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第二章 駆け出し冒険者、兼、学生
第十八話 非常事態を経て
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ケウキとの戦闘中に意識を失ってから、どれだけ経ったのだろうか。
窓から日が差し込む、おそらくウェンディル学園の救護室と思われる場所。
そこのベッドで目を覚ました。
「う……うん……?」
ハーフプレートメイルは脱がされており、パンツを残して全身はほぼ包帯でグルグルと巻かれていた。
何とか周りを見回すと、意外にも救護室にいる人間は俺一人。
辺りには数十ものベッドと、様々な医療器具や魔法薬などが並んだ棚がいくつもある。
今回の実習のように、何か間違い……もといイレギュラーが起こったとしても対応できるようにだろう。
救護室とはいうが、小さな病院とさして変わらない規模のようである。
養護教諭の一人くらいはいるものだろうと思っていたが、部屋には誰もいない。
その辺をうろついて人を探してみようにも腰をやられたのか、身体がまともに動かず、上半身を起こすことさえやっとである。
それから待つこと数時間。
「……ジィン?ジィン!」
今日の講義を終えてすぐに救護室へやってきたなのか、荷物を持ったままのガラテヤ様が、こちらへ気付くなり駆け寄ってきた。
「あっ、ガラテヤ様。おはようございます」
「良かった!良かったぁ……。お姉ちゃん、心配したんだぞぉ……!」
今、救護室は俺とガラテヤ様の二人きり。
つまりは、ガラテヤ様も今なら尊姉ちゃんモードになれる、ということである。
「いやいや、ごめんね。ちょっとヘマしちゃって」
「大和くんがちゃんと生きてて良かった……!それに、ケウキがあの山に住み着いてることは想定外だったでしょ?だからいいの!」
「ホント……どうなることかと思ったよね。実習の初歩の初歩みたいな……山道だってこと以外は、普通にライトな実戦だって話だったのに」
「大和くん、覚えてる?クロスボウ持ったケーリッジ先生が助けてくれたの」
「ああ、あの雷の矢、やっぱケーリッジ先生だったんだ。うん、ちょうどそこまで覚えてるよ」
「あの後、ケーリッジ先生がケウキの相手をしている間にムーア先生とリゲルリット先生が皆を馬車まで誘導してくれて……それで、ケーリッジ先生がトドメを刺して……実習は強制終了。その中で唯一、大怪我した大和くんはすぐに救護室に連れて行かれて……今は翌日の午後二時。講義は、昨日のこともあってあんまり進んでないから安心して」
「とりあえず良かった……の?かな?」
「不幸中の幸い、かな。とにかく、大和くんが無事で良かった……」
「ご心配をおかけしました」
姉ちゃんは部屋の端に置いてあった椅子を持ってきて、ベッドの側に置く。
そして、午前中に行われる共通の講義で何が説明されたかをまとめて教えてくれたり、治った後に行きたい場所の話をしたりと、俺が退屈しないように気を遣ってか、しばらくの間、側で話してくれていた。
それから、さらに一時間後。
「あら。ジィン君、目が覚めたのね。おはよう。……ごめんなさいね、魔法薬の仕入れに少し手間取ってしまって」
選択抗議の時間だからと部屋を出るガラテヤ様と入れ替わるように、養護教諭らしき先生がようやく戻ってきた。
「おはようございます、えーっと……お名前は?」
「『サニラ・メイラークム』。もう分かってると思うけど、養護教諭よ」
メイラークム先生は椅子に腰かけ、足を組みながら話を続ける。
「いやぁ、現在進行形でお世話になってます」
「いいのよ、それが私の仕事だから。それより大丈夫?『バイタルスキャン』で身体を軽く確認したのだけれど……。全身の至る所が打撲してるのと、左腕と肋骨にヒビが入ってるのと……背中にシャレにならないくらいの擦り傷もあって……『普通の方法』なら、完全に治るまで早くても二ヶ月、酷ければ三ヶ月はかかるわね」
「おっ?ということは……あるんですか?普通じゃない方法が」
「ええ、そういう魔法薬があるわ。けど……そうね。ちょっと肉体に無理を強いることになるから……。オススメはできないわよ?」
「お願いします。早く復帰して、またガラテヤ様を守れるようにならなきゃいけないんです」
「……分かった。じゃあ……ちょっと失礼するわね」
メイラークム先生は丁寧に包帯を剥がし、棚から取り出した塗り薬を俺の全身へ塗りたくる。
それから間もなく、薬を塗られた箇所からヒリヒリと痛み始める。
「うぐ、おおおおおおおおお!!!!?」
染みているなんてものではない。
全身の細胞一つ一つが焼かれているような……あっという間に全身から力が抜け、意識さえも遠のく程の痛み。
「肉体に無理を強いるって言ったでしょう?どうする?洗い流した方が良いかしら?」
「いや、いいです……!治るんですよね、このまま耐えれば……!」
無理に治癒スピードを上げたうえで、その工程をいくつかすっ飛ばしながら無理矢理治しているこの感じ。
治しているというよりかは、「直」している感覚に近い。
しかし、あと三日くらいで治るなら何とか……!
