四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第九章 在るべき姿の世界

第百二十三話 果てを目指して

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 一週間後。

 ジョンさんに別れの挨拶を告げた後、教会の人々に見送られながら、俺達は北の果てとされる「チミテリア山」へ向かうため、アロザラ町を出発した。

 町を離れて北へ向かうごとに、だんだんと天候が変わりやすくなっていく。
 山の天気は変わりやすいというが、北へ向かうにつれて、徐々に標高が高くなっているのだろうか。

 チミテリア山は未開の地であり、人間が住むにはあまりにも向かない、まさに果てと呼ぶに相応しい場所となっている。
 そのためか、二十一世紀からしてみればざっくりとした、この世界基準の標高でさえ判明していない。
 町を出る前にギルドへ聞いてみたが、「高くて雪が積もっている山」以上の言及は無かった。

 それからさらに五日後、俺達は王都の一般的な人間に知られている限り最北の集落である、「リース村」を訪れた。

 ここでは特に特筆すべき出来事は起こらなかったが、最後の補給と、一応の現地調査を済ませ、三日後に集落を出ることになった。

「な、長ェ……」

「長いな……」

「ん、んぃ……疲れた……」

 しかし、集落で少し休んだとはいえ、慣れない高原での長旅は、思っていたよりも疲労が溜まるらしく。

 マーズさんに加えて、過ごし難い場所での行動に慣れているはずのファーリちゃん、バグラディも、すっかり疲労困憊といった様子である。
 俺とガラテヤ様も、三人ほどでは無いが確かに疲れており、冒険者であったケーリッジ先生や元騎士のムーア先生、武器職人から販売までこなすアドラさんも、これまた俺やガラテヤ様ほどでは無いものの、元気とは言えない状態であった。

「流石に休憩した方が良いかしらね。物資さえ間に合いそうなら、今日はここで移動を止めて、明後日まで休む?」

「「「さんせーい」」」

 お疲れトップスリーが脳ミソを溶かしたような顔をしてメイラークム先生の案に猛賛成したことで、何故か体調が一番マシなメイラークム先生によって、ドクターストップが下される。

「メイラークム先生、何でそんなに元気なのだ……?」

「分からねェ……ヤクでもキメてんじゃアねェのか……」

「あら、私が元気なのは、魔法薬を使っているからよ?あと、持久力を伸ばすためのトレーニングをしているから、かしら」

「ん……?元気が出るおくすり……?」

「おいやめろチビ、その言葉の響き、革命団時代のトラウマが」

「メイラークム先生も強化人間なのか……?」

 頭が回っていないのだろうか、三人の勘違いからメイラークム先生が薬物中毒者扱いされそうになってしまっている。

「そんな訳無いでしょ。血の流れを良くする薬草と、身体が温まる薬草……それに、『バニーハニービー』の蜂蜜を混ぜた魔法薬。バニーハニービーの蜂蜜は普通の蜂蜜よりも栄養があって、とっても元気が出るのよ」

 バニーハニービー。
 一回りか二回りくらい小さなペイル・ラビットに、羽と針が生えたような見た目をしている蜂であると、家でガラテヤ様の母……もといロジーナ様から聞いたことがある。

 ユニコーンよろしく額から伸びている角はペイル・ラビットと同じだが、こちらは角に毒があるようだ。
 専門の農家こそいるものの、ある程度戦える人しかその仕事には就けないらしく、そこそこ高級品なのだとか。

「んぇ……初めて聞いた」

「それはそうね、私のオリジナルだもの。でも、これに使われてる蜜は子供とか、大人でも人によっては逆に体調が悪くなっちゃうから……使いたいなら、まずは明日少しだけ飲んでみて、体調が悪くならないか、試してみないといけないわね。やってみる?」

「お願いします、メイラークム先生!」

「オレも!このままじゃアいざという時に動けなくなっちまいそうだ!」

「おいらも」

「了解。じゃあ折角だし、明日になったら、皆でテストするように言ってみようかしら。合わない人以外には特に副作用も無いし、使えたら便利だものね」

「「「やったー」」」

 三人は心なしかシワシワになったような顔で僅かな笑みを浮かべながら、そのまま馬車の荷台から降りることもなく意識を手放してしまった。
 これでは入眠どころか気絶のような気もするが、今日はよく眠れそうであるというのは確かである。

 俺達は夕暮れを待つまでもなく馬車を止め、見晴らしの良い丘の上で焚き火を眺めながら、夜を待って寝ることにしたのであった。

 馬車に積まれているパワードスーツは、果ての環境に耐えられるのだろうかと少し心配になりながらも、俺はウトウトしているガラテヤ様に身体を寄せて眠るのであった。
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