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第79話 そしてまた世界に暴力が溢れ
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着いたところが行った先、地図を手にした事はただの一度だってなかった。
街道を流すように歩き、見掛けた隊商のその後を付いて行けば大概はいずれかの町に着いた。
着いたら着いたで仕事を探すでもなく適当にぶらつきながら宵の頃を待つ、果たして冒険者や旅人相手ではなく町の住人ばかりが集うような酒場を訪れる、そこで大所帯があればその一員のような顔をして紛れ込み、或いはまた隣席の相手と意気投合をしたように店の人間に印象付ける、そして佳い塩梅のところで静かに姿を消す。
詰まりが無銭飲食、或いはまた市場での窃盗などの微罪を繰り返すだけの無為なる日々、それが男の人生。
或る日、集り相手との話の流れで投手として、草野球への参加を余儀なくされる。出まかせの法螺で自縄自縛に陥る格好、だが、未経験の筈がそこで男の才能が花開く、狙った場所を外さず速度も自在の制球で以て相手に安打を許さない、きりきり舞いにする。しかし、試合は飽く迄も皆で楽しむ場、そこで秀でたる才能を得々と披露されても白けるばかりと呆れられる。
雇い人に勝利をもたらし言葉の上で求められた筈の役割を全うした、その結果、身勝手が過ぎると詰られた。
沸々と生じた怒りが男を導いたは必然、硬球を石にでも持ち替えれば自分にも人を殺せるという思考に。
それからは遠回りな生き方を捨てる、他者に取り入るような努力は一切止める。街道を往く隊商を見付けいずれが護衛かを見極めたら離れた場所から先ずそれを斃す、残りの男は金品を奪った後に殺し、女子供は犯して毀した。或いはまたその為の資金を得て町に滞在している間にも小腹が空けば市場に出向いて果実や干し肉などを盗んだ。
そうした非道のおそらく報い、ある時から腹水が溜まり下痢も治まらず、まともに食事が摂れない日々が続いた。休んでも体力が回復せず、鉛のように重くなった身体を引き摺って歩けばまたぞろ生命力が削られる。
首を傾げている内に十日が経ち、まともに診てくれる医者もなく二十日が過ぎ、果てに男は自らの人生が終わると覚悟する。
空気も冷え切った夜明け前、山の麓に広がる水田のその片隅に建つ農具小屋を目指し、虫の息でたどり着くなり地に膝を突き上体を倒す。踏み固められた土の感触を頬に感じる。暫くして身体を仰向け周囲の様子を確かめる。代掻き馬鍬や手押し除草機などが整理されて置かれた中、使い込まれた球棒が目に入る。なんとも言えない皮肉を感じる。
或いはそれらの道具を手入れし、大事に使う彼らのように地道に生きていたならまた違った終わり方を迎えたのだろうか。
日が昇れば小屋を所有、または利用するものに発見されるだろう、自らも御する事の出来ないこの無様な姿を。その時にまだ自分が息をしているかどうかはもう、判らない。
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第 79 話
そしてまた世界に暴力が溢れ
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気の向くままの放浪を旨とするものがあれば格闘大会を転戦するものがあり、名工の手による武具を集めて回るものがあれば過去の咎から逃れているものもあるだろう、それぞれの目的は様々、或いは人生なるものに意義を見出すべくの一つの方便として旅に身を置く者たち。
浮草か行雲か、個々人に於いてはいずれ不確かで信憑性に欠く立場だが、彼らを一括りに冒険者と名状し、一定の人格を与える事をまた一つの目的とする互助組織が冒険者協同組合、その事務所は大概の町に設けられ、所属するものの大抵が一先ず立ち寄る場所でもある。
或いは。
三つの河川の合流点に在り交易の要として市場から発展、富が集まり、外壁は太陽を目指すみたいに高く伸び、安全が謳われればまたものが、人が、集中する、そうして繁栄を続けた町なら逗留を目的とするものもあるのだろう、冒険者協同組合事務所も簡易宿泊施設を備えた三階建てという、威容を誇っている。
気に食わねえな。
と、小虫は思う。
気後れするじゃねえか気に食わねえ。
と。
取り立てて用事もなく、ただ、町の住人が主たる客層の食堂を訊きたいだけの事情、詰まり素通りをしても問題はないが曲がり形にも組合員の登録証を持つ身分、だから遠慮をするのもしゃくだと思う。
自らのそんな乞食根性を恨めしく思いつつ果たして案内窓口にて、掌に直に焼き栗を乗せられたみたいに慌てる窓口担当の様子に遭遇する。
長身痩躯、獅子のたてがみ様にごわついた長髪。顔面の右、額から頬を縦に抉る大きな裂創、それが晒した眼窩に填まる赤い宝石。
それらの特徴が人相書き通り、十代半ばの実年齢通りにはなかなか見えないが、とまれ眼前に立つ少年が組合により特殊特級指定された身柄確保対象者であると気付いてしまった、と、窓口担当の表情がそう云っている。
「俺はただ、この町の住人に行きつけの飯屋を教えて欲しいだけでさ」
詰まりがそれは、端的に言えば手出し無用の賞金首、協同組合執行部に所属するものか或いはまた組合から特殊特級認定を受けた冒険者にのみ狩りが許される対象。
「それとも俺には臭い飯を食う権利しかねえと言うなら暴れてやろうかここで、期待通りに」
いずれ安全策として、そうした場面では相手を刺激しない平静な態度が窓口担当に求められる、彼の口から小虫の質問に対する返答がぼとぼとと溢される。
「甘辛の餡で。味変出来るんですよ。鶏の唐揚げです。拉麺よりも今はそっちが主力って。行列が出来てますいつも。中華料理屋、判りますよ直ぐ。とにかく人気の店なんで」
しかしそれが見当違い、だからそういう事じゃなくて、と小虫も思わず言い掛けたものの瞬時に諦め踵を返す。
「なるほどそりゃあ、美味そうだ。感謝するぜ」
吹き抜け構造の屋内、帳場に背を向ければ正面に出入口、その左右から階段が伸び階上へと続く。その踊り場に、薄衣を羽織っただけの女が数名、たむろして居り冒険者らを或いは値踏みしている様子。
町の規模からして立ち寄るものも引っ切りなしならそういう事もあるのだろう。
女たちの中によくよく肥えたものが在り、立派な背もたれを持つ籐の椅子に包まれるように座し足を組んでいる姿なぞは実に、堂々として見える。自分の好みだけが判断材料なら彼女に需要があるかどうか判り兼ねるが、いわゆる分母も多いのならそういう事もあるのだろう、小虫はそう思った。
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冒険者協同組合事務所を出て直ぐに足が止まる。
先ずは左右のどちらにつま先を向けるか、幾千幾万と無意識に繰り返してきた筈のこれを要求されている事に気付く、そこに正誤が伴うと思うと余計に決定する事が躊躇われる、面倒臭いと考えてしまう。或いはその選択さえも全面的に隣を歩くものに委任していたなら随分な甘えだったのだろうか。
とまれ目下のところは単独行、甘えを捨て小虫がままよと一歩を踏み出そうとしたその瞬間。
いつの間にそこまで接近を許していたのか、腰より下からにょっきと人が生えてきて、見上げる形で顔を覗かれる。
男。二十代か三十代かもっと上か、判然としない理由は顔面に白粉を塗りたくってあるからだろうか。額に鉢巻をし、なんの為か左右の耳の辺りにそれぞれ一本ずつ、でんでん太鼓を挿している。肩を支点として、横方向に伸ばした右腕をぐるぐると回し大きな円を描きつつ、更には掌から親指と人差し指の間の股へ、続けて手の甲からまた掌へ、器用に縦笛を渡らせそれに小さな円を繰り返し描かせている。
なにかの儀式かまじないか、或いはちんどん屋にせよ曲芸師にせよ小虫からしたら用事がなく行く手を阻むだけの相手、ならば排除こそが自然の摂理として右手を伸ばして襟首を、むんずと掴んで持ち上げ時計回りに四分円分、彼を移動させる。
今日、この町に君が到着した記念に演奏を披露したい旨、喋っているがその道理の立脚地が不明、やはり相手にする必要はないと決め付け置き去りにする。
道幅が広く人口密度は然程でもないが、やはりそれなりの人出のあって、詰まりいわゆる分母も多いのなら変わり者とかち合う場合もなくはないのだろう、小虫はそう思った。
