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通販サイト
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私は決心しました。
かの通販サイトに、もし出会うことがあったら。
あの「カメレオン」という通販サイトそのものを取り寄せてやろうと。
これまで、私の目の届く範囲でも十分に影響が認識できる程、「カメレオン」による被害が出ています。
ニュースで見た怪人、掲示板に入り浸る好奇心旺盛な人、小田の友人であるTさんとKさん。
私は、日常がだんだんと「カメレオン」に浸食されていくようで、怖くなってしまったのです。
固有名詞や詳しい条件が認識されないのならば、「カメレオン」か「通販サイト」と検索ボックスに入力すれば、認識される筈です。
サイト側が果たして自らを売り渡してくれるのか、はたまた私にそれを取り寄せる資格があるのかは分かりませんが、上手くいけば……通販サイトを私の手で管理し、封じ込めることができるのかもしれません。
あの通販サイトは架空請求だとか、ダークウェブだとか、そんなものではありません。
特定の条件を満たした人間の元に現れては、自らの力を以て被害をもたらす怪異です。
早く「カメレオン」に辿り着き、あのサイトそのものを注文しなければ。
周りが被っている被害が被害だけに、もう看過できないのです。
私は自分のスマートフォンを起動し、ネットサーフィンを始めます。
普段ならZネットを見ているところですが、掲示板を眺めていては、面白いスレッドを見つけてしまっては、ページを移動する機会が少なくなってしまうので、適当なネットニュースや、昔プレイしていたゲームの攻略サイトを適当に見て、ページの移動回数を稼ぎました。
そして、数時間が経った頃。
私はついに、そのサイトに辿り着きました。
真っ黒な背景に赤と黄色の文字で「カメレオン」と書いてあります。
私は歓喜の渦に呑まれるがまま、検索ボックスに「通販サイト」と入力しました。
カメレオンという言葉では、動物のカメレオンをはじめとした……いわゆる「当たり判定」が大きいのではないかという懸念もあるからです。
そして読み込みが終わると同時に、想定した通りのものが表示されました。
「通販サイト……カメレオン。値段は……『残次まで』?」
この「残次まで」という言葉はよく分かりません。
しかし今までの被害者と同じように、やはりクレジットカード番号や住所を入力する画面はありませんでした。
私は生唾をゴクリと飲み、「購入する」のボタンをクリックします。
するとその瞬間、視界は真っ白な天井を映しました。
「おお、おい?鎌田!おい!大丈夫か!?」
「……は?ここは?」
「市立病院だよ。お前、もう二ヶ月も寝た切りだったんだぞ」
いつの間にか、私は病院のベッドに移動していました。
そして今、うるさい程に視界を埋め尽くしている小田の顔は、安心し切ったように緩み切っており、彼曰く、私は二ヶ月ほど寝た切りになっていたようです。
「あれ、何で……僕……?ねぇ小田。この二ヶ月間……僕に何があったか分かる?」
「何って、お前と連絡が取れなくなったから、心配してみたらよ。家に鍵がかかってなくってよ。で、家に入ってみたらパソコンの前でお前がブッ倒れてたって訳だ。死んだみてーに冷たくなっててよ。Kのこともあるから、心配になって、咄嗟に救急車を呼んだんだ。でも、とりあえず復活したみてーで何よりだ」
「あ、そう……だったんだ。何か病名とか、原因になった怪我とか……そういうのは?分かる?どっかに書いてあったり……」
「それが分からねーんだとよ。何人かの先生が調べてくれたみてーなんだが……イマイチ原因らしき原因も見つからねぇんだと」
「そうなんだ……。ま、いいや。とりあえず元気になったし、僕のこと診てくれた先生にも、伝えないとね」
私はそれから、看護師に意識が戻ったと自らの口で伝え、お見舞いに来てくれていた小田が買ってきてくれていたテレビカードを使い、二人でテレビを見ながら話すことにしました。
「とりあえず、お前が無事で良かったよ」
「いやあ、心配かけたね。……僕、実は。例のカメレオンを使ったんだ」
「はぁ!?カメレオンって、お前が色々言ってた通販サイトだろ?何でお前が。お前の言ってたことが正しいなら、危険性は理解している筈だろ!」
「……あのサイトは、オバケみたいなものだよ。突然現れては、欲しいものの存在をちらつかせたり、心に強迫観念みたいなものを植え付けたりして、アクセスしてしまった人にサイトを使わせる。そして、その末路はどれもロクなものではない……。僕も、『カメレオン』絡みの事件をいくつか聞いて、好奇心と……あのサイトが野放しになっていたら危ないと思って、何とか封じ込めてやりたいって、いつの間にか……僕の心の中は、そういう衝動に支配されていた」
「……サイトの影響力だってのか」
「うん。僕が二ヶ月も意識を失ってた理由は分からないけど……考えていたことが上手くいったのなら、僕の意識は二ヶ月間、あのサイトに閉じ込められていたんだと思う。そして、あの通販サイトの名前と一緒に出てきた『残次』って文字。あれは多分、次の犠牲者が出るまで、僕の意識が戻らないことを意味していたんだと思う」
「ってことは今、さっきまでのお前みたいに意識を失った奴がいるってか?」
「うん。僕が知ってる限りの情報を照らし合わせても、変な矛盾点は生まれないし……あと、勘でも分かるんだ」
「……そうか。そいつは気の毒だな」
「そうだね。……ちょっとごめん。疲れたからまた寝る」
私は紙コップに注がれている水を飲み干し、再び意識を手放します。
それから一週間後。
私は退院し、普通の生活を取り戻しました。
小田は変わらず、元気にやっているみたいです。
あれから、二人の周りで「カメレオン」絡みらしい事件は見られなくなりました。
あの手の怪異ですから、消えたとは考えられません。
現に、私の意識はこうして戻ってきた訳ですし、次の犠牲者も、多分いると思います。
どうか次の犠牲者は、私や私の周りと関わりが無い人でありますように。
我ながら酷いことを言っているとは思いますが、こちらからあのサイトを回避・消滅させる手段が無いため、そう願うしか無いのです。
どうか、もう私と私の周りに、「カメレオン」が現れないことを願って。
「夢を買える通販サイトがあるらしい」
いつもの掲示板に、こんなスレッドが立てられていました。
今までなら、迷わずクリックしていたことでしょう。
またカメレオン絡みなのか、そうだとすれば今度はどんな事件が起こるのか、自分の行動で事件を止められることは無いか。
しかし私は、脳内に浮かぶ「カメレオン」のサイトと、目覚めた私を見て安心したらしい小田の顔を思い出し。
そっと、掲示板のウインドウを閉じるのでした。
かの通販サイトに、もし出会うことがあったら。
あの「カメレオン」という通販サイトそのものを取り寄せてやろうと。
これまで、私の目の届く範囲でも十分に影響が認識できる程、「カメレオン」による被害が出ています。
ニュースで見た怪人、掲示板に入り浸る好奇心旺盛な人、小田の友人であるTさんとKさん。
私は、日常がだんだんと「カメレオン」に浸食されていくようで、怖くなってしまったのです。
固有名詞や詳しい条件が認識されないのならば、「カメレオン」か「通販サイト」と検索ボックスに入力すれば、認識される筈です。
サイト側が果たして自らを売り渡してくれるのか、はたまた私にそれを取り寄せる資格があるのかは分かりませんが、上手くいけば……通販サイトを私の手で管理し、封じ込めることができるのかもしれません。
あの通販サイトは架空請求だとか、ダークウェブだとか、そんなものではありません。
特定の条件を満たした人間の元に現れては、自らの力を以て被害をもたらす怪異です。
早く「カメレオン」に辿り着き、あのサイトそのものを注文しなければ。
周りが被っている被害が被害だけに、もう看過できないのです。
私は自分のスマートフォンを起動し、ネットサーフィンを始めます。
普段ならZネットを見ているところですが、掲示板を眺めていては、面白いスレッドを見つけてしまっては、ページを移動する機会が少なくなってしまうので、適当なネットニュースや、昔プレイしていたゲームの攻略サイトを適当に見て、ページの移動回数を稼ぎました。
そして、数時間が経った頃。
私はついに、そのサイトに辿り着きました。
真っ黒な背景に赤と黄色の文字で「カメレオン」と書いてあります。
私は歓喜の渦に呑まれるがまま、検索ボックスに「通販サイト」と入力しました。
カメレオンという言葉では、動物のカメレオンをはじめとした……いわゆる「当たり判定」が大きいのではないかという懸念もあるからです。
そして読み込みが終わると同時に、想定した通りのものが表示されました。
「通販サイト……カメレオン。値段は……『残次まで』?」
この「残次まで」という言葉はよく分かりません。
