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4 呪いの財宝
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「なあ、知ってるか? 俺らの島に呪いの財宝が埋まってるってさ! 昼授業で行った港で聞いたんだ!」
キラキラと目を輝かせて言うのは、隣の家に住む幼馴染ジェフだ。誕生日に会ったのでもう14年も付き合っている。
学校帰りの15時。ジェフは今日、「ポーカーのし過ぎ」と口うるさく言う家族の文句では無く、下らなさそうな財宝の話をしたい気分のようだ。
「なんだよその馬鹿そうな財宝」
「亡霊が隠したとかで見付けた人は呪われるんだってさ、面白い迷信だろ? この島のどこかにあるらしいぜ。最近観光客が多いのは彼らがトレジャーハンターだからさ。財宝、第一発見者にまるっとくれるらしいよ」
「ふうん……」
だから今朝港に何人も見知らぬ人が居たのか、と納得するとジェフがにっと笑った。
「なあ、俺達も財宝探そうぜ! 呪いの財宝なんて興味ないがこの島は俺達の庭だろ。なのに余所者に発見されるのはつまらねえ」
「確かに。来たばかりの人間に見付けられるのは悔しいね。よし、じゃあ早速山に行こう!」
「よっしゃ! ああ、行こう行こう!」
次の瞬間、ジェフと僕はどちらからともなく走っていた。
日はまだ高く、夏は家に真っ直ぐ帰る気分にもなれない。財宝なんかより、ジェフとこうしている時間の方が僕にはよっぽど輝いていた。
村の反対側にある険しい山は、人が来ないからと僕らが良く遊ぶ場所だ。トレジャーハンターも勿論まだ居ない。
「今日の山は良く滑るなあ……」
「な。あ!?」
慎重に山肌を降りていると突然ジェフが叫んだ。
「あそこ! あんなところに穴ってあったっか?」
見てみると、人一人入れそうな穴が山の中腹に開いていたのだ。吸い込まれてしまいそうな黒さに底知れぬ物を感じる。
「いや無かった……けど、蛇が掘ったんじゃないか?」
「この島にあんな大きい蛇は居ねえ! 俺らを呼んでるんだ、きっとあそこに財宝が眠ってる、行ってみよう! 俺らが第一発見者だ!」
「そんなに都合良くあるかなあ……」
嬉々として急斜面を降りだしたジェフを見下ろしながら呟く。
だけど不思議なくらい急に現れたのは、きっとなにかあるからなのだろう。そんなのワクワクするに決まっている。
僕が先頭で、ジェフは後ろ。
その順番で泥まみれになりながら穴を進む。思っていたよりもずっと深く息苦しい。
不自然なくらい獣臭がしないな、と思った時急に空間が広くなってジェフが隣に並び――僕らは同時に息を飲んだ。
さすが亡霊が隠した物、ってところか。微かな光しか受けていないのに、袋や木箱から覗く大量の金銀宝石は眩い光を放っていたのだ。
「すご……」
「っ…………」
暫く僕らは財宝から目を離せなかった。眩い光に畏怖の念を抱いて、息苦しい事すら忘れていた。
「これ……報告しないと。僕が大人達を呼んで来るから、君はここで見張っててよ。……ジェフ、聞いてる?」
財宝から目を離さないジェフはどう見ても話を聞いていなかった。もう一度呼びかけると我に返ってようやく顔を上げる。
「あ、ああ、聞いてる、聞いてる。見張りだろ。……でもここ酸素が薄いから俺も入口付近に行かせてくれよ」
頷き僕達は入口へと戻っていく。
匍匐前進をしながら「あれだけ宝石があれば2人で割っても一生遊んで暮らしていけるな」と思ってにやついた。
「あれ山分けしようぜ」
「……あ、ああ。あれだけあればポーカーし放題だ」
「じゃあちょっと待っ――うわっ!?」
入口を出て急斜面をよじ登っていこうとした時――ジェフに後ろから押された。
体勢が崩れ、僕は急斜面を滑り落ちかける。慌てて穴の縁を掴み落下を免れる。
「な、何するんだ!? 止めろよ!!」
「そんなの決まってるだろ!! お前を殺して俺が財宝を独り占めする為さ!
