ありふれた異能バトル~リレー式~

やすいケンタウロス

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死神

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「やっと檻が消えたか…しかしポイントがねえ、こうなったら!」

 小向が風霧に触れたため檻から解放された斎藤だったが、町から脱出するにはポイントが足りなくなっていた。そこで一か八か、彼は自身の能力を発動させる

「来い死神!2番と95番だ!」

「おやおや主人久しぶりですねぇ~、ええと今日の気分は~」

 何日も檻に閉じ込められ、ようやく解放された斎藤は気分が高揚していた、それゆえに能力のデメリットのことなど考えずに能力を使ってしまった

「フンフ、フンフ、フーーンっと、おお主人!素晴らしいですね!」

「そうか!で2番と95番どっちだ?」

「いえいえ、そんなことではなく今回のゲームで100位の能力と同じレベルで楽に死ねるなんて幸運ですね~おめでとう!66番です!」

「えっ?」

 呆気にとられる斎藤、その呆然とした顔に容赦なく死神の鎌が振るわれ…

「これ以上アタシの前で死なせないわよ!」

 死神を月夜見を背負う阿武隈が殴り飛ばした

「ぜはぁっぜはぁっ…」

「いいのかいマコト、こいつは今運頼みとはいえマコトを殺そうとしたんだよ?」

「いいのよ結果良ければすべて良し、常に優雅で余裕を持つこと、それが淑女にも紳士にも必要なことよぉ、もっとも自分が責任を持てるのは結局自分だけだから冥慈ちゃんがターゲットだったら本気でキレてたわね」

「そっか、…私のためなら…ふふふ」

 トリップする月夜見に冷静に死神を睨む阿武隈、斎藤はその後ろで気絶していた

「う~ん、まさか殴られるとは思ってなかったけど、仕事はちゃんとしなきゃだから~」

 死神が阿武隈に向かって突撃する、それに対し阿武隈は拳を振るうが…

「お仕事だから66番以外殺せないんだ~」

「なっ!?」

 死神は阿武隈の体をすり抜け、後ろにいる斎藤の首に鎌を振るった。

「お仕事終了!余ったポイントは~、う~ん決めた!久しぶりに驚かされたから君に上げよう!じゃあね~」

 死神はそう言ってふよふよ浮きながらどこともなく消えてゆく、後には二人が残された…

「助けられなかったわね…」

「落ち込む必要はないさ、人を呪わば穴二つ、こいつは多分、もう誰かひとり呪い殺してたよ」

「いえ、彼の自業自得なのはわかっているわ、でも救急救命士の資格を持っている者としては思うところがあるのよ…」

「…マコトはこのゲームに向いてるような向いてないような、よくわかんなくなったけどマコトは優しいね」

「ありがと、冥慈ちゃん」

「ん」

 阿武隈は月夜見の頭をなでる、ところで阿武隈の職業とは一体何なのか!謎は深まるがそんなことは気にしてはいけない!

「さて、冥慈ちゃん、脱出…と行きたいんだけど、少し待ってくれるかしら?」

「どうしたんだい?」

「この街を出るとき余分なポイントはアイテムとなって街にランダムに配置されるわ、でもそれじゃ効率が悪いわよね…」

 阿武隈の発言に月夜見は眉を顰める

「まさかマコト、ここで他の人を待つつもりかい?駄目だよ危険すぎる、いつ巨人がこっちに来るかもわからないんだ」

「大丈夫よ、あの巨人は無差別に街を破壊してるけどここには向かってこないわ、ここには脱出ゲートがある、ここを壊したらゲームが成り立たないもの、それにここには巨人が来ないことに気付いた人がそろそろ集まるはずよ」

