見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三六四

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 ファズはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
何が可笑しいんだ?

「ところでさ、このお嬢ちゃんはアンタの専属かい?」

 ファズはキロをアゴで指した。

「どう言う意味だ?」

「聞いた通りの意味さ。俺もこのお嬢ちゃんに付いて欲しくてね」

 キロに?
俺はキロを見る。
うつ向いて少しも顔を見ようとしない。

「……ファズと言ったか。アンタこの子を知ってるのか?」

 ファズは両手を広げて大袈裟に頷いた。

「そりゃあまあね。アンタと違って俺はこの街に定着して長いんだ。この辺りで俺の知らない事はないよ」

「……そうか。だが悪いな。今はこの子は俺の指名だ諦めろ」

「なぁんだアンタも好きな口かい?この嬢ちゃんは良いよなあ。可愛いしさ、明るくて元気で、それでいて健気で、そのギャップに萌えるんだよ」

 この男……
見るとキロは自分のスカートをぎゅっと握り締めていた。

「ねえね……」

 弟たちもキロに何らかの異変を感じ取ってた。

「おい」

 俺の呼び掛けにファズは、からかうようにおどけて返事をした。

「なんだい?」

「そのくらいにしておけ」

「どうしてだ?アンタだって俺と同じ穴のムジナだろう?」

「今後キロは客には付かない。だからアンタのテーブルにも付かない。諦めろ」

「はあ?アンタのテーブルに付いてるじゃねえか。独り占めしようなんてズルいぜ?」

 ファズは俺の顔に自分の顔を限り無く近付けた。

「俺の方がこの街も、店も、長いんだ。もちろんキロもな。でしゃばるなよ」

 目の奥に殺意が見える。
脅しじゃないな。

「お前は脅しても意味が無さそうだな」

「へっ、判ってるなら話は早い。とっとと譲ってどっかへ行きな」

「脅しが意味無いなら本気だと判らせるまでだ」

 俺はいきなりファズの胸ぐらを掴まえる。

 !?

 しかし、一瞬にしてファズはそれをかわして間合いの外へ退いた。

「へえ、素早いね。アンタの噂を聞いてなけりゃ、油断してただろうな」

 やはりこの前の騒ぎは伝わっているようだな。
しかし、俺の動きを読んでいたとは。
判っていても逃がさないつもりだったんだが。

「お前、表へ出ろ」

 俺はゆっくり立ち上がった。

「嫌だね」

「なに?」

「わざわざ相手の望む事に付き合わないってのが俺のポリシーだ」

 コイツ。

「俺はどこでも構わないんだがね。相手の嫌がる事こそに勝機があるんだよ」

 戦い馴れでは無い。
これは喧嘩馴れか。

「良いだろう。どこでやっても俺には勝てないと言う事を判らせる必要がある」

 それが今後キロを守る事にもなる。
そして、俺の名前を広める役にも。
せいぜい大物を釣る餌になってもらおうか。

「キロ、弟たちと奥へ引っ込んでろ」

 俺がそう言うと、キロより先に周りの客と女たちが一斉に逃げ出した。
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