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9 異世界転生者収容所
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谷底にひっそりと存在している黒いこの建物には、世界トップクラスの機密がある。
それは、異世界転生者を収容している事だ。
***
異世界転生者。
それはこの世界の一部の国の人間——主に元首——しか知らない秘密。
彼らはある日いきなり立入禁止の霊山の山頂で産声を上げる。一様に超能力を有しているので、この施設に収容する必要があるのだ。
危険な彼らを生かしているのには理由がある。
それは彼らは、15歳になると前世の記憶を思い出すからだ。人によっては未知の文明について話してくれるので、元首達はこぞって話を聞きたがり、用が済んだら世界の敵として殺すのだ。
「……ふう」
とある元首の息子ジョシュアは、常識が一切通用しないこの異世界転生者収容所で所長をしている。
医療にも優れたAIがあるので職員は自分しか居ない。ジョシュアの仕事と言えば巡回と監視と報告、稀にこの施設を訪れる者への対応――そして処理だ。
莫大な寄付をくれる強国の元首のおかげで自国は潤っている。出来の悪い息子を活用出来て父親は嬉しそうだ。
けれど、ジョシュアはこの仕事が嫌いだった。
特にこれから巡回に行く、もうすぐ処理をしなければならない5番の相手は、何時もジョシュアに吐き気を込み上がらせた。
背の高いトマト畑を抜けた先にあるのは、5番を収容している独立房。
現在この施設に収容されているのは5人。
全員が超能力対策で目をくり抜かれ四肢を切断されている。生後すぐにそうされては、さすがの超能力者も能力を扱いきれない。視覚障害も明らかな教育不足も、蘇った前世の記憶の前では関係ないのだ。
「……おはよう」
独立房の扉を開け、椅子の上で介助ロボットに朝食を食べさせて貰っている四肢のない少女に挨拶をする。
「あ、おはようございます。今日のコーンスープ美味しいですね!」
すぐに反応のあった人懐っこい声はどこまでも無邪気だ。きっと彼女は生きるのが楽しいのだろう。
「そうか。おかわりが欲しかったらロボットに言えよ」
「はーいっ!」
感情を殺すように淡々と言うと、少女は嬉しそうに答える。
頬を持ち上げる少女を見下ろしながら、何時の間にか顔を歪めていた事に気が付いた。この少女は自身の運命も、もうすぐ処理される事も少しも知らないのだろう。
やっぱり、5番の相手は吐き気がする。
巡回を終え、ジョシュアはPCと向き合った。
各人の様子を父親や元首に報告する為だ。PCに話した内容はAIが暗号化してまとめて報告してくれるので、この作業はすぐ終わる。
「はあ……」
最近溜め息ばかりついている。理由は分かっている。5番だ。
――5番は異世界転生者ではない。
5番は、莫大な寄付をくれる元首と、その国を侵略したい元首の妻との不倫の末に生まれた娘だ。
5番の存在が下手に明るみに出れば、自国が戦火に包まれる事になりかねないし、夫に殺されるのではないかと女は考えた。
おかげで不倫相手にしか頼れず、気付けば堕ろすには遅すぎたと言う。じゃあ殺すか、となったがそれは女が拒絶した。惚れた女に泣かれ、男も相当悩んだという。
だったらこれしかない、と5番は世界から隔離されたこの施設で産み落とされ、異世界転生者に仕立て上げられた。
名前も与えられなかった5番の素性を知っているのは自分と、不貞を働いた当人達だけ。
そして10歳になったら病死させる予定だ。それは5番の父親の独断で、自分にだけ伝えられた命令だった。
「……っ」
ジョシュアは目元を抑えて白い天井を見上げた。
だから5番は嫌なのだ。
5番の運命も、処理をするしか出来ない自分も、人間の勝手さも。全てが嫌いだと、吐き気が込み上げて来るから。
***
谷底にひっそりと存在している黒いこの建物には、世界トップクラスの機密がある。
それは、異世界転生者を収容している事だ。
それは、異世界転生者を収容している事だ。
***
異世界転生者。
それはこの世界の一部の国の人間——主に元首——しか知らない秘密。
彼らはある日いきなり立入禁止の霊山の山頂で産声を上げる。一様に超能力を有しているので、この施設に収容する必要があるのだ。
危険な彼らを生かしているのには理由がある。
それは彼らは、15歳になると前世の記憶を思い出すからだ。人によっては未知の文明について話してくれるので、元首達はこぞって話を聞きたがり、用が済んだら世界の敵として殺すのだ。
「……ふう」
とある元首の息子ジョシュアは、常識が一切通用しないこの異世界転生者収容所で所長をしている。
医療にも優れたAIがあるので職員は自分しか居ない。ジョシュアの仕事と言えば巡回と監視と報告、稀にこの施設を訪れる者への対応――そして処理だ。
莫大な寄付をくれる強国の元首のおかげで自国は潤っている。出来の悪い息子を活用出来て父親は嬉しそうだ。
けれど、ジョシュアはこの仕事が嫌いだった。
特にこれから巡回に行く、もうすぐ処理をしなければならない5番の相手は、何時もジョシュアに吐き気を込み上がらせた。
背の高いトマト畑を抜けた先にあるのは、5番を収容している独立房。
現在この施設に収容されているのは5人。
全員が超能力対策で目をくり抜かれ四肢を切断されている。生後すぐにそうされては、さすがの超能力者も能力を扱いきれない。視覚障害も明らかな教育不足も、蘇った前世の記憶の前では関係ないのだ。
「……おはよう」
独立房の扉を開け、椅子の上で介助ロボットに朝食を食べさせて貰っている四肢のない少女に挨拶をする。
「あ、おはようございます。今日のコーンスープ美味しいですね!」
すぐに反応のあった人懐っこい声はどこまでも無邪気だ。きっと彼女は生きるのが楽しいのだろう。
「そうか。おかわりが欲しかったらロボットに言えよ」
「はーいっ!」
感情を殺すように淡々と言うと、少女は嬉しそうに答える。
頬を持ち上げる少女を見下ろしながら、何時の間にか顔を歪めていた事に気が付いた。この少女は自身の運命も、もうすぐ処理される事も少しも知らないのだろう。
やっぱり、5番の相手は吐き気がする。
巡回を終え、ジョシュアはPCと向き合った。
各人の様子を父親や元首に報告する為だ。PCに話した内容はAIが暗号化してまとめて報告してくれるので、この作業はすぐ終わる。
「はあ……」
最近溜め息ばかりついている。理由は分かっている。5番だ。
――5番は異世界転生者ではない。
5番は、莫大な寄付をくれる元首と、その国を侵略したい元首の妻との不倫の末に生まれた娘だ。
5番の存在が下手に明るみに出れば、自国が戦火に包まれる事になりかねないし、夫に殺されるのではないかと女は考えた。
おかげで不倫相手にしか頼れず、気付けば堕ろすには遅すぎたと言う。じゃあ殺すか、となったがそれは女が拒絶した。惚れた女に泣かれ、男も相当悩んだという。
だったらこれしかない、と5番は世界から隔離されたこの施設で産み落とされ、異世界転生者に仕立て上げられた。
名前も与えられなかった5番の素性を知っているのは自分と、不貞を働いた当人達だけ。
そして10歳になったら病死させる予定だ。それは5番の父親の独断で、自分にだけ伝えられた命令だった。
「……っ」
ジョシュアは目元を抑えて白い天井を見上げた。
だから5番は嫌なのだ。
5番の運命も、処理をするしか出来ない自分も、人間の勝手さも。全てが嫌いだと、吐き気が込み上げて来るから。
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