私は毒にも薬にもならない人間なので、どうか放っておいていただけません?

なかのくん。

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 薄水色のふわふわのドレスに身を包んで、淡いグリーンでまとまった部屋の中を落ち着かない様子で行ったり来たりするのはミア・キャベンディッシュ、五歳。

「…あかんて」

 五歳だが、実の中身は三十五歳だ。

 ミアに生まれ変わる前は、彼氏いない歴三十五年のいわゆる喪女と呼ばれる人種だった。…ような気がする。

 好きな人は居た。両手両足の指よりも多い数の好きな人。見返りの無い一方通行の思いでも、それなりに充実した楽しい日々だったと思う。あのお正月さえ迎えなければ…。

「…餅喉に詰まらせてぶっ倒れたあと目が覚めたら幼い女の子でした、とか夢かこれ」

 前世でパソコンのモニターに映る片思いの相手―――バーチャルアイドルのレオンの生放送を眺めつつ時々少ない給料からちょっとした額を貢いでいた一月一日、お餅を口に含んだ状態でレオンがあまりにもときめく事を言ってくるものだから叫んでしまった。

『マイスイートボーイ! レーオーン!』

 その後から記憶が無い。多分だけれど、餅を喉に詰まらせてそのまま天に召されたらしい。

 目が覚めると、五歳の子供にしては趣味のいい淡いグリーンの部屋で、自分の体よりも大きな熊のぬいぐるみに抱きついていた。

 とりあえずベッドから降りて部屋の中をウロウロ、部屋のものを物色、そして鏡の前で鏡に映る自分の姿を見て絶望した。

 白い肌に焦げ茶色の髪の毛、まん丸のお目目は驚愕を隠す様子もない。

 そして冒頭に戻るわけだ。

「ここはどこで、アテクシはだぁれ?」

 三十五歳のつもりで話しているが、まだ舌っ足らずの五歳の話し方で出力される。可愛らしい声と話し方でアテクシなんて単語が出てくると、地味にホラーだ。



 部屋の中をウロウロしてはたまに鏡で自分を観察さていると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、少ししてから黒髪をまとめたメイドが入ってきた。

「お嬢様、本日は目が覚めるのがお早いですね」

 人あたりのいいメイドだ。色々と聞きたいことはたくさんあるが、突然わたしはだぁれ? ここはどぉこ? あなたの名前は? なんて聞いたらきっと大変なことになる。だってなんとなく、親しそうだから。

「あの…えっと…」

「はい、如何なさいました?」

「いいえ、な、なんでもないです…」

 名前の知らないメイドは、寝起きの爆発した髪の毛をくしでとかしながら今日の朝食のメニューについて説明している。

 一通り説明が終わる頃には、子供特有の柔らかい髪の毛はしっかりとまとめあげられており、所々に細い三つ編みが出来ていた。神業か。

「本日は旦那様と奥様と一緒に登城のご予定ですからね、おめかししませんと」

「登城…ですか…」

「昨日も不安だと仰ってましたけれど、本日もまだ不安が消えないのですね。大丈夫です、お嬢様は世界で一番可愛いわ」

 部屋の趣味から服装、そして髪型と、なんとなくだけれど、前世の意識が覚醒する前の当人もあまり前に出るタイプでは無かったようだ。

「ありがとう…」

 顔から体の隅々まで暖かいお湯で拭き抜かれ寝起きの衝撃が薄らいでいると、柔らかい黄色と白のドレスを着せられる。

 鏡を見るが、とても前世でMOJOしていていたとは思えない可愛らしい少女が映った。

「さあお嬢様、朝食を召し上がりましたら出発ですわよ。行きましょう」

「え、ええ。行きましょう…」

 何も収穫がなかった。自分が誰なのかまだ分からないままだしここがどこなのかも分からない。まあ間違いなく家なんでしょうけれどもね!

 そしてメイドは後ろから着いてくる。

 …朝ごはんを食べる場所も…ワカラナイケド?

「あの…」

「如何なさいました、お嬢様」

「…な、なんだか少し寝不足みたいでフラフラします…だ、抱き上げて…連れて行ってもらっても…」

 あら、甘えんぼさんですか? なんて言葉と共に、ふわりとメイドに抱き上げられる。抱かれた胸は、想像よりも、堅かった。

 …え、なに、ムッキムキやないのこのメイド。



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