「カメレオン」という通販サイトがあるらしい

温めますか

これは、知り合いの小田から聞いた話です。

長らく連絡を取れていなかった小田の友人であるＴさんが先日、変死体となって見つかったそうなのです。

小田とＴさんにとって共通の友人であり第一発見者でもあるＤさんが。何枚かの写真を撮ってきたことにより、原因は不明ではあるものの、部屋中に血液と身体のパーツというパーツが散らばっている、その惨状を知ったのだとか。

原因は不明。

内部から破裂したのだろうとは考えられるものの、何故そんなことが起きてしまったのかは、全くもって分からないとのことでした。

そして私は、そんな小田にＤさんが撮った証拠写真絡みのことで聞きたいことがあると、現在、家に押し入られているところなのです。

「なあ、この文字列。お前、見覚えあるだろ」

そう言って、小田は二枚の写真を見せてきました。

一枚目はキッチンの写真。

一人暮らしにしては珍しい、ファミリー用の中では小さいくらいの冷蔵庫と、モザイク無しの肉片がこびりついた食器棚、比較的血を被っていない炊飯器……そして、血まみれのガステーブルと流しがあるキッチンでした。

そして二枚目は、玄関から部屋の中を撮った写真です。

ローテーブルと座椅子、テレビ台に置かれたテレビ、そしてベッドに、何かメモ用紙が貼られたデスクトップパソコン……いたって普通の、一人暮らしといった具合の部屋でした。

二枚の写真から、現場は「広めのワンルーム」であると分かります。

ここで気になるのは、やはりメモ用紙が貼られたデスクトップパソコンでしょうか。

消費者センターの電話番号と、「カメレオン」という名前が書かれており、この「カメレオン」というのは怪人となったであろう少女が利用していた、謎の通販サイトの名前でした。

小田は、私がその通販サイトについて知っていたということを事前に聞いていたからこそ、Ｔさんの変死について相談してきたのです。

怪人が沈静化された後、私が警察に「カメレオン」の話をすることはありませんでした。

私がどれだけネットを調べても、そんなサイトは出てこなかったからです。

そして、あくまでも私の推理は憶測に過ぎず、明らかにそうだろうと思う要素こそありますが、そもそも謎の通販サイトの存在も含めて、無関係な人間の推理など、信じてもらえるとも思いません。

しかし、以前に居酒屋巡りをした際に、私は怪人と「カメレオン」の推理について、話してしまったのです。

小田は、どうやらそれを覚えていたそうで……。

今になって、後悔してきました。

やはり警察に話しておいた上で、「カメレオン」の存在だけでも、警察官の頭に入れておくべきでした。

今、私は部屋中に飛び散った人間の写真をモザイク無しで見せられてしまっているのですから。

……ここで問題なのは、「Ｔさんはカメレオンで何を注文したのか」です。

それに関しては、二枚目の写真から、もう一度一枚目の写真へ目をやった時に分かりました。

多分ですが。

この部屋には、「電子レンジ」がありませんでした。

毎日、徹底して自炊する人なら必要ないのかもしれませんが、忙しい現代人、特に一人暮らしの独身には欠かせないものでしょう。

それが、この部屋には無かったのです。

ここまでヒントが揃えば、あくまでも「カメレオン」の存在ありきですが、真相が見えてくるというものでした。

まず、Ｔさんが何かしらの手段で、謎の通販サイト「カメレオン」に辿り着く。

そして検索ボックスに「電子レンジ」と入力し、購入。

しかし待てど暮らせど電子レンジが届かないことに違和感を覚え、「カメレオン」について聞くべく、消費者センターへ連絡しようとしていたのでしょう。

メモ帳は、消費者センターの電話番号と要件を忘れないようにするためのものなのだと思います。

それからしばらくの経緯は知らないが、おそらく、その商品が「届いた」という扱いになったタイミングで、電子レンジよろしく全身の水分が震えだし、その身体は破裂。

そうして、至るところにＴさんの全てが飛び散ったワンルームは完成してしまったということです。

あくまでも「カメレオン」ありきの推理でしかありませんが、つまりＴさんは、電子レンジを「カメレオン」で買ったところ、そのまま自分自身が電子レンジになってしまい、自らの発するマイクロウェーブのせいで爆発してしまった……ということになります。

物騒な話です。

これを話すと、小田は私に礼を言い、おつまみの詰め合わせと缶ビール二本を置いて立ち去っていきました。

人を怪人にして暴走させたかと思えば、今度は人を電子レンジにして自爆させてしまった。

そして、そのどちらにも「カメレオン」が関わっている。

どうか、この私の推理が間違っていますように。

そう願いながら、私は電子レンジでコンビニ弁当を温めるのでした。