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前方を往っていた人の塊が左右に割れ、その向こうに一団が現れる。先ずはおそらく人払いを任とする若者、腰を落とし、両腕を天地と水平に、左右に伸ばし目玉をぎょろぎょろ回転させ周囲に警戒を向けながら前進してくる。続いて和装の、風格すら覚えさせる見事な茶瓶頭の中年、そしてその禿茶瓶の、頭頂部でそよぐ唯一本の毛髪にきっと風除け代わりの両の掌を添えているやはり若者、という構成。
素直な目を向ければ禿茶瓶が雇用主、その被用者であるところの若者二人、人の尊厳を守る最後の砦の維持に関わる仕事といったところか、また可能性を広げて見れば、その毛髪こそが生命の樹であり喪われれば人類は文化的に大きく衰退するとの神託を受けた宗教家に派遣された若者二人、当初は困惑したものの寝ても覚めても至れり尽くせりの生活全般に亘る二人の補助に今ではすっかり絆された禿茶瓶、という関係性も考えられる。
いずれ如何なるが正解か、しかし小虫は興味を覚えず左に避け彼の毛髪の平和を祈った。
それを追い掛けてくるものの見当たらず、詰まりが生魚を銜えた猫が優雅に、同時に器用に人を避けながら往来を過っていった。
球棒を担いだ子供みたいな身なりをした大人に、狂気的に見開かれ爛々と輝くまなこを向けられ一緒に野球をして遊ぼうと誘われたが、食事が先だとして断った。
詰まりがとにかく分母の多さ、それに比例する形で独特な雰囲気を有する某かもまた少なくはないのだと、小虫は自分に納得を言い聞かせた。
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果たしてつま先の向くままに運ばれた先にて。
行列を見付けて小虫は嘆く、聞き流した筈の情報にしかし踊らされた結果としての、或いは客観的にはあんかけ唐揚げの魅力に導かれたと見られても反論の余地もない、甚く凡庸なこの結末を。
牛後となるが如くなんらの疑問も持たず列に加わった褒美として彼らが口にする鶏肉は真に鶏肉なのか、本当は虚ろな自己満足や歪んだ優越感を舐って悦に入っているだけではないのか、或いはまた自身の好みや嗅覚までも右に倣え、即ち他者に依存し続けた未来で自我を喪うかもしれないという想像を抱いたりはしないのか、然れど飯との考え方もあるとは理解が出来る、しかしだったら俺はせっかくだからたかが飯じゃねえかと逆張りするぜと、小虫は、本能から生じた行列愛好家に対する反感をなにか全うな筋道を有する論理らしきにすり替える事に成功する、飽く迄も自身の内で。
「へっ」
あんかけ唐揚げを供する中華料理屋の隣が奇しくも、閑古鳥が鳴く牛丼専門店。
「へっへっへっ」
如何なる筋道かなんたる思考回路の働きかは最早問題外、ただそれがべらぼうにお誂え向きの状況だと感じられた。きっと同調こそを旨とし、従って確たる意思もなく呆けた面を並べ奉る連中を尻目に懸けて小虫は、その店の赤い扉を開けた。
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壁に貼られた品書きは、牛丼、と書かれた短冊ただ一枚。
但し当初からそれのみに全労力を注ぎ込んだこだわりの一品という訳ではないらしく、壁に、縦長の長方形に変色した跡が幾つか見られる、それぞれの濃淡がきっと結果的に牛丼専門店となった紆余曲折の歴史を物語っている。
四から六人掛けの卓が二つと、調理場前の横並び席には据え付けの椅子が六脚、小ぢんまりとした店内に客は己が独りだけ、割烹着に頭巾姿の女将もまた一人きりならどこか対戦の風情、ほんのりと緊張感が漂う。だが同時に表の喧騒から切り離され位相を違えて在るかのような空間は、即ち居心地の好さに繋がる。
右肩で一点留めした外套代わりの襤褸布を脱ぎ、背の剣を壁に、倒れないよう注意しながら立て掛けたなら入り口から近い方の卓の、背もたれのある椅子を後ろに引きつつ。
「じゃあ牛丼で」
若干意識をした所為か普段よりも低いところから声が出ていると自覚しつつ小虫がそう、注文するや否や女将がやや怒気を含んだ声色で。
「じゃあ牛丼で」
と、語尾を跳ね上げて鸚鵡返し。
尻が、木製の椅子の座面に到着する直前で僅かに硬直、だが即座に反省した小虫が口籠らずはっきりと言い直す。
「失敬。牛丼を一杯、お願いしたい」
決して漫然と日々をなぞるように飯を作っているのではない、注文を受け応えているものでありそうするからには相応の体験を喰らわせてやる、そんな気概が貌を覗かせた格好、調理の過程に於いて精神論がなんぼの影響を及ぼすものかは素人には解らぬが、ともあれ秘めた覚悟のあって彼女が調理場に立っているなら感動すら覚える態度、必然、牛丼に対する期待も鰻登りという寸法。
「どうぞ召し上がれ」
果たして供されたそれはどんぶりの内側に生じた魔法にも似た小さな奇跡。
照り艶抜群のたれが絡んだ牛肉は黄金色の輝きを放ち、直前までその形を維持していた筈の玉葱は頬張った瞬間に蕩けて芳醇な甘みを広げる。若干硬めに炊かれた米がその弾力で以て口腔内に留まる時間を延長したなら旨味は、多重奏を響かせる。またおそらくは空のどんぶりにそれ単独で垂らされてあったたれが、下層の米を柔らかく変質させ、食事の終盤に於いても箸の動きは鈍らない。見事に均衡のとれたてのひら大の幸福。
凝った趣向は作る側ではなく食べる側の満足を考えてのもの、なるほど精神主義を具現化した物質として確かに此処に在りながら神々しさなど欠片も持たない月並な存在感たるや至上、比して、下品極まる金子如き代物で贖う外にそれの対価とする術を持たぬ人間、無論己を含めた、の下等振りには全く呆れ返る。
たかが飯のこれは理想の形態。
或いはまた手くずし豆腐とからし菜の味噌汁が口腔と、鼻腔とに対し常に刺激的、然らば鋭敏な感覚は維持され食事の喜びも減じる事がない、その存在感たるや牛丼を惑星とすれば衛星、即ち両者は絶対的な関係。
掻っ食らってこそ相応しいこれはたかが飯、たどり着くまでに意識的に、或いは無意識のまま行った幾つかの選択が引き寄せたたまさかに必然の大正解、干し肉をかじったり芋を煮たりするだけの普段の食事ではとても味わえるものではない、人生の幸福。
などという一入の感動が食べっぷりにも表れていたのだろうか、それを見ものとでもするように、片付けを終えた女将が調理場を出て横並び席の椅子に腰掛ける、小虫に正対する。
きつね目をした細身の美人、更には上背もあって、本人が意図せぬところで他者に遠慮を強いるような雰囲気の持ち主。歳の頃は三十手前、小虫より一回りほど上に見える。
硬くはないが無表情、喜怒哀楽のいずれにも属さない感情が乗った視線、右斜め前から真っ直ぐ向けられるそれは言わば圧、なんらかの形で応えねばならぬ気にさせられ、小虫は、左手のどんぶりを気持ち掲げて見せて言う。
「美味いすよ。こんなに美味い牛丼は未だ嘗て食った経験がない」
果たして女将は無反応、なんでだよ、と内心では光の速度で突っ込んだものの、唇を一文字に引き結んで声は溢さない。三角巾を脱げばすとんと落ちる黒髪が背中に届き、女将の美人度と、同時に圧が更に増す。
箸とどんぶりがかち合うかちゃかちゃという音がなんとか間を埋めている、埋めているものとする。
米の一粒も残さずに食い終えたらごちそうさまを言って去る、早々に去る、ならば今の内にお代を用意しておくのが最善か、いや不自然極まりない荷物を担ぐ流れの内に組み込むのが賢明だろう平時と変わらず。
無心を装って箸と、顎に労働を強いる。やがて食べ終わる。果たして。
なにしろ自分は腕白なものですからご飯いやさ飯だけが興味の対象です、美味い飯なら尚更歓喜、金なぞ幾らでも払います払わせてくださいお幾らですかそうですか、安いですねーいやこんなに安くて美味しいなんて信じられないにわとりだかを食ってる隣の奴らはどいつもこいつも目が節穴ですな、ではご馳走様でした。失敬。
と、脳内で組み立てた然り気ない去り際を実行に移す段となり、小虫がどんぶりを卓に置いたその瞬間。
「昨晩、おばあさまが亡くなりまして」
と、女将が言った。独り言ちたのではなく聞かせようという意思を感じる声音、話し掛けられているのだと小虫は把握する。
だが。
無論、言葉の意味は分かる。彼女の祖母が昨晩死んだという事だ。実相が言葉の通りならどうした事態を云っているのかそれもまた理解が出来る、詰まり昨日の夜に彼女の祖母が息を引き取ったのだ。不明なのは今それを通りすがりの見知らぬ他人である自分に伝える意図だ。
