ありふれた異能バトル~リレー式~

やすいケンタウロス

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推理

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 このゲームが始まって三日目、南沢曰くデブ組こと鎧坂たちは衰弱し洞窟に座り込んでいた。

「はあっはあっ…」

「ちょっと歩いただけなのにこんなに息が切れるなんて絶対普通じゃあねえ」

「不味いね…十中八九誰かの能力に因るものだろうけど、北神君じゃ打ち消せないし、もし能力者を見つけて倒しても解除できるかわからない」

「そんな…」

 鎧坂と小倉を除く全員が非常に疲労しやすいという謎の症状に襲われていた。鎧坂は心配そうな顔でエナジードリンクを配るが効果は薄い

「おい太嗣、何か薬とか持ってねえのか?そろそろ柊さん達が危ねえ」

「ごめんね、ショッピングモールにドラッグストアは無かったし、薬があっても今のこの症状にどんな薬が効くのかわからない」

 最も症状が重いのは柊だった、他の者は歩けば息が切れる程度だが彼女は動くことすら儘ならない、次に症状が重いのは北神だった

「鎧坂さん…この症状は栄養失調に近い、だからたぶん毒じゃなく吸収か寄生生物か何か…」

「北神君ありがとう、でもあまり喋らない方がいい、体力を失うだけだ…寄生生物か…」

「吸収って…わたしたち誰かの胃の中ってことですかね…あっ眩暈が…」


「あのっ皆さん、何か欲しいものとかはありますか?」

 わたしは倒れた皆さんを心配して声をかける、本当に大丈夫なのだろうか、鎧坂さんはさっきから何かを考え込んでいるようだがまだ元気だ

「ああ、水をくれねえか、のどが乾いて堪んねえんだ」

 倒れた3人の中で比較的元気な難波さんがそういう、よかったぁ、早く水を飲ませてあげないと

「あのっ!鎧坂さん」

「…いや…さすがに違うか?…でも…」

「鎧坂さん?」

「えっああごめん、聞いてなかった、どうしたの?」

「難波さんが水が欲しいとのことで、出してくれませんか」

「ああうん、わかったよ」

 鎧坂さんは腰の袋に手を突っ込み水を探しています、嗚呼、早く見つけてほしい、こんなに苦しそうにしている難波さんに水を上げないと

「ごめん、水は切らしているみたいだ、コーラはあるんだけど流石に不味いだろう、すぐ近くに地底湖があったはずだから取ってくるよ」

 すぐに一人で地底湖に向かおうとする鎧坂さん、それは不安だ、

「わたしもついていきます!」

「…わかった、一緒に行こう」








 二人は思考する、彼らはちょうど同じようなことを考えていた
 …どうしようか…ええい、一か八か…いや、でも…

 よろいざか は かくご を きめた!
 小倉は唇をきゅっと結び、よく水が零れがちなたれ目をキッと吊り上げた

 ◇

 地底湖の畔で鎧坂たちは水を汲んでいた

「こんなものかな」

「はい、これなら全員分ありますね」

 開いたペットボトルに水を確保し、彼らは3人のいるところへ戻ろうとする

「にしても3人とも大丈夫でしょうか…わたし、心配で心配で…わたしは不思議と元気なんですけど、鎧坂さんは大丈夫ですか」

「…いや、能力で普通に活動できているけど僕も彼らと同じだ、HPは少しづつ減り続けてるよ、まあ今食べてる分で回復が追いついてるから大丈夫だろうけど」

 鎧坂の表情は硬い、その目は何かを見逃さないよう、張りつめているようにも思えた

「そんなっ!鎧坂さんまで…わたしどうすればいいんですかぁ…うえええええん…」

「…泣かないで、ほらハンカチ」

 鎧坂は小倉を安心させるように微笑みを浮かべ、小倉の涙を拭きとった、そして…

「がはっ!」

 小倉を殴り倒し、マウントポジションを取った

「ようやく結びついた、君だろう…裏切り者の能力者さん」

「ひっ、鎧坂さん…なんで…狂っちゃったんですか?」

 鎧坂は鋭い、冷酷な目で小倉を見つめていた

「下手な演技はやめろ、もう君が犯人だという証拠はつかんだ」

「なっ」

「まず、この症状に君だけかかっていないというのはどうにも怪しかった、でもここまでならまだいい、偶然ってこともあっただろうね」

「そうですよ!たまたまわたしだけ寄生されなかっただけで…」

「ぼろを出したね…僕は一度も皆が寄生されたとは一言も言ってないよ、何で君は分かったんだい」

 鎧坂の言葉に小倉は一瞬吃る

「そ、それは、ほら北神さんが言ってたじゃないですか…」

「そうだね、北神君は『吸収』と『寄生生物』を例に出した、でも君は最初『吸収』の方を想像していただろう、それに君が勝手に白状しただけで証拠もある、仮にこの二つの例のどちらかが真実だったとしても『吸収』は考えづらいんだ」

