、ぐっとこらえる一同。
その一方で、皇帝はむうと唸った。
「なんと、麗しの姫よ、なるほど、蠱惑の術に……良いのう、魔術というのは。わしにもぜひ、伝授してもらいたいものだが……」
――何の話。
しかし、皇帝は不敵な笑みを浮かべると、
「相手に取って不足なし!」
そう、豪語した。
「陛下、おめでとうございます。魔女様も大変にお美しい方で」
側近の一人が合いの手を入れる。
「うむ、全くだ。シグルドのたぬきじじいめ、茶番であればただでは済まさぬと思うたが、これはしたり。さぞや、姫君の安否を気遣い、心を痛めておいでのことであろう。フフフ、わしが必ずや、救い出して差し上げましょうぞ、姫君」
何をもって茶番ではないと判断したのか、怪しいところだ。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる