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第二章 魔神ルシフェル ≪永遠のロマンス≫
第68話 公子様に伝えた悪役令嬢のわがままは
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「なんの公子だ! 何のための……!」
私はふわっと笑って、ガゼルを抱き締めた。
「公国を滅亡から救って、平和と繁栄を守るための公子様だよ」
「何言っ……」
「ガゼル様、ガゼル様が公子様だったから、公国を守れたの。水神の加護を授かったのはガゼル様ということにしてくれていたから、この状況でもまだ、私が授かった水神の加護で、公国の人々の暮らしをよくしてあげることができるの」
「デゼル、そんな!」
「もし――」
私もいつの間にか、泣いていたの。
「もしも、いつか、みんなが私とサイファを迫害することがなくなったら、私達、ガゼル様の公国に戻ってきてもいい……? おかえりって、迎え入れて下さいますか……?」
「当たり前だ!」
「ありがとう」
「デゼル、サイファ、本当にごめん。何にもしてあげられなくて……」
涙が止まらないガゼルに、私は言い出しにくくなってしまったことを、でも、やっぱり言うことにしたの。
「あのね、ガゼル様。今日は、よかったら、お願いがあって……」
「なに? 私にできることがあるなら、何でも、言ってくれていいよ」
私は上目遣いにガゼルを見て、ちょっと目を逸らして、言い出しにくくて仕方ないことを言ったの。
「豊穣の女神テラ・マーテル様のご加護を頂いたので、とりあえずガゼル様のお母様、公妃様が頂いたことにして頂けないでしょうか。その、いつか、ガゼル様がお妃様を迎えられたらそちらに」
ガゼルがあっけに取られて私を見た。
私はなんてあつかましいの。
ガゼルの公家にどれだけの重責を負わせれば気が済むのかしら。
だって、せっかく、荒れた土地を豊かにしたりして、豊穣を約束して下さる大地母神様の祝福を授かったのに、私が授かったんじゃ、穢れた闇巫女の祝福なんてって、きっと、誰も大地母神様の祝福を求めないもの。
「デゼル……」
どうしてか、ガゼルが苦笑したの。
「ああ、そうだね。君なら、さらに神の加護を授かっても不思議じゃない。ほんとにおかしいな、その君を、なんでみんなは魔女だと信じて疑わないんだろう。石を投げて傷つけて、苦しめて殺そうとさえするんだろう」
また、涙を一筋だけ伝わせたガゼルが、それでも、私達に笑いかけてくれたの。
「ありがとう、デゼル。その申し出は、ありがたく受けるよ。私がいつか、君達が迫害されることのない公国にできたなら――」
ガゼルのきらめくプラチナ・ブロンドが風に揺れて、夜明けの光が零れるような優しい微笑みが、忘れられないくらい印象的に、私の記憶に残ったの。
「必ず、帰ってきて欲しい。サイファ、どうか、君だけは傍でデゼルを守ってあげて」
私もサイファも笑顔でうなずいて、ガゼルと別れたの。
私はふわっと笑って、ガゼルを抱き締めた。
「公国を滅亡から救って、平和と繁栄を守るための公子様だよ」
「何言っ……」
「ガゼル様、ガゼル様が公子様だったから、公国を守れたの。水神の加護を授かったのはガゼル様ということにしてくれていたから、この状況でもまだ、私が授かった水神の加護で、公国の人々の暮らしをよくしてあげることができるの」
「デゼル、そんな!」
「もし――」
私もいつの間にか、泣いていたの。
「もしも、いつか、みんなが私とサイファを迫害することがなくなったら、私達、ガゼル様の公国に戻ってきてもいい……? おかえりって、迎え入れて下さいますか……?」
「当たり前だ!」
「ありがとう」
「デゼル、サイファ、本当にごめん。何にもしてあげられなくて……」
涙が止まらないガゼルに、私は言い出しにくくなってしまったことを、でも、やっぱり言うことにしたの。
「あのね、ガゼル様。今日は、よかったら、お願いがあって……」
「なに? 私にできることがあるなら、何でも、言ってくれていいよ」
私は上目遣いにガゼルを見て、ちょっと目を逸らして、言い出しにくくて仕方ないことを言ったの。
「豊穣の女神テラ・マーテル様のご加護を頂いたので、とりあえずガゼル様のお母様、公妃様が頂いたことにして頂けないでしょうか。その、いつか、ガゼル様がお妃様を迎えられたらそちらに」
ガゼルがあっけに取られて私を見た。
私はなんてあつかましいの。
ガゼルの公家にどれだけの重責を負わせれば気が済むのかしら。
だって、せっかく、荒れた土地を豊かにしたりして、豊穣を約束して下さる大地母神様の祝福を授かったのに、私が授かったんじゃ、穢れた闇巫女の祝福なんてって、きっと、誰も大地母神様の祝福を求めないもの。
「デゼル……」
どうしてか、ガゼルが苦笑したの。
「ああ、そうだね。君なら、さらに神の加護を授かっても不思議じゃない。ほんとにおかしいな、その君を、なんでみんなは魔女だと信じて疑わないんだろう。石を投げて傷つけて、苦しめて殺そうとさえするんだろう」
また、涙を一筋だけ伝わせたガゼルが、それでも、私達に笑いかけてくれたの。
「ありがとう、デゼル。その申し出は、ありがたく受けるよ。私がいつか、君達が迫害されることのない公国にできたなら――」
ガゼルのきらめくプラチナ・ブロンドが風に揺れて、夜明けの光が零れるような優しい微笑みが、忘れられないくらい印象的に、私の記憶に残ったの。
「必ず、帰ってきて欲しい。サイファ、どうか、君だけは傍でデゼルを守ってあげて」
私もサイファも笑顔でうなずいて、ガゼルと別れたの。
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