53 / 177
第四章 爆発
幕間 約束のデート
しおりを挟む
某日、マハト霊山での戦いを終え、ジィンとガラテヤ両者の肉体が本来の調子を取り戻した頃。
俺とガラテヤ様は休日の朝、二人で街へと繰り出した。
「ガラテヤ様、今日は俺にエスコートさせて頂きます」
「ええ、お願いするわ!ジィン!」
俺はシャツとズボンにマントを羽織った平民とさして変わらない平凡な服装に対し、ガラテヤ様は青色のドレスに金色のネックレスと、すっかりオシャレしてきている。
少し大人っぽい気もするが、ガラテヤ様が「お姉さんらしさ」を精一杯表現した結果なのだろうか……と深読みしてしまうが、その意図は彼女のみぞ知ることである。
そういえば、俺とガラテヤ様の前世と現世を合わせた年齢は二人とも二十八歳であった。
しかし二人とも大人の時代を過ごしたことが無く、子供時代のみを過ごしてきたためだろうか。
その様はお互い、少し歪である。
俺も過ごしてきた時間の長さだけなら立派なおじいさんだが、大人というものを知らないが故に「こんな感じ」なのであろう。
記憶を引き継いでいるとはいえ、肉体の成長による脳構造の変化も関係するため、実際にはそうはいかないと分かっているのだが……我ながら子供っぽいとはよく思うものだ。
こんな時に、「大人」を知っておけば……ガラテヤ様をエスコートする際の振る舞いも、少しは気取ったものにできたのたろうか。
しかし、今はそんなことを気にしている場合では無い。
向こうは同じ二十八歳だと思っているのだ。
相手を楽しませる場において、自分しか知らない情報は判断基準に不要である。
俺は右手でガラテヤ様の左手をとって、そのまま少し前方を歩き始めた。
「ふふっ。すっかり大きくなったわね。貴方の方がお兄さんみたい」
「前世と合わせたら、同い年ですけどね」
「確かに。それに、私の背がまだ小さいのはあるかもしれないわね」
「でも成長期来てるんじゃないですか?こないだよりも背、伸びてると思いますよ」
「本当?前世より高くなるかしら」
「前世の身長いくつでしたっけ」
「一七〇センチくらいじゃなかったかしら」
「高一女子でそんなにあったの、今思い返してみても大きいね。……今は?」
「一四五くらい?」
「あぁ……へぇ」
「何でノーコメントなのよ」
「低そうで高そうでちょっと低いなと」
「前より伸びてもまだ低いの?」
「残念ながら……この世界の基準は知りませんけど」
十二歳の平均身長は、現代日本においては一五〇センチメートルくらいである(諸説あり)。
「このままじゃキツいかしら」
栄養の行き渡り具合であるとか、遺伝子であるとか、そういうものによって変わるものであるが故、一概に日本と同じ基準では語れないのだろうが……。
「前世より高くなるのは……まあ……うん……そうですねぇ……。あっ、スープ屋着きましたよ!予約は済ませてあります、入りましょ入りましょ」
俺は半ば誤魔化すように、眼に写った「アンリのスープ屋」へ。
「そ、そうね、身長の話はこれでおしまい!さあ入りましょ!いっぱい食べて大きくなるわよ!」
「お、おー?」
店員に案内され、俺達は指定された席につく。
だんだんと冷え込んでくる今頃にちょうどよく暖かい店内で、絶品と評される具沢山のスープを口に運ぶ。
様々な動物と魔物の肉と骨、そしてたくさんの野菜を煮込んで作られているというスープは、ペイル・ラビットのような食べることができる魔物が材料に含まれていることもあって魔力リソースが速やかに回復しやすいらしく、魔法使いや聖職者は、こぞってここを魔力回復スポットとして使うのだとか。
確かに、これは動物由来と植物由来の深い旨味を引き立てる野菜の甘味と、絶妙な塩加減が全身に染み渡るようである。
これほどのクオリティである上にパンまで付いているにもかかわらず、値段は一杯で俺達が王都へ初めて訪れた際に食べたペイル・ラビットの串焼き二本分より少し高いくらいの九〇〇ネリウスである。
ネリウスの価値と日本円の価値はほぼ同等であることから、ラーメン一杯分とほぼ変わらない値段で、高級ホテル並のスープをたっぷり飲むことができると思うと、破格も良いところである。
