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第四章 爆発
第三十八話 師匠と弟子
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戦況は依然、ガラテヤ様のペース。
俺が再び距離をとるよりも先に、次の攻撃。
「【糸巻《いとまき》】」
再び、竜巻がこちらを向く。
「【蜘蛛手《くもで》】!」
俺は「蜘蛛手」で多方向からの攻撃を狙うが、「糸巻」に全てを絡め取られてしまった。
「ふふ。思いの外、出力あるのよ」
俺は再び「駆ける風」を連発して回避する。
「こんなんバンバン撃ってて大丈夫なんですか?そろそろエネルギー切れが近いんじゃあないですか?」
「正直、キツいけど……魔力が切れる前に、貴方から一本取るからノー問題よ」
「言ってくれますね、ガラテヤ様……!」
しかし、肝心の魔力切れが近いのは、おそらく俺の方だ。
俺は元々、魔術に自信がある方ではない。
風を銃の要領で撃つだとか、ガラテヤ様のように風の鎧をスラスターのように使うだとか、そういった芸当ができない訳ではないだろうが、なにぶん魔力をそこまで貯めることができる身体でもなければ、そういった鍛錬をしているわけでもない。
ゲーム的に言ってしまえばMPが少なく、スキルポイントも振っていない状況というべきだろうか、とにかくリソースには自信が無いのである。
故に、基本的にはあくまでも現役時代のようには使えない風牙流の補助に用いるだけであり、ガラテヤ様の「飛風」を効率化したような「駆ける風」でさえ、俺には何気に「重い」のだ。
「……ジィン、『越風霊斬』は使わないの?マーズさんのパパを吹っ飛ばしたやつ」
「『越風霊斬』危険なのでやりませんよ」
もっとも、「越風霊斬」は別である。
万全な状態で使っても一発で魔力切れを起こすのは勿論、元々のパワー不足が祟ってか、しばらく戦闘不能になるのは間違いないだろう。
魔力をある程度使っていれば、尚更である。
「そう、残念……。じゃあ、とっととカタをつけるわよ、ジィン!【殺……!」
「そうですね……!【風……!」
「抜】!」
「車】!」
ガラテヤ様の風を纏った右手と、俺のファルシオンがぶつかり合う。
やはり、ガラテヤ様は天才だ。
しかし、経験の差はやはりある。
俺はファルシオンの角度を変え、回るように放たれる風の刃を一点に集中させて放つことで、ガラテヤ様の拳を引きつける。
「……ッぐ!」
そして、首元を斬りつけるようにファルシオンの寸止め。
「……一本です」
その瞬間、ガラテヤ様はその場に大きく尻もちをついた。
「んん……っはぁー!!!強かった!流石ね、ジィン!」
「いやいや、ガラテヤ様も……まさか、ここまで力をつけているとは思いませんでしたよ。あわや一本でした」
「ふふっ。やるでしょ、私も」
「ええ。俺、結構頑張ったはずなんですけど……あっという間に、そのラインまでついて来ちゃうんですから。ちょっと危機感を覚えます」
「師匠がいいのかしらね」
「いやいや、ガラテヤ様の飲み込みが早すぎるだけですって」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。これからも、定期的にいろいろ教えて頂戴ね」
「ええ、勿論です」
俺とガラテヤ様はグータッチを交わし、屋敷に戻る。
すると、そこには何やら女子学生が数名。
「あーっ!いないと思ったら、やっぱり!」
「愛しのジィン君とデートですか、このこのぉ」
「羨ましいですわ~!騎士様と、熱いグータッチ……抱擁は!抱擁はまだですの!?」
ガラテヤ様の知り合いだろうか、何か勘違いをしているようである。
「まだって、私達はそういう関係ではないと、再三言っているじゃあないの……」
「うーん……。確かにそうですけど、流石に目の前でそれを言われると少し傷ついちゃいますよ」
「ジィン?何もそんなにヘコまなくても」
「漢のプライドってものがあるんです」
「あら、そう……よく分からないわね」
「やっぱり二人とも、おしどり夫婦みたいですわね」
へー、この世界にいるんだ、オシドリ。
……俺は疲れていた。
「そ、そそそそ、そうかしら!?じ、ジィン!?ど、どうかしら、ち、違うわよねぇ?」
「下手くそかっ!」
きっと、ガラテヤ様も疲れているのだ。
「ほら、そういうところですわよ~!身分の差なんて気にしない、そういう関係……憧れますわ!」
騎士とおそらく家を継がないであろう子爵令嬢の関係についてそれを言われてしまっても、あまり説得力は無いが……字面だけ見てみれば、確かに一定の需要はあるのかもしれない。
……俺はやっぱり疲れていた。
「アーハイハイ、それでいいわよそれで」
ガラテヤ様はもっと疲れていた。
彼女曰く「お上品っぽい」口調にも、ところどころボロが出ている。
「あっ、ちょっと、お待ちなさって~!もう少しだけ話を」
「「……はぁ?」」
「あっ、そ、そうですわよね!さっきまで、手合わせしていらっしゃったんでしょう?」
「そりゃあ疲れますわよねぇ」
「おっほほほほほほほ……」
この時の俺とガラテヤ様は、とんでもなくキツい目をしていたのだろう。
俺はウェンディル学園にいる時と同じように、ガラテヤ様を女子寮よろしく女子が泊まるメイラークム男爵家西棟まで見送り、それから自室へと戻る。
