「カメレオン」という通販サイトがあるらしい

最上 虎々

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おかえり

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 ある日、友人の小田からメッセージが送られてきました。

 恐ろしい体験をした知り合いのKさんが、今、小田の家に居候しているのだとか。

 一体何があったのでしょうか。

 私は一連の流れを、メッセージを通じて聞くことにしました。

 Kさんは若くして妻を失い、心を病んでしまったのか、貯金を切り崩しながら家に引きこもる生活をしていたそうです。

 Kさんは引きこもっている間に投資で成功し、何不自由無い生活を送ってはいましたが、どんな贅沢をしても、妻を失ったことでぽっかりと空いてしまった心の穴を塞ぐことはできませんでした。

 そしてある日、Kさんは小田の元を訪れたそうです。

「妻が、来た」

 そう言って、小田に泣きついたのだとか。

「何だよ、お前んとこのカミさんはとっくに」

「そうなんだ、その筈だったんだ。なのに……。妻は帰ってきた」

 崩れ落ちるKさんを前に、小田はどうすることもできず、ただ彼が落ち着くまで待っているしか出来なかったといいます。

 Kさんは小田の元を訪れる二週間前、名も知られないスピリチュアル雑誌を読んでいたそうでした。

 そして、その雑誌を気に入ったKさんは、それを発行している会社の通信販売サービスを利用することにしたそうです。

 裏表紙に書かれているURLをパソコンの検索ボックスに入力すると、モニターにはでかでかと「カメレオン」の文字が出てきたそうで。

 検索ボックスの中には、既に「妻」の一文字が入力されていたそうです。

 その文字が脳内で妻を亡くした過去と結びつくまでそう時間はかからず、不思議に思いながらも、しかし何故か「検索しなければならない」という衝動に駆られたらしく、そのまま「妻」という商品を検索、購入ボタンをクリックしてしまったと、ようやく落ち着いたKさんが、小田に話してくれたそうです。

 そして、Kさんが小田の元を訪れる四日前。

 一人で夕食を食べていると、「ピーンポーン」と、インターホンが鳴ったそうです。

 謎の通販サイトで頼んだ「妻」という商品が届いたのだろうと思い、一体何が運ばれてきたのだろうかと楽しみに、そして少し不安に思いながら、Kさんはインターホンに付いているモニターを覗きます。

 そこには見慣れた、かつて愛した女性の、しかし真っ黒な影のようなものが立っていたそうです。

 今は夜、暗くて顔が見えにくいということはあるかもしれません。

 しかし家には、インターホンの前に立っている人の姿が照らされるよう、人に感応して点灯するライトが付けられていたそうで。

 ……にもかかわらず、その姿は真っ黒で顔どころか服の色も見えず、ただ「立体的な影」がそこに立っていたのだとか。

 Kさんが困惑していると、再びインターホンが鳴らされ、「これは普通ではない」と察したKさんは寝室に再び籠ることにしたそうです。

 しかし、しばらく無視していると、またインターホンが鳴らされ、そして四回目のインターホンは、二回目と三回目のインターホンが鳴らされる間よりも短い間隔で鳴らされたらしいと、小田さんは言っていました。

 五回目、六回目、どんどんインターホンが鳴らされる感覚は短くなっていき、ものの十数分で「ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン」と、連続して鳴らされ続けるまでになってしまったそうな。

 そして、それだけにとどまらず、玄関扉が「ドンドンドンドン」と叩かれるとともに、妻にそっくりな、しかし無機質な声で「ただいまただいまただいまただいまただいまただいまただいまただいま」と、繰り返し続きました。

 Kさんは堪らず部屋を飛び出し、台所の勝手口から家を飛び出し、近所の交番へ相談に行きました。

 しかし、警察官同伴のもと家へ戻ると、そこには誰も立っていなかったそうで、警察官には精神科へ行くよう勧められたとのことです。

 確かに、この事件が無くとも、精神科には行った方が良さそうな傷心ぶりではありそうですが……。

 結局、Kさんはそのまま家に再び引き籠ることもできず、一先ず近くのホテルに泊まることにしたそうです。

 しかしその晩。

 ホテルの扉が「ドンドン、ドンドン」と叩かれ、覗き穴を覗くと、そこにはやはり見慣れた妻の形をした影が立っていたそうです。

 フロントに電話をして部屋へ来てもらったそうですが、やはりその時にも影は消えていたそうで。

 一人ではもう、どうにもできないと考え、Kさんは小田の元を訪れたそうです。

 その話について小田とメッセージでやり取りをしてからも、しばらく小田はKさんと一緒に居たらしいです。

 しかし小田の出張にまでついて来ることは流石に出来ず、それに合わせて、Kさんは久しぶりに自宅へ戻ることにしたそうな。

 それから二週間が経ち、出張から帰ってきた小田は一言、私にメッセージを送ってきました。

「Kと連絡が取れなくなった」
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