調理を全て店主がやっているから人件費が低いとか、或いは一度にとんでもない量を作るからとか……そういうコストカットをした上で薄利多売を狙って出している値段なのだろうか、ともかくこれは現代日本にあっても行列間違い無しである。
「これは……いいわね!ご飯が美味しいでお馴染みの日本でもそうそう食べられないレベルよ」
「そうですね!これは美味いなぁ」
「魔力使いまくった日は普通に来ようかしら、ここ」
「アリですね!……ま、俺はここで補充しなきゃいけなくなるくらいリソース貯めておけないんですけど……でも、美味いだろうなぁ……魔力使いまくった後の激ウマスープ」
「間違いないわ。シャトルラン後のスポーツドリンクとか、温泉上がりの牛乳くらいヤバいわよ」
「そりゃあヤバいですねぇ」
「ふっふっふ……楽しみが一つ増えたわね」
「うっひっひ……極楽間違い無しですよ」
こういうのは、前世が現代人故にできる会話だろう。
異世界で現代の語彙を交えてのトーク、少し贅沢な気分である。
おそらくアンリという名であろう店主には、一度会ってみたいものだ。
さて、俺達はスープを堪能した後、俺はガラテヤ様に似合うものを取り扱っているであろうアクセサリーショップへと案内した。
「あら、ここは……」
「アクセサリー屋です。サプライズでも良かったんですけど、ガラテヤ様には好きなものを選んで欲しいと思って……。という訳で、何か一つ。プレゼントしますよ」
「えっ!?い、いいの!?」
「ここまで案内しといて『やっぱやーめた』なんてする訳無いじゃないですか。それに俺、ガラテヤ様専属の騎士なので……お小遣いはそこそこ貰ってるんですよ」
愛する姉であり主人であり、そして彼女でもある少女の側にずっと居る権利を与えられながら、お金も貰えてしまうとは。
愛する者の騎士、実に良い仕事である。
それに、今日は学校対抗の模擬戦で勝った分の賞金とバグラディ逮捕において大きく貢献したとのことで頂いた報酬もあるため、しばらくはお金に困ることも無い。
「そ、そう……?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
「ええ。ゆっくり選んでくださいね」
少し申し訳なさそうにアクセサリーショップへ入っていくガラテヤ様に続き、店内へ。
さほど広くはないが、店中の棚に敷き詰められるかのように飾られているアクセサリーを見回して、しかし一瞬たりとも迷うこと無く、何か気づいたかのようにガラテヤ様は真っ先にある物を手に取った。
「あっ、ジィン?ゆっくり選んでって言われた手前申し訳ないのだけれど、これにするわ!」
「いくら何でも早すぎませんか」
彼女が真っ先に指差したのは、大きな赤色の宝石が真ん中に鎮座する、金色のネックレス。
「これがいいの。後悔しないわよ?」
「わ、わかりました……じゃあ、会計してきますね」
「うん、ありがと」
俺は何が何だか分からないまま会計を済ませ、ラッピングしてもらった上でガラテヤ様に手渡す。
「お待たせしました」
「ありがとう、ジィン。折角ラッピングしてもらったところ悪いのだけど、今開けて良いかしら?」
「良いですよ」
「ありがとう。これ、首にかけると丁度良いと思ったの。青のドレスによく映えるでしょ?」
確かに、目に入りやすい赤色をワンポイントだけ使うのが、イカしたコーディネートだと聞いたことがある。
文化的背景が前世までの世界とは大きく違うため、この世界はきっと違うのだろうが……何だか、俺のためだけにオシャレしてくれようとしているようで、勝手に嬉しくなってしまった。
「……そうですね。ちょっと嬉しいです」
「あら、どうして?」
「ガラテヤ様が今日も素敵だからに決まってますよ」
「も、もう……ほら、次はどこに連れて行ってくれるの?早く行くわよ」
「茹でダコくらい顔真っ赤」
「あんまり見ないで頂戴……!次のとこに案内しなさい、早く!」
「はーい」
俺は熱くなったガラテヤ様の手を再び握って、次の目的地へ向かう。
それからは公園に行ったり、まだ行ったことのない王都の端を散策してみたりと、日が暮れるまで一緒に外を歩いて回った。
「今日は楽しかったわね」
「そう思ってもらてえているなら嬉しい限りです。俺も楽しかったですよ、ガラテヤ様」
「ええ。……ジィン、ちょっとこっち来て」
女子寮前。
しかし、ガラテヤ様は寮内へ戻ろうとせず、こちらへ手招きする。
