見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四〇八

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 男が怯んだ。

「正義の味方だと言ったな。ならば俺の敵と言う事で良いんだな?」

 俺は静かに言った。
キロの姉が後ずさる。

「なんだと、どう言う意味だ!」

 男が精一杯虚勢を張った。
だが声が微妙に震えている。

「俺たちは正義の味方の反対。世界征服を目論む悪の秘密結社だ。当然正義の味方の敵と言う事になる」

 俺はそう言いながら一歩前に出た。
頭に当てられた棒を掴まえる。

「くそ、離しやがれ!」

 男が棒を取られまいと足掻いた。

 バキッ!

 力を込めて棒を握りしめる。
黒木の棒は握った所から折れた。

「!?」

 全員が息を飲む音が聞こえた。

「さあ、来い。次はどいつだ?」

 男たちが後ずさる。

「逃げられると思うか?俺はコヨーテよりも速く走るぞ」

 嘘ではない。
大抵の陸上動物や、速さを強みにしているモンスター以外なら、俺は勝つ自信がある。

「……く!」

 男が忌々しげに眉を歪めた。
俺はその男の胸ぐらを掴まえる。

「ひ……!」

「誰の手先だ?成金マイヤードか?それともスラッグと言う奴か?まさかバッケスの野郎じゃあるまいな?」

 俺は男を問い詰めながら前後に揺さぶった。

「し、知らん!何の事だ!」

 男は両目をつぶって叫んだ。
そんな言い訳が通用するか。

「そうか。だったら一つゲームをしよう」

「な、え?ゲ、ゲーム!?」

 俺は男を子供のように両手で抱えあげた。
男の両足が宙に浮く。

「や、やめろ!何をする!」

「今からお前をぶん投げる。そうだな、あの建物の屋根に向かってだ」

「は?」

「上手く着地しろよ。失敗すると怪我するぞ」

 男は訳が判らず目を白黒させた。

「三回成功したら見逃してやる。どんどん高くなるからな。頑張れよ」

「あ、ちょ、ちょっと!?」

 ぶんっ!

 俺は男を無視して思い切りぶん投げた。

「ひゃいやああああああ!」

 男は聞いた事の無いような声で飛んでいった。
周りの男たちも、キロの姉も、一様に男の行方を目で追った。

 どてっ

 男は少し離れた建物の屋根に尻餅をついて着地した。

「ははっ!成功だな。じゃあ次いくぞ、あと二回だ」

 俺は男の居る屋根へとジャンプすると、ひとっ飛びに追い付いた。

「ひ!」

 俺は構わず男を抱えあげる。

「ちょ、ちょっと待って!やめて!」

「よっ!」

 俺は男を無視して、再びぶん投げた。

「ぎゃあああああああ!」

 今度は割りと普通の悲鳴だな。
俺はそんな事を思いながら男の行く先を見守った。
目標はこのスラムで一番高そうな建物だ。
ここから一ブロック向こうに建っている。
四階建てで、てっぺんに監視塔らしき部分が付いていた。

 男はその監視塔の上へと落下した。

「ひいいいいいい!」

 男はバウンドして落ちそうになるのを必死でしがみつき、何とかその上に留まった。

「おお!やるじゃないか!」

 俺は手を叩いて喜んだ。
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