「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜

最上 虎々

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第一章 時代遅れ

第四話 舞い降りる魔術師

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 山道を歩くこと二時間。

 俺は旧式の魔術に明るい「魔術師ヴェイン」の家を探して、しかし案の定、道に迷っていた。

 裏山といえば子供達の庭というイメージだが、決してそんなことは無いようだ。

 この辺りは村に近いこともあり、魔物は子供でも容易に倒せてしまうような、普通の動物に毛が生えた程度のものしか生息していない。

 しかし何の間違いか、眼を赤く光らせたグリズリーデカい熊に遭遇してしまい、何とか気付かれないように身を潜めて逃げた結果、俺は事前に用意しておいた裏山の地図……ざっくりしたものだが、それに記されていた道から逸れてしまったのだ。

 この地図は村役場、つまりは行政が発行しているものではあるのだが、どうにも裏山の道だけは地図帳よろしくざっくりであり、大きめなハイキングコース以外に書いていなかったのだ。

 そのハイキングコースを超えれば、魔術師の家がポツンと経っている集落の跡地へ辿り着いたハズなのだが……俺は今、そこに着いていない。

 山をナメていると死ぬらしいが、なるほど、こうして俺のような奴が道に迷って死にかける訳である。

「腹……減ったなぁ……」

 行く道も帰る道も分からない、絶望的な状況。

 山で遭難した時は山頂に登って方向を確認するべきであるというのは知られた話だが、あのグリズリーが、明らかに気が立った様子で暴れている様子を見てしまった以上、その山頂にさえ無事に辿り着ける自信が無い。

 そうであるにもかかわらず、ここで動かなければジリ貧であるという現実に背中を押され、俺はゆっくりと進み始めた。

 しかし、ここで救いの手が差し伸べられた。

「おいガキ!どけ!邪……」

 眼前には、丁度探していた魔術師ヴェインと思しき老人。

 昔は王都を中心に活動していた有名な魔術師だったらしく、親が現代魔杖を使って調べてくれた顔写真とも一致している。

 裏山が子供にとって危険であるということは身に染みて理解できているのだ、今は探していた魔術師に出会えたことを喜ぶとしよう。

「あっ、魔術師のヴェ……」

「【燃焼する隕石モエーロ】」

「ギャァァァァァァァァ!」

「……え」

 と思って希望を抱いた俺が馬鹿であった。

 消し炭と化したヴェインさんの背後には、箒に跨り、棒を振る白髪に赤目の少女。

「やれやれ、始末は完了じゃな。……ん?そこの小僧、こんなところで何をしておるか」

「え、え?」

 困惑。

 目の前で起きた事態が、転生した時と並ぶ程に理解できなかった。

 運の良いことに、探していた魔術師と会えたかと思った瞬間に、少女がそれを消し炭にしてしまったのだ。

「ああ、驚かせてしまったかの。すまぬ。妾の名前は『クルピア・イロア』。……『生命そのもの』を知ろうとして、下手を踏んだ……もはや人とは呼べぬ化け物よ。どうせ、今の小僧は知らぬ名前じゃろうがな」

 ……可愛い声。
 否、そんなことを言っている場合ではない。
 俺の好みド真ん中をブチ抜く容姿と声だが、それに思考を乗っ取られるべきでは無いと、俺の直感が判断した。

 俺は読み込み中の脳を叩き起こし、「生命そのもの」という単語に絞って考えを巡らせる。

 魔術師クルピア。
 本で見た名前だ。
 詳しいことは知らないが、真理を探究する中で、探究を禁じられている「生命」の真理に手を出してしまい、禁忌に触れたとして、魔術界を二〇〇年前に追放された魔術師。

 そして「下手を踏んだ」というのは、真理の一部に触れたという話だろうか。

 そして、俺同様に脳が理解を拒み、何かしらの障害が残ってしまったのだろうと、今の話を理解した。
 おそらく、二〇〇年以上も魔術師をやっている人間が、こうして少女の姿で生きていることにも、何か関係があるハズだ。

 そんな情報を、見ず知らずの子供に教えても良いのかと思ったが……俺を怖がらせてこの場から立ち去らせるために、「どうせ相手は自分の名を知らない子供だろう」と踏んで、あえて言ったのだろうか。

「は、初めまして!俺、プラティエ・ノルンっていいます!生命そのもの……って、もしかして」

 ひとまず、ここで下手なことを言ったり、喚きながら逃げたりすることは悪手と見た俺は、ご挨拶から始めてみることにした。

「おっと、口が滑ってしまったようじゃ。今の話は忘れろ。あと、妾に会ったこともな。出来ぬというなら魔術を使ってやる」

「嫌です!」

「何故じゃ?下手なことを答えれば、貴様も火傷くらいはすることになるぞ」

 俺の背筋がゾクっと震え上がり、本能的に危機感を感じたのか、全身に緊張が走る。

 それでも、俺は話さずにはいられなかった。

「……俺、知ってます。クルピアさんのこと。本で読んだだけですけど」

「ほう?今時、妾を知っているか。小僧……魔術師でも目指しておるのか?」

「はい。生命そのものって、『生命の真理』に触れたってことですよね。信じられないかもしれないですけど……俺も何かしらの真理に、触れたことがあるんです」

「…‥プッ」

 俺が話を続けようとした瞬間、辺りに大きな笑い声が響き渡った。

「そ、そんな吹き出さなくたって良いじゃないですか」

「あーっはっはっは!貴様のような小童が!?その歳で!?有り得ん有り得ん!狼にでも喰われたいのかのう、随分と変わった自殺志願者じゃあ!あーっはっはっはぁ!」

 ここまでコケにされるとは思っていなかった。
 美少女に馬鹿にされるというのも良いものだが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「……俺は、プラティエ・ノルンになる前に、別の人間として生きていた頃の記憶を持っています。魔術も加護も存在しない、科学が発達した世界で」

 しかし、俺が再び話し始めると、クルピアちゃんは一瞬で俺との距離を詰め、顔と顔とが十センチも無い程にまで迫った。

「……真か?嘘なら火傷では済まさんぞ」

 俺の胸には、既に彼女が火球を握った手が添えられている。

 魅力に負けたという話ではなく、俺は真理を目指す者として純粋に、もしこの話を彼女が信じてくれなかったとしても、俺はここで嘘をつく気にはなれなかった。

「本当です」

 俺はただ、目を合わせてそう返す。

 すると、クルピアちゃんは少し距離を離し、再び高らかに笑い始めた。

「あーっはっはっはぁ!真理に触れたのに、『何かしらの真理』と言っていたところで嘘かとばかり思っていたが……!どうやらその目。嘘はついていないようじゃな。確信がある、そんな目じゃ」

 可愛い。
 自らの判断に間違いはないという確信が出まくっている顔である。

 安心した環境で享受できるロリババア、最高である。

「信じてくれるんですか」

「まあ、勘違いという可能性は捨てんが……真理に触れたからこそ、その真理が何の真理なのか理解できなかったというのであれば、それは下手に真理が何なのかを語るよりも、むしろ妾よりも深い真実へ迫った者らしいと思ってのう」

「そういうものですか」

 どうやら、俺を認めてくれたということで良いらしい。
 かの高名な魔術師クルピアに認められるとは、何とも名誉なことだが……不思議な感覚である。

「そういうものじゃ。……なあ、小僧。名をプラティエとか言ったか」

「はい」

「其方……妾と組まぬか?」

 そして次にクルピアちゃんの口から放たれたのは、俺のフワフワとした気分を吹き飛ばす言葉だった。
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