月曜日の巫女

桜居かのん

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欠けてゆくもの

欠けてゆくもの2

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「お姉さん、ここの人じゃ無いね?」


突然後ろを向いたまま、私を見もしないでそう言われ、びくりと立ち止まった。


「だめだよ、帰った方が良い」


声変わりのしていない可愛い子供の声のはずなのに、何の感情も持っていないかのようだ。

でも、私を心配してこんな事を言っている。

この子はとても優しい子だ、私には何故かそれがちゃんと伝わってきた。


「ねぇ、少し話さない?」


私はこの子と話しがしてみたくなった。

顔が見てみたい。

この子は、どんな風に笑うのだろう。


「・・・・・・だめだよ。

お姉さんがここに捕らわれてしまうから」


「でも」


「ねぇ、お姉さん」


私の言葉をその男の子が遮る。


「僕が大きくなったら、また会いに来て」


「大きくなったら?」


「そう。僕はお姉さんと会った事を忘れるから、 大人になったら、この事を思い出させて」


「何で、君は忘れるの?」


唐突な少年の言葉に私は意味が分からない。

何故この子だけが今日のことを忘れないといけないんだろうか。


「お姉さんが、そんな力をもっているからだよ」


私は未だ振り向かない男の子の声に途惑った。

何故か最後の言葉は、とても寂しそうに聞こえからだ。

そもそも会えるといわれても、今この場所がいつなのかすらわからない。

また私が忘れるかも知れないのに探せるわけもない。

そして、私の力とはどういう事なのだろう。


「本当にまた会えるの?」


男の子の顔が少しだけ、こちらを向いたような気がした。


「お姉さん。未来の僕を、嫌わないで」


一瞬寂しそうな顔を見たような気がしたまま、私はふわっとその場から消えた。


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