ありふれた異能バトル~リレー式~

やすいケンタウロス

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トラウマ

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 =地下=

「うっうっ、もう嫌だ。きれいなお姉さんに会えると思ってたのに……。アブクマがあんなただただキモいだけののおっさんだったなんて。」

 阿武隈からなんとか逃れた小林少年は地下を1人でとぼとぼ歩いていた。仄暗い地下通路、この1週間で何度も通った道だった。そこへ赤ちゃんを連れた若い男が歩いてきた。

「ん?なんだ、ガキか。クソッ、ガキは嫌いだってのになんで俺の周りはガキが集まってくるんだ。おい、お前ここがどこか分かるか?どうも迷ったみたいでよ。」

 今まで泣いていた小林の顔が怪しく歪む。

「ごめんね、お兄さん。ぼく今、誰かをぐちゃくぢやにしたい気分なんだ。だから、死んで。」

 言うと同時に六軒島の頭上から数多の雷が落とされた。

「きゃははっ。やっぱりばちばちはおもしろいなぁ!」

 が、雷の閃光が消えると小林は愕然とした。死んだはずの六軒島が無傷で立っている!!

「お、お前、なんで生きて。ふこうへい、ふこうへいだぁ……うわぁぁぁぁ!!」

 先程の阿武隈のトラウマからか意味不明な言葉を叫びながら小林は逃げていく。

「おいおい、さっきの雷か?危ねぇモン撃ちやがって……。ってうおっ!あいつ今度はめちゃくちゃに撃ち始めやがった。流石にこれは当たるぞ!急いで逃げねぇと。」

 小林がデタラメに放ち始めた雷とそれに削られて落ちてくる岩、土。御所リョウの能力を共有している六軒島に当たるはずも無かったが彼は御所の能力を知らなかった。

「マジかよ、岩盤が崩れて逃げ場が……。お?この壁の向こう、空間があったのか。」

 雷によって新たに開けられた穴に六軒島は急いで逃げ込んだ。






  地下でずっと無双していた小林に取って阿武隈、六軒島と雷の効かない相手がいた事はかなりの精神的ショックだった。

「ぼくのばちばち弱くなったのかな?だったらあそこに行こう。今度こそだれかぐちゃぐちゃにしてやる。」

 小林は地下に用意された貯水池へと向かっていた。



 天道達は巨人を無力化するため研究所へ向かっていた。

「小鳥遊、研究所はまだか?」

「もうすぐそこだよ、次の角を右だ。」

「そうか、もうすぐそこ、か。」

 ふっと笑った草元は無防備に背中を晒していた小鳥遊の首を一瞬にしてへし折った。

「ははっ、もう道案内は要らんな。おぉ、そういえばあんたも居たな。」

 三角巾を巻いたままの腕を振りかぶり、殴りかかった天道。しかし、草元の能力により消された。

「透明なまま大人しくしてな。俺は薬を貰うぜ。」

 草元は通路の奥に消えていった。



「くそっ、やられた。あいつの能力は確か“隠匿の追求”。5時間誰からも気付いてもらえず双方向から触れられない、か。どうする……。」

 黙って考える天道だったが、答えは決まっていた。

「あいつより先に地下から出て待ち伏せるか。恐らく声は聞こえるはずだ。まだ生き残りは居るだろうか……。」

 スマホで情報を確認できない天道は祈るしかなかった。誰かが巨人から生き残り、姿の無い自分に協力してくれる事を。



 地下帝国の中央にある貯水池。水を飲みにきた参加者同士を潰し合わせるため、家入が用意した装置の1つだった。そこで今、小林少年と偶然水場を発見した早川が向かい合っている。
 子供か、俺を見ても動じないあたり只者じゃないな。No.90代か……。もしかしたらこいつがNo.95なのか?
 だとしたら、例え格上能力だろうと必ず倒す。ここは水場!!ここで勝てなきゃ俺は何処に行っても勝てない!

