「カメレオン」という通販サイトがあるらしい

変身ベルト

　二月三日、午後二時半。

　テレビでワイドショーを流していたら、突然に番組が中断され、怪人が現れたというニュースが流れました。

　歪みに歪んだ鋼鉄のスーツと、妙にゴツゴツした突起だらけのベルトのを身に纏い、街中で暴れ回っているとの話らしいのです。

　目を丸くしたニュースキャスターの顔は、今でも忘れられません。

　幼い日に観た特撮さながらの爆発。

　まさか現実、それも割と近くの街でお目にかかるとは。

　これは後から知ったことですが、あの怪人には警察組織の武装が通じなかったらしく、結局、自衛隊まで動員されたそうな。

　それでも、かなりの大損害を受けたようで……現実は非情なのか、怪人が現れてもヒーローは現れないのだなと、そうボヤく私なのでした。

　そして、これも後から知った話ですが……。

　どうやら掲示板の方で、それっぽい話を見つけたのです。

　インターネット掲示板「Zゼータネット」、にみられた、「サラ」と名乗る少女の書き込み。

　その少女が、何やら妙なことを書き込んだ後に、掲示板から突如姿を消してしまったのだとか。

　私はＺネットを開き、そのページを探します。

　ありました。

　何々……「何か変な通販サイト見つけた」と書いてあります。

　変身ベルトが売っていた……？

　でも、あの怪人が暴れた時に現れたヒーローは、スーツを着たそれではなく、警察と自衛隊でしたけど。

　初めての書き込みは、二月一日、午後八時に始まっていました。

　ネットサーフィンをしていたら、中々見ない通販サイトにブチ当たったと、変身ベルトが欲しいらしい少女の書き込みでした。

　真っ暗な背景に、赤と黄色のゴシック体で「カメレオン」というサイト名が書かれていたらしいです。

　ページを開いた瞬間は、ワンクリック詐欺にでも引っかかったのではないかと驚いたそうです。

　画面の中央に検索ボックスがあり、そこに探したい商品名を入力する方式だったそうですが……固有名詞や、細かい製品の名前は認識してくれなかった、とのことでした。

　例えば、「大塔社だいとうしゃのNBJ三式掃除機」は認識できないが、「掃除機」なら認識できる、というような。

　その少女は中学生になって特撮ヒーロー番組にハマったようで、本当に変身できるベルトが欲しかったそうです。

　掲示板の人達は、「ンなもんあるわけねーだろ」と一蹴しており、また謎の通販サイトについても、「怪し過ぎる」と、少女に通販サイトを去るよう勧めていましたが、少女は「もし、本物の変身ベルトが手に入るなら」と、スレッドに寄せられた無視し、検索ボックスに「変身ベルト」と入力したそうです。

　そして次に表示されたのは、「変身ベルト　残四」という文字と、「購入する」、「購入しない」という選択肢。

　またもスレッドに寄せられる警告の言葉。

　しかし少女にその言葉は届かず、迷わず「購入する」をクリックしたと、書き込みがされていました。

　ここで、妙なことが判明します。

　何とその少女はクレジットカードを持っておらず、「カメレオン」に登録するプリペイドカードなども当然ながら持っていなかったそうで、一体どこからお金が引き落とされたのか、そもそもお金自体引き落とされたのか、分かったものではないそうです。

　そして住所も入力する画面が無かったそうで、頼んだは良いものの無事に届くのか分からない、とのことでした。

　その次の日、二月二日の午後六時に「変身ベルトが届いた。これが本物なら、私は特撮をリアルで味わえる」と書き込みがされた後、少女がスレッドに顔を出すことは無くなったそうです。

　少女による最後の書き込みに添付されていた写真を見た時、私は背筋が凍りました。

　何故なら、ニュースで放送されていた怪人が腰に巻いていたベルトと、掲示板に貼られている写真に写っているベルトが、全く同じものに見えてならなかったからです。

　しかし、真冬だというのに垂れてきた額の汗を、私が拭った瞬間。

　そのスレッドは、元々何も無かったかのように削除されてしまいました。

　テレビ画面で、死亡した容疑者とされる「鬼塚おにづか 響子きょうこ」という名の少女。

　ニュースによると、彼女が怪人となってしまった経緯は、未だ不明なのだそうです。