見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四〇九

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 成り行きを見守る仲間とキロの姉が、口を開けたまま監視塔を見上げていた。

「お、おい!」

 誰かが言うと、全員が我に返った。
そして誰が言うでもなく、男の居る建物へと走り出す。
俺は何だか面白くなってきた。
連中の後について、最後に歩き出す。

「た、たた、助けてくれー!」

 建物の下まで行くと、既に人集りが出来ていた。
みんな口々にあれは何だと男を見上げている。

「よお、なかなかやるじゃないか。いよいよラストだな!これに成功すれば晴れて無事に帰る事が出来るって訳だ」

「じょ、じょじょ冗談じゃねえ!」

 男が絶叫する。
だが俺はそんな男を一切無視した。

「さあ、最後はあそこだ」

 俺は遠くに見えるひときわ高い建物を指差した。
群衆が何かと指差した先を見る。
そこにはこの帝国内でも大きな建物の一つ、ユピテル教会が建っていた。
この国の第一皇子である、ユピテルの名を冠した巨大な教会である。
目測で一八〇メートル以上の高さはある。
十二の塔が集まり、真ん中の一番高い塔のてっぺんに巨大な十字架が建っている。
敷地面積だけでも四〇〇平方メートルはあるだろう。
教会でなければこの大きさは許されまい。

 ここから一〇〇メートル以上先の富裕層地域に建っていても、その異様な巨大さはここからでもよく見える。

「おい、何の事だ?」

「さあ?教会がなんだってんだ?」

 群衆は訳が判らず様々に噂をしたが、本人の顔色は真っ青になっている。
ここからあそこまで、ぶん投げられる事を理解しているのだから無理もないが。

「ちょ、ちょっと待って。死んじまうよ……」

 男が泣きべそをかいて訴えた。

「何を言うんだ。あのてっぺんの十字架にしっかり掴まれれば死ぬ事なんてないさ。心配するな、俺は失敗しない。お前が失敗しない限り必ず成功する」

 俺は胸を張った。
言いながら、まるでオオムカデンダルのようだと思った。
いつの間にか影響されてきているのか?

「冗談じゃねえ、割りに合わねえよ!」

「お前が売った喧嘩だろ?最後まで根性見せてみろ」

 俺は急に冷静になると冷たく言い放った。
そしてキロの姉に向かって続ける。

「あんな奴らと付き合ってたら、お前もいつかこんな目に遭う」

 キロの姉の目が大きく見開かれた。
俺はそれには構わず、監視台に向かってヒョイヒョイと屋根を登っていった。
群衆から、おおっとどよめきが起きる。

 すたっ

 そして男の居る監視台に辿り着くと、男をもう一度抱えあげた。

「ま、待ってくれ。もういい、俺の敗けで良い。降参だ、許してくれ」

 男が涙を流して懇願した。
モヒカン頭とこれほどマッチしない光景も無いだろう。
鼻水くらい拭けよ。
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