「ここが安全で人が集まるはずだっていうのは分かった、でも危険人物まで集まってきたらどうするんだい、あの雷ガキとか」

「ん~、なんとなく、なんとなくだけどそういう子はここには来れない、そんな気がするのよ」

 厳つい顎に手を当て遠くを見つめながら答える阿武隈に、月夜見は諦めたように問う

「根拠は?」

「オンナの勘ね」

 あっさりと言い切る阿武隈に月夜見は惚れた弱みか、何も言い返せなかった。今まで多くのことを成し遂げてきた阿武隈が言ったというのも大きいだろう

「ッ~!ああもうわかった私も残る、マコトも言葉だからね、全部信じるよ、でもそのセリフはやめて欲しいかな」

「ふふふ、ありがとう冥慈ちゃん、最初に会った時とは比べ物にならないくらい良い女になったわね…」

 阿武隈の言葉に月夜見はニヤリと口を三日月のように歪ませ自棄になったように言う

「ああ私は良い女だからね、マコトが何をしたいかもわかるよ、いいよ行ってきて」

「あら、バレてたかしら?」

「うん、もう一週間も一緒に居たんだ、わかるさこのくらい、人助けに行きたいんだろう。というか私が先に帰ったら自分一人で救助に行くつもりだったんだろう?」

「あらあら、全部お見通しだったのね、うまく隠せてたと思ってたんだけど…」

 図星を突かれた阿武隈であったが、動揺した様子は一切見せずむしろ誇っているように見えた。それを見て月夜見はさらに言葉を紡ぐ

「ただ、ちゃんと帰ってきて、一緒に帰ろう」

「ええ、もちろんよ、もうケガも治ったから今ならあの巨人にだって遅れはとらないわよ」

「気を付けてね」

「わかったわ、それじゃ行ってくるわね」

 瞬間、阿武隈の姿が掻き消える、後には月夜見が一人残され

「待ってるだけでいいのカ?師匠は難攻不落、もっと積極的にダナ…」

「いいんだ、マコトは絶対帰ってくるからね、それに最後のほうが感動的だろう?」

「違いナイ」

「ふふふそうだろう?…って誰だ!?」

「安心するネ、集まった人1号アル」

 ◇

 月夜見と別れた阿武隈は一人、現在の状況を考えつつ瓦礫の山と化した街を駆けていた。
(途中で見かけた立方体、あれは死神と同じでアタシにも対処できないわね、それに中から悲しんでるオトコのコと怖がってるオンナのコの気配がしたわ、あれを抜け出せるかは若いコたちが頑張るしなかない…せめてアドバイスでもできればよかったんだけど無理そうね。
 続いてあの巨人、意識はあるけど巨人の行動には反映されていない、当初の予定と違ったことで相当苦しんでいるみたいね、良心が咎めているよう…だけど、あのコからはLOVEの香りがするわ、きっと彼女のヒーローが助けに来る
 なら、アタシがすることは一つ、あの巨人から一人でも多くの人を助けてゲート周辺に連れていくこと!)
 ゲートがある場所からすぐの公園、そこで阿武隈は3人の男女を見つける…それが一人の命を脅かすことになるとも知らずに…