「えっ?」

 鎧坂は小倉に説明を始める、彼自身裏切りという事実を信じたくはないのだろう、この説明で明確に白黒はっきりつけようとしていた

「襲撃者の能力が『吸収』だったとすると、自分の周囲を無差別に巻き込むタイプだったのなら小倉さんが巻き込まれない理由がない、罠のようなタイプだった場合も常にみんなの中心にいた小倉が引っかからないのも考えづらいから違うだろう
 というわけで『吸収』の可能性は低い、それに人によって効きにムラがあるのも違和感があるからね
 次に『寄生生物』の能力だった場合、能力者は必ず対象の体に寄生生物を送り込まなくてはならない、つまり条件は罠か接触、寄生生物自体が寄ってきて侵入するというのもあるかもね
 この場合罠や接触は考えづらいけど、生物が向こうから来たのだとすると小倉さんが発症していないことに辻褄が合う
 もちろん敵の能力を『吸収』か『寄生生物』に限定した場合の考えだから、そもそもこれが幻覚とか何らかの条件に小倉さんが当てはまらなかっただけというのもあるかもしれないけど、こう考えると向こうから寄生生物がやってきたというのが一番しっくりくる」

「で、でもでもその考えじゃ私が犯人じゃないじゃないですか!」

「ああそうだね、この考えは襲撃者の能力を二択で考えた時『寄生生物』が正しいとしたものだ、でもここで君が犯人だとしたら『寄生生物』っていうのが妙にしっくりくるんだ」

「それだけのことでこんなことをしたんですか…?」

 鎧坂のセリフにまだ光明はあると感じ取った小倉が反論する、無論彼女とて、この状況で鎧坂が自分を犯人かそうでないかはっきりさせたところでどっちにしろ自身が殺される可能性があることは分かっているが、それでも僅かな可能性に賭けた

「いや、それだけじゃないさ、僕は戦いとかが嫌いなんだ、確証がなかったら心の中でどんなに疑っていても表面に出すようなことはしないだろう、ついさっきのことだよ、僕が君の涙を拭いた時、あの時だ」

「…まさか!」

 小倉の顔が蒼白に染まる

「僕の能力はね、道具のもち運びとダメージのHP化、他にもいろいろあるけど今回のはステータスの把握だ、君は僕が全然苦しむ様子を見せないから不安になったんだろう?
 だからもう一回僕に能力を仕掛けた、ステータスの確認は常にしてるわけじゃないから一回目は見逃したけど、今回のは分かりやすかったよ、僕が君の涙を拭ったとき、ちょうどHPの減るスピードが倍加した、まるでもう一体に寄生されたみたいにね
 別の人が犯人で仲間割れを狙ってタイミングよく僕にもう一回寄生生物を仕掛けた可能性もあるかもしれないけど、そんな可能性はほぼないだろうし、君の反応からしてもう確定だろう」

 小倉には鎧坂を押しのける力もなく、彼女に為す術はない、目には諦めの色が宿る

「…さて、一つ質問がある、能力の解除はできるのかい?今ならすべてを茶番にできる、君の裏切りを知っているのは僕だけだ、僕はどうにもこういう争い事が苦手だ、殺し合いなんてもってのほか、だから君が能力を解除するなら、これをなかったことにしよう」

 少しの間を空けて小倉は呟くように答えた。

「……ええ、ここまで来たらしょうがないわね、手を離してくれない?私も自分のやってきた事に疑問を持ってたの。いいわ、能力を解除する」

 ホッとした鎧坂はすぐに手を離した。

「良かった、君ならそう言ってくれると信じていたよ。早くみんなの所へ戻ろう、みんな危険な状態なんだ!!」

 逸る気持ちを何とか押しとどめながら鎧坂は先に立って歩き始めた。
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