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阿蘇灼熱ダンジョン編

灼熱ダンジョン2日目

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2日目の朝を迎えた。
朝日は上らない場所で全く変わらない景色だが、時間の管理をしっかりしておかないと体調や感覚が狂ってしまうため必ず起きる。

「みなさん、朝6時です。起きる準備をしましょう」

冷却装備を着たまま寝ている4人に声をかけていく。
結局、交代しながら寝ても途中途中でモンスターが来て起こされてを繰り返したため、満足に寝れたのは1時間もなく後は途切れ途切れに半覚醒状態で横になっていただけだった。

「うがぁぁ、眠い」
「ダンジョンに泊まるってこういう事なのね。初体験よ」
「りーの、起きなさい。瀬尾くんが見てるよ」
「あ・・・ぐ、ぐぅぅぅぅ」

野営に慣れていないので、こういうのも初体験なのだろう。
天外天は3級として実力もあるのだが、異界ダンジョンなんかは行ってないのだろうか?
あのてのダンジョンは必ず野営をするはずなのだが。

「時間をかけて起きましょう。ほぼ床に寝たような状態ですので、体も硬くなっていると思います。関節を伸ばしながら整えていくといいですよ」

入念にストレッチをしながら、僕は他の人たちの冷却装備のバッテリーを確認していく。
僕のは2日ぐらい保つと説明書に書いてあったが、余裕を見て今日の昼には交換するつもりだ。

「みなさんのバッテリーはいつなくなるとか説明書に書いてありましたか?」
「1.5日で交換を推奨って書いてあったわ。どうしよう。いっそB級に変えておくのもありかもしれない」

高城さんと相談して、天外天のメンバーのバッテリーは外接の物に取り替えることになった。
それから朝食を摂って、テントと土台を解体してカートに入れる。

「それでは次の広場に行きましょう」

初めてのダンジョンなので、マップもモンスターの分布図も全くない。
何が起きてもおかしくないので、慎重に移動を開始する。
移動中に火鼠が6匹出てきたが、範囲内に入ったらあっさりと倒れたので踏み殺した。
加重も朝から継続使用しているため、重さがとんでもないことになっているみたいで、地面にヒビが入っている。
ベルゼブブの籠手を装備しているので僕の体には影響ないが、持っていたら自分の攻撃の衝撃で骨折してもおかしくない威力だ。

「あの足の攻撃って加重だったよね?」
「うーん、私の知っている加重じゃないけど、加重ね」
「京平くんに聞いたことあるけど、下への攻撃にしか効果が発揮されないらしいよ。乗り物に乗る時は必ず解除してるんだって」

まだ、スキルの適合性のことは発表してないのかな?
そのまま広場に到着するとそこにジャイアントファイアゴーレムがいた。
しかも普通のファイアゴーレムも3体いる。

「どうしましょうか・・・」

生命力吸収が効かないから、僕に発言権はない。
この場は天外天の案に任せるのが一番だ。

「私としては、瀬尾くんの加重が十分ジャイアントに通用すると思う」
「でも、動き回っているからクリーンヒットはできないと思うの」
「私の地魔法で行動を阻害することはできるかな。暴れられたら力負けすると思うけど」
「でも、それは邪魔がいなければの話よね。普通のやつが邪魔になるわ」
「私たち4人ならデカいのを止めれるよね?」

4人が顔だけ出して部屋を覗く。

「・・・東田みたいなタンクなら余裕なんだろうな」
「全力で避け続けるしかないね」
「私の韋駄天と高城ちゃんの残像か」
「ゴーレムに残像が効くかどうか・・・やるしかないけど。ってことで瀬尾くん」
「はい」
「でかいのは引き付けておくから、全部踏み潰して。よろしく」

単純明快な指示に、僕は頷いて駆け足の体勢をとった。

「それじゃ・・・GO!」

高城さんの合図と共に、僕らは一気に飛び出す。

「まずは私よ!」

モンスターの足元に無数の棘が飛び出して行動を阻害した。
一瞬モンスターの行動ができなくなるが、ジャイアンは力任せに棘を蹴り折る。
ノーマルサイズも折って出ようとするが、その前に僕は身体強化で飛び上がって、1体目を踏み潰した。
とてつもない音がして、ゴーレムの頭と胸が砕け散る。
続いて2体目を見ると、既に半身を棘の囲いから出していた。
すぐさま2体目の頭に跳び移って、加重の重さで床に倒し、再度跳び上がり踏み潰す。

「3体目!」

目を向けると3体目は麻生さんを狙っていた。
麻生さんは剣で攻撃を担うアタッカーだが、それ以上に重要な役割が一つある。
それは味方に対する速度上昇付与というバッファーの役割だ。
莉乃さんの韋駄天は十分高速を出せるが、他の人たちはその速度に追いつくことができず連携が難しい。
その差を埋める役割が彼女なのだ。

「させるか! うぉ!」

ジャイアントが腕を回して風を起こす。
跳び上がれば風を受けて押し戻されるため、走って3体目に駆け寄った。

「きゃっ!」
「おっと! 危ない危ない」

麻生さんを掴もうとした手を僕が掴み、力を込めてその体を持ち上げた。

「身体強化を使ってもこんなに重いのかよ!」

頭上に持ち上げたそれを放り投げ、風がおさまったタイミングで高く跳び踏み潰す。

「麻生さん、すみません。近寄らせてしまいました」
「大丈夫。助けてくれてありがと」
「それじゃ、後はジャイアントだけですね!」

莉乃さんと高城さんが接近戦で攻撃し、植木さんが魔法をジャイアントファイアゴーレムに放っているが、全くと言っていいほど効いていない。

「カバ擬きとは大違いだな。これがA級と戦うってことか」

手始めに、僕の身長の3倍はあるゴーレムの左足の甲を思いっきり踏む。
ビキッ! と大きな音を立ててヒビが入った。
二足歩行を倒す上で最も効果にある場所。
足を壊せば、こいつは動くことができなくなる。

「おっと!」

ジャイアントの拳が僕の横を通り過ぎる。

「麻生ちゃん! 京平くんにもバフ!」
「分かってる!」

僕の体を青い光が包んで動きが軽やかになった気がした。

「気をつけて! 1.5倍速だよ!」
「ありがとうございます!」

ジャイアントの攻撃を避けながら少しずつ距離を開けると、ジャイアントがその差を詰めようと足を踏み出す。
ビキビキっとヒビが大きくなる音がした。

「右足も行きます!」
「無茶はしないで!」

莉乃さんと高城さんにジャイアントの注意が向いている隙を狙って、右足を狙って跳び上がると、その右足が突然移動した。
完全に僕の行動が予測され、跳ぶ瞬間を狙われてしまった!
次に来る蹴りに備えるべく、僕はベルゼブブの籠手でガード体勢を空中でとるが、それは襲いかかってこなかった。

「魔法の効果が上手く出ない! もっと深い穴にするつもりだったのに!」

ジャイアントの左足が突然できた穴にはまっていて、体勢を崩している。
これ幸いと、僕はすぐさまジャイアントに駆け寄り、右足の甲を踏みつけた。
左足にヒビよりも大きな亀裂が入って、ジャイアントが体勢を戻そうと右足に力を入れた瞬間、バキバキっと音を立てて完全に割れた。
そうなるとジャイアントは体重を足にうまくかけることができずに、前傾姿勢のままゆっくりと倒れだす。
僕は倒れるジャイアントの足から背に乗って何度も踏みつけた。
おそらく、僕の加重はこのジャイアントファイアゴーレムと同等以上の重さになっているはずだ。

「腕は封じたわ! やっちゃって!」

僕からはわからないが、植木さんが何かをしたらしい。
最高の重さを与えるべく、僕は高く跳んで、手加減なく思いっきりジャイアントの背を踏み潰した。

ベキバキと大きな音を立ててジャイアントファイアゴーレムの体が上下に分かれて、紫の光になって消えていく。

「や・・・やった・・・」
「よかった・・・やっぱりA級はきつい」
「攻撃が全然通らなかった」
「魔法も上手く発動しなかった。干渉されてたのかな」

それぞれが気づいたことや感じたことをその場で共有し始める。
僕は足元にあったそれを掴んで持ち上げた。

「A級の魔石」
「「「「!」」」」
「忘れてましたね」

4人とも僕から目を逸らした。

「えっと、いくらになるのかな?」

あからさまな話題逸らしだが、ここは乗ってあげよう。

「前回の噴火の際に出た物は、国が一つ13億で買ったらしいですよ」
「じゅ! 13億!!」
「え? え? 金持ちになっちゃう? 私たちもう勝ち組決定?」
「借金全部返せる。家もいい場所で買えるかも」
「私は、いい武器でも買おうかな・・・」

それぞれ夢が頭の中を駆け巡っているようだが、莉乃さんだけは、お金よりもアイテムの方が欲しいみたいだ。

「僕も魔法系のアイテムが欲しいですね。とりあえず、ここにテントを張りましょう。魔石はもう十分でしょうから、当初の宝箱探しをして・・・敵は避ける流れで行きましょうか」

僕の提案に、4人は何度も頷き、軽やかなステップで土台を作り始めた。
僕はリンゴぐらいの大きさの魔石をカートに入れて床の材料を持っていく。

「京平くん、ありがとうね」
「宝箱至上主義なんでしょ? みなさんが辞めるまで探しましょう」
「うん・・・」

テントを張って、少し休憩をとり、僕の冷却装備の魔石を交換して、ここをベースにして短時間で探索できる場所を午後は探した。
あまり離れすぎると、テントがダンジョンに吸収されかねないため、定期的に触っておかないといけないのだ。
モンスターとはなるべく戦わない方向で行動し、コウモリや鼠や蜥蜴など、どうしても襲いかかってくるものだけは僕が踏み潰した。

結局、この日も宝箱を見つけることはできずに、魔石だけがカートを埋めることになった。
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