しかし今までの被害者と同じように、やはりクレジットカード番号や住所を入力する画面はありませんでした。
私は生唾をゴクリと飲み、「購入する」のボタンをクリックします。
するとその瞬間、視界は真っ白な天井を映しました。
「おお、おい?鎌田!おい!大丈夫か!?」
「……は?ここは?」
「市立病院だよ。お前、もう二ヶ月も寝た切りだったんだぞ」
いつの間にか、私は病院のベッドに移動していました。
そして今、うるさい程に視界を埋め尽くしている小田の顔は、安心し切ったように緩み切っており、彼曰く、私は二ヶ月ほど寝た切りになっていたようです。
「あれ、何で……僕……?ねぇ小田。この二ヶ月間……僕に何があったか分かる?」
「何って、お前と連絡が取れなくなったから、心配してみたらよ。家に鍵がかかってなくってよ。で、家に入ってみたらパソコンの前でお前がブッ倒れてたって訳だ。死んだみてーに冷たくなっててよ。Kのこともあるから、心配になって、咄嗟に救急車を呼んだんだ。でも、とりあえず復活したみてーで何よりだ」
「あ、そう……だったんだ。何か病名とか、原因になった怪我とか……そういうのは?分かる?どっかに書いてあったり……」
「それが分からねーんだとよ。何人かの先生が調べてくれたみてーなんだが……イマイチ原因らしき原因も見つからねぇんだと」
「そうなんだ……。ま、いいや。とりあえず元気になったし、僕のこと診てくれた先生にも、伝えないとね」
私はそれから、看護師に意識が戻ったと自らの口で伝え、お見舞いに来てくれていた小田が買ってきてくれていたテレビカードを使い、二人でテレビを見ながら話すことにしました。
「とりあえず、お前が無事で良かったよ」
「いやあ、心配かけたね。……僕、実は。例のカメレオンを使ったんだ」
「はぁ!?カメレオンって、お前が色々言ってた通販サイトだろ?何でお前が。お前の言ってたことが正しいなら、危険性は理解している筈だろ!」
「……あのサイトは、オバケみたいなものだよ。突然現れては、欲しいものの存在をちらつかせたり、心に強迫観念みたいなものを植え付けたりして、アクセスしてしまった人にサイトを使わせる。そして、その末路はどれもロクなものではない……。僕も、『カメレオン』絡みの事件をいくつか聞いて、好奇心と……あのサイトが野放しになっていたら危ないと思って、何とか封じ込めてやりたいって、いつの間にか……僕の心の中は、そういう衝動に支配されていた」
「……サイトの影響力だってのか」
「うん。僕が二ヶ月も意識を失ってた理由は分からないけど……考えていたことが上手くいったのなら、僕の意識は二ヶ月間、あのサイトに閉じ込められていたんだと思う。そして、あの通販サイトの名前と一緒に出てきた『残次』って文字。あれは多分、次の犠牲者が出るまで、僕の意識が戻らないことを意味していたんだと思う」
「ってことは今、さっきまでのお前みたいに意識を失った奴がいるってか?」
「うん。僕が知ってる限りの情報を照らし合わせても、変な矛盾点は生まれないし……あと、勘でも分かるんだ」
「……そうか。そいつは気の毒だな」
「そうだね。……ちょっとごめん。疲れたからまた寝る」
私は紙コップに注がれている水を飲み干し、再び意識を手放します。
それから一週間後。
私は退院し、普通の生活を取り戻しました。
小田は変わらず、元気にやっているみたいです。
あれから、二人の周りで「カメレオン」絡みらしい事件は見られなくなりました。
あの手の怪異ですから、消えたとは考えられません。
現に、私の意識はこうして戻ってきた訳ですし、次の犠牲者も、多分いると思います。
どうか次の犠牲者は、私や私の周りと関わりが無い人でありますように。
我ながら酷いことを言っているとは思いますが、こちらからあのサイトを回避・消滅させる手段が無いため、そう願うしか無いのです。
どうか、もう私と私の周りに、「カメレオン」が現れないことを願って。
「夢を買える通販サイトがあるらしい」
いつもの掲示板に、こんなスレッドが立てられていました。
今までなら、迷わずクリックしていたことでしょう。
またカメレオン絡みなのか、そうだとすれば今度はどんな事件が起こるのか、自分の行動で事件を止められることは無いか。
しかし私は、脳内に浮かぶ「カメレオン」のサイトと、目覚めた私を見て安心したらしい小田の顔を思い出し。
そっと、掲示板のウインドウを閉じるのでした。
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