埋めるのに男手が要るとかそういう事、え、殺したの、殺しとかそんなん、しそうかー、しそうに見えなくもないか思い詰めてやっちゃう感じかーまぁ死体埋めるくらいなら手伝うか飯美味かったし。
女将を、左に二人分ずらした辺りの虚空をぼんやりと眺めるようにしてなんとなく当人に注意を向ける、懐に警戒心をそっと抱く。なにしろ予測不能な女など恐くて堪らない。
「それはお気の毒に」
よもや。
「ですからわたくし、本日より冒険者をさせていただこうと思いまして」
何処へ連れていかれるのか分かったものではないのだから。
「これからお頼み申しますね」
だがしかしその出口、いやさ移動手段を小虫はよくよく知っていた。むしろ自分も多用する業、即ち問答無用の聞く耳持たずの言ったもん勝ちの決定事項の一方的な伝達、面倒な説明をすっ飛ばすに最善の策、だが時に相手を選ぶ必要はある。
或いはその横暴、喰らう側に立たされてみてもやはり鮮やかにして痛快、対して。
「なるほど理解した」
と、応える以外の正解に思い当たらず、目くじらを立てる向きも在るなどやはり信じ難い。
「避けて通っちゃ放浪者の名折れ、勿論、請けるけどね」
右のそれと比べれば健康な左目を、向けて、自分なりに相手に正対するよう首を傾げた小虫、そうして警戒心を可視化したみたいな、単眼からの睥睨。
「一応訊くけど、この店はどうすんだい」
「その日が訪れたら畳むと決めていました」
「ばあさん、が、世話を必要としてたとか」
「この数年はなにをするにしてもおばあさま優先、わたくしの心はいつしか事切れて、笑い方も忘れるような生活でした」
「だから夢でも抱いてなきゃ、てやつか」
本気度を見極めるべくの問答を仕掛けたものの、既に肚の決まったものが相手が故にその段取りもまるで無用、楽しくなる前に玩具を取り上げられた子供みたいに小虫が、口をへの字に曲げる。
「それでも一応、言っておくぜ」
卓の上、空のどんぶり辺りに視線を落として続ける。
「冒険者ってのは立場とか職業なんかじゃなく多分、手段で、それを行ってる内は生活なんざ入り込む余地もねえ。そうとも知らず思ってたのとは違う現実を目の当たりにして後悔する連中も実際、少なくない。これまでの事はともかく自分で操舵輪を握れるのなら生活をやってた方が安全だし健全だ、と、思う。あんた、今だって俺らにゃ得難いもんを手にしてんだぜ」
しかし女将は態度を変えない。
「これまでの空白が埋まるならどんな変化だって歓迎です」
それも小虫は承知していた。
「ちゃんと生活出来てる奴らに対しては劣等感しかないけどね、俺は」
現実逃避だって全うな手段の一つと数えられるべきだと、小虫は乞い願っていた。
「体の半分を落石にもっていかれて死ぬ事もある。へっ。不条理世界へようこそ」
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米も草履も竹篭も金になる商い物、だが、より高い完成度を目指したり効率を考えるなどの娯楽性が加わればそれらを作る過程は彼にとってただの作業以上の喜びを伴った。
ものを作って町で売る、そのついでの楽しみとして冒険者協同組合事務所前に掲出された賞金首の人相書きを眺め、繁盛店の隣で閑古鳥の鳴いている牛丼屋で飯を食う。或いはまた野良仕事中に発掘した球棒、その握りの下、底に丸く磨かれた淡い桜色の宝石が嵌められ、心が絶叫しているような時には打球が分裂する摩訶不思議なしろもので素振りなどをして作業の合間の気分転換を図る。
ともすれば平板で質素、それが農夫の暮らし振り。
勿論、町往く人々を眺めていれば自分のそれとは違う生き方があると知れた。豊満なるを享楽するものも在ると当然のように想像が出来た。だがそれは別世界の話、自らの役割として鶏の世話をし、野菜の成長を眺める日々は実に以て楽しく、そこに不満も疑問も生じる隙がなかった。
農夫は満ち足りていた。
或る日の明け方、作業前の準備の為に道具小屋に向かった農夫は、そこで行き倒れを発見する。正確にはまだ呼気が細く延びてはいたが、水の溜まって膨れた腹は山向こうの村の風土病の特徴、弱り方から見ても確実に、早ければ数刻の内に苦しみながら彼は死ぬ。
気配に気付いた行き倒れが農夫に視線を寄越しながら医者をと弱々しく呟く。農夫は町へと駆け、冒険者協同組合事務所に飛び込み、人相書き通りの賞金首を見付けたと申し出る。
果たして。
各地を転々としながら数年に亘り窃盗、婦女暴行、強盗殺人を繰り返した凶悪犯罪者がその行き倒れの正体、犯した罪の数に比例して膨らんだ賞金は、農夫の人生なら三回か四回分、再現可能な額に上った。
元より余剰は持たない身、ならばそれを公益の為に役立てようと思い立つ。人を集め、賞金首を捕らえる為の情報伝達網を町中に敷いた。彼らは意外と身近にいる、農夫のその考え方は伝達網が繰り返し成果を上げる事で証明された。
賞金は組織を構成するものたちに分配され、彼らは農夫を祭り上げる。
冒険者協同組合からも特殊特級冒険者同等の権利を与えられ、農夫は今や、立派な賞金稼ぎとなっていた。
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行き掛かり上、渋々の内にそうする選択をした自らの事情を前置きしつつ、小虫は、協同組合に所属するかどうかを女将に訊ねる。するとまたぞろ固い意思を目の色に滲ませた彼女から、その前にこの町で片付けておきたい事があると伝えられる。
「あんかけ唐揚げでも食ってみたい、とか」
「あの程度、わたくしにも簡単に作れます」
先導を任せて着いた先が町外れの女郎屋、目的は、牛丼屋の常連客だったという少女の身請け。
「金で解決してるとは言えなんかの火種になったりしねえだろうな、これ」
「健全な存続の為に界隈に於いては不文法が自然発生するものでしょう。自浄と抑止を期待しましょう」
少女には懇意にしている少年の在って、二人に店の権利を譲るとも言う。
「なにその美談、話が出来過ぎてて怖いんだけど」
じゃが芋の皮剥きも随分と上達した頃、両親が蒸発する。料理の腕前は傍若無人で口も手も出る祖母の指導の下、自然と上達する。店か町か、それとも家か、いずれその磁場に縛り付けられたまま押し付けられた役割を演じ続け、選択肢が目の前を過ったとしてそれも全て見落とし、日々に流される。
そして昨日、祖母が亡くなった。
「自分は今から解放されようってのにさっきの二人には店を任せるって、それ、なんつーか整合性なくね」
「飽く迄も譲ったのであって、続けなくたって構わないんです。少し意地悪な伝え方を、確かにしましたけど」
「いずれなにか飯を食わせる店として存続させて欲しいって、傍からもそう聞こえたし」
小虫が先を歩き、その三歩ほど後ろを女将が続く。
「やっぱ隣の中華屋に思うところがあったって証左なんじゃねえの、それ」
縦に並ぶ格好の二人が向かうのは、冒険者協同組合事務所。
「考える時間に充てて欲しいんです。籠の中に閉ざされて、抜け出すのは容易じゃない、その間は夢も希望も漠然としていた筈なんです。自分はどういう人間なのか、どうやって生きていきたいか、それが鮮明にならないと可能性も具体的には見えてこないと思うんです。だから今は考えて欲しいんです。選択肢を多く持つ為に落ち着いて考えて欲しいんです」
牛丼、と書かれた一枚だけ残された短冊と、それが貼られた壁のその他の形跡、その光景はなにをか象徴したものだった。
「へっ。へっへっへっ」
先ほど見掛けたのと同じ個体だろうか、生魚を銜えた猫が前方から、行き交う人々を障害物ともせず歩幅も自在に歩いてくる。その華麗なるに視線を留めつつ意識だけを後方に向けて、小虫が女将に問う。
「そういやまだ、名前を訊いてなかったな」
同時。
後頭部から背中一面に臭気の強いつぶて混じりの熱い糞尿を浴びせられたような感覚が襲う。視界では、銜えていた魚が突然に破裂するという事象に直面した猫が驚きの表情とともにその場で大きく跳躍し、何処ぞへと走り去った。
投じられたかして左方向から迫り来たなにか、或いは人を殺傷し得る器具の類い、それが事態を引き起こした。
見て、確認するまでもなく判る、背後に向けていた意識が気配を読み取ってそう云っている。猫は魚を食いはぐり、女将は籠から飛び立てなかった。
辺りが騒然となったのも束の間、ごった返していた人が周囲から瞬時に消える。もうもうと立つ砂埃が混乱のほどを伝えている。