「おい、小僧。どんな能力を持ってようと俺はお前を叩き潰すぞ!!」

 そう言うと早川は貯水池から水を出し矢のように小林の元へ放った。

「おじさん、知ってる?」

 しかし、ここは小林が幾つもの戦いの中から見出した最高の舞台でもあった。

「ばちばちは水とすごく相性が良いんだ。」

 矢を避けると貯水池に直接雷を落とし早川へ雷撃を送った。
 だが、早川の能力の真髄はここからだった。

「甘いな、小僧!!」

 貯水池の水と繋がっていた早川だが何故か雷が早川の元へ伝わって行かない。

「俺の能力は水のみを操る力!!水に含まれる不純物は自然、落ちていく。つまり俺の操る水は電流のほぼ流れない純水なんだよぉぉ!」

 茫然としている小林に早川は二手、三手と追い打ちをかける。
 自分に向かってくる水の矢を全て雷で撃ち落とす小林だったが明らかに動揺していた。

「なんで、なんでみんなばちばちが効かないんだよぉ。ぼくのばちばちが強かったんじゃないの?ふこうへい、ふこうへいだぁぁ!!」

「戦闘中にメンタル崩したか……。終わりだな。」

 トドメを刺せると確信した早川は水を使って跳び上がると貯水池の水、全てを操り始めた。依然、小林から雷は放たれるがまったく気にしない早川。全ての雷が水に阻まれているのだ。

「これでお前もゲームオーバーだな。」

 水の大槍を構えた早川!!
 が、次の瞬間早川は何かに撃ち落とされた。

「な、んだ?」

 後頭部を強打し意識が朦朧とする中で撃たれた方を振り返る。
 そこには小林の雷によって崩された洞窟の天井があった。

「岩の中から雷を発生させて崩したのか……。子供にしてはいい攻撃だったな。」

 早川が操っていた水が力なく貯水池へ落ちていく。そのまま早川も貯水池の水に包まれた。



 さて、ここから反撃開始……。ん?なんだ水が全く離れない!?何故だ。
 水中へ落ちた早川は周囲に集めらた水が邪魔をして水面に顔を出せないでいた。
 堂之内の能力改造……。能力文を書き換える代わりに新たな制限が発生する……。俺の制限は「どんな状況でも水は周りに集まる。」だったか?デメリット、そう言うことか……。水中に落ちたら最後、抜け出せない。
 確かに良いバランスだなぁ。
 そのまま早川は貯水池の底へ沈んでいった。




 ガラガラと崩れる天井。外の光が小林を照らした。

「ぼく、勝ったの?」

 小林は静かに歓喜に震えた。
 その後彼は自らの開けた穴から脱出。得体の知れない巨人の元へ向かった。



「誰かいるな、この部屋。」

 六軒島が入った穴は入り口で小鳥遊が見た家入のいる独立空間へ続いていた。
 この時点で小林の雷により地下帝国の崩壊はかなり進んでいた。
 食料が煩雑に散らかった空間内は部屋というには相応しい場所だった。恐らく豪邸の一室をそのまま転送したのだろう室内には中央に大きなベッドが置かれていた。
 六軒島が顔を確認しようと部屋に入ると部屋の奥の不自然な光に気づいた。よく見ると部屋の一角が崩れ外に繋がっているのだ。と、ベットから人影は降り立った。

「お前、何だ?人間なのか?」

 六軒島の前に現れたのは外の穴から迷い込んだ一体のレンゴン君型戦闘ロボットだった。
 人を認識すると攻撃を開始する彼らは星野の召喚によりすでに20体ほどがレンゴン中に放たれていた。
 ここに迷い込んだレンゴン君も家入を確認後、即殺害。次に認識した六軒島、御所を新たなターゲットとして定めていた。
 レンゴン君に付着した家入の返り血を見て六軒島は即座に理解した。
 逃げるしかない。
 もはや本能が叫ぶかのような全身の危険信号に従って六軒島は元来た道を走り始めた。