「な……っ!?」
僕は驚きと恐怖から何も言えず、穴の縁を懸命に持ちただただ親友を見上げていた。
「お前の分まで俺が人生楽しむから」
血走った瞳を細めて笑い、僕の手を穴の縁から外し始めた。14年も一緒に居たのにジェフのこんな顔初めて見る。
「やっ、止め――っぐぁ!!」
この急斜面でそんな事されたら崖から落下する。ジェフの顔をした誰かに僕の声が届く事は無かった。
掴む物が無くなった僕はなすすべも無く落ちていき――崖下の木に腹を突き破かれ、痛みを感じる前に絶命した。
***
……これはきっとあの財宝の呪いだったのだろう。
だってあんなに不自然だったし、呪いの財宝は先頭だった僕が第一発見者だったから。
それでも僕だけが呪われるなんてあんまりだ。棺を抱いて号泣していた両親を見ると「あいつも呪われろ」って思う。
でも一つ救いがあって、どうしてか僕は鳥に転生したのだ。
食事には難儀もするけど鳥は何にも縛られず快適だった。大空はどこまでも自由で、なんかモテたし、生きていた時より正直楽しかった。
僕はあいつの側であいつがどうなっていくのか見届ける事にした。
僕の死は事故死で済まされ、財宝を独り占めしたジェフは高級車を何台も買い、島を出てカジノに入り浸って笑えるくらい豪遊していた。
驚いた事にあれだけあった財宝はあっという間に底を尽き、しまいには買ったばかりの高級車すら売っていた。
そこからのジェフは坂道を転がる一方だった。
18にして借金を負ったジェフは、カジノに行きたい余り強盗殺人を繰り返しだした。
標的は社長令嬢や御曹司。だからか警察よりマフィアが先に捕まえた。それは僕の死をジェフによる物だと怪しんだ両親が、ここぞとばかりにあいつをマフィアに売ったのも大きい。
暗くて風のない深夜。
ジェフは埠頭に連れられていた。失明するまで顔を殴られ四肢を切り落とされ、悲惨な姿になっている。
「い、痛い……やめ……」
僕がそう言っても止めようとしなかったジェフが何を言っているんだろう。当然黒スーツの男達はその訴えを無視して着々と準備を進め出す。
重しの詰まった樽に入れられたジェフが、海に沈む前に消え入りそうな声で言った。
「うう……あの財宝の、呪いだ……ちく、しょ……」
海の底に沈んでいった樽をガールフレンドと見下ろしながら僕は思った。
――財宝が本当に呪っていたのはジェフだったのかもしれない、ってね。
キラキラと目を輝かせて言うのは、隣の家に住む幼馴染ジェフだ。誕生日に会ったのでもう14年も付き合っている。
学校帰りの15時。ジェフは今日、「ポーカーのし過ぎ」と口うるさく言う家族の文句では無く、下らなさそうな財宝の話をしたい気分のようだ。
「なんだよその馬鹿そうな財宝」
「亡霊が隠したとかで見付けた人は呪われるんだってさ、面白い迷信だろ? この島のどこかにあるらしいぜ。最近観光客が多いのは彼らがトレジャーハンターだからさ。財宝、第一発見者にまるっとくれるらしいよ」
「ふうん……」
だから今朝港に何人も見知らぬ人が居たのか、と納得するとジェフがにっと笑った。
「なあ、俺達も財宝探そうぜ! 呪いの財宝なんて興味ないがこの島は俺達の庭だろ。なのに余所者に発見されるのはつまらねえ」
「確かに。来たばかりの人間に見付けられるのは悔しいね。よし、じゃあ早速山に行こう!」
「よっしゃ! ああ、行こう行こう!」
次の瞬間、ジェフと僕はどちらからともなく走っていた。
日はまだ高く、夏は家に真っ直ぐ帰る気分にもなれない。財宝なんかより、ジェフとこうしている時間の方が僕にはよっぽど輝いていた。
村の反対側にある険しい山は、人が来ないからと僕らが良く遊ぶ場所だ。トレジャーハンターも勿論まだ居ない。
「今日の山は良く滑るなあ……」
「な。あ!?」
慎重に山肌を降りていると突然ジェフが叫んだ。
「あそこ! あんなところに穴ってあったっか?」
見てみると、人一人入れそうな穴が山の中腹に開いていたのだ。吸い込まれてしまいそうな黒さに底知れぬ物を感じる。
「いや無かった……けど、蛇が掘ったんじゃないか?」
「この島にあんな大きい蛇は居ねえ! 俺らを呼んでるんだ、きっとあそこに財宝が眠ってる、行ってみよう! 俺らが第一発見者だ!」
