ありふれた異能バトル~リレー式~

やすいケンタウロス

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追撃~地下編終了~

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 ドオオォォォォン!

「この音、なんでしょうか?」

「爆発?」

「ッマズイ!」

 遠くから聞こえる爆音と吹き付ける爆風に柊と鎧坂の二人は足を止めた、一方の北神は柊のスマホで生存者の情報を見るなり、すぐさまその場に両手をつき能力を発動させた。

「北神君?」

「死んだ人たちの死因がすべて感電死ってことは犯人は落雷とか電気系の能力者です、柊さんのスマホで見たんですけどこの殺戮が始まったのは95位の人が『発狂』状態に陥ってから、そしてさっきの爆発では42位の人が死んだ、あれだけの爆発だったのに42位の人しか死んでないんです」

「まさか!」

「どういうこと?」

「運よく転移して爆発から逃れた…いや、そんないいタイミングで転移できるわけがない」

「まずいね、結託してるのか利用されてるのかわからないけれど95位はこの地下の処刑人ってことだね」

「そんな!転移されてくるんだったら逃げられないじゃないですか…」

 逃げ場が少なく、鬼は瞬間移動まで使ってくる、そんな絶望的な状況に嘆く柊、そんな中3人の前の道の景色が変わる

「あーびっくりした、あっ真ん丸なおじちゃんだね!一番綺麗な光が見れるかも!」

「そんな悠長なことを言ってる暇もないみたいです…二人とも逃げてください!俺ならあいつの能力を無効化できる」

「だめだ北神君!相手には転移の能力者もいるんだ!奴は君の100m以内にあの子供を飛ばしてきた、君の能力だけじゃ倒せないかもしれない、僕も残る!」

 北神の能力はあくまで100m以内にいる人の能力を封じる能力、それ以上の距離で発動した能力自体を止めることはできない

「わ、わたしも…」

「いや柊さんは逃げてください…」

「ごめんね、正直なところいても邪魔にしかならない、行ってくれ」

「ッ!すいません二人とも!」

 柊は申し訳なさそうな顔で逃げ出す、彼女自身いても足引っ張ることは分かっていた、何もできない悔しさから歯を食いしばり、それでも振り向かずに走り続けた

 ◇

「柊さんは行ったね…まさか待ってくれるとは思ってなかったよ、ありがとうね」

「鎧坂さん!?」

「んーん、別にいいよ!どうせ後でばちばちって光って消えちゃうもん」

「倫理はない…か…子供ゆえの残酷さってやつかな…」

(相手の能力は十中八九雷によるもの、しかし今は北神君の100m以内にいる、能力は使えない、だとしたらそれに気づかれる前に叩くのがベスト…)

「君に恨みがあるわけじゃないけど、戦おうっていうならやらせてもらうよ!」

 鎧坂は小林に襲い掛かる、彼の順位は79位、肥満体ののっそりした動作だがそれでも95位の小林よりは早い、だがそれでも小林には能力がある

「真ん丸焼き、いっちょあがりだね!」

 小林は鎧坂に向かって雷を落とそうとする、しかし北神の能力で発動しない

「あれ?なんで?なんで?」

 小林は何度も何度も能力を使おうとするが無敵の矛である雷は起こらない、パニックになっている間に鎧坂は緩慢な動きでどんどん距離を詰めてくる

「ごめんね!もらったよ!」

 そして小林に刃を突きつける鎧坂であったが…

「だめだ鎧坂さん!そこは俺の能力が発動しない!」

 彼は気づかないうちに小林とともに北神から少し離れた位置へと転移されていた、もともと似た風景が続く洞窟であったことや周囲の土地ごと転移したため近くの景色が変わらず、鎧坂は気づくのが遅れる

「おおおおおおおおお!」

 鎧坂の頭上が光る、北神の能力が解除されたため鎧坂の能力も使うことができる、もはや鎧坂は逃げることなどできない、能力によって少し強化された身体能力をもって小林に襲い掛かる
 雷が先か剣が先か…一瞬の勝負だったが雷が既に発生している以上鎧坂は逃げられない、そして…





「ああもう、またびっくりしちゃった」

 鎧坂は小林に触れる直前で雷に打たれた
 これが一本の雷であったならば、彼は能力によって雷を耐えきり、その刃は小林に届いたことだろう
 しかし北神の能力によって発動を止められていた小林は必至で何回も能力を発動させようとしていた、そう何回も…
 幾重にも重なった雷は一瞬で鎧坂のHPを削り切り、彼を物言わぬ炭へと変えてしまった

「おにいさんもおもしろいね、近づいたらだめなんだね、じゃあばいばい!」

「…くそっ」

 逃げようとした北神であったが、小林の能力の射程は広く、逃げる彼の背を落雷が焦がした

 ◇

 柊は後方で雷が轟くのを聞きながら走り続け、やがて疲れ切って足を止めた、雷の音は鳴りやんだ。彼女は壁にもたれかかり三角座りで顔を伏せた
 自分がいてもどうにもならない、そんなことは柊もわかっていたが2人を見捨てる・・・・のは嫌で、罪悪感が彼女の心に溢れた、それでも怖いものは怖い…雷の死の恐怖と自身に対する情けなさ、そして2人がいなくなった・・・・・・ことに対する哀しみ、いろんな感情が混ざり、渦巻き、自然目からは雫が流れ、止まらない

「あっお姉さんこんなところにいたんだ」

 最期に柊はあの場で2人が死ぬことを確信していたような自分の考えにさらに自己嫌悪に陥った。

「嗚呼、ごめんなさい」

 彼女の言葉がいったい誰へ向けてのものか、何を意味するものだったのかは分からない、しかし彼女は確かに顔を上げて小林の方を見ていた。彼女が小林を見ているかは別として
 少し間をおいて、雷は柊を貫いた。













「…意味わかんないや…もうどうでもいい…」

 地下の最後の生贄は雷神に捧げられ、生贄の言葉も雷神に届いていた。彼が人に戻るか、ただ理不尽で傲慢、傍若無人に振舞う神となるかはいまだ誰も知らない。

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