顎から上の消失した状態で既に地に倒れている女将の屍と、己と。
左方、十五歩ほど向こうに軒を並べる建物の屋根の上に横一列に並ぶ集団と。
どうやら対峙させられた構図のいつの間にかあって、いやさ実相は、己が包囲網に捕らわれた形らしい。
「ひゃっはー」
集団の、中心人物だか首長だか、先に擦れ違った球棒を担いだ子供みたいな身なりの男が甲高く笑い御託を並べ始める、その内容から自分が賞金首として舞台上に引き摺りあげられたと判る。籐の椅子に足を組んで座する姿が実に太々しい、冒険者協同組合事務所で見た肥えた娼婦の姿が球棒を担いだ男の直ぐ隣にある。
概ね理解する。
女将は、自分の巻き添えとなりなんら必然性もなく徒爾に命を落としたのだと理解する。不条理などなく総ては己の落ち度に起因していると理解する。
自ら進んで犯したか、うそぶいたか、或いは他者からの訴えにより確定した罪過が、照射され、輪郭と重量が再現され小虫に伸し掛かる。
罪は赦されない、だからなにかで覆い隠してそれが目に入らなくするよう処さねばならない。見よ諸悪の根源を、そう言って嘲笑う晒れ首を黙らせ追い返さねばならない。
「うるっせえ黙れえっ」
予め用意していた台本を暗誦するみたいに調子好く自画自賛の文言を吐き出し続ける球棒を担いだ男に向けて一喝、続けて、ゆっくりと首を振り集団を睨め掛く。
「お前らに選ばせてやるよ」
小虫の、持ち上がった左の口角が頬を醜く歪める。右の眼窩に填まる赤い宝石が陽の光をぎらりと反射する。
「その得意満面なとっちゃん小僧を差し出すか、全員、俺に殺されるかだ」
そして集団に向かい悠然と歩み出す。
「精々賢く身を振りな」
誰かに決断を委ねるみたいに及び腰で様子を窺うものが殆どの中、集団の内の三人ほどが懐中に呑んでいたどすを構えるなどして反射的に交戦の姿勢を見せる、が、小虫が放った棒手裏剣を顔面に喰らい、敢えなく屋根から転がり落ちる。迫り来るは多勢に無勢な状況も彼我の善悪も問題としない暴戻なる悪漢、そうした認識に背中を蹴られたみたいに一斉に、集団が球棒を担いだ男を取り押さえに掛かる。肥えた女だけは仁義だの恩義だのと口にしてその選択が間違っていると喚き倒しているが、明日を人質に取られたものたちに昨日の約束など無意味、所詮は金に群がっただけの烏合の衆が実態と暴かれて果たして、球棒を担いだ男が押し出されて地に尻餅をつく。
喚きながら無闇矢鱈にそれが振り回している球棒を掴み取った小虫、そのまま振り下ろして握りの下、淡い桜色の宝石の填まった底で男の喉骨を粉砕する。
「命乞いの前に謝罪だろうが、雑魚が」
吐き捨てて睥睨する。そうしてから小虫が、球棒に填まる宝石を検める。己が右の眼窩に填まるそれと出自を同じくするものかどうか、しかし判断する方法の分からず結局、放り捨てる。
そうしておもむろに上体を前傾させながら左腕を伸ばし男の胸ぐらを掴み、果たして右の拳をその顔面、口の辺りに振り下ろす。二度三度、七度八度とそれを作業のように繰り返す。
血の飛沫が散る、皮膚が裂ける、肉が捲れ上がり折れた歯が口唇を突き破る。失禁する。小虫の右の拳もまた骨の剥き出しになっているがお構いなしにそれを、男の顔面に叩き付ける。脳震盪を起こし意識を失わせる事態を避け、同時に後悔をも許さず精神崩壊へと導くべくの行為、小虫の無表情がそう云って、男が苦しんでいる限りは続くと思わせる。止めようなどすれば忽ち矛先が自分に向く、そうなふうに考えてか皆息を殺して固まっている。その静寂の中に重く鈍い音の拡散し、殺伐とした時間の続く。人が人を殺す事態、その有り様が伝播する。
不安と恐怖、拒絶と嫌悪の視線を浴び続けてやがて悪鬼羅刹と成り果てる、そうした絶望の淵に在る小虫にしかし、救いの現れる。
女将が身請けした少女が騒ぎを聞き付け駆け付ける。抵抗も見せず正面から小虫に歩み寄る、その赤剥けた右の拳に上衣の裾を裂いて巻き付ける。頭を抱き寄せる。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
振り上げられた拳がゆっくりと下りる。胸ぐらを離され支えをなくし、地に後頭部をしこたま打ち付ける、その音が骨が骨を打つそれに似て響く。痛みは彼岸にあって顔面は焼かれたように熱い。特殊特級指定された身柄確保対象者は二種類に別けられる、即ち最悪の犯罪者と災厄の依り代と、生涯最後に目にするものとなるだろう彼はきっと後者に違いなかったのだと思う。手を出さなければよかった。呼気の、辛うじてまだあるが咽頭に溜まった唾の混じった血を吐き出す力のもう、絞り出すに叶わず、か、か、と弱々しく喘いだ後、ばたばたと痙攣してやがて男は息絶えた。
「へっ」
怒り心頭に発した。だが返報は造作なく、直ぐに感情が凪ぎ虚無を抱いた、その作用がところに自らの行為の利己性を浮き彫りにされ他者に対する情の欠落した人間性の、またぞろ疑わしく感じられる。
「へっへっへっ」
だから今は少女の言葉に縋ろう。
「ざまを見晒せ」
不条理に襲われ混沌に沈み込み、二度と戻って来られなくならないように。
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埋葬の場合は祖母とは別に。
そう言い添えて少女と、少女の身を案じて押っ取り刀で駆け付けたと言うそれと懇意の少年と、二人に女将の亡骸を預けて任せる。
「また町に立ち寄った際には僕らのお店にも来てくださいっす」
「その場合、一番は墓参りだけどな」
自分は男を、特殊特級冒険者同等と吹いた賞金稼ぎだったものの屍を、引き摺って共同組合事務所を再び訪れる。立派な見せ掛けを以てしての町の中心みたいな貌がやはり気に食わない、その建物を見て改めて思わされる。果たして窓口担当が先と同じ。
「あんたもこいつの仲間だったのかと疑って然るべきとして、正直どっちでもいいんだ。対個人として飯屋を教えてくれたからさ」
その彼の不運を気の毒と感じているような表情を小虫が見せる。
「悪いが面倒を押し付けるぜ」
男から奪った球棒を手渡しながら続ける。
「ひょっとしたら金になる、それでこいつの葬儀を頼まれて欲しい」
念の為にと財布も渡す。それを両の掌の上に乗せたまま、困惑と諦めのない交ぜになったようななんとも言い難い表情を窓口担当が見せるが、快諾が得られる想定などは元よりなく、小虫が更に、協同組合の登録者証を帳場台の上に置いて続ける。
「返納させてくれ。俺はやっぱそういうの、柄じゃねえや」
組合が斡旋する仕事を請けられない、近隣の宿や飲食店で優待特典を得られない、などの利点を喪う他、小虫の場合は特殊特級指定の身柄確保対象から外れるという事も勿論、ない。
詰まり冒険者でなくなる事、それを敢えて申し出る行為に特別な意味はない。ただそうする必要に駆られただけの事。これからも放浪を続けるにあたっての、心の持ちようとして。
その決断がところに対する自負の浮かんだような小虫のその表情が、人相書きと罪状と、それらに由来する先入観を以てしては想像もし得ない、悪心などとは無縁の純粋な雰囲気を備えて見え、面して、平静で居る事も難しく感じない。
「個人的には残念です。興味深い人物だと聞いていたので」
賞金首である一方、小虫は冒険者としての功績もまた多くはないが残している。協同組合内で治安維持に於ける実働を担う執行部、その構成員間でも彼の処遇については意見が分かれており、実力行使による速やかな排除が為されぬ特殊な事情もそこに起因する。
「あんた、きっと杓子定規な人間じゃないだろうから、言うけどさ」
乱れた思考も感情もまだ落ち着く気配のなく、自分が冷静ではないという自覚はあった。
「きっと避けられた事態なんだ。だけどその為には俺だけじゃなくあんたらにも課題があると思うんだ」
或いは先と違い窓口担当が怯えるばかりではなかったが故に変な期待を持ってしまったが、いずれ感傷か言い訳か責任転嫁か泣き言か、そんなものを吐露するばかりでは言葉はきっと意味を持たない。
「やっぱなんでもねえや」
身勝手さを誤魔化すみたいに独り言ちて窓口担当に背を向ける。ふと自分の右手が視界に入る。巻かれた布切れ、それこそが十全に伝えたかった事を物語ると悟る。
「それより、昼に教わった中華屋の隣に今日まで牛丼屋だった店があってさ。そのまま引き継ぐのか業態変えるのかは聞いてねんだけど、再開の暁には行ってみてやってくんねえかな」
そうして返答を待たず小虫は、冒険者協同組合事務所を後にした。