「そんなに都合良くあるかなあ……」
嬉々として急斜面を降りだしたジェフを見下ろしながら呟く。
だけど不思議なくらい急に現れたのは、きっとなにかあるからなのだろう。そんなのワクワクするに決まっている。
僕が先頭で、ジェフは後ろ。
その順番で泥まみれになりながら穴を進む。思っていたよりもずっと深く息苦しい。
不自然なくらい獣臭がしないな、と思った時急に空間が広くなってジェフが隣に並び――僕らは同時に息を飲んだ。
さすが亡霊が隠した物、ってところか。微かな光しか受けていないのに、袋や木箱から覗く大量の金銀宝石は眩い光を放っていたのだ。
「すご……」
「っ…………」
暫く僕らは財宝から目を離せなかった。眩い光に畏怖の念を抱いて、息苦しい事すら忘れていた。
「これ……報告しないと。僕が大人達を呼んで来るから、君はここで見張っててよ。……ジェフ、聞いてる?」
財宝から目を離さないジェフはどう見ても話を聞いていなかった。もう一度呼びかけると我に返ってようやく顔を上げる。
「あ、ああ、聞いてる、聞いてる。見張りだろ。……でもここ酸素が薄いから俺も入口付近に行かせてくれよ」
頷き僕達は入口へと戻っていく。
匍匐前進をしながら「あれだけ宝石があれば2人で割っても一生遊んで暮らしていけるな」と思ってにやついた。
「あれ山分けしようぜ」
「……あ、ああ。あれだけあればポーカーし放題だ」
「じゃあちょっと待っ――うわっ!?」
入口を出て急斜面をよじ登っていこうとした時――ジェフに後ろから押された。
体勢が崩れ、僕は急斜面を滑り落ちかける。慌てて穴の縁を掴み落下を免れる。
「な、何するんだ!? 止めろよ!!」
「そんなの決まってるだろ!! お前を殺して俺が財宝を独り占めする為さ!
「な……っ!?」
僕は驚きと恐怖から何も言えず、穴の縁を懸命に持ちただただ親友を見上げていた。
「お前の分まで俺が人生楽しむから」
血走った瞳を細めて笑い、僕の手を穴の縁から外し始めた。14年も一緒に居たのにジェフのこんな顔初めて見る。
「やっ、止め――っぐぁ!!」
この急斜面でそんな事されたら崖から落下する。ジェフの顔をした誰かに僕の声が届く事は無かった。
掴む物が無くなった僕はなすすべも無く落ちていき――崖下の木に腹を突き破かれ、痛みを感じる前に絶命した。
***
……これはきっとあの財宝の呪いだったのだろう。
だってあんなに不自然だったし、呪いの財宝は先頭だった僕が第一発見者だったから。
それでも僕だけが呪われるなんてあんまりだ。棺を抱いて号泣していた両親を見ると「あいつも呪われろ」って思う。
でも一つ救いがあって、どうしてか僕は鳥に転生したのだ。
食事には難儀もするけど鳥は何にも縛られず快適だった。大空はどこまでも自由で、なんかモテたし、生きていた時より正直楽しかった。
僕はあいつの側であいつがどうなっていくのか見届ける事にした。
僕の死は事故死で済まされ、財宝を独り占めしたジェフは高級車を何台も買い、島を出てカジノに入り浸って笑えるくらい豪遊していた。
驚いた事にあれだけあった財宝はあっという間に底を尽き、しまいには買ったばかりの高級車すら売っていた。
そこからのジェフは坂道を転がる一方だった。
18にして借金を負ったジェフは、カジノに行きたい余り強盗殺人を繰り返しだした。
標的は社長令嬢や御曹司。だからか警察よりマフィアが先に捕まえた。それは僕の死をジェフによる物だと怪しんだ両親が、ここぞとばかりにあいつをマフィアに売ったのも大きい。
暗くて風のない深夜。
ジェフは埠頭に連れられていた。失明するまで顔を殴られ四肢を切り落とされ、悲惨な姿になっている。
「い、痛い……やめ……」
僕がそう言っても止めようとしなかったジェフが何を言っているんだろう。当然黒スーツの男達はその訴えを無視して着々と準備を進め出す。
重しの詰まった樽に入れられたジェフが、海に沈む前に消え入りそうな声で言った。
「うう……あの財宝の、呪いだ……ちく、しょ……」
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