「ええ。二週間くらいで」
「二週間!?」
限界を越えるどころの騒ぎではなかった。
「大丈夫よ、辛いのは今だけだから。しばらくしたら身体が慣れてきて、倦怠感以外はだいぶマシになるハズよ」
「そ、そうですか……!なら良かったです……!」
しかし、一度この方法で治すと決めた上に、予定よりも早く治すにはこうするしか無いと分かった以上、俺に選択肢は残されていないようなものだ。
決死の覚悟と共に、再び上半身を倒す。
……この日は眠れなかった。
どのような体勢で寝ても痛みは治らず、ただ意識と眠気は互いが混濁していくのみ。
そんな夜が明け、再び窓から光が差し込む頃。
一晩中続く痛みに心身を消耗し切って意識を失った俺が次に目覚めると、ようやく、声を押し殺す必要がなくなる程度には痛みが引いていた。
「うん。この調子なら、本当にあと二週間で良くなりそうね。もうしばらく、頑張って」
あれからガラテヤ様は、講義が終わってから寮での夕食まで五、六時間程度ある自由時間のほぼ全てを俺とのお見舞いに割いてくれるようになり、さらにはロディア、マーズさん、そしてケーリッジ先生も時々顔を出してくれるようになった。
皆がいたから、俺は何とか健全な精神状態で、二週間を乗り切ることができたのだろう。
保健室にいる間、常に俺のことを気にかけてくれたメイラークム先生や、ガラテヤ様をはじめとしたお見舞いに来てくれた四人には、感謝してもし切れない気持ちである。
そして、例の塗り薬を使い始めてから二週間後。
「お待たせして申し訳ございません、ガラテヤ様!騎士ジィン、ここに完全復活したことをご報告させて頂きます!」
痛みが引き、感覚の隅々までもすっかり元通りになった俺は、メイラークム先生に礼を言い、すぐさまガラテヤ様のいる女子寮の玄関先へと駆けつけた。
「……ジィン!迎えに来てくれたの?」
「はい。元に戻った元気な俺を、一刻も早くガラテヤ様に見せたくて」
「ありがとう。でも……」
ガラテヤ様が辺りを指差す。
「キャー!騎士様からのアプローチよぉ!」
「やっぱりガラテヤ様とジィン様、デキてたのねー!」
「今夜ばかりはガラテヤ様に色々聞かせてもらわなくっちゃいけないわねぇ!」
気付けば、辺りに人だかり。
「……ああ」
「もう少し……普通に出てきてくれても良かったのよ?」
「ホント、スンマセーン」
この日を機に、女子寮における俺とガラテヤ様の関係についての噂は、より一層熱度を増したのであった。
窓から日が差し込む、おそらくウェンディル学園の救護室と思われる場所。
そこのベッドで目を覚ました。
「う……うん……?」
ハーフプレートメイルは脱がされており、パンツを残して全身はほぼ包帯でグルグルと巻かれていた。
何とか周りを見回すと、意外にも救護室にいる人間は俺一人。
辺りには数十ものベッドと、様々な医療器具や魔法薬などが並んだ棚がいくつもある。
今回の実習のように、何か間違い……もといイレギュラーが起こったとしても対応できるようにだろう。
救護室とはいうが、小さな病院とさして変わらない規模のようである。
養護教諭の一人くらいはいるものだろうと思っていたが、部屋には誰もいない。
その辺をうろついて人を探してみようにも腰をやられたのか、身体がまともに動かず、上半身を起こすことさえやっとである。
それから待つこと数時間。
「……ジィン?ジィン!」
今日の講義を終えてすぐに救護室へやってきたなのか、荷物を持ったままのガラテヤ様が、こちらへ気付くなり駆け寄ってきた。
「あっ、ガラテヤ様。おはようございます」
「良かった!良かったぁ……。お姉ちゃん、心配したんだぞぉ……!」
今、救護室は俺とガラテヤ様の二人きり。
つまりは、ガラテヤ様も今なら尊姉ちゃんモードになれる、ということである。
「いやいや、ごめんね。ちょっとヘマしちゃって」
「大和くんがちゃんと生きてて良かった……!それに、ケウキがあの山に住み着いてることは想定外だったでしょ?だからいいの!」
「ホント……どうなることかと思ったよね。実習の初歩の初歩みたいな……山道だってこと以外は、普通にライトな実戦だって話だったのに」
「大和くん、覚えてる?クロスボウ持ったケーリッジ先生が助けてくれたの」
「ああ、あの雷の矢、やっぱケーリッジ先生だったんだ。うん、ちょうどそこまで覚えてるよ」
「あの後、ケーリッジ先生がケウキの相手をしている間にムーア先生とリゲルリット先生が皆を馬車まで誘導してくれて……それで、ケーリッジ先生がトドメを刺して……実習は強制終了。その中で唯一、大怪我した大和くんはすぐに救護室に連れて行かれて……今は翌日の午後二時。講義は、昨日のこともあってあんまり進んでないから安心して」
「とりあえず良かった……の?かな?」
「不幸中の幸い、かな。とにかく、大和くんが無事で良かった……」