「ん?何か付いてます……!?」
「ちゅっ」
そしてあろうことか、ガラテヤ様は女子寮前でこちらの顔を引き寄せ、唇を重ねたのである。
「……っ!?んん……!?」
ガラテヤ様の温かい舌が、口の中を伝う。
精一杯背伸びをして、さらに両手でこちらの顔を引き寄せて、ようやく届く身長差。
その幼さに似合わない、舌と舌とが絡み合うほどの熱い接吻。
数秒が数分にも数時間にも感じるような、濃密な時間。
「ん……っぷぁ」
口を離した後も、ガラテヤ様はこちらをじっと見つめて、その時はまるで時間が止まっているような感覚を覚えた。
「……あーーー、……えーーーっとぉ……。ガラテヤ様、これは」
「さっきのお返し。今日は楽しかったわ、じゃあね」
「ちょっとぉ!?ガラテヤ様!?」
走って女子寮の階段へ向かって行くガラテヤ様。
俺はその場でしばらく呆然と立ち尽くし、何が起こったのかを脳内で整理する時間が流れた。
「……もし?そこの騎士様?何を突っ立ってらっしゃるの……?」
背後から、女子寮にやってきた同級生に声をかけられ、ようやく正気に戻る。
「ハッ!あ、す、すいません、ちょっと考え事を」
「貴方、ガラテヤちゃんの騎士様でしょう?……どうしたの、喧嘩でもしたの?」
どうやら、ガラテヤ様を知っている人だったらしい。
「あ、ああ……いや、むしろその逆なんですけど……突然だったもので」
「あら!詳しく聞きたいところだけれど、今日は控えておくわね。では、ごきげんよう」
「あ、は、はあ……」
このまともに言葉も出ないというような返答。
心ここに在らずとはこのことである。
それから、俺は自室へ戻ってベッドに寝転んだ。
至近距離からこちらを見つめるガラテヤ様の顔は、恐ろしいほどに艶めかしかった。
当分、あの表情を忘れることはできないだろう。
そして今日起こったことを色々と考えたが、考えるだけ無駄だと思い、そのまま眠りについた。
俺は自覚しているよりも、ガラテヤ様を異性として愛してしまっているのかもしれない。
それから俺はガラテヤ様を見るだけで胸が高鳴るようになってしまい、落ち着くまでしばらくの時間を要することになったのであった。
俺とガラテヤ様は休日の朝、二人で街へと繰り出した。
「ガラテヤ様、今日は俺にエスコートさせて頂きます」
「ええ、お願いするわ!ジィン!」
俺はシャツとズボンにマントを羽織った平民とさして変わらない平凡な服装に対し、ガラテヤ様は青色のドレスに金色のネックレスと、すっかりオシャレしてきている。
少し大人っぽい気もするが、ガラテヤ様が「お姉さんらしさ」を精一杯表現した結果なのだろうか……と深読みしてしまうが、その意図は彼女のみぞ知ることである。
そういえば、俺とガラテヤ様の前世と現世を合わせた年齢は二人とも二十八歳であった。
しかし二人とも大人の時代を過ごしたことが無く、子供時代のみを過ごしてきたためだろうか。
その様はお互い、少し歪である。
俺も過ごしてきた時間の長さだけなら立派なおじいさんだが、大人というものを知らないが故に「こんな感じ」なのであろう。
記憶を引き継いでいるとはいえ、肉体の成長による脳構造の変化も関係するため、実際にはそうはいかないと分かっているのだが……我ながら子供っぽいとはよく思うものだ。
こんな時に、「大人」を知っておけば……ガラテヤ様をエスコートする際の振る舞いも、少しは気取ったものにできたのたろうか。
しかし、今はそんなことを気にしている場合では無い。
向こうは同じ二十八歳だと思っているのだ。
相手を楽しませる場において、自分しか知らない情報は判断基準に不要である。
俺は右手でガラテヤ様の左手をとって、そのまま少し前方を歩き始めた。
「ふふっ。すっかり大きくなったわね。貴方の方がお兄さんみたい」
「前世と合わせたら、同い年ですけどね」
「確かに。それに、私の背がまだ小さいのはあるかもしれないわね」
「でも成長期来てるんじゃないですか?こないだよりも背、伸びてると思いますよ」
「本当?前世より高くなるかしら」
「前世の身長いくつでしたっけ」
「一七〇センチくらいじゃなかったかしら」
「高一女子でそんなにあったの、今思い返してみても大きいね。……今は?」
「一四五くらい?」
「あぁ……へぇ」
「何でノーコメントなのよ」
