ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

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 食事会の準備は、店選びからだった。
 招待したい人は、それぞれの両親と孫代行を利用してくれた人たち八人である。それに、拓海たちを合わせた二十人が集まって食事を摂れる店でなければならなかった。
 店選びの条件は、それ以外にもあった。孫代行を利用してくれた人たちが住んでいる家からそれほど離れていない場所にある駅の近くという条件だった。足腰が弱い人もいるため、移動に便利な場所でないと来られない人が出てくる可能性があったからだ。
 四人は、どの家からでも移動しやすい駅を、三つ選び出した。
 インターネットをフル活用して、それぞれの駅の近くにあり、二十人が集まって食事を摂ることができる店を選び出す。
 そこまで準備を進めた後に、四人で手分けして、招待したい人たちの都合を聞いて回った。
 いきなりの話に、どの親も最初は戸惑っていたが、いずれも参加してくれることになった。
 孫代行を利用してくれた人たちも、全員が参加したいと言ってくれた。
 食事会の日時は、七月最後の日曜日の午後零時からと決まった。

 食事会の日時を決めた四人は、最終的な店選びに入った。
 四人は、孫代行で稼いだお金だけで食事会をやるつもりでいた。誰もそのお金には手を付けていなかったため、使えるお金は十万八千八百円あった。消費税分を差し引いて二十で割っても、一人当たり五千円は使うことができる。
 高齢者が多いので和食がいいだろうと考え、四人は、和食の店を中心に、インターネット上に掲載されているメニューを見て回った。どうせなら豪華な料理にしようと盛り上がる。
 そんなムードに、七海が待ったをかけた。飲み物のことを考えるべきだという指摘だった。つまり、大人たちが飲むお酒のことである。
 豪華な料理を前にすれば、当然、大人たちはお酒を飲みたがるだろう。さらに、みんなに楽しんでもらうことも食事会の目的なので、お酒は飲んでもらいたい。
 「お酒の予算って、どの程度考えておけばいいのかな?」拓海は、三人に問いかけた。大人たちが、どの程度の量のお酒を飲むのかの見当がつかなかった。
 さらに、頭を悩ませたのが、お酒の値段だった。ジュースやウーロン茶とは違い、お酒の単価は高い。しかし、お酒に予算を取りすぎると、食事の内容がしょぼくなる。
 いろいろと考えた四人は、見た目が豪華で手ごろな値段の食事メニューがあり、お酒の値段もそれほど高くはない和食の店を選び、電話で予約をした。

