「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜

最上 虎々

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第一章 時代遅れ

第九話 老婆は少女の夢をみる

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 大きくはない浴槽の中、クルピアちゃんと二人。

 俺も彼女も子供の身体だが、湯船の中で、艶やかな脚が俺の腰に触れるり

 眼前には肌、そして蠱惑的な表情の童顔。

 しかし、俺の理性はクルピアちゃんの家で、かつてない程の仕事をした。

 目の前にいる少女に飛ばしかけていた右手だったが、その理性が彼女の肌に触れることを許さなかったのだ。

「ストップ、ストーーーップ!」

 俺は大声を張り上げ、咄嗟に左手で右肘を上に押しやる。

「なんじゃ、まだ何もしておらんのに。もう良いのか」

「イェスロリータ!ノータッチ!ですから!」

「意地を張るでないわ、ヒヨっ子が」

 しかし俺の努力は虚しく、クルピアちゃんの右手が俺の左手を掴み……そのまま、勢いに任されるがまま、胸へと持っていかれた。

「ハッ……!?」

「ホレ、これが妾の胸じゃ。小さかろ。なる前は、もっと『ないすばでー』じゃったんだがの」

「……は」

 ただ、声にならない音を漏らすことしかできない。

 柔らかい。
 温かい。
 滑らか、艶やか。

 放心状態というやつだろうか。
 嬉しい、分からない、驚き、罪の意識、それらが混ざり合い、俺の脳は処理を諦めてしまった。

「……久しぶり、だったんじゃ。こうして妾を好いてくれる者がいたのは」

「は、はあ」

「今は何を言っても理解できんじゃろうからな、ついでに独り言を漏らしてやろう。妾は……この世界を識るために魔術を学び、真理に辿り着いた……ハズなんじゃ」

「はぇ」 

「じゃが、その後に残っていたのは……ほんの少しの実感と、魔術界からの除名通知じゃった。……あれから百年以上経って、文明は進歩しても、妾を知る者はこぞって、狂人だの愚か者だとの揶揄するばかりじゃ。じゃが、其方は違った」

「は、はい?」

「其方、妾のことを少しじゃが知っておったようじゃな。それに、魔術師くずれに堕ちた妾が、目の前で人間を排除する瞬間も見ておった。それでも、弟子なりたいと言って、ついてきて……それどころか、妾を可愛いなんて……」

「はあ、言いました、けど」

 俺に魔術を教えてくれる人で、見た目が好みだったから、というだけの理由だが……。

「いつになっても、人の心というのは変わらないようじゃ。年甲斐も無く、妾は今、目の前にいる其方のことを気に入ってしまっている。まだ会って二回目なのに、じゃぞ?……底の抜けたババアだと笑うが良いわ」

 まさか、ここまで喜ばれてしまうとは。
 何だか、心が痛くなってきてしまった。

「笑うなんて、とんでもないですよ」

「ぬぅ……。逆にやりにくいわ」

「俺だって、最初はクルピアちゃんの魔術と見た目に惚れただけですから。チョロいのは同じですよ。それに、箒の使い方を教えてもらった時のことを思い出しても、俺はクルピアちゃんが師匠で良かったと思ってます」

「や、やめろ……照れるではないか」

「ホントのことですから」

「ばかもの」

 それはそうとして。

「あのー、クルピアちゃん。流石にちょっとだけ慣れてきたので、胸の高鳴りを無視して言いたいんですけど」

「む?何じゃ?」

「そろそろ手を離してくれませんか」

「なぁっ!?ずっと掴んどったのか、妾の胸を!」

 クルピアちゃんは完全に意識していなかったのか、俺の左手を掴む自らの右手を、目を丸くして見た。

「そりゃあ手を離してくれませんでしたし」

「わ、悪かったのう。……見てくれは少女でも、ババアの身体なぞ、長く触らせて気分が良いものでも無かったじゃろうに……。さっきの妾は冷静では無かった、すまぬ」

「いえ最高でした、本当にありがとうございました」

「それはそれでどうかと思うがの」

「ホントのことですから」

 そして、クルピアちゃんはそっと俺の手を離して、浴槽から出た。

 少し気まずいような、照れくさいような、彼女が身体を洗っている間は、そんな時間が過ぎる。

 それから数分後、俺が身体を洗おうとすると。

「プラティエよ、其方はまだ小さい」

「へ?まあ、身体は子供ですけど」

「子供の身体を洗うのは、大人のやることだとは思わんかの?」

「はい?」

「ヨシ、妾が洗ってやろう」

「はぇぇ」

 クルピアちゃんは満面の笑みで、俺を浴槽へ放り込んだ時と同じような勢いを取り戻していたのだった。
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