見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四六四

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「はぁ……」

 イスガン帝国第二皇子ソルは、深くため息をついた。
部下からの報告に頭を痛めていたからだ。

 西の繁華街で、住民に不穏な動き有り。
最初、住民の一斉蜂起をうかがわせる内容に、ソル皇子も緊張した。
第一理由が判らなかった。
今までそんな噂も素振りも一切無かったのだ。

 あの地区はいわゆる反社会的な暴力組織や犯罪組織が巣食う、裏社会の街だ。
それぞれがしのぎを削る中、三すくみとも言うべき絶妙のバランスでその平和を保っていた。
それを手引きしたのは帝国であるが、そのバランスが遂に崩れたのだ。

 これは一大事である。
なぜ崩れたのか。
何者かの横槍か。
一瞬にして様々な憶測が、ソル皇子の脳裏をよぎった。
しかし、その次の言葉に愕然としたのだ。

『例の新興盗賊団、ネオジョルトなるものの仕業のようです』と。

 ネオジョルト。
その名を思い出して、ソル皇子は三たびため息をついた。

 あれとは事を構えてはならない。
あれはこの世の者たちでは無い。
ドラゴンの眷族である飛竜を倒すような奴らなのだ。
まともにぶつかっては、帝国そのものの存亡にかかわる。
ソル皇子はそう考えていた。

 しかし。
しかしだ。
そうは言っても、帝国の領土を勝手に独立させるなどと言う事も、認める訳にはいかない。
そんな事になったら、他の地域も独立を叫び始める可能性もある。
それはそれで、やはり帝国存亡の危機に違い無かった。

 いったい、何が起こっているのか。
なぜそんな事になったのか。
兄上は、父上はこの事をご存知なのか。

 いや、知れては余計に話がこじれてしまう。
まず間違いなく戦争のシナリオに突き進むのは目に見えている。
イスガンは『帝国』なのだ。
帝政を名乗る以上、民衆に対する譲歩は無い。
ましてや、その後ろ楯がネオジョルトならばなおさらだ。

 皇帝が新興盗賊団に譲歩など、絶対の絶対にあり得ないのだ。
この際、本当は盗賊団などでは無く、世界征服を企む秘密結社なのだと言う事など、どうでも良かった。

「仕方が無いのぅ……」

 ソル皇子はそう呟いて、側近を呼んだ。

「お呼びでございましょうか」

 側近がうやうやしく頭を垂れる。

「レオと言う男に会いたい。呼んでくれるか」

 側近は腰を折ったまま、頭だけを上げてソル皇子を見た。

「……例の冒険者でございますね?」

「うむ。なