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阿蘇灼熱ダンジョン編
灼熱ダンジョン1日目
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僕と天外天の4人が集まった。
場所は阿蘇駅。
全員ガチ装備で、すれ違う人たちが何事かとこちらを見る。
「さて、全身耐火耐熱装備で、テントもそれ専用の物を用意して、土台も僕が持ってます。だけど、まさかみんな身体強化を持っていないとは思っても見ませんでした」
「えへへ。だいたい最速でダンジョンアタックしてたから泊まったこと無かったよね」
「そうね。ダンジョンで泊まるのは初めてになるわ」
おかげで耐熱カートを改めて購入することになり、その中に、各自の食料やテント、予備の魔石を入れた。
僕が先頭で、カートを引いて進み、莉乃さんたちが後方10メートルの位置から追ってくる。
フィールドのモンスターはみんな知っているので対処も簡単。
後ろに抜けてもガチ装備の彼女たちの敵ではない。
単槍で貫かれたり、剣で斬られたりした死体がそこら中に散らばって消えていく。
「魔石はいらないの?」
「どうせ中でB級をいっぱい手に入れれますよ。3日間は篭りますからね。B級魔石を冷却装備に使えるようにする予備バッテリーがあれば、単純に考えても半月はもつはずです」
「B級ってバッテリーとしても凄いのね」
「既存の装備や装置でB級を使うことはないので、適合商品がないですけどね。この外部バッテリーも本来ならD以下の魔石をいくつも詰めて持っていく物ですし」
「使えるの?」
「使えますよ。阿蘇に来た当初、小国町で手に入れたB級魔石をいろんな物にくっつけてみたことあるんですよ。幾つか壊れましたけど、このバッテリーならB級を上手く電気変換できるみたいです。コード6本付けての使用なので、実験とは変わりますが、予備も持ってきてますので皆さんがお持ちのが使えなかったら言ってください」
「・・・準備万端だ」
「できる男ですね」
「年下の彼氏か・・・」
「ダメだよ・・・」
ボソッと女性陣が会話している。
内緒話のようで僕には聞こえづらい。
「京平くんは私のことが好きなの。だからダメ」
「おやおや? 莉乃が名前呼びした?」
「これはこれは」
「遂にダメンズ吸引機の汚名返上かな?」
「もう!」
3人が変な視線を僕に向けるので、莉乃さんに近づいた。
「何を言われたんです?」
「・・・別に、何も」
ちょっと言いづらそうに莉乃さんは顔を背ける。
3人に目を向けるとニヤニヤしていた。
・・・追求しても碌なことにはならない。
瞬時にそう感じて、僕も黙って先を歩いた。
それから火口付近になって、ファイアーバードの縄張りに入る前に一旦休憩を挟む。
「ここからは僕一人で先に進みます。安全が確認できたら呼びますので、インカムをオンにしてください」
「分かったわ、京平くん」
「入れたよ、京平さん」
「バッチリよ、京平くん」
「もう!」
完全に3人は弄り態勢だ。
まあ、真面目にする時はしてくれるだろう。
僕はなるべく表情を変えずに前を向く。
「嫌われたらどうするの! 怒るよ!」
「はいはい。もうやめておきますよ」
「まだ大丈夫そうだけど、ここからは緊張も必要だしね」
「莉乃が幸せになるなら問題なし」
声がバッチリ僕に聞こえてくる。
僕はカートを莉乃さんに預けて、頬がヒクヒクと動くのを悟られないように、急いで10メートル確保した。
「それじゃ、スキルを使います」
僕は合図してスキルを展開すると、早速突っ込んできたファイアーバードをヒラリと避けた。
そいつは地面と激突し、起き上がることもできずに僕に踏み潰される。
更に2羽が突進してきて地面に突き刺さった。
本来なら、僕が避けたら再度飛び上がって再突進するのだろうが、僕のスキルがそれを許さない。
中には炎の槍を撃ってくる個体もいるが、遠くから撃ってくるので余裕で避けることができる。
そんなこんなで、足元にはB級魔石が多数転がった。
「び・・・B級がこんなにあっさり」
「炎の槍と強襲にどれだけ苦しめられたことか」
「ちょっと・・・凹ませて」
「流石京平くん・・・私もちょっと凹む」
何だか変なダメージを莉乃さんたちが負っているようだが、本番前にそれはやめてほしい。
周囲の安全を確保しながら、僕はファイアーバードを踏み潰して進み、目的の場所に辿り着いた。
途中、ファイアーバードの標的が莉乃さんたちに移ったため、進路を何度か変更したが、それなりにスムーズに進めたと思う。
「ここが火口ポータルですね」
「・・・B級魔石がこんなに!」
「二人分の借金が返せる」
「ちょっと現実逃避するね。直受け入れは無理」
「まあ、京平くんだからってことにしようか」
状況確認を各々行っているようだが、全て後回しでお願いしたい。
一時的にファイアーバードを殲滅してはいるが、いつまた生み出されるか僕にもわからないのだから。
「みなさん、入る前にフェイスシールドと冷却装置を起動させてください。入ってすぐ熱風が来ますよ」
僕らの姿は、ぱっと見フェンシングの選手のようになっていて、視界がそれなりに狭まるが、そこはお互いの連携が重要になってくる。
「みんなで入ります。入ってすぐ、安全のために僕がスキルを展開しますが、みなさんを抱き止めるので安心して入ってきてください」
「包容力(物理)」
「年下彼氏の背伸び」
「肉体派男子」
「私が京平くんの次に入るからね!」
「「「ハイハイ」」」
僕は莉乃さんが持ってきた荷物を持って、躊躇いなくポータルに飛び込む。
視界が切り替わったのと同時にスキルを展開して、続いて飛び込んできた莉乃さんたちを受け止めた。
「モンスターはいないようですね。スキルを一旦切ります」
「ふー。体力が一気になくなるって、やっぱりきついわね」
一番最後に飛び込んだ高城さんが後方を確認した。
「今のところ私の敵意感知には反応がないわね」
「私の方もないわ。罠感知と危険回避も反応なし」
「モンスターが感知系のスキルを持っている可能性もあるから、植木ちゃんの魔法はまだ温存しましょう」
「遠距離攻撃できるから、瀬尾くんがスキル展開しててもイケるよ」
地属性の魔法持ちで無言発動のスキル持ち。
地面があればほぼ無敵なため、天外天の二つ名持ち二人のうちの一人、地帝の植木さん。
狭いダンジョンほど真価を発揮する地魔法のスペシャリストだと後で聞いた。
3級で二つ名がつくのは優秀な証なのだと。
まずは僕が先行して歩き、次に莉乃さんと植木さんが続き、高城さんと麻生さんが後ろを警戒して進む。
「なんか居る」
莉乃さんの言葉に、僕だけが進んで10メートル距離を開けてスキルを展開する。
ボトボトっと僕の目の前に火を纏った蝙蝠が落ちてきた。
「火を纏っているのに視認できませんでしたね」
「敵意感知が有効だね」
僕が持ってないスキルなので手に入れたいが、ソロで活動していると生命力吸収を常に展開しているので本当に欲しいものなのか悩む。
「このまま進みます」
2羽を踏み潰して先を進む。
「私たちの月収超えた?」
「もうちょっとだね」
「まだ入って2分経ってないよ?」
「3日居るとか・・・あれ? 私勝ち組?」
目の前にカバのモンスターが倒れていたので踏み潰す。
耐火ブーツを買ってて正解だった。
「はい、A級魔石です。小ぶりですけどね。大猪ほどはないです」
スモモぐらいの大きさの魔石を拾って莉乃さんに放り投げ、周囲を警戒する。
「うぉぉぉ! なんて雑な扱い!」
「え? いくらだっけ?」
「知らない。換金したことも見たこともない」
「私たち何もしてないよ・・・」
生き物に関しては必殺なスキルなため、彼女たちの出番がない。
でも、この灼熱地獄には奴らが居る。
「精霊です。植木さんお願いします」
「任せて!」
地面から巨大な棘が何本も突き出て火の精霊に襲いかかる。
火の精霊はその攻撃に戸惑うが、全て避けて植木さんを睨んだ。
その隙を僕は見逃さず、ベルゼブブの籠手でぶん殴る。
手加減なんかしない。
身体強化を使ってフルスイングで殴りつけ、最後は植木さんが作った棘に掴んでブッ刺した。
「やっぱり、ベルゼブブの籠手は耐火耐熱がありますね。スキルとしてついていませんが、熱くもなんともない」
「直接殴れるのは凄いね。精霊って物理無効な存在のはずだし」
「存在としての格の違いですかね?」
四大精霊には銃はもちろん、剣槍弓は全く通用しない。
斬られてもくっつくだけの自然物だ。
そんな存在を僕は殴れた。
「つまり、精霊を倒したかったら、魔法を覚えるか魔法武器を手に入れるか蝿の王クラスの受肉モンスターを倒して素材を手に入れるしかないと」
「何その無理ゲー」
「鬼だね、鬼」
「私、魔法使えるもんね」
「私も相性のいい魔法欲しいな」
僕も魔法は欲しい。
精霊の魔石を取って莉乃さんに優しく投げる。
「B級が普通に見えてきた」
「莉乃、常識を忘れちゃダメよ」
「やばいよあの子。ダメ女メイカーだよ」
「何でも買ってあげるよ的な?」
一般常識はしっかり持っている方だと僕は思う。
ブランド物とか買わないし、買い物も滅多にしない。
「ホテル住まいだから、物を買う必要がないだけでしょ」
高城さんからの厳しい指摘に、僕は言い返すことができなかった。
「これを3日間続けたら、カートに入らなくなるんじゃない?」
「捨てればいいだけですよ」
「B級魔石を捨てる!?」
僕の言葉に、みんなカートの魔石を見る。
「各国が欲しがるB級魔石を?」
「飛行機が使えるようになる魔石を?」
「フルダイブヒャッホーの魔石を?」
「捨てちゃうの?」
「・・・だって、持てないでしょ? 捨てますよ。レアでも何でもないですし」
みんなが止まってしまった。
こういう時にモンスターが来ると怖いので早く再起動してもらいたい。
「B級なんて、このダンジョンにはうじゃうじゃ居るんですから。早く慣れてください」
普通に狩殺せるモンスターから出る物に価値なんてない。
必要分を手に入れたら後は捨てるだけだ。
「まずは広場を目指しましょう。1日目はそこを拠点にして探索し、2日目は場所を変えます。3日目の昼にはダンジョンから出て一度戻ります」
僕の言葉に4人は黙って頷いた。
それからは基本作業で進んでいく。
ダンジョン中で採掘なんか意味ないし、特別なアイテムもフィールドのアレ以外は落とさないようだ。
ファイアゴーレムや精霊が出たらスキルを切ってみんなで戦闘して倒す。
莉乃さんと高城さんの敵意感知でモンスターがいるか把握できるので、生命力吸収も状況に応じてオンオフをするようにした。
「そろそろ時間ですね。広場に戻って部屋作りと食事にしましょう」
「了解よ」
「うう、トイレ行きたいかも」
「部屋の裏に幕を張りますから、それまで待っててください。トイレットペーパーも持ってきてますから」
「神!」
それから土台を作って地面から床を浮かせ、その上に大人数が入れる耐火耐熱テントを張った。
「安全地帯でもあればいいんですが、ゲームのダンジョンとはそこが違いますね」
「24時間全方位危険地帯だもんね。誰かが起きていないと」
「3交代か2交代がベストでしょうね。モンスターが出てくることを考えると、一回の睡眠で満足に寝ることはできないと思います」
「途中で起きることになるでしょうね。短時間睡眠で集中力がなくなるのも問題よ」
「基本は僕が起きてスキルを展開しましょう。生命力が吸収されるので熟睡はできないと思いますが、休むことはできるはずです。僕自身もその状態で休憩ができますので体力がなくなることはありません。ただ、ゴーレムと精霊が出たらみなさんを呼びますので」
「それで十分よ」
「じゃあ3交代かな。京平くんが単独で、私と麻生ちゃん、高城ちゃんと植木ちゃん」
「敵意感知を持ってるから、それがベストね。それじゃ、食事にしましょうか」
僕らは各々のリュックから携帯食と水筒を取り出してフェイスガードを上げた。
強烈な熱風が顔を襲う。
「ごあああああ! 熱い!」
「入る前にガードを下げてたから気づかなかったけど、こんなに熱いのね」
「こんな中に3分もいたの!?」
「一回入って出て、しばらく悩みましたよ。でも、ちょっとだけでも中の様子が知りたかったので頑張りました」
それからはフェイスガードを上げ下げしながら食事を済ませ、トイレを各々してから僕以外の4人がテントの中で横になった。
スキルを展開したため、満足に寝れるかは分からないが、休憩出来ないよりマシだろう。
こうして、僕と天外天の灼熱ダンジョンでの1日目が終了した。
場所は阿蘇駅。
全員ガチ装備で、すれ違う人たちが何事かとこちらを見る。
「さて、全身耐火耐熱装備で、テントもそれ専用の物を用意して、土台も僕が持ってます。だけど、まさかみんな身体強化を持っていないとは思っても見ませんでした」
「えへへ。だいたい最速でダンジョンアタックしてたから泊まったこと無かったよね」
「そうね。ダンジョンで泊まるのは初めてになるわ」
おかげで耐熱カートを改めて購入することになり、その中に、各自の食料やテント、予備の魔石を入れた。
僕が先頭で、カートを引いて進み、莉乃さんたちが後方10メートルの位置から追ってくる。
フィールドのモンスターはみんな知っているので対処も簡単。
後ろに抜けてもガチ装備の彼女たちの敵ではない。
単槍で貫かれたり、剣で斬られたりした死体がそこら中に散らばって消えていく。
「魔石はいらないの?」
「どうせ中でB級をいっぱい手に入れれますよ。3日間は篭りますからね。B級魔石を冷却装備に使えるようにする予備バッテリーがあれば、単純に考えても半月はもつはずです」
「B級ってバッテリーとしても凄いのね」
「既存の装備や装置でB級を使うことはないので、適合商品がないですけどね。この外部バッテリーも本来ならD以下の魔石をいくつも詰めて持っていく物ですし」
「使えるの?」
「使えますよ。阿蘇に来た当初、小国町で手に入れたB級魔石をいろんな物にくっつけてみたことあるんですよ。幾つか壊れましたけど、このバッテリーならB級を上手く電気変換できるみたいです。コード6本付けての使用なので、実験とは変わりますが、予備も持ってきてますので皆さんがお持ちのが使えなかったら言ってください」
「・・・準備万端だ」
「できる男ですね」
「年下の彼氏か・・・」
「ダメだよ・・・」
ボソッと女性陣が会話している。
内緒話のようで僕には聞こえづらい。
「京平くんは私のことが好きなの。だからダメ」
「おやおや? 莉乃が名前呼びした?」
「これはこれは」
「遂にダメンズ吸引機の汚名返上かな?」
「もう!」
3人が変な視線を僕に向けるので、莉乃さんに近づいた。
「何を言われたんです?」
「・・・別に、何も」
ちょっと言いづらそうに莉乃さんは顔を背ける。
3人に目を向けるとニヤニヤしていた。
・・・追求しても碌なことにはならない。
瞬時にそう感じて、僕も黙って先を歩いた。
それから火口付近になって、ファイアーバードの縄張りに入る前に一旦休憩を挟む。
「ここからは僕一人で先に進みます。安全が確認できたら呼びますので、インカムをオンにしてください」
「分かったわ、京平くん」
「入れたよ、京平さん」
「バッチリよ、京平くん」
「もう!」
完全に3人は弄り態勢だ。
まあ、真面目にする時はしてくれるだろう。
僕はなるべく表情を変えずに前を向く。
「嫌われたらどうするの! 怒るよ!」
「はいはい。もうやめておきますよ」
「まだ大丈夫そうだけど、ここからは緊張も必要だしね」
「莉乃が幸せになるなら問題なし」
声がバッチリ僕に聞こえてくる。
僕はカートを莉乃さんに預けて、頬がヒクヒクと動くのを悟られないように、急いで10メートル確保した。
「それじゃ、スキルを使います」
僕は合図してスキルを展開すると、早速突っ込んできたファイアーバードをヒラリと避けた。
そいつは地面と激突し、起き上がることもできずに僕に踏み潰される。
更に2羽が突進してきて地面に突き刺さった。
本来なら、僕が避けたら再度飛び上がって再突進するのだろうが、僕のスキルがそれを許さない。
中には炎の槍を撃ってくる個体もいるが、遠くから撃ってくるので余裕で避けることができる。
そんなこんなで、足元にはB級魔石が多数転がった。
「び・・・B級がこんなにあっさり」
「炎の槍と強襲にどれだけ苦しめられたことか」
「ちょっと・・・凹ませて」
「流石京平くん・・・私もちょっと凹む」
何だか変なダメージを莉乃さんたちが負っているようだが、本番前にそれはやめてほしい。
周囲の安全を確保しながら、僕はファイアーバードを踏み潰して進み、目的の場所に辿り着いた。
途中、ファイアーバードの標的が莉乃さんたちに移ったため、進路を何度か変更したが、それなりにスムーズに進めたと思う。
「ここが火口ポータルですね」
「・・・B級魔石がこんなに!」
「二人分の借金が返せる」
「ちょっと現実逃避するね。直受け入れは無理」
「まあ、京平くんだからってことにしようか」
状況確認を各々行っているようだが、全て後回しでお願いしたい。
一時的にファイアーバードを殲滅してはいるが、いつまた生み出されるか僕にもわからないのだから。
「みなさん、入る前にフェイスシールドと冷却装置を起動させてください。入ってすぐ熱風が来ますよ」
僕らの姿は、ぱっと見フェンシングの選手のようになっていて、視界がそれなりに狭まるが、そこはお互いの連携が重要になってくる。
「みんなで入ります。入ってすぐ、安全のために僕がスキルを展開しますが、みなさんを抱き止めるので安心して入ってきてください」
「包容力(物理)」
「年下彼氏の背伸び」
「肉体派男子」
「私が京平くんの次に入るからね!」
「「「ハイハイ」」」
僕は莉乃さんが持ってきた荷物を持って、躊躇いなくポータルに飛び込む。
視界が切り替わったのと同時にスキルを展開して、続いて飛び込んできた莉乃さんたちを受け止めた。
「モンスターはいないようですね。スキルを一旦切ります」
「ふー。体力が一気になくなるって、やっぱりきついわね」
一番最後に飛び込んだ高城さんが後方を確認した。
「今のところ私の敵意感知には反応がないわね」
「私の方もないわ。罠感知と危険回避も反応なし」
「モンスターが感知系のスキルを持っている可能性もあるから、植木ちゃんの魔法はまだ温存しましょう」
「遠距離攻撃できるから、瀬尾くんがスキル展開しててもイケるよ」
地属性の魔法持ちで無言発動のスキル持ち。
地面があればほぼ無敵なため、天外天の二つ名持ち二人のうちの一人、地帝の植木さん。
狭いダンジョンほど真価を発揮する地魔法のスペシャリストだと後で聞いた。
3級で二つ名がつくのは優秀な証なのだと。
まずは僕が先行して歩き、次に莉乃さんと植木さんが続き、高城さんと麻生さんが後ろを警戒して進む。
「なんか居る」
莉乃さんの言葉に、僕だけが進んで10メートル距離を開けてスキルを展開する。
ボトボトっと僕の目の前に火を纏った蝙蝠が落ちてきた。
「火を纏っているのに視認できませんでしたね」
「敵意感知が有効だね」
僕が持ってないスキルなので手に入れたいが、ソロで活動していると生命力吸収を常に展開しているので本当に欲しいものなのか悩む。
「このまま進みます」
2羽を踏み潰して先を進む。
「私たちの月収超えた?」
「もうちょっとだね」
「まだ入って2分経ってないよ?」
「3日居るとか・・・あれ? 私勝ち組?」
目の前にカバのモンスターが倒れていたので踏み潰す。
耐火ブーツを買ってて正解だった。
「はい、A級魔石です。小ぶりですけどね。大猪ほどはないです」
スモモぐらいの大きさの魔石を拾って莉乃さんに放り投げ、周囲を警戒する。
「うぉぉぉ! なんて雑な扱い!」
「え? いくらだっけ?」
「知らない。換金したことも見たこともない」
「私たち何もしてないよ・・・」
生き物に関しては必殺なスキルなため、彼女たちの出番がない。
でも、この灼熱地獄には奴らが居る。
「精霊です。植木さんお願いします」
「任せて!」
地面から巨大な棘が何本も突き出て火の精霊に襲いかかる。
火の精霊はその攻撃に戸惑うが、全て避けて植木さんを睨んだ。
その隙を僕は見逃さず、ベルゼブブの籠手でぶん殴る。
手加減なんかしない。
身体強化を使ってフルスイングで殴りつけ、最後は植木さんが作った棘に掴んでブッ刺した。
「やっぱり、ベルゼブブの籠手は耐火耐熱がありますね。スキルとしてついていませんが、熱くもなんともない」
「直接殴れるのは凄いね。精霊って物理無効な存在のはずだし」
「存在としての格の違いですかね?」
四大精霊には銃はもちろん、剣槍弓は全く通用しない。
斬られてもくっつくだけの自然物だ。
そんな存在を僕は殴れた。
「つまり、精霊を倒したかったら、魔法を覚えるか魔法武器を手に入れるか蝿の王クラスの受肉モンスターを倒して素材を手に入れるしかないと」
「何その無理ゲー」
「鬼だね、鬼」
「私、魔法使えるもんね」
「私も相性のいい魔法欲しいな」
僕も魔法は欲しい。
精霊の魔石を取って莉乃さんに優しく投げる。
「B級が普通に見えてきた」
「莉乃、常識を忘れちゃダメよ」
「やばいよあの子。ダメ女メイカーだよ」
「何でも買ってあげるよ的な?」
一般常識はしっかり持っている方だと僕は思う。
ブランド物とか買わないし、買い物も滅多にしない。
「ホテル住まいだから、物を買う必要がないだけでしょ」
高城さんからの厳しい指摘に、僕は言い返すことができなかった。
「これを3日間続けたら、カートに入らなくなるんじゃない?」
「捨てればいいだけですよ」
「B級魔石を捨てる!?」
僕の言葉に、みんなカートの魔石を見る。
「各国が欲しがるB級魔石を?」
「飛行機が使えるようになる魔石を?」
「フルダイブヒャッホーの魔石を?」
「捨てちゃうの?」
「・・・だって、持てないでしょ? 捨てますよ。レアでも何でもないですし」
みんなが止まってしまった。
こういう時にモンスターが来ると怖いので早く再起動してもらいたい。
「B級なんて、このダンジョンにはうじゃうじゃ居るんですから。早く慣れてください」
普通に狩殺せるモンスターから出る物に価値なんてない。
必要分を手に入れたら後は捨てるだけだ。
「まずは広場を目指しましょう。1日目はそこを拠点にして探索し、2日目は場所を変えます。3日目の昼にはダンジョンから出て一度戻ります」
僕の言葉に4人は黙って頷いた。
それからは基本作業で進んでいく。
ダンジョン中で採掘なんか意味ないし、特別なアイテムもフィールドのアレ以外は落とさないようだ。
ファイアゴーレムや精霊が出たらスキルを切ってみんなで戦闘して倒す。
莉乃さんと高城さんの敵意感知でモンスターがいるか把握できるので、生命力吸収も状況に応じてオンオフをするようにした。
「そろそろ時間ですね。広場に戻って部屋作りと食事にしましょう」
「了解よ」
「うう、トイレ行きたいかも」
「部屋の裏に幕を張りますから、それまで待っててください。トイレットペーパーも持ってきてますから」
「神!」
それから土台を作って地面から床を浮かせ、その上に大人数が入れる耐火耐熱テントを張った。
「安全地帯でもあればいいんですが、ゲームのダンジョンとはそこが違いますね」
「24時間全方位危険地帯だもんね。誰かが起きていないと」
「3交代か2交代がベストでしょうね。モンスターが出てくることを考えると、一回の睡眠で満足に寝ることはできないと思います」
「途中で起きることになるでしょうね。短時間睡眠で集中力がなくなるのも問題よ」
「基本は僕が起きてスキルを展開しましょう。生命力が吸収されるので熟睡はできないと思いますが、休むことはできるはずです。僕自身もその状態で休憩ができますので体力がなくなることはありません。ただ、ゴーレムと精霊が出たらみなさんを呼びますので」
「それで十分よ」
「じゃあ3交代かな。京平くんが単独で、私と麻生ちゃん、高城ちゃんと植木ちゃん」
「敵意感知を持ってるから、それがベストね。それじゃ、食事にしましょうか」
僕らは各々のリュックから携帯食と水筒を取り出してフェイスガードを上げた。
強烈な熱風が顔を襲う。
「ごあああああ! 熱い!」
「入る前にガードを下げてたから気づかなかったけど、こんなに熱いのね」
「こんな中に3分もいたの!?」
「一回入って出て、しばらく悩みましたよ。でも、ちょっとだけでも中の様子が知りたかったので頑張りました」
それからはフェイスガードを上げ下げしながら食事を済ませ、トイレを各々してから僕以外の4人がテントの中で横になった。
スキルを展開したため、満足に寝れるかは分からないが、休憩出来ないよりマシだろう。
こうして、僕と天外天の灼熱ダンジョンでの1日目が終了した。
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