翌日、俺達は二人で「本気を出し過ぎた」と反省した。
そしてこれ以上に無駄な力を使わないように、残りの二日間は特に魔力を使うこともないよう、休養に専念するのであった。
俺が再び距離をとるよりも先に、次の攻撃。
「【糸巻《いとまき》】」
再び、竜巻がこちらを向く。
「【蜘蛛手《くもで》】!」
俺は「蜘蛛手」で多方向からの攻撃を狙うが、「糸巻」に全てを絡め取られてしまった。
「ふふ。思いの外、出力あるのよ」
俺は再び「駆ける風」を連発して回避する。
「こんなんバンバン撃ってて大丈夫なんですか?そろそろエネルギー切れが近いんじゃあないですか?」
「正直、キツいけど……魔力が切れる前に、貴方から一本取るからノー問題よ」
「言ってくれますね、ガラテヤ様……!」
しかし、肝心の魔力切れが近いのは、おそらく俺の方だ。
俺は元々、魔術に自信がある方ではない。
風を銃の要領で撃つだとか、ガラテヤ様のように風の鎧をスラスターのように使うだとか、そういった芸当ができない訳ではないだろうが、なにぶん魔力をそこまで貯めることができる身体でもなければ、そういった鍛錬をしているわけでもない。
ゲーム的に言ってしまえばMPが少なく、スキルポイントも振っていない状況というべきだろうか、とにかくリソースには自信が無いのである。
故に、基本的にはあくまでも現役時代のようには使えない風牙流の補助に用いるだけであり、ガラテヤ様の「飛風」を効率化したような「駆ける風」でさえ、俺には何気に「重い」のだ。
「……ジィン、『越風霊斬』は使わないの?マーズさんのパパを吹っ飛ばしたやつ」
「『越風霊斬』危険なのでやりませんよ」
もっとも、「越風霊斬」は別である。
万全な状態で使っても一発で魔力切れを起こすのは勿論、元々のパワー不足が祟ってか、しばらく戦闘不能になるのは間違いないだろう。
魔力をある程度使っていれば、尚更である。
「そう、残念……。じゃあ、とっととカタをつけるわよ、ジィン!【殺……!」
「そうですね……!【風……!」
「抜】!」
「車】!」
ガラテヤ様の風を纏った右手と、俺のファルシオンがぶつかり合う。
やはり、ガラテヤ様は天才だ。
しかし、経験の差はやはりある。
俺はファルシオンの角度を変え、回るように放たれる風の刃を一点に集中させて放つことで、ガラテヤ様の拳を引きつける。
「……ッぐ!」
そして、首元を斬りつけるようにファルシオンの寸止め。
「……一本です」
その瞬間、ガラテヤ様はその場に大きく尻もちをついた。
「んん……っはぁー!!!強かった!流石ね、ジィン!」
「いやいや、ガラテヤ様も……まさか、ここまで力をつけているとは思いませんでしたよ。あわや一本でした」
「ふふっ。やるでしょ、私も」
「ええ。俺、結構頑張ったはずなんですけど……あっという間に、そのラインまでついて来ちゃうんですから。ちょっと危機感を覚えます」
「師匠がいいのかしらね」
「いやいや、ガラテヤ様の飲み込みが早すぎるだけですって」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。これからも、定期的にいろいろ教えて頂戴ね」
「ええ、勿論です」
俺とガラテヤ様はグータッチを交わし、屋敷に戻る。
すると、そこには何やら女子学生が数名。
「あーっ!いないと思ったら、やっぱり!」
「愛しのジィン君とデートですか、このこのぉ」
「羨ましいですわ~!騎士様と、熱いグータッチ……抱擁は!抱擁はまだですの!?」
ガラテヤ様の知り合いだろうか、何か勘違いをしているようである。
「まだって、私達はそういう関係ではないと、再三言っているじゃあないの……」
「うーん……。確かにそうですけど、流石に目の前でそれを言われると少し傷ついちゃいますよ」
「ジィン?何もそんなにヘコまなくても」
「漢のプライドってものがあるんです」
「あら、そう……よく分からないわね」
「やっぱり二人とも、おしどり夫婦みたいですわね」
へー、この世界にいるんだ、オシドリ。
……俺は疲れていた。
「そ、そそそそ、そうかしら!?じ、ジィン!?ど、どうかしら、ち、違うわよねぇ?」
「下手くそかっ!」
きっと、ガラテヤ様も疲れているのだ。
「ほら、そういうところですわよ~!身分の差なんて気にしない、そういう関係……憧れますわ!」
騎士とおそらく家を継がないであろう子爵令嬢の関係についてそれを言われてしまっても、あまり説得力は無いが……字面だけ見てみれば、確かに一定の需要はあるのかもしれない。
……俺はやっぱり疲れていた。
「アーハイハイ、それでいいわよそれで」
ガラテヤ様はもっと疲れていた。
彼女曰く「お上品っぽい」口調にも、ところどころボロが出ている。
「あっ、ちょっと、お待ちなさって~!もう少しだけ話を」
「「……はぁ?」」
「あっ、そ、そうですわよね!さっきまで、手合わせしていらっしゃったんでしょう?」
「そりゃあ疲れますわよねぇ」
「おっほほほほほほほ……」
この時の俺とガラテヤ様は、とんでもなくキツい目をしていたのだろう。
俺はウェンディル学園にいる時と同じように、ガラテヤ様を女子寮よろしく女子が泊まるメイラークム男爵家西棟まで見送り、それから自室へと戻る。
翌日、俺達は二人で「本気を出し過ぎた」と反省した。
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