「低そうで高そうでちょっと低いなと」
「前より伸びてもまだ低いの?」
「残念ながら……この世界の基準は知りませんけど」
十二歳の平均身長は、現代日本においては一五〇センチメートルくらいである(諸説あり)。
「このままじゃキツいかしら」
栄養の行き渡り具合であるとか、遺伝子であるとか、そういうものによって変わるものであるが故、一概に日本と同じ基準では語れないのだろうが……。
「前世より高くなるのは……まあ……うん……そうですねぇ……。あっ、スープ屋着きましたよ!予約は済ませてあります、入りましょ入りましょ」
俺は半ば誤魔化すように、眼に写った「アンリのスープ屋」へ。
「そ、そうね、身長の話はこれでおしまい!さあ入りましょ!いっぱい食べて大きくなるわよ!」
「お、おー?」
店員に案内され、俺達は指定された席につく。
だんだんと冷え込んでくる今頃にちょうどよく暖かい店内で、絶品と評される具沢山のスープを口に運ぶ。
様々な動物と魔物の肉と骨、そしてたくさんの野菜を煮込んで作られているというスープは、ペイル・ラビットのような食べることができる魔物が材料に含まれていることもあって魔力リソースが速やかに回復しやすいらしく、魔法使いや聖職者は、こぞってここを魔力回復スポットとして使うのだとか。
確かに、これは動物由来と植物由来の深い旨味を引き立てる野菜の甘味と、絶妙な塩加減が全身に染み渡るようである。
これほどのクオリティである上にパンまで付いているにもかかわらず、値段は一杯で俺達が王都へ初めて訪れた際に食べたペイル・ラビットの串焼き二本分より少し高いくらいの九〇〇ネリウスである。
ネリウスの価値と日本円の価値はほぼ同等であることから、ラーメン一杯分とほぼ変わらない値段で、高級ホテル並のスープをたっぷり飲むことができると思うと、破格も良いところである。
調理を全て店主がやっているから人件費が低いとか、或いは一度にとんでもない量を作るからとか……そういうコストカットをした上で薄利多売を狙って出している値段なのだろうか、ともかくこれは現代日本にあっても行列間違い無しである。
「これは……いいわね!ご飯が美味しいでお馴染みの日本でもそうそう食べられないレベルよ」
「そうですね!これは美味いなぁ」
「魔力使いまくった日は普通に来ようかしら、ここ」
「アリですね!……ま、俺はここで補充しなきゃいけなくなるくらいリソース貯めておけないんですけど……でも、美味いだろうなぁ……魔力使いまくった後の激ウマスープ」
「間違いないわ。シャトルラン後のスポーツドリンクとか、温泉上がりの牛乳くらいヤバいわよ」
「そりゃあヤバいですねぇ」
「ふっふっふ……楽しみが一つ増えたわね」
「うっひっひ……極楽間違い無しですよ」
こういうのは、前世が現代人故にできる会話だろう。
異世界で現代の語彙を交えてのトーク、少し贅沢な気分である。
おそらくアンリという名であろう店主には、一度会ってみたいものだ。
さて、俺達はスープを堪能した後、俺はガラテヤ様に似合うものを取り扱っているであろうアクセサリーショップへと案内した。
「あら、ここは……」
「アクセサリー屋です。サプライズでも良かったんですけど、ガラテヤ様には好きなものを選んで欲しいと思って……。という訳で、何か一つ。プレゼントしますよ」
「えっ!?い、いいの!?」
「ここまで案内しといて『やっぱやーめた』なんてする訳無いじゃないですか。それに俺、ガラテヤ様専属の騎士なので……お小遣いはそこそこ貰ってるんですよ」
愛する姉であり主人であり、そして彼女でもある少女の側にずっと居る権利を与えられながら、お金も貰えてしまうとは。
愛する者の騎士、実に良い仕事である。
それに、今日は学校対抗の模擬戦で勝った分の賞金とバグラディ逮捕において大きく貢献したとのことで頂いた報酬もあるため、しばらくはお金に困ることも無い。
「そ、そう……?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
「ええ。ゆっくり選んでくださいね」
少し申し訳なさそうにアクセサリーショップへ入っていくガラテヤ様に続き、店内へ。
さほど広くはないが、店中の棚に敷き詰められるかのように飾られているアクセサリーを見回して、しかし一瞬たりとも迷うこと無く、何か気づいたかのようにガラテヤ様は真っ先にある物を手に取った。
「あっ、ジィン?ゆっくり選んでって言われた手前申し訳ないのだけれど、これにするわ!」
「いくら何でも早すぎませんか」
彼女が真っ先に指差したのは、大きな赤色の宝石が真ん中に鎮座する、金色のネックレス。
「これがいいの。後悔しないわよ?」
「わ、わかりました……じゃあ、会計してきますね」
「うん、ありがと」
俺は何が何だか分からないまま会計を済ませ、ラッピングしてもらった上でガラテヤ様に手渡す。
「お待たせしました」
「ありがとう、ジィン。折角ラッピングしてもらったところ悪いのだけど、今開けて良いかしら?」
「良いですよ」
「ありがとう。これ、首にかけると丁度良いと思ったの。青のドレスによく映えるでしょ?」
確かに、目に入りやすい赤色をワンポイントだけ使うのが、イカしたコーディネートだと聞いたことがある。
文化的背景が前世までの世界とは大きく違うため、この世界はきっと違うのだろうが……何だか、俺のためだけにオシャレしてくれようとしているようで、勝手に嬉しくなってしまった。
「……そうですね。ちょっと嬉しいです」
「あら、どうして?」
「ガラテヤ様が今日も素敵だからに決まってますよ」
「も、もう……ほら、次はどこに連れて行ってくれるの?早く行くわよ」
「茹でダコくらい顔真っ赤」
「あんまり見ないで頂戴……!次のとこに案内しなさい、早く!」
「はーい」
俺は熱くなったガラテヤ様の手を再び握って、次の目的地へ向かう。
それからは公園に行ったり、まだ行ったことのない王都の端を散策してみたりと、日が暮れるまで一緒に外を歩いて回った。
「今日は楽しかったわね」
「そう思ってもらてえているなら嬉しい限りです。俺も楽しかったですよ、ガラテヤ様」
「ええ。……ジィン、ちょっとこっち来て」
女子寮前。
しかし、ガラテヤ様は寮内へ戻ろうとせず、こちらへ手招きする。
「ん?何か付いてます……!?」
「ちゅっ」
そしてあろうことか、ガラテヤ様は女子寮前でこちらの顔を引き寄せ、唇を重ねたのである。
「……っ!?んん……!?」
ガラテヤ様の温かい舌が、口の中を伝う。
精一杯背伸びをして、さらに両手でこちらの顔を引き寄せて、ようやく届く身長差。
その幼さに似合わない、舌と舌とが絡み合うほどの熱い接吻。
数秒が数分にも数時間にも感じるような、濃密な時間。
「ん……っぷぁ」
口を離した後も、ガラテヤ様はこちらをじっと見つめて、その時はまるで時間が止まっているような感覚を覚えた。
「……あーーー、……えーーーっとぉ……。ガラテヤ様、これは」
「さっきのお返し。今日は楽しかったわ、じゃあね」
「ちょっとぉ!?ガラテヤ様!?」
走って女子寮の階段へ向かって行くガラテヤ様。
俺はその場でしばらく呆然と立ち尽くし、何が起こったのかを脳内で整理する時間が流れた。
「……もし?そこの騎士様?何を突っ立ってらっしゃるの……?」
背後から、女子寮にやってきた同級生に声をかけられ、ようやく正気に戻る。
「ハッ!あ、す、すいません、ちょっと考え事を」
「貴方、ガラテヤちゃんの騎士様でしょう?……どうしたの、喧嘩でもしたの?」
どうやら、ガラテヤ様を知っている人だったらしい。
「あ、ああ……いや、むしろその逆なんですけど……突然だったもので」
「あら!詳しく聞きたいところだけれど、今日は控えておくわね。では、ごきげんよう」
「あ、は、はあ……」
このまともに言葉も出ないというような返答。
心ここに在らずとはこのことである。
それから、俺は自室へ戻ってベッドに寝転んだ。
至近距離からこちらを見つめるガラテヤ様の顔は、恐ろしいほどに艶めかしかった。
当分、あの表情を忘れることはできないだろう。
そして今日起こったことを色々と考えたが、考えるだけ無駄だと思い、そのまま眠りについた。
俺は自覚しているよりも、ガラテヤ様を異性として愛してしまっているのかもしれない。
それから俺はガラテヤ様を見るだけで胸が高鳴るようになってしまい、落ち着くまでしばらくの時間を要することになったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる