月曜日の巫女

桜居かのん

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月曜日の憂鬱12

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「・・・・・・あの黒いのが広がるとまずいんですよね?」


「はい」


「それを押さえるのに藤原の力が必要で、それを私が助力出来るんですね」


「・・・・・・・はい」


「それって、痛かったり、怖かったりします?」


「えっ?」


私はいたって大まじめに聞いた。
悪いけど痛いとか怖いとかならやっぱり嫌だ。
少しくらいなら我慢しなくもないけど。
それに生贄にしたいことか言われても困る。

葛木先生は驚いた顔をしていたが、急にぷっと吹き出した。
私は思わず、酷い、と頬を膨らませた。


「すみません。

そうですね、別に痛いとかではありませんが、あなたの霊力を使う分疲れはするかと。

もちろん生贄なんて思っていないから」


あ、考えていたことが見抜かれていた。


「また私倒れるんですか?」


「そんな事はさせません」


まっすぐな目で言い切られた。


「わかりました。

どうすれば良いんですか?」


私はため息混じりに返事をした。
おそらく時間が延びれば延びるほど邪気を祓うのは大変になることぐらいはわかる。


「ありがとうございます。

あなたには、単に光明に頑張って欲しいと祈ってくれたらそれで良いんです」


「えっ?他には?」


「それだけですよ?」


私はぽかんとした。
こう、もっと何か大変な事をするのかと思っていた。
そんなので良いのだろうか。


「後で説明しますから。

まずはお願い出来ますか?」


「わかりました。

後できちんと、沢山、説明して下さいね?」


私のたたみ掛けるような念押しに、先生は笑った。


「特に作法とかないんですね?

勝手にやっちゃっていいんですね?」


「えぇ。東雲さんの好きなように」


穏やかに返され、私はまた丘の方を向く。
双眼鏡が無いから藤原の身体すら認識できない。
でも、なんとなく藤原の光なのかな、というのは認識できた。
だって藤原の光は強くて、一番綺麗に思えたから。


『ようは応援すれば良いんでしょ!』


私は冷静なような、でも少しやけになった気分で、拝むように両手を合わせる。
そして目を閉じた。

『えーっと、藤原頑張れ!藤原頑張れ!とにかく頑張れ!』


まるでスポーツの観客席で応援するような勢いで私は繰り返した。
目を閉じているはずなのに、段々まぶたの向こうに光が見えてきた感じがする。
もしかして祓うのが終わったのかもと目を開いた。







『あ、れ?』


目の前にはさっき双眼鏡で見た祭壇。
驚いて横を向き、その下に人が座っているのがわかった。
何となく嫌な予感がして斜め下にいる人物を見れば、
藤原が正座し手を合わせ何か呪文のような事をずっと言いながらも、
目を見開いて私を見上げている。


『もしかして・・・・・・・見えてる?』


思わずしゃべったら、もの凄い目で睨まれた。
何で見えていて聞こえていてその上怒っているんだろうか。
見たこともないほどの怖い顔で睨まれて、一気に凹みそうになった。
せっかく応援しにきたのに。
ぶわっ!と黒い煙がまた広がり、私はびくりと煙と藤原を見る。
既に藤原は私を見ることもなく必死に何かを唱えている。
じわりじわりと広がろうとする煙を見る。
禍々しいというのはこの黒い煙みたいなものに言うのだろう。
息をするのも嫌になるほど、空気を、その場にあるものを穢していくのがわかった。
こんなもの広がったらまずいに決まってる。

私は覚悟を決め藤原が正座している横に私はすとんと座ると、
足を整え藤原と同じように正座をする。
そして、その左肩に私の右手を伸ばした。
びくり、と藤原の身体が反応したのがわかった。
もしかしたら私はここにテレポーテーションとかしているのかもしれない。
もう何でもありな気分だ。
まるで神社の宮司さんのような綺麗な着物を着た藤原の肩に手を置いて、
真っ直ぐに前を向く。


『早く終わらせて、帰ろう』


私の言葉に、藤原が小さく頷いたのが視線の端に見えた。

なんという禍々しさ。こんなものを最前列一人で藤原は戦っていたんだ。
それを凄いと思うと共に、後ろで沢山並ぶ人達に怒りのようなものを覚えた。
そんなにいるんだからもっと藤原の分も手伝えば良いのに。
やれないなら私がやるしかない。
この場にいることで余計に私の中でやる気が出てきた。
少しヤケも入っているけど。
私は手に集中し、暖かなものを藤原に送るようなイメージをする。
そう、さっき葛木先生が私にしたみたいに。

ゆっくり。
ゆっくり。
落ち着いて。

はっきりいってやっていることに現実味を感じていない。
でも今はやれることをしなきゃいけない。
気がつけば藤原がまとう光が強くなっている。
ゆっくりとそして濃密に、光がいくつも重なり力が膨らむ。


『いける!』


思わず叫んだ。
まるでシンクロするように同時に藤原が放った言葉で、目の前の黒い邪気は一瞬で四散した。
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