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25 熱々の恋人達
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「私、彼の事で知らない事なんて無いのぉ!」
そう鼻を高くして言うのは、先程からテーブル席でふんぞり返っている酔った女子大生だった。どうやら彼氏さんと休日を満喫し、ここ川崎でお友達と合流したらしい。
「ひゅーっ、相変わらず熱々だねえっ!」
「まあね~!」
向かいのお友達の言葉に女子大生は誇らしげだ。彼女の大きな声は小さな居酒屋に良く響いている。
「お待たせ致しました、ビールです」
仲が良くて何よりだ、仕事をしながら私は内心ホクホクしていた。
にしても彼ら飲むペース早いな。噂の彼氏さんはトイレに吐きに行ってるし。
「だって私彼の事大好きだからさ~! 彼の事で知らない事なんて無いのよぉ! 毎日電話してるし~足の付け根にほくろがある事も知ってんだからぁ!」
絶賛熱々中の女子大生がンフフとぶっちゃけると、きゃーっと嬉しそうな悲鳴が向かいから上がる。うーん酔ってらっしゃる。
と。
「もぉ……無理ぃ……ひっく」
「あ、お帰り~っ!」
千鳥足の彼氏さんが帰ってきたのだ。黄色い声で彼女が迎え、隣の席に座ろうとし──直前でバッタリ倒れた。
えっ。
「きゃっ!? ちょっとぉ大丈夫っ!? って寝ちゃった……も~」
彼女さんは慌てて立ち上がり、恋人の様子を確かめ溜め息を吐く。
「ねぇ、ねぇ、起きてよ~」
「こりゃも~駄目だなあ! おい、こいつ家に連れて帰ってやれよー!」
お友達が彼女さんに介抱をお願いしている。うんうんそれが一番だよね。従業員としても是非そちらでお願いしたい。
しかし。
「やだー! 私実家だもんっ」
彼女さんは即座に拒否をする。
「あー。って、こいつも実家だっけ? 送ってってはあげよう? こいつの家どこ?」
他の友達が仕方無さそうに提案すると、はっと彼女さんの顔が青褪めていく。みるみると。酔ってるから……では無さそう。
「えっと…………し……知らない………」
他の客の笑い声でかき消されてしまいそうな程、それは小さい声だった。
えっ。
「へっ? あんなに熱々なのに?」
お友達も彼女の反応に驚いて目を丸くしている。だよね。
「新横浜のマンションだってのは知ってるよ!! でも……新横浜のどこに住んでるかまでは……知らない……」
最初は逆ギレ気味に言っていた彼女さんの声が、次第に小さくなっていく。彼氏さんの隣で床にへたり込みながら、罰が悪そうに目が泳いでる。
思ってもいない流れだったからか、お友達の次の質問は恐る恐る紡がれた。
「じゃ……じゃあ、実家の電話番号は知ってる……よね……? 毎日電話してるんだもんね?」
その質問に彼女さんは唇をわなわなと震わせ、目に涙の膜を張り出した。店内は何時の間にか開店前のように静まり返っている。
「だからっ知らないってぇ……彼とはいつもスマホで話してるし!」
静かな店内、涙目の女子大生の声は良く響いた。周囲からの視線に耐えられない、とばかりに彼女さんは俯いてしまう。そこに大声で話していた時の勢いは無い。
まあ……あれだけ大声で言っておいてこうだもん。実は何にも知らなかったの、居心地悪いよね。
結局彼氏さんはお友達の家に一泊する事になったらしい。彼女さんはあれから店を出るまで、赤い顔でずっと俯いていた。
恋は盲目って本当だな?
そう鼻を高くして言うのは、先程からテーブル席でふんぞり返っている酔った女子大生だった。どうやら彼氏さんと休日を満喫し、ここ川崎でお友達と合流したらしい。
「ひゅーっ、相変わらず熱々だねえっ!」
「まあね~!」
向かいのお友達の言葉に女子大生は誇らしげだ。彼女の大きな声は小さな居酒屋に良く響いている。
「お待たせ致しました、ビールです」
仲が良くて何よりだ、仕事をしながら私は内心ホクホクしていた。
にしても彼ら飲むペース早いな。噂の彼氏さんはトイレに吐きに行ってるし。
「だって私彼の事大好きだからさ~! 彼の事で知らない事なんて無いのよぉ! 毎日電話してるし~足の付け根にほくろがある事も知ってんだからぁ!」
絶賛熱々中の女子大生がンフフとぶっちゃけると、きゃーっと嬉しそうな悲鳴が向かいから上がる。うーん酔ってらっしゃる。
と。
「もぉ……無理ぃ……ひっく」
「あ、お帰り~っ!」
千鳥足の彼氏さんが帰ってきたのだ。黄色い声で彼女が迎え、隣の席に座ろうとし──直前でバッタリ倒れた。
えっ。
「きゃっ!? ちょっとぉ大丈夫っ!? って寝ちゃった……も~」
彼女さんは慌てて立ち上がり、恋人の様子を確かめ溜め息を吐く。
「ねぇ、ねぇ、起きてよ~」
「こりゃも~駄目だなあ! おい、こいつ家に連れて帰ってやれよー!」
お友達が彼女さんに介抱をお願いしている。うんうんそれが一番だよね。従業員としても是非そちらでお願いしたい。
しかし。
「やだー! 私実家だもんっ」
彼女さんは即座に拒否をする。
「あー。って、こいつも実家だっけ? 送ってってはあげよう? こいつの家どこ?」
他の友達が仕方無さそうに提案すると、はっと彼女さんの顔が青褪めていく。みるみると。酔ってるから……では無さそう。
「えっと…………し……知らない………」
他の客の笑い声でかき消されてしまいそうな程、それは小さい声だった。
えっ。
「へっ? あんなに熱々なのに?」
お友達も彼女の反応に驚いて目を丸くしている。だよね。
「新横浜のマンションだってのは知ってるよ!! でも……新横浜のどこに住んでるかまでは……知らない……」
最初は逆ギレ気味に言っていた彼女さんの声が、次第に小さくなっていく。彼氏さんの隣で床にへたり込みながら、罰が悪そうに目が泳いでる。
思ってもいない流れだったからか、お友達の次の質問は恐る恐る紡がれた。
「じゃ……じゃあ、実家の電話番号は知ってる……よね……? 毎日電話してるんだもんね?」
その質問に彼女さんは唇をわなわなと震わせ、目に涙の膜を張り出した。店内は何時の間にか開店前のように静まり返っている。
「だからっ知らないってぇ……彼とはいつもスマホで話してるし!」
静かな店内、涙目の女子大生の声は良く響いた。周囲からの視線に耐えられない、とばかりに彼女さんは俯いてしまう。そこに大声で話していた時の勢いは無い。
まあ……あれだけ大声で言っておいてこうだもん。実は何にも知らなかったの、居心地悪いよね。
結局彼氏さんはお友達の家に一泊する事になったらしい。彼女さんはあれから店を出るまで、赤い顔でずっと俯いていた。
恋は盲目って本当だな?
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