悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

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第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ

第12話 町人Jはこぶしで語りたい

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 放課後の校舎裏まで、私とサイファがジャイロについて行くと、汚い木箱に腰かけたジャイロが口を開いた。

「サイファ、なんで、デゼルに泥をかぶらせたんだ。返答次第じゃ、ただじゃおかねぇぞ!」

 サイファがびっくりした顔でジャイロを見た。

「先生に、なんて聞いたの? サイファは関係ない、私が勝手なことをしただけよ」
「デゼルは黙ってろ! 俺がサイファだったら、他のヤツがやったの知ってて黙ってねぇっつってんだよ!」

 ぱきっ、ぽきっと指を鳴らしながら、ジャイロがサイファに詰め寄った。

「サイファ、ジャイロを殴って」
「デゼル!?」

 ジャイロが面白そうに私を見た。

「デゼル、サイファなんかに俺を殴れると思ってんのか? 腰抜けなんだよ、サイファなんて、スニールも殴れない弱虫だ。デゼルの闇主にはふさわしくねぇよ」
「弱いのはジャイロよ。サイファは強いから、自分より弱い者に手を上げたりはしないの。サイファにとって、ジャイロを殴るのは、弱い者いじめだからできないだけよ」
「はぁあ? デゼル、正気かよ。サイファの偽善者面に反吐が出るぜ!」
「サイファにどうしても殴られたいなら、闇魔法は使わないから、私を殴ればいい。そこの池にでも落とせばいい」

 顔色を変えたサイファが叫んだ。

「デゼル!」
「サイファ、ジャイロは馬鹿なの。殴れるか、殴れないか、それだけでしか物事を判断できないの。ジャイロが殴られたいんだから、殴ってあげればいいのよ。サイファが降参しないジャイロを殴るのは、暴力じゃない」

 ぶはっと、ジャイロが爆笑した。

「言ってくれるぜ、デゼル。だけど、正解だぜ? ゴタクはいいんだよ、殴れるか、殴れないか、やってみせろよ」

 まだ、迷いを見せるサイファの様子に、ジャイロがチッと舌打ちした。

「オレはデゼルを殴りたかねぇんだよ! けどなぁ、サイファ! おまえが、そうしないとオレを殴れねぇってんなら、殴ってやるよ、デゼルを力いっぱいな!」
「やめろ!」
「デゼルを殴られたくなけりゃ止めてみな!」

 猛獣のように私に殴りかかってきたジャイロの頬を、サイファがようやく殴ると、ジャイロが目を疑うようにサイファを見た。

「この……!」

 私を殴るのはやめたジャイロが、いっそ、嬉しそうにサイファに殴りかかるけど、ジャイロの攻撃なんて当たらない。

「サイファ、ジャイロが納得するまで殴って」

 サイファは気が進まないみたいだけど、ジャイロって、男はこぶしで語るものだと思ってる脳筋なんだもの。
 話し合いのためには、殴ってあげるしかないのよ。
 自分を殴れないヤツの言うことなんて、ジャイロは聞く耳持たないの。

「サイファ、おまえが今まで、誰も殴れなかったから、今のは油断してたんだかんな! オレが本気出したら、おまえなんかに殴られねぇ!」

 あ、言ったそばから殴られた。
 だけど、小学生だから、オレはまだ本気出してないってほざいてる。

「おまえの攻撃なんざ、軽いんだよ! そんな、へなちょこパンチでオレを倒せるもんか! よけんな、この!」

 小学生だから、論点すりかえてきた。
 サイファなんかに殴られないって言ってたのは忘れて、サイファに殴られたくらいじゃオレは倒されないってことにしてきた。

「サイファ、思いっきりいって。サイファのへなちょこパンチじゃ、打ちどころが悪くてもジャイロが死んじゃったりしないから」

 ジャイロとサイファがなかよく肩を震わせて吹いた。
 だって、実際、サイファが殴るのなんてへなちょこパンチだもの。サイファも十歳の小学生なのよ。

 ガッて、結構、重い音がした。
 完璧に入った~。
 契ってないけど、サイファは私の闇主だもの。
 半月ほどだけど、本格的な戦闘訓練だって受けているのよ。
 ガキ大将とはいえ、ただの小学生Jなんて相手になるものですか。

 信じられないって顔でジャイロがサイファを見た。

「マジかよ……」
「ジャイロ、十発殴られっぱなしで、まだ、負けを認めないとか見苦しい」
「チッ、クショ」

 最初に座っていた木箱をジャイロが蹴り飛ばす。乱暴なんだから。

「じゃあ、サイファが勝ったから聞くけど、ジャイロ、たまに怪我をして学校に来るよね。誰にやられてるの」
「あぁ!? 知るか!」
「それで、クラスの弱い子に八つ当たりせずにいられないんだから吐きなさいよ! どうせ、家族の誰かでしょう」
「~! ゴリラだよ!」
「わかった。じゃあ、今度、ゴリラにやられそうになったら、サイファの家に逃げてきていいから。クラスで暴れるのはやめて」

 また、ジャイロとサイファがなかよく吹いた。
 なんでだろう。
 さっきから、私、何か、おかしなこと言ってる?

「そんなの、サイファなんかに倒せるようなゴリラなら、オレだって黙ってやられてねぇ!!」

 十発殴られる間に、一発も殴り返せなかったくせに、懲りてない。

「ゴリラの相手をサイファにさせたりしないよ。マリベル様に頼んで、きちんとした護衛を派遣してもらうから」
「マジかよ……」

 駄目だ、駄目だと、ジャイロが激しく首を横に振った。

「オレが逃げたら姉ちゃんが酷い目に遭わされるんだよ!」
「お姉さんも一緒に逃げてきていいよ」

 ジャイロって、思ってたより、カッコイイやつな気がしてきた。馬鹿だけど。
 ゴリラに殴られても、お姉さんを守るために戦意を喪失しないのね。
 だから、サイファにあれだけ殴られても懲りなかったのね。

「お姉さん、なんていうの?」
「――ユリシーズ」

 えっ……

「え、あれ!? ジャイロってカーペンターだっけ!? お姉さん、ユリシーズ・カーペンター!?」
「? だったら、なんだよ」
「えぇ、じゃあ、ゴリラってゲイル・カーペンター!?」

 ジャイロがぎょっとした顔をした。

「なんで、デゼルが親父の名前知って……」

 うわ、ほんとにゴリラだった。
 ゲイル・カーペンターならマジでゴリラよ。
 あんな、キングコングに家庭で虐待されてれば、それはグレる。
 ジャイロがものすごく可哀相になってきた。
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