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暴力は連鎖する。
町は生活者が成り立たせている。
あてどのない放浪をまた続ける。
('25.9.23)
街道を流すように歩き、見掛けた隊商のその後を付いて行けば大概はいずれかの町に着いた。
着いたら着いたで仕事を探すでもなく適当にぶらつきながら宵の頃を待つ、果たして冒険者や旅人相手ではなく町の住人ばかりが集うような酒場を訪れる、そこで大所帯があればその一員のような顔をして紛れ込み、或いはまた隣席の相手と意気投合をしたように店の人間に印象付ける、そして佳い塩梅のところで静かに姿を消す。
詰まりが無銭飲食、或いはまた市場での窃盗などの微罪を繰り返すだけの無為なる日々、それが男の人生。
或る日、集り相手との話の流れで投手として、草野球への参加を余儀なくされる。出まかせの法螺で自縄自縛に陥る格好、だが、未経験の筈がそこで男の才能が花開く、狙った場所を外さず速度も自在の制球で以て相手に安打を許さない、きりきり舞いにする。しかし、試合は飽く迄も皆で楽しむ場、そこで秀でたる才能を得々と披露されても白けるばかりと呆れられる。
雇い人に勝利をもたらし言葉の上で求められた筈の役割を全うした、その結果、身勝手が過ぎると詰られた。
沸々と生じた怒りが男を導いたは必然、硬球を石にでも持ち替えれば自分にも人を殺せるという思考に。
それからは遠回りな生き方を捨てる、他者に取り入るような努力は一切止める。街道を往く隊商を見付けいずれが護衛かを見極めたら離れた場所から先ずそれを斃す、残りの男は金品を奪った後に殺し、女子供は犯して毀した。或いはまたその為の資金を得て町に滞在している間にも小腹が空けば市場に出向いて果実や干し肉などを盗んだ。
そうした非道のおそらく報い、ある時から腹水が溜まり下痢も治まらず、まともに食事が摂れない日々が続いた。休んでも体力が回復せず、鉛のように重くなった身体を引き摺って歩けばまたぞろ生命力が削られる。
首を傾げている内に十日が経ち、まともに診てくれる医者もなく二十日が過ぎ、果てに男は自らの人生が終わると覚悟する。
空気も冷え切った夜明け前、山の麓に広がる水田のその片隅に建つ農具小屋を目指し、虫の息でたどり着くなり地に膝を突き上体を倒す。踏み固められた土の感触を頬に感じる。暫くして身体を仰向け周囲の様子を確かめる。代掻き馬鍬や手押し除草機などが整理されて置かれた中、使い込まれた球棒が目に入る。なんとも言えない皮肉を感じる。
或いはそれらの道具を手入れし、大事に使う彼らのように地道に生きていたならまた違った終わり方を迎えたのだろうか。
日が昇れば小屋を所有、または利用するものに発見されるだろう、自らも御する事の出来ないこの無様な姿を。その時にまだ自分が息をしているかどうかはもう、判らない。
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第 79 話
そしてまた世界に暴力が溢れ
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気の向くままの放浪を旨とするものがあれば格闘大会を転戦するものがあり、名工の手による武具を集めて回るものがあれば過去の咎から逃れているものもあるだろう、それぞれの目的は様々、或いは人生なるものに意義を見出すべくの一つの方便として旅に身を置く者たち。
浮草か行雲か、個々人に於いてはいずれ不確かで信憑性に欠く立場だが、彼らを一括りに冒険者と名状し、一定の人格を与える事をまた一つの目的とする互助組織が冒険者協同組合、その事務所は大概の町に設けられ、所属するものの大抵が一先ず立ち寄る場所でもある。
或いは。
三つの河川の合流点に在り交易の要として市場から発展、富が集まり、外壁は太陽を目指すみたいに高く伸び、安全が謳われればまたものが、人が、集中する、そうして繁栄を続けた町なら逗留を目的とするものもあるのだろう、冒険者協同組合事務所も簡易宿泊施設を備えた三階建てという、威容を誇っている。
気に食わねえな。
と、小虫は思う。
気後れするじゃねえか気に食わねえ。
と。
取り立てて用事もなく、ただ、町の住人が主たる客層の食堂を訊きたいだけの事情、詰まり素通りをしても問題はないが曲がり形にも組合員の登録証を持つ身分、だから遠慮をするのもしゃくだと思う。
自らのそんな乞食根性を恨めしく思いつつ果たして案内窓口にて、掌に直に焼き栗を乗せられたみたいに慌てる窓口担当の様子に遭遇する。
長身痩躯、獅子のたてがみ様にごわついた長髪。顔面の右、額から頬を縦に抉る大きな裂創、それが晒した眼窩に填まる赤い宝石。
それらの特徴が人相書き通り、十代半ばの実年齢通りにはなかなか見えないが、とまれ眼前に立つ少年が組合により特殊特級指定された身柄確保対象者であると気付いてしまった、と、窓口担当の表情がそう云っている。
「俺はただ、この町の住人に行きつけの飯屋を教えて欲しいだけでさ」
詰まりがそれは、端的に言えば手出し無用の賞金首、協同組合執行部に所属するものか或いはまた組合から特殊特級認定を受けた冒険者にのみ狩りが許される対象。
「それとも俺には臭い飯を食う権利しかねえと言うなら暴れてやろうかここで、期待通りに」
いずれ安全策として、そうした場面では相手を刺激しない平静な態度が窓口担当に求められる、彼の口から小虫の質問に対する返答がぼとぼとと溢される。
「甘辛の餡で。味変出来るんですよ。鶏の唐揚げです。拉麺よりも今はそっちが主力って。行列が出来てますいつも。中華料理屋、判りますよ直ぐ。とにかく人気の店なんで」
しかしそれが見当違い、だからそういう事じゃなくて、と小虫も思わず言い掛けたものの瞬時に諦め踵を返す。
「なるほどそりゃあ、美味そうだ。感謝するぜ」
吹き抜け構造の屋内、帳場に背を向ければ正面に出入口、その左右から階段が伸び階上へと続く。その踊り場に、薄衣を羽織っただけの女が数名、たむろして居り冒険者らを或いは値踏みしている様子。
町の規模からして立ち寄るものも引っ切りなしならそういう事もあるのだろう。
女たちの中によくよく肥えたものが在り、立派な背もたれを持つ籐の椅子に包まれるように座し足を組んでいる姿なぞは実に、堂々として見える。自分の好みだけが判断材料なら彼女に需要があるかどうか判り兼ねるが、いわゆる分母も多いのならそういう事もあるのだろう、小虫はそう思った。
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冒険者協同組合事務所を出て直ぐに足が止まる。
先ずは左右のどちらにつま先を向けるか、幾千幾万と無意識に繰り返してきた筈のこれを要求されている事に気付く、そこに正誤が伴うと思うと余計に決定する事が躊躇われる、面倒臭いと考えてしまう。或いはその選択さえも全面的に隣を歩くものに委任していたなら随分な甘えだったのだろうか。
とまれ目下のところは単独行、甘えを捨て小虫がままよと一歩を踏み出そうとしたその瞬間。
いつの間にそこまで接近を許していたのか、腰より下からにょっきと人が生えてきて、見上げる形で顔を覗かれる。
男。二十代か三十代かもっと上か、判然としない理由は顔面に白粉を塗りたくってあるからだろうか。額に鉢巻をし、なんの為か左右の耳の辺りにそれぞれ一本ずつ、でんでん太鼓を挿している。肩を支点として、横方向に伸ばした右腕をぐるぐると回し大きな円を描きつつ、更には掌から親指と人差し指の間の股へ、続けて手の甲からまた掌へ、器用に縦笛を渡らせそれに小さな円を繰り返し描かせている。
なにかの儀式かまじないか、或いはちんどん屋にせよ曲芸師にせよ小虫からしたら用事がなく行く手を阻むだけの相手、ならば排除こそが自然の摂理として右手を伸ばして襟首を、むんずと掴んで持ち上げ時計回りに四分円分、彼を移動させる。
今日、この町に君が到着した記念に演奏を披露したい旨、喋っているがその道理の立脚地が不明、やはり相手にする必要はないと決め付け置き去りにする。
道幅が広く人口密度は然程でもないが、やはりそれなりの人出のあって、詰まりいわゆる分母も多いのなら変わり者とかち合う場合もなくはないのだろう、小虫はそう思った。