「ご心配をおかけしました」
姉ちゃんは部屋の端に置いてあった椅子を持ってきて、ベッドの側に置く。
そして、午前中に行われる共通の講義で何が説明されたかをまとめて教えてくれたり、治った後に行きたい場所の話をしたりと、俺が退屈しないように気を遣ってか、しばらくの間、側で話してくれていた。
それから、さらに一時間後。
「あら。ジィン君、目が覚めたのね。おはよう。……ごめんなさいね、魔法薬の仕入れに少し手間取ってしまって」
選択抗議の時間だからと部屋を出るガラテヤ様と入れ替わるように、養護教諭らしき先生がようやく戻ってきた。
「おはようございます、えーっと……お名前は?」
「『サニラ・メイラークム』。もう分かってると思うけど、養護教諭よ」
メイラークム先生は椅子に腰かけ、足を組みながら話を続ける。
「いやぁ、現在進行形でお世話になってます」
「いいのよ、それが私の仕事だから。それより大丈夫?『バイタルスキャン』で身体を軽く確認したのだけれど……。全身の至る所が打撲してるのと、左腕と肋骨にヒビが入ってるのと……背中にシャレにならないくらいの擦り傷もあって……『普通の方法』なら、完全に治るまで早くても二ヶ月、酷ければ三ヶ月はかかるわね」
「おっ?ということは……あるんですか?普通じゃない方法が」
「ええ、そういう魔法薬があるわ。けど……そうね。ちょっと肉体に無理を強いることになるから……。オススメはできないわよ?」
「お願いします。早く復帰して、またガラテヤ様を守れるようにならなきゃいけないんです」
「……分かった。じゃあ……ちょっと失礼するわね」
メイラークム先生は丁寧に包帯を剥がし、棚から取り出した塗り薬を俺の全身へ塗りたくる。
それから間もなく、薬を塗られた箇所からヒリヒリと痛み始める。
「うぐ、おおおおおおおおお!!!!?」
染みているなんてものではない。
全身の細胞一つ一つが焼かれているような……あっという間に全身から力が抜け、意識さえも遠のく程の痛み。
「肉体に無理を強いるって言ったでしょう?どうする?洗い流した方が良いかしら?」
「いや、いいです……!治るんですよね、このまま耐えれば……!」
無理に治癒スピードを上げたうえで、その工程をいくつかすっ飛ばしながら無理矢理治しているこの感じ。
治しているというよりかは、「直」している感覚に近い。
しかし、あと三日くらいで治るなら何とか……!
「ええ。二週間くらいで」
「二週間!?」
限界を越えるどころの騒ぎではなかった。
「大丈夫よ、辛いのは今だけだから。しばらくしたら身体が慣れてきて、倦怠感以外はだいぶマシになるハズよ」
「そ、そうですか……!なら良かったです……!」
しかし、一度この方法で治すと決めた上に、予定よりも早く治すにはこうするしか無いと分かった以上、俺に選択肢は残されていないようなものだ。
決死の覚悟と共に、再び上半身を倒す。
……この日は眠れなかった。
どのような体勢で寝ても痛みは治らず、ただ意識と眠気は互いが混濁していくのみ。
そんな夜が明け、再び窓から光が差し込む頃。
一晩中続く痛みに心身を消耗し切って意識を失った俺が次に目覚めると、ようやく、声を押し殺す必要がなくなる程度には痛みが引いていた。
「うん。この調子なら、本当にあと二週間で良くなりそうね。もうしばらく、頑張って」
あれからガラテヤ様は、講義が終わってから寮での夕食まで五、六時間程度ある自由時間のほぼ全てを俺とのお見舞いに割いてくれるようになり、さらにはロディア、マーズさん、そしてケーリッジ先生も時々顔を出してくれるようになった。
皆がいたから、俺は何とか健全な精神状態で、二週間を乗り切ることができたのだろう。
保健室にいる間、常に俺のことを気にかけてくれたメイラークム先生や、ガラテヤ様をはじめとしたお見舞いに来てくれた四人には、感謝してもし切れない気持ちである。
そして、例の塗り薬を使い始めてから二週間後。
「お待たせして申し訳ございません、ガラテヤ様!騎士ジィン、ここに完全復活したことをご報告させて頂きます!」
痛みが引き、感覚の隅々までもすっかり元通りになった俺は、メイラークム先生に礼を言い、すぐさまガラテヤ様のいる女子寮の玄関先へと駆けつけた。
「……ジィン!迎えに来てくれたの?」
「はい。元に戻った元気な俺を、一刻も早くガラテヤ様に見せたくて」
「ありがとう。でも……」
ガラテヤ様が辺りを指差す。
「キャー!騎士様からのアプローチよぉ!」
「やっぱりガラテヤ様とジィン様、デキてたのねー!」
「今夜ばかりはガラテヤ様に色々聞かせてもらわなくっちゃいけないわねぇ!」
気付けば、辺りに人だかり。
「……ああ」
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