 ーヒト、ニンシキ。センメツ、カイシシマスー

 レンゴン君は内蔵された噴射口を開くと低空を猛烈な勢いで飛び、六軒島を追い始めた。

「くそっここどこだ!?さっきガキに会った道を右に行けば出られるんだったか?」

 飛んでくる弾やミサイルを(能力で)避けながら六軒島は走った。

  ドゴォォォン

 六軒島の耳にも先程の貯水池の天井崩落の音が聞こえてきた。
 崩れていると直感した六軒島は音の方へ走った。
 一方、六軒島を見失ったレンゴン君。ターゲットを諦めると人を探すため頭からドリルを出し、地下からの脱出を始めた。




 小林の雷、地上からの対巨人戦の衝撃、そして地中での抗争。多くの要因が重なり、遂に地下帝国は崩壊。地上も無事では済まずレンゴンの街は一斉に崩壊した。



「なにあれ?まあ絶好の獲物ね」

 ふらふらと今にも倒れそうな風霧を見つけたのはゲートの前で獲物を待つ小向だった。しかし風霧は神がかった蛇行で小向の描いた円をすべて回避していく、しびれを切らした小向が風霧の周囲に直接円を描いてやろうと動いたその時だった。

 No.34 風霧 次郎
 -臆病な隔離城壁-
 後悔、絶望、恐怖などで静的な精神状態のときに能力者の半径10mの範囲に誰かが入った時点で結界発動。負の感情を結界内にいる人に押し付ける。心が正の方向に向かうと結界解除

 風霧の能力が発動、油断していた小向は結界内に閉じ込められる、驚く小向だったがすぐさま行動を開始した、手に持った護身用のナイフで風霧を刺し殺そうとし…

「なに…これ…?」

 地に倒れ伏した
(なんでみんなが…クルミちゃんも満さんも嵐山も叢雨も…部長は強かった…強かったから僕を置いて行った…嗚呼つらい…なんで俺は生きてるんだ?あの時死んでおけば楽だったんじゃないか?あるいは部長みたいな強さがあれば…いや俺は部長じゃない、俺なんか消えてしまえばいいのに…ああ嫌だ辛い苦しいきつい暗い悲しい哀しい怖い恐い痛い切ない冷たい寒い気持ちわるい息が詰まりそうだ胸が痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……死にたい…)
 悲愴な風霧の内心が小向を蝕んだ、風霧の感情を小向が半分以上引き受けているが小向に流れ込む感情はとどまることを知らない、しかし、少しは冷静さを取り戻したのだろうか?風霧が顔を上げた

「ひっ」

 その顔は悲哀に染まり、目は虚空を見つめていた

「ああ、貴女は同情してくれるんですね…ありがとうございます…」

「来ないで!」

 絶世の…というほどではないが可愛いほうに入る小向の顔を見たというのに風霧の感情は一切晴れる予兆がない、基本女好きの馬鹿であった風霧がである
 風霧は小向のほうへゆったりと歩んでいく

「でもごめんなさい、同情してくれてるのに…俺の気持ちは全く晴れないんです…やっぱり部長みたいに強くは在れないなぁ…ははは」

「やめて…近づかないで…」

 小向の顔には涙があふれる…しかし風霧は微笑を浮かべるだけで何も反応しない、まるで小向という人間を見ていないかのように

「だから…すいません…僕と一緒に死んでくれませんか…」

「いやっ!いやぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 小向は震える体に必死で命令し、風霧の顎を蹴り上げた、気絶する風霧、しかしこれが小向の悪夢の始まりだった
(悲哀絶望動悸慟哭哀愁心痛感傷嘆き咽び無残孤独寂寥寂寞痣痕涙虚無滲み不幸悲痛悲壮惆悵残響慨歎憂愁惻隠痛嘆痛哭哀惜凄愴哀絶血涙幽愁失望嫌悪空虚空洞深淵闘争災禍沈殿落下暗黒死滅…)

「あ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 風霧が気絶したことにより風霧が負っていたすべての感情が小向に流れ込む、結界で隔離されているため助けも来ない、彼女に残された道は少ない…
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