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前方を往っていた人の塊が左右に割れ、その向こうに一団が現れる。先ずはおそらく人払いを任とする若者、腰を落とし、両腕を天地と水平に、左右に伸ばし目玉をぎょろぎょろ回転させ周囲に警戒を向けながら前進してくる。続いて和装の、風格すら覚えさせる見事な茶瓶頭の中年、そしてその禿茶瓶の、頭頂部でそよぐ唯一本の毛髪にきっと風除け代わりの両の掌を添えているやはり若者、という構成。
素直な目を向ければ禿茶瓶が雇用主、その被用者であるところの若者二人、人の尊厳を守る最後の砦の維持に関わる仕事といったところか、また可能性を広げて見れば、その毛髪こそが生命の樹であり喪われれば人類は文化的に大きく衰退するとの神託を受けた宗教家に派遣された若者二人、当初は困惑したものの寝ても覚めても至れり尽くせりの生活全般に亘る二人の補助に今ではすっかり絆された禿茶瓶、という関係性も考えられる。
いずれ如何なるが正解か、しかし小虫は興味を覚えず左に避け彼の毛髪の平和を祈った。
それを追い掛けてくるものの見当たらず、詰まりが生魚を銜えた猫が優雅に、同時に器用に人を避けながら往来を過っていった。
球棒を担いだ子供みたいな身なりをした大人に、狂気的に見開かれ爛々と輝くまなこを向けられ一緒に野球をして遊ぼうと誘われたが、食事が先だとして断った。
詰まりがとにかく分母の多さ、それに比例する形で独特な雰囲気を有する某かもまた少なくはないのだと、小虫は自分に納得を言い聞かせた。
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果たしてつま先の向くままに運ばれた先にて。
行列を見付けて小虫は嘆く、聞き流した筈の情報にしかし踊らされた結果としての、或いは客観的にはあんかけ唐揚げの魅力に導かれたと見られても反論の余地もない、甚く凡庸なこの結末を。
牛後となるが如くなんらの疑問も持たず列に加わった褒美として彼らが口にする鶏肉は真に鶏肉なのか、本当は虚ろな自己満足や歪んだ優越感を舐って悦に入っているだけではないのか、或いはまた自身の好みや嗅覚までも右に倣え、即ち他者に依存し続けた未来で自我を喪うかもしれないという想像を抱いたりはしないのか、然れど飯との考え方もあるとは理解が出来る、しかしだったら俺はせっかくだからたかが飯じゃねえかと逆張りするぜと、小虫は、本能から生じた行列愛好家に対する反感をなにか全うな筋道を有する論理らしきにすり替える事に成功する、飽く迄も自身の内で。
「へっ」
あんかけ唐揚げを供する中華料理屋の隣が奇しくも、閑古鳥が鳴く牛丼専門店。
「へっへっへっ」
如何なる筋道かなんたる思考回路の働きかは最早問題外、ただそれがべらぼうにお誂え向きの状況だと感じられた。きっと同調こそを旨とし、従って確たる意思もなく呆けた面を並べ奉る連中を尻目に懸けて小虫は、その店の赤い扉を開けた。
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壁に貼られた品書きは、牛丼、と書かれた短冊ただ一枚。
但し当初からそれのみに全労力を注ぎ込んだこだわりの一品という訳ではないらしく、壁に、縦長の長方形に変色した跡が幾つか見られる、それぞれの濃淡がきっと結果的に牛丼専門店となった紆余曲折の歴史を物語っている。
四から六人掛けの卓が二つと、調理場前の横並び席には据え付けの椅子が六脚、小ぢんまりとした店内に客は己が独りだけ、割烹着に頭巾姿の女将もまた一人きりならどこか対戦の風情、ほんのりと緊張感が漂う。だが同時に表の喧騒から切り離され位相を違えて在るかのような空間は、即ち居心地の好さに繋がる。
右肩で一点留めした外套代わりの襤褸布を脱ぎ、背の剣を壁に、倒れないよう注意しながら立て掛けたなら入り口から近い方の卓の、背もたれのある椅子を後ろに引きつつ。
「じゃあ牛丼で」
若干意識をした所為か普段よりも低いところから声が出ていると自覚しつつ小虫がそう、注文するや否や女将がやや怒気を含んだ声色で。
「じゃあ牛丼で」
と、語尾を跳ね上げて鸚鵡返し。
尻が、木製の椅子の座面に到着する直前で僅かに硬直、だが即座に反省した小虫が口籠らずはっきりと言い直す。
「失敬。牛丼を一杯、お願いしたい」
決して漫然と日々をなぞるように飯を作っているのではない、注文を受け応えているものでありそうするからには相応の体験を喰らわせてやる、そんな気概が貌を覗かせた格好、調理の過程に於いて精神論がなんぼの影響を及ぼすものかは素人には解らぬが、ともあれ秘めた覚悟のあって彼女が調理場に立っているなら感動すら覚える態度、必然、牛丼に対する期待も鰻登りという寸法。
「どうぞ召し上がれ」
果たして供されたそれはどんぶりの内側に生じた魔法にも似た小さな奇跡。
照り艶抜群のたれが絡んだ牛肉は黄金色の輝きを放ち、直前までその形を維持していた筈の玉葱は頬張った瞬間に蕩けて芳醇な甘みを広げる。若干硬めに炊かれた米がその弾力で以て口腔内に留まる時間を延長したなら旨味は、多重奏を響かせる。またおそらくは空のどんぶりにそれ単独で垂らされてあったたれが、下層の米を柔らかく変質させ、食事の終盤に於いても箸の動きは鈍らない。見事に均衡のとれたてのひら大の幸福。
凝った趣向は作る側ではなく食べる側の満足を考えてのもの、なるほど精神主義を具現化した物質として確かに此処に在りながら神々しさなど欠片も持たない月並な存在感たるや至上、比して、下品極まる金子如き代物で贖う外にそれの対価とする術を持たぬ人間、無論己を含めた、の下等振りには全く呆れ返る。
たかが飯のこれは理想の形態。
或いはまた手くずし豆腐とからし菜の味噌汁が口腔と、鼻腔とに対し常に刺激的、然らば鋭敏な感覚は維持され食事の喜びも減じる事がない、その存在感たるや牛丼を惑星とすれば衛星、即ち両者は絶対的な関係。
掻っ食らってこそ相応しいこれはたかが飯、たどり着くまでに意識的に、或いは無意識のまま行った幾つかの選択が引き寄せたたまさかに必然の大正解、干し肉をかじったり芋を煮たりするだけの普段の食事ではとても味わえるものではない、人生の幸福。
などという一入の感動が食べっぷりにも表れていたのだろうか、それを見ものとでもするように、片付けを終えた女将が調理場を出て横並び席の椅子に腰掛ける、小虫に正対する。
きつね目をした細身の美人、更には上背もあって、本人が意図せぬところで他者に遠慮を強いるような雰囲気の持ち主。歳の頃は三十手前、小虫より一回りほど上に見える。
硬くはないが無表情、喜怒哀楽のいずれにも属さない感情が乗った視線、右斜め前から真っ直ぐ向けられるそれは言わば圧、なんらかの形で応えねばならぬ気にさせられ、小虫は、左手のどんぶりを気持ち掲げて見せて言う。
「美味いすよ。こんなに美味い牛丼は未だ嘗て食った経験がない」
果たして女将は無反応、なんでだよ、と内心では光の速度で突っ込んだものの、唇を一文字に引き結んで声は溢さない。三角巾を脱げばすとんと落ちる黒髪が背中に届き、女将の美人度と、同時に圧が更に増す。
箸とどんぶりがかち合うかちゃかちゃという音がなんとか間を埋めている、埋めているものとする。
米の一粒も残さずに食い終えたらごちそうさまを言って去る、早々に去る、ならば今の内にお代を用意しておくのが最善か、いや不自然極まりない荷物を担ぐ流れの内に組み込むのが賢明だろう平時と変わらず。
無心を装って箸と、顎に労働を強いる。やがて食べ終わる。果たして。
なにしろ自分は腕白なものですからご飯いやさ飯だけが興味の対象です、美味い飯なら尚更歓喜、金なぞ幾らでも払います払わせてくださいお幾らですかそうですか、安いですねーいやこんなに安くて美味しいなんて信じられないにわとりだかを食ってる隣の奴らはどいつもこいつも目が節穴ですな、ではご馳走様でした。失敬。
と、脳内で組み立てた然り気ない去り際を実行に移す段となり、小虫がどんぶりを卓に置いたその瞬間。
「昨晩、おばあさまが亡くなりまして」
と、女将が言った。独り言ちたのではなく聞かせようという意思を感じる声音、話し掛けられているのだと小虫は把握する。
だが。
無論、言葉の意味は分かる。彼女の祖母が昨晩死んだという事だ。実相が言葉の通りならどうした事態を云っているのかそれもまた理解が出来る、詰まり昨日の夜に彼女の祖母が息を引き取ったのだ。不明なのは今それを通りすがりの見知らぬ他人である自分に伝える意図だ。
埋めるのに男手が要るとかそういう事、え、殺したの、殺しとかそんなん、しそうかー、しそうに見えなくもないか思い詰めてやっちゃう感じかーまぁ死体埋めるくらいなら手伝うか飯美味かったし。