 ◇

「こ~のかっ!ほ~れ飴じゃぞ」

「わ~い!とおねえありがとう!」

「くふふふふ、なに、この程度礼には及ばんとも」

 町はずれの公園、そこで徳永♀は関と戯れていた、その姿は小さい子供を見守る親のようであった、しかし、それを恨みがましい目で見つめる男が一人…徳永♂である

「なぜ…なぜじゃ…なぜ儂には木乃香は近づいてくれんのじゃ…」

「んなもん妾の視線ががっつくような不気味すぎる視線じゃからに決まっておろうが、子供は存外人を見ているもんじゃぞ」

 徳永♀の容赦ない一言に徳永♂は血の涙を流す

「だからそれが何故じゃあ!儂はただの子供好きじゃあ!」

「…妾よ、おぬしが子供好きだということはわかっておる、妾もそうじゃからの、自分のことじゃ、ようわかる…だがの、それ以上に…」

「それ以上に?」

 徳永♀が大きく息を吸う、もう何度も行われたやり取りに展開を察した関は両手で耳を塞ぎ、怒鳴り声に備える

「おぬし目線が木乃香の胸に行きすぎじゃあああ!木乃香はまだ四つじゃぞ!なあにを考えとるんじゃあああ!!!」

「中身四つでも外見は十八か見ようによれば二十四じゃあああ!そこに目が行くのは男として自然の摂理じゃ!そもそもお前も儂じゃろうわかるじゃろうがああああ!」

「じゃから人格が別だと何度言えばわかるんじゃ!一緒にする出ない!そもそも妾がおぬしから生まれたのが不思議なくらいじゃああ!」

 同族嫌悪とでも言うべきか、徳永たちはこのようなやり取りをもう何回も続けていた、そして

「とおねえもとおにいもケンカはめっ!なんだからね!」

「「はいっ」」

 一番幼いはずの関が状況を収める、これがいつものパターンであった

「のう木乃香、儂が悪かった、だからそこの婆にするように儂にも甘えてきてくれてもいいんじゃぞ?」

「婆とはなんじゃ婆とは、まだ職にも就いとらん歳じゃろうに、そんなんじゃったらおぬしも爺じゃぞ」

「ふん、おぬしはデカすぎるんじゃこの八尺様め、さあ木乃香よ儂はいつでもうぇるかむじゃぞこの胸にとびこんで…」

「とおねえがとおにいみたいな目の人には近づくなっていってたよ、それにとおにいの手べたべたしてきてきらい」

「がふっ」

「くくく、様を見ろ」

 ショックで項垂れ、ふらふらと公園を出ていく徳永♂、それを気にせず関と遊ぶ徳永♀、しかし徳永♀はこのときもう一人の自分を引き留めなったことを後悔することとなる…

 ◇

 公園を通り過ぎようとする阿武隈、そこで彼は3人の男女を見つけ、二人の乙女が戯れ一人の男が項垂れているのをみて、何となく事情を察してしまう…
(ん~、見たところオンナのコたちにはぶられて一人黄昏てるってところかしら?でも別にオンナのコたちに嫌われてるってわけではないわね、ゲートも近いから彼らならアタシが助けなくても大丈夫そう…頑張れオトコのコ♪)
 徳永♂に対しウインクをぶちかまし、その場から掻き消える阿武隈、そして徳永♂はたまたま顔を上げたタイミングでそのウインクを偶然にも目撃した、いや目撃してしまった…







 顔を上げる徳永♂、そこに映るはガチガチの筋肉の鎧を纏う大男、そこまでなら何も起こることはなかっただろう、しかし大男の顔にはドギツイ化粧、しかも嫌なことに大男のメイク技術は卓越しており見たものにほんの少し、ほんの少しの間だけ美しいと思わせるほどのものだった、そして極めつけに自分めがけ飛んでくるウインク、それらをすべて目撃してしまった
 途端彼を襲うのはなぜあんなこの世すべての気色悪さを封じ込めたものに少しでも美しさを感じてしまったのかという後悔と恐怖、そしてウインクによる核兵器並みのインパクトである。女と分化した徳永♂であっても彼自身は男、それらの衝撃に当然耐えられるはずはなく…

「ぐっ…うぅ…あ…」

 おぞましいほどの寒気を感じた徳永♂の心臓は機能を停止、その場に倒れこんだ…






「な、なんじゃ今の!?」

 当然、五感を共有している徳永♀も先ほどの映像を見ることになる、しかし気にするべきはオカマのことなどではない、それを見て倒れた自身の半身のことである、彼らは五感、別れる前の記憶、そして現在のダメージを共有している、つまり…

「はぐっ!?」

「とおねえ?」

 徳永♂の心臓が止まれば徳永♀の心臓も止まる、徳永達、くだらないことで命の危機であった









「」

「不味い!木乃香!今すぐ妾の心の臓を叩け!」

「うん!」

「うげふっ!」

 焦る様子を見せる徳永♀に子供ゆえの残酷さというべきか、関は自身の能力で活性した体をもって容赦なく拳を胸部に叩き込んだ

徳永♀の…

 そう徳永♀は失念していた、自身は二つの視界を持つが故、男のほうの自身の前にも関がいると錯覚してしまったのである
 男の方とは違い厚い胸部を持つため致命傷となることはなかったが、それでもしばらく倒れて動けなくなるほどの衝撃はあった
 どんどん徳永たちの意識が遠のいていく、もう彼らは死んでしまうのか?寄りにもよってオカマのウインクで…
 しかしそんな時この場をさらに混沌とさせる者が現れる

「あはははは、ナイスタイミング!ばちばちの実験につきあってよ!」

「あぎゃあああああああああ!!!」

 地に倒れ伏す徳永♂の体に突如雷が落ちる、そう地下帝国から出てきた小林の襲撃であった
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