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第一部:オフィス侵攻編
第四話 : アスファルトの洗礼
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ビルの自動ドアが開いた瞬間、白熱した大気が物理的な質量を持って綺羅々を押し返した。
コンクリートが放つ熱気は、二十八年間、紫外線を避け、蛍光灯の下で「白紙の正義」を守り抜いてきた彼女の肌を容赦なく焼きにかかる。だが、綺羅々は眉一つ動かさない。汗腺の一つ一つまで、事務的にロック(固定)しているかのようだった。
「せ、先輩……もう、限界です……。一回、コンビニで休憩しませんか……?」
背後で、新人の犬飼が、大型犬が道端で力尽きたような無様な声を上げる。
彼の腕には、部長から押し付けられた「過去の栄光(という名のデッド在庫カタログ)」が、その若すぎる肩に食い込んでいた。シャツは汗で変色し、整えられていたはずの髪は、湿気と屈辱で額にべったりと張り付いている。
「犬飼くん。休憩一回につき、私たちの『残業代という名の生命維持費』が、時給換算でどれだけ棄損するか計算したことある?」
綺羅々は足を止めず、アスファルトの陽炎の向こう側を見つめたまま言い放つ。
「……え?」
「計算しなさい。……今、あなたの体から蒸発しているその水分一滴にさえ、コストは発生しているのよ。……無能な部長が『現場のパッション』なんていう、原価計算のできない言葉で私たちを放り出したのは、私たちの『時間』という資産をドブに捨てさせるため。……あなたは、それに加担するつもり?」
犬飼は、言葉を失って綺羅々の背中を見つめた。
この炎天下。自分は死にそうなのに、目の前の先輩は一切の揺らぎがない。まるで、この熱気さえもExcelのシート上で「無視できる誤差」として処理しているかのような冷徹さ。
「立ちなさい。……一軒目の取引先まで、あと三百四十二歩。私の歩幅(キャリブレーション)に狂いはないわ」
綺羅々は、事務用の指サックをはめた指で、カバンの中の「再構築された見積書」を確認した。それは、もはや数字の羅列ではない。傲慢な取引先と、無能な部長を同時に仕留めるための、精密に計算された「処刑宣告」だった。
「本日も、晴天なり。……犬飼くん。空が青いうちに、この世界の『バグ』を一つ、デリートしに行くわよ」
綺羅々は本日も、順風満帆にお仕事、お仕事…
コンクリートが放つ熱気は、二十八年間、紫外線を避け、蛍光灯の下で「白紙の正義」を守り抜いてきた彼女の肌を容赦なく焼きにかかる。だが、綺羅々は眉一つ動かさない。汗腺の一つ一つまで、事務的にロック(固定)しているかのようだった。
「せ、先輩……もう、限界です……。一回、コンビニで休憩しませんか……?」
背後で、新人の犬飼が、大型犬が道端で力尽きたような無様な声を上げる。
彼の腕には、部長から押し付けられた「過去の栄光(という名のデッド在庫カタログ)」が、その若すぎる肩に食い込んでいた。シャツは汗で変色し、整えられていたはずの髪は、湿気と屈辱で額にべったりと張り付いている。
「犬飼くん。休憩一回につき、私たちの『残業代という名の生命維持費』が、時給換算でどれだけ棄損するか計算したことある?」
綺羅々は足を止めず、アスファルトの陽炎の向こう側を見つめたまま言い放つ。
「……え?」
「計算しなさい。……今、あなたの体から蒸発しているその水分一滴にさえ、コストは発生しているのよ。……無能な部長が『現場のパッション』なんていう、原価計算のできない言葉で私たちを放り出したのは、私たちの『時間』という資産をドブに捨てさせるため。……あなたは、それに加担するつもり?」
犬飼は、言葉を失って綺羅々の背中を見つめた。
この炎天下。自分は死にそうなのに、目の前の先輩は一切の揺らぎがない。まるで、この熱気さえもExcelのシート上で「無視できる誤差」として処理しているかのような冷徹さ。
「立ちなさい。……一軒目の取引先まで、あと三百四十二歩。私の歩幅(キャリブレーション)に狂いはないわ」
綺羅々は、事務用の指サックをはめた指で、カバンの中の「再構築された見積書」を確認した。それは、もはや数字の羅列ではない。傲慢な取引先と、無能な部長を同時に仕留めるための、精密に計算された「処刑宣告」だった。
「本日も、晴天なり。……犬飼くん。空が青いうちに、この世界の『バグ』を一つ、デリートしに行くわよ」
綺羅々は本日も、順風満帆にお仕事、お仕事…
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