女将を、左に二人分ずらした辺りの虚空をぼんやりと眺めるようにしてなんとなく当人に注意を向ける、懐に警戒心をそっと抱く。なにしろ予測不能な女など恐くて堪らない。
「それはお気の毒に」
よもや。
「ですからわたくし、本日より冒険者をさせていただこうと思いまして」
何処へ連れていかれるのか分かったものではないのだから。
「これからお頼み申しますね」
だがしかしその出口、いやさ移動手段を小虫はよくよく知っていた。むしろ自分も多用する業、即ち問答無用の聞く耳持たずの言ったもん勝ちの決定事項の一方的な伝達、面倒な説明をすっ飛ばすに最善の策、だが時に相手を選ぶ必要はある。
或いはその横暴、喰らう側に立たされてみてもやはり鮮やかにして痛快、対して。
「なるほど理解した」
と、応える以外の正解に思い当たらず、目くじらを立てる向きも在るなどやはり信じ難い。
「避けて通っちゃ放浪者の名折れ、勿論、請けるけどね」
右のそれと比べれば健康な左目を、向けて、自分なりに相手に正対するよう首を傾げた小虫、そうして警戒心を可視化したみたいな、単眼からの睥睨。
「一応訊くけど、この店はどうすんだい」
「その日が訪れたら畳むと決めていました」
「ばあさん、が、世話を必要としてたとか」
「この数年はなにをするにしてもおばあさま優先、わたくしの心はいつしか事切れて、笑い方も忘れるような生活でした」
「だから夢でも抱いてなきゃ、てやつか」
本気度を見極めるべくの問答を仕掛けたものの、既に肚の決まったものが相手が故にその段取りもまるで無用、楽しくなる前に玩具を取り上げられた子供みたいに小虫が、口をへの字に曲げる。
「それでも一応、言っておくぜ」
卓の上、空のどんぶり辺りに視線を落として続ける。
「冒険者ってのは立場とか職業なんかじゃなく多分、手段で、それを行ってる内は生活なんざ入り込む余地もねえ。そうとも知らず思ってたのとは違う現実を目の当たりにして後悔する連中も実際、少なくない。これまでの事はともかく自分で操舵輪を握れるのなら生活をやってた方が安全だし健全だ、と、思う。あんた、今だって俺らにゃ得難いもんを手にしてんだぜ」
しかし女将は態度を変えない。
「これまでの空白が埋まるならどんな変化だって歓迎です」
それも小虫は承知していた。
「ちゃんと生活出来てる奴らに対しては劣等感しかないけどね、俺は」
現実逃避だって全うな手段の一つと数えられるべきだと、小虫は乞い願っていた。
「体の半分を落石にもっていかれて死ぬ事もある。へっ。不条理世界へようこそ」
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米も草履も竹篭も金になる商い物、だが、より高い完成度を目指したり効率を考えるなどの娯楽性が加わればそれらを作る過程は彼にとってただの作業以上の喜びを伴った。
ものを作って町で売る、そのついでの楽しみとして冒険者協同組合事務所前に掲出された賞金首の人相書きを眺め、繁盛店の隣で閑古鳥の鳴いている牛丼屋で飯を食う。或いはまた野良仕事中に発掘した球棒、その握りの下、底に丸く磨かれた淡い桜色の宝石が嵌められ、心が絶叫しているような時には打球が分裂する摩訶不思議なしろもので素振りなどをして作業の合間の気分転換を図る。
ともすれば平板で質素、それが農夫の暮らし振り。
勿論、町往く人々を眺めていれば自分のそれとは違う生き方があると知れた。豊満なるを享楽するものも在ると当然のように想像が出来た。だがそれは別世界の話、自らの役割として鶏の世話をし、野菜の成長を眺める日々は実に以て楽しく、そこに不満も疑問も生じる隙がなかった。
農夫は満ち足りていた。
或る日の明け方、作業前の準備の為に道具小屋に向かった農夫は、そこで行き倒れを発見する。正確にはまだ呼気が細く延びてはいたが、水の溜まって膨れた腹は山向こうの村の風土病の特徴、弱り方から見ても確実に、早ければ数刻の内に苦しみながら彼は死ぬ。
気配に気付いた行き倒れが農夫に視線を寄越しながら医者をと弱々しく呟く。農夫は町へと駆け、冒険者協同組合事務所に飛び込み、人相書き通りの賞金首を見付けたと申し出る。
果たして。
各地を転々としながら数年に亘り窃盗、婦女暴行、強盗殺人を繰り返した凶悪犯罪者がその行き倒れの正体、犯した罪の数に比例して膨らんだ賞金は、農夫の人生なら三回か四回分、再現可能な額に上った。
元より余剰は持たない身、ならばそれを公益の為に役立てようと思い立つ。人を集め、賞金首を捕らえる為の情報伝達網を町中に敷いた。彼らは意外と身近にいる、農夫のその考え方は伝達網が繰り返し成果を上げる事で証明された。
賞金は組織を構成するものたちに分配され、彼らは農夫を祭り上げる。
冒険者協同組合からも特殊特級冒険者同等の権利を与えられ、農夫は今や、立派な賞金稼ぎとなっていた。
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行き掛かり上、渋々の内にそうする選択をした自らの事情を前置きしつつ、小虫は、協同組合に所属するかどうかを女将に訊ねる。するとまたぞろ固い意思を目の色に滲ませた彼女から、その前にこの町で片付けておきたい事があると伝えられる。
「あんかけ唐揚げでも食ってみたい、とか」
「あの程度、わたくしにも簡単に作れます」
先導を任せて着いた先が町外れの女郎屋、目的は、牛丼屋の常連客だったという少女の身請け。
「金で解決してるとは言えなんかの火種になったりしねえだろうな、これ」
「健全な存続の為に界隈に於いては不文法が自然発生するものでしょう。自浄と抑止を期待しましょう」
少女には懇意にしている少年の在って、二人に店の権利を譲るとも言う。
「なにその美談、話が出来過ぎてて怖いんだけど」
じゃが芋の皮剥きも随分と上達した頃、両親が蒸発する。料理の腕前は傍若無人で口も手も出る祖母の指導の下、自然と上達する。店か町か、それとも家か、いずれその磁場に縛り付けられたまま押し付けられた役割を演じ続け、選択肢が目の前を過ったとしてそれも全て見落とし、日々に流される。
そして昨日、祖母が亡くなった。
「自分は今から解放されようってのにさっきの二人には店を任せるって、それ、なんつーか整合性なくね」
「飽く迄も譲ったのであって、続けなくたって構わないんです。少し意地悪な伝え方を、確かにしましたけど」
「いずれなにか飯を食わせる店として存続させて欲しいって、傍からもそう聞こえたし」
小虫が先を歩き、その三歩ほど後ろを女将が続く。
「やっぱ隣の中華屋に思うところがあったって証左なんじゃねえの、それ」
縦に並ぶ格好の二人が向かうのは、冒険者協同組合事務所。
「考える時間に充てて欲しいんです。籠の中に閉ざされて、抜け出すのは容易じゃない、その間は夢も希望も漠然としていた筈なんです。自分はどういう人間なのか、どうやって生きていきたいか、それが鮮明にならないと可能性も具体的には見えてこないと思うんです。だから今は考えて欲しいんです。選択肢を多く持つ為に落ち着いて考えて欲しいんです」
牛丼、と書かれた一枚だけ残された短冊と、それが貼られた壁のその他の形跡、その光景はなにをか象徴したものだった。
「へっ。へっへっへっ」
先ほど見掛けたのと同じ個体だろうか、生魚を銜えた猫が前方から、行き交う人々を障害物ともせず歩幅も自在に歩いてくる。その華麗なるに視線を留めつつ意識だけを後方に向けて、小虫が女将に問う。
「そういやまだ、名前を訊いてなかったな」
同時。
後頭部から背中一面に臭気の強いつぶて混じりの熱い糞尿を浴びせられたような感覚が襲う。視界では、銜えていた魚が突然に破裂するという事象に直面した猫が驚きの表情とともにその場で大きく跳躍し、何処ぞへと走り去った。
投じられたかして左方向から迫り来たなにか、或いは人を殺傷し得る器具の類い、それが事態を引き起こした。
見て、確認するまでもなく判る、背後に向けていた意識が気配を読み取ってそう云っている。猫は魚を食いはぐり、女将は籠から飛び立てなかった。
辺りが騒然となったのも束の間、ごった返していた人が周囲から瞬時に消える。もうもうと立つ砂埃が混乱のほどを伝えている。
顎から上の消失した状態で既に地に倒れている女将の屍と、己と。
左方、十五歩ほど向こうに軒を並べる建物の屋根の上に横一列に並ぶ集団と。
