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第一部:オフィス侵攻編
第五話 : 沈黙の受付
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一軒目のターゲット、株式会社『丸の内パッション・ソリューションズ』。
社名からして、うちの部長と同系統の「脳筋バグ」が発生している可能性が高い。
自動ドアを抜けた瞬間、キンキンに冷えた空気が、火照った肌を暴力的に叩く。
「……犬飼くん、鼻の下の汗を拭きなさい。受付は、あなたの毛穴の状態まで査定しているわよ」
「ひ、ひゃいっ!」
犬飼が慌ててハンカチを取り出す。
綺羅々は、受付の女性がこちらを値踏みするよりも早く、コンシーラーの下に完璧な「営業スマイル(Ver.2.1)」を貼り付けた。
「お世話になっております。株式会社・泥濘商事(ぬかるみしょうじ)の南野でございます。営業の佐藤の代理として、本日は資料の『差替え』に伺いました」
「あ……はい、少々お待ちください」
受付嬢が内線に手を伸ばす。その指先の迷い、視線の泳ぎ。
綺羅々の脳内Excelが、即座に「受付の背後の不穏な空気」を数式化する。
本来、佐藤部長が担当しているはずのこの会社。だが、受付の反応に「上客への敬意」は微塵もなかった。あるのは、面倒なクレーム担当を待たせているかのような、淡々とした拒絶の色。
「南野先輩、なんだか空気悪くないですか……?」
「……静かに。今、この空間の『不純物比率』を計算中よ」
五分経過。十分経過。
ロビーに流れる安っぽいボサノバが、犬飼の焦りを煽る。
だが、綺羅々は動かない。
彼女は、受付嬢がこっそりシュレッダーにかけようとしている「ある書類の束」を、その鋭い眼光でロックオンしていた。
「犬飼くん。あのシュレッダーの音……聴き覚えがない?」
「え? ただの音ですよ」
「いいえ。あれは、うちの部長が作った『杜撰な契約書』が断裁される断末魔の叫びよ」
綺羅々の口角が、不気味に吊り上がる。
現場(外回り)は、面白い。
オフィスに閉じこもっていたら決して見ることのできなかった「バグの証拠」が、そこら中に転がっているのだから。
「本日も、晴天なり。……さて、デリートされる前に、上書き保存(オーバーライト)してあげましょうか」
社名からして、うちの部長と同系統の「脳筋バグ」が発生している可能性が高い。
自動ドアを抜けた瞬間、キンキンに冷えた空気が、火照った肌を暴力的に叩く。
「……犬飼くん、鼻の下の汗を拭きなさい。受付は、あなたの毛穴の状態まで査定しているわよ」
「ひ、ひゃいっ!」
犬飼が慌ててハンカチを取り出す。
綺羅々は、受付の女性がこちらを値踏みするよりも早く、コンシーラーの下に完璧な「営業スマイル(Ver.2.1)」を貼り付けた。
「お世話になっております。株式会社・泥濘商事(ぬかるみしょうじ)の南野でございます。営業の佐藤の代理として、本日は資料の『差替え』に伺いました」
「あ……はい、少々お待ちください」
受付嬢が内線に手を伸ばす。その指先の迷い、視線の泳ぎ。
綺羅々の脳内Excelが、即座に「受付の背後の不穏な空気」を数式化する。
本来、佐藤部長が担当しているはずのこの会社。だが、受付の反応に「上客への敬意」は微塵もなかった。あるのは、面倒なクレーム担当を待たせているかのような、淡々とした拒絶の色。
「南野先輩、なんだか空気悪くないですか……?」
「……静かに。今、この空間の『不純物比率』を計算中よ」
五分経過。十分経過。
ロビーに流れる安っぽいボサノバが、犬飼の焦りを煽る。
だが、綺羅々は動かない。
彼女は、受付嬢がこっそりシュレッダーにかけようとしている「ある書類の束」を、その鋭い眼光でロックオンしていた。
「犬飼くん。あのシュレッダーの音……聴き覚えがない?」
「え? ただの音ですよ」
「いいえ。あれは、うちの部長が作った『杜撰な契約書』が断裁される断末魔の叫びよ」
綺羅々の口角が、不気味に吊り上がる。
現場(外回り)は、面白い。
オフィスに閉じこもっていたら決して見ることのできなかった「バグの証拠」が、そこら中に転がっているのだから。
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