「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜

最上 虎々

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第一章 時代遅れ

第一話 目覚めたるは俺

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 何が起きているのか、状況がまるで理解できない。

 まず、身体が自由に動かないのである。

 立とうとしても力が入らず、少し足を上げる程度が精一杯。

 腕も腰も、それどころか首も、コントロールを失っているのだ。

 そして……周りの物や人間が異様に大きい気がする。

 閉架書庫に催眠ガスでも撒かれ、巨人達の集落にでも放り込まれたのだろうか。

 そもそも日本にこんなところが存在するのだろうか?
 ……海外?

 などと考えを巡らせていると、男の巨人がよく分からない言葉を喋りかけてくる。

「パルルロ、ペロッツォ、コォールーン!サルカッカオ、プリッタ!」

 何を言っているかは分からないが、俺を可愛がっているつもりなのだろうか。
 めちゃくちゃに笑顔である。

 ……ただ、顔の真上でペチャクチャ喋らないでいただきたい。
 うわっ、唾が落ちてきた!

「あぅー!だー……ぁぇっ!?」

 俺は抗議の意を表そうとするが、なんと舌まで回らないときたものだ。

 そして、自分の声は明らかに声変わりする前……どころか、赤子のそれになっている。

 何故?

 どこぞの赤子に意識が乗り移ってしまったのか、或いは転生でもしたのだろうか。

 いずれにせよ、俺はおそらく死んだのだろうと理解するまで、そう時間はかからなかった。

 原因があるとすれば、あの車庫に有害物質が充満していたのか……いや、俺は呼吸が苦しかったり、全身が痛くて死んだ訳では無い。
 その線は薄いとみて良いだろう。

 そうでないとすれば、瞳を介して意識を引き寄せられるような、あの見慣れない本……?

 何故か読むことをやめられなかった例の本に書かれていた内容は覚えていないが、読んでいる時の高揚感は異常であったと、今になって感じる。

 そして、何か世界の根っこに触れたような……悟りというのだろうか、或いは魔境というのだろうか、そんな気もしている。

 どちらであったとしても、現に俺はあの本を読んでいた記憶を最後に、「大学生の土間明成」では無くなっている。

 そうなのだとするならば、俺の死因はおそらく、あの本を読んで何か知ってはならないことを知ってしまい、気が狂ってしまったことなのだろう。

 そして今の俺は、生きる上で支障が出ない範囲での記憶を持って、生まれ変わっていることになる。

 忘却とは都合の良いもので、保っておくべきではない記憶を消してしまうというのだ。

 死んでまで手に入れた真理は、それを手に入れた感覚しか無く、今の俺は場所も時代も理解できていない、無力な赤子。

 ……万事休すか。

 俺はただ、嫌そうな顔をして唾の雨を浴びるしか無いのかもしれない。

「サオサオ。クルルクッツァ、ケラ、ツェリオトゥアット。ツェーィン、クェルルクァッタ」

 しかし、女の巨人……もとい、母親であろう人間は、俺の表情を見て嫌そうにしていると察してくれたのか、父親であろう男を俺から引き剥がした。

 とりあえず、今は状況を確認することと、身体を慣らすこと、そして言葉を覚えることに徹するとしよう。

 幼い頃の記憶というのは、成長すると失ってしまうものである。

 大人の理性を残したまま、赤子の記憶力が使えるのかは分からないが……ここがどんな国で、どれだけ未来なのかも分からないのだ。

 自身が「土間明成」であった頃の記憶が消えない内に、覚えられることは覚えておかなければ。

 俺は、大学生の土間明成に戻ることはできないのだと覚悟を決め、まずは身体を慣らすことと、言葉を覚えることに集中するのであった。
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