どうやら対峙させられた構図のいつの間にかあって、いやさ実相は、己が包囲網に捕らわれた形らしい。
「ひゃっはー」
集団の、中心人物だか首長だか、先に擦れ違った球棒を担いだ子供みたいな身なりの男が甲高く笑い御託を並べ始める、その内容から自分が賞金首として舞台上に引き摺りあげられたと判る。籐の椅子に足を組んで座する姿が実に太々しい、冒険者協同組合事務所で見た肥えた娼婦の姿が球棒を担いだ男の直ぐ隣にある。
概ね理解する。
女将は、自分の巻き添えとなりなんら必然性もなく徒爾に命を落としたのだと理解する。不条理などなく総ては己の落ち度に起因していると理解する。
自ら進んで犯したか、うそぶいたか、或いは他者からの訴えにより確定した罪過が、照射され、輪郭と重量が再現され小虫に伸し掛かる。
罪は赦されない、だからなにかで覆い隠してそれが目に入らなくするよう処さねばならない。見よ諸悪の根源を、そう言って嘲笑う晒れ首を黙らせ追い返さねばならない。
「うるっせえ黙れえっ」
予め用意していた台本を暗誦するみたいに調子好く自画自賛の文言を吐き出し続ける球棒を担いだ男に向けて一喝、続けて、ゆっくりと首を振り集団を睨め掛く。
「お前らに選ばせてやるよ」
小虫の、持ち上がった左の口角が頬を醜く歪める。右の眼窩に填まる赤い宝石が陽の光をぎらりと反射する。
「その得意満面なとっちゃん小僧を差し出すか、全員、俺に殺されるかだ」
そして集団に向かい悠然と歩み出す。
「精々賢く身を振りな」
誰かに決断を委ねるみたいに及び腰で様子を窺うものが殆どの中、集団の内の三人ほどが懐中に呑んでいたどすを構えるなどして反射的に交戦の姿勢を見せる、が、小虫が放った棒手裏剣を顔面に喰らい、敢えなく屋根から転がり落ちる。迫り来るは多勢に無勢な状況も彼我の善悪も問題としない暴戻なる悪漢、そうした認識に背中を蹴られたみたいに一斉に、集団が球棒を担いだ男を取り押さえに掛かる。肥えた女だけは仁義だの恩義だのと口にしてその選択が間違っていると喚き倒しているが、明日を人質に取られたものたちに昨日の約束など無意味、所詮は金に群がっただけの烏合の衆が実態と暴かれて果たして、球棒を担いだ男が押し出されて地に尻餅をつく。
喚きながら無闇矢鱈にそれが振り回している球棒を掴み取った小虫、そのまま振り下ろして握りの下、淡い桜色の宝石の填まった底で男の喉骨を粉砕する。
「命乞いの前に謝罪だろうが、雑魚が」
吐き捨てて睥睨する。そうしてから小虫が、球棒に填まる宝石を検める。己が右の眼窩に填まるそれと出自を同じくするものかどうか、しかし判断する方法の分からず結局、放り捨てる。
そうしておもむろに上体を前傾させながら左腕を伸ばし男の胸ぐらを掴み、果たして右の拳をその顔面、口の辺りに振り下ろす。二度三度、七度八度とそれを作業のように繰り返す。
血の飛沫が散る、皮膚が裂ける、肉が捲れ上がり折れた歯が口唇を突き破る。失禁する。小虫の右の拳もまた骨の剥き出しになっているがお構いなしにそれを、男の顔面に叩き付ける。脳震盪を起こし意識を失わせる事態を避け、同時に後悔をも許さず精神崩壊へと導くべくの行為、小虫の無表情がそう云って、男が苦しんでいる限りは続くと思わせる。止めようなどすれば忽ち矛先が自分に向く、そうなふうに考えてか皆息を殺して固まっている。その静寂の中に重く鈍い音の拡散し、殺伐とした時間の続く。人が人を殺す事態、その有り様が伝播する。
不安と恐怖、拒絶と嫌悪の視線を浴び続けてやがて悪鬼羅刹と成り果てる、そうした絶望の淵に在る小虫にしかし、救いの現れる。
女将が身請けした少女が騒ぎを聞き付け駆け付ける。抵抗も見せず正面から小虫に歩み寄る、その赤剥けた右の拳に上衣の裾を裂いて巻き付ける。頭を抱き寄せる。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
振り上げられた拳がゆっくりと下りる。胸ぐらを離され支えをなくし、地に後頭部をしこたま打ち付ける、その音が骨が骨を打つそれに似て響く。痛みは彼岸にあって顔面は焼かれたように熱い。特殊特級指定された身柄確保対象者は二種類に別けられる、即ち最悪の犯罪者と災厄の依り代と、生涯最後に目にするものとなるだろう彼はきっと後者に違いなかったのだと思う。手を出さなければよかった。呼気の、辛うじてまだあるが咽頭に溜まった唾の混じった血を吐き出す力のもう、絞り出すに叶わず、か、か、と弱々しく喘いだ後、ばたばたと痙攣してやがて男は息絶えた。
「へっ」
怒り心頭に発した。だが返報は造作なく、直ぐに感情が凪ぎ虚無を抱いた、その作用がところに自らの行為の利己性を浮き彫りにされ他者に対する情の欠落した人間性の、またぞろ疑わしく感じられる。
「へっへっへっ」
だから今は少女の言葉に縋ろう。
「ざまを見晒せ」
不条理に襲われ混沌に沈み込み、二度と戻って来られなくならないように。
====================
埋葬の場合は祖母とは別に。
そう言い添えて少女と、少女の身を案じて押っ取り刀で駆け付けたと言うそれと懇意の少年と、二人に女将の亡骸を預けて任せる。
「また町に立ち寄った際には僕らのお店にも来てくださいっす」
「その場合、一番は墓参りだけどな」
自分は男を、特殊特級冒険者同等と吹いた賞金稼ぎだったものの屍を、引き摺って共同組合事務所を再び訪れる。立派な見せ掛けを以てしての町の中心みたいな貌がやはり気に食わない、その建物を見て改めて思わされる。果たして窓口担当が先と同じ。
「あんたもこいつの仲間だったのかと疑って然るべきとして、正直どっちでもいいんだ。対個人として飯屋を教えてくれたからさ」
その彼の不運を気の毒と感じているような表情を小虫が見せる。
「悪いが面倒を押し付けるぜ」
男から奪った球棒を手渡しながら続ける。
「ひょっとしたら金になる、それでこいつの葬儀を頼まれて欲しい」
念の為にと財布も渡す。それを両の掌の上に乗せたまま、困惑と諦めのない交ぜになったようななんとも言い難い表情を窓口担当が見せるが、快諾が得られる想定などは元よりなく、小虫が更に、協同組合の登録者証を帳場台の上に置いて続ける。
「返納させてくれ。俺はやっぱそういうの、柄じゃねえや」
組合が斡旋する仕事を請けられない、近隣の宿や飲食店で優待特典を得られない、などの利点を喪う他、小虫の場合は特殊特級指定の身柄確保対象から外れるという事も勿論、ない。
詰まり冒険者でなくなる事、それを敢えて申し出る行為に特別な意味はない。ただそうする必要に駆られただけの事。これからも放浪を続けるにあたっての、心の持ちようとして。
その決断がところに対する自負の浮かんだような小虫のその表情が、人相書きと罪状と、それらに由来する先入観を以てしては想像もし得ない、悪心などとは無縁の純粋な雰囲気を備えて見え、面して、平静で居る事も難しく感じない。
「個人的には残念です。興味深い人物だと聞いていたので」
賞金首である一方、小虫は冒険者としての功績もまた多くはないが残している。協同組合内で治安維持に於ける実働を担う執行部、その構成員間でも彼の処遇については意見が分かれており、実力行使による速やかな排除が為されぬ特殊な事情もそこに起因する。
「あんた、きっと杓子定規な人間じゃないだろうから、言うけどさ」
乱れた思考も感情もまだ落ち着く気配のなく、自分が冷静ではないという自覚はあった。
「きっと避けられた事態なんだ。だけどその為には俺だけじゃなくあんたらにも課題があると思うんだ」
或いは先と違い窓口担当が怯えるばかりではなかったが故に変な期待を持ってしまったが、いずれ感傷か言い訳か責任転嫁か泣き言か、そんなものを吐露するばかりでは言葉はきっと意味を持たない。
「やっぱなんでもねえや」
身勝手さを誤魔化すみたいに独り言ちて窓口担当に背を向ける。ふと自分の右手が視界に入る。巻かれた布切れ、それこそが十全に伝えたかった事を物語ると悟る。
「それより、昼に教わった中華屋の隣に今日まで牛丼屋だった店があってさ。そのまま引き継ぐのか業態変えるのかは聞いてねんだけど、再開の暁には行ってみてやってくんねえかな」
そうして返答を待たず小虫は、冒険者協同組合事務所を後にした。
====================
暴力は連鎖する。
町は生活者が成り立たせている。
あてどのない放浪をまた続ける。
('25.9.23)
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