 食事会の日がやってきた。
 拓海は、両親とともに、昼前に店に入った。なぜ自分だけ仲間はずれなのかと姉が言い出したら面倒だなと心配したが、幸い、姉は、朝から出かける用事があった。
 午後零時には、二十人全員が顔をそろえた。
 店は、拓海たちのために、その店で一番大きな個室を使わせてくれた。
 全員がそろったことを確認した店員が、配膳を始めた。食事は、懐石風の和食コース料理だった。
 料理が並べられる様子を見ながら、拓海は、緊張が高まっていた。招待した人たちに、挨拶する必要があったからだ。来てくれたことへのお礼を言った後に、四人を代表して感謝の思いを伝えなければならなかった。感謝の言葉は、拓海が話した後に、残りの三人も一言ずつ話すことにしていたが、メインのトークは、拓海がすることになっていた。
 料理の配膳が終わった。大人たちが、お酒を注文する。拓海たち四人とお酒を飲まない大人は、ウーロン茶を注文した。
 飲み物の注文が終わったのを確認した拓海は、立ち上がった。恐る恐る、大人たちに向って、「すみません」と声をかける。
 大人たちがおしゃべりを止め、全員の視線が、拓海に向けられた。
 拓海の膝が震えた。話そうと思っていたことを何度も頭の中で復唱していたのだが、いざ話そうとすると、頭の中が真っ白になった。
 (ヤバい。どうしよう……)顔面が蒼白になるのが、自分でもわかる。
 七海と、視線が合った。視線の先から、「頑張って」という声が聞こえてきた。
 拓海は、つばを飲み込んだ。頭の中の霧が晴れ、何度も繰り返し復唱した言葉が浮かび上がってきた。
 「今日は、食事会に来ていただき、ありがとうございました」拓海は、お辞儀をした。
 「孫代行でいただいたお金をどうしようかと四人で話し合ったんですけど、みんなで美味しい物を食べるのがいいのかなという風になり、食事会をすることにしました」
 何人かの大人が、そうだったんだとでも言いたげに、軽く頷いた。
 食事会をすることを決めた理由は伝えた。次は、感謝の言葉を口にする番である。
 拓海は、緊張を追い払うように、鼻で深呼吸をした。
 「あの、それで、食事の前にボクたちから言いたいことがあるんですけど……。その、あの、ボクたちは、おじいちゃんとおばあちゃんたちに、とても感謝をしています。行くたびに、生きていくうえで大事なこととかを教えてもらいました。それって、ボクたちにとってものすごくプラスなんだなと思っています。実は、知らせていない方もいるんですけど、孫代行をやっていることが学校にばれてしまい、今後は、ボランティアとしてならやってもいいと言われました。ボクたちも、ボランティアでいいから続けてみたいと思っています。だから、もし迷惑でなければ、またボクたちのことを呼んでください」
 拓海は、孫代行を利用してくれた八人に向って、頭を下げた。海斗と七海と美咲も、頭を下げる。
 「ぜひ、お願いしますわ」
 「そんな風に言ってもらえるのなんて、嬉しいわ」
 「お父さんやお母さん。これからも、お子さんたちに来てもらっても構いませんかね?」
 八人から、次々と声が上がった。うっすらと涙を浮かべている人もいる。
 親たちも、よろしくお願いしますと言葉を返した。
 孫代行を利用してくれた人たちへの感謝の思いを伝えた拓海は、親たちの方へ視線を向けた。
 再び、個室の中が静まり返る。
 注文した飲み物を持ってきた店員が個室の中に入ろうとしたが、親の一人が、もう少し待ってほしいと告げた。
 拓海は、再び、口を開いた。
 「お父さん、お母さん。今回は、迷惑をかけてしまってごめんなさい。そして、ボクたちのしたことを認めてくれて、ありがとうございます。お父さんやお母さんに認めてもらえたから、ボクたちも、自分たちのしたことが間違っていなかったんだと自信を持てました。お父さんやお母さんには普段世話になっているから、今日は、ボクたちが親孝行をする番なので、食事を楽しんでください……」
 親たちへの感謝を伝えきった。
 その後、海斗、七海、美咲の順に、簡単に感謝の言葉を口にする。
 すべてを終えたとき、個室の一角から、拍手が沸き起こった。将棋好きの古川さんだった。拍手の輪が広がっていく。
 そんな中、親の一人が、室内電話を使って、飲み物を持ってくるように店員に伝えた。

 食事会は盛り上がった。
 孫代行を利用してくれた人たちと親たちとも、打ち解け合った。全員が親戚同士みたいな雰囲気になった。
 そんな中、拓海に、心配が湧き上がってきた。
 大人たちが、予想していた以上にお酒を注文したからだ。このペースだと、自分たちで支払える予算を上回りそうである。そうなったら、どうすればよいのだろうか。
 海斗も七海も美咲も、同じような心配をしているように、拓海には映った。

 「では、そろそろこの辺で、お開きとしましょうか」七海の父親が、みなに食事会の終了を呼びかけた。お酒で、顔が真っ赤になっていた。
 美咲の父親が、店員を呼ぶ。会計をしてくださいという声が聞こえた。
 個室に入ってきた店員が、一枚の紙を、美咲の父親に渡した。
 父親同士が、財布の中から金を取り出す。何人かのおじいちゃん、おばあちゃんが自分たちも出すと言ってきたが、父親たちは、それを断った。
 拓海たち四人は、顔を見合わせた。自分たちが払うつもりでいたからだ。
 四人は、父親たちのもとに駆け寄った。お金の入った封筒を手にした拓海が、これで払ってくださいと声をかける。
 「いいから。それは、大事に持ってなさい」拓海の父親が、手で制した。
 「その気持ちだけで、十分だから」
 「ボランティアと言ってもお金のいることもあるだろうから、そういうことに使ったらどうだい?」
 ほかの父親たちも、言葉を返してきた。
 母親たちも、そうだそうだと言うように頷く。
 拓海たちは、再び顔を見合わせた。予想外の展開に、返す言葉が見つからなかった。
 そんな中、大人たちが、帰り支度を始めた。
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