四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第六章 悪性胎動

第七十話 遭難

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 数時間後。

 遭難しないよう、まとまって周囲を歩き回ってみたものの……どうしたものか、この森には動物どころか、魔物さえも見当たらない。

「……とりあえず山を降りないか?平原に降りれば、通る馬車や捜索隊がいないとも限らないだろう」

「でも、山が一つだけポツンとあるとは限らなくないかしら?下手したら、事態はもっと悪化するわよ」

「どういうことだ?」

「山を降りたと思ったら、横の低い山に移動しただけだと思ったとか、山に囲まれた盆地に降りただけだとか……そういうケースよ。仮にそうだった場合、今よりもさらに奥地へ進むことになる。遭難に遭難を重ねるだけになる可能性は大いに捨てきれない……とでも言うべきかしら」

「……うむむ、そうか……難しいな」

「おいらがひとっ走り行ってこようか?おいらなら速くで移動できるから、ささっとこの辺だけ探索してすぐに戻ってこれるかも」

「いや、やめておきましょ。万が一にも迷うと危険だし。……ジィン、『探る風』で周囲の地形は調べられる?」

「すみません。俺ができるのは、『激しく動くもの』と生体反応の探知だけなんです。しかも、あんまり精度も良くない割にそこそこ魔力使うので……」

「うーん。だったらそれも却下ね……」

 遭難におけるリソースの少なさは、やはり大きな不安に繋がるものである。
 そして、それが何より行動を遅くする原因となっているのだろう。

 もう数十分は次の行動について話し続けている。

 現代日本でも怪しいというのに、この世界の辺境と思しき山では、このまま動かなくても腹が減るばかりであるのは確実。
 ジリ貧は約束されたようなものであるが……むやみに動いても、かえって事態が悪化するだけの可能性は大いに付きまとう。

 そういえば、前世のワイドショーで行楽シーズンにおける遭難対策、といったような企画をやっていたような。

「……ガラテヤ様。ちょっと良いですか」

「ん?どうしたの?」

「『飛風フェイフー』で、とにかく上まで飛んでみてくれませんか?」

「あら、何か思いついたの?」

「ええ。山頂に行けば、どこから降りられるか分かる…‥みたいなら話、あるじゃないですか。わざわざ山頂まで登らなくても、高く飛べれば同じことができるかなと思って。それに、俺よりガラテヤ様の方がリソースも多いので」

「ああ、その手があったわね。分かったわ。ちょっと行ってくる」

 そう言うと、ガラテヤ様は全身に風を纏って天高くへ飛び上がる。

「おおっ!?ガラテヤ、何を!?」

「……ガラテヤ様お姉ちゃん、すごい」

 しかし、ガラテヤ様は木々の合間を抜けようとしたところで、何故か急に向きを変えて戻ってきてしまった。

「ガラテヤ様?まだ十分な高度までは飛んでないような……何かあったんですか」

「それが……何故か、地上から一定以上の高さには飛べないようになってるみたいなの」

「何だそれは。魔法か何かか?」

「ええ。誰かが私達を妨害しているのか、或いはそういう力場が何かしらの原因で発生しているのかは分からないけれど……上に飛んだ時、山の高さに合わせて上下してるオーラ的な天井……?みたいなものが見えたのよ。それで、いざ木々の間を抜けようとしたら、弾かれるような力を感じて……事故になる前に戻ってきたの」

「つまり、現時点で下山するための道を見つける方法は、山頂に登って下を見るしか無い…‥ってことですか?」

「信じたくないけど、そうみたい」

 どうやら、状況は思っていたよりも悪いようである。

 馬車に乗っている最中、目印らしきものは特に無かった。
 故に、それを辿って下山することは不可能。

 かといって、山頂に登るには食料や寝床、加えて魔力が追いつくか心配が残る。

 さらに、この山には原因不明の「天井」となる力場が存在し、それに類する謎のギミックが他にどれだけあるか全く分からない。

 俺達のサバイバル生活は、リソースを除いて振り出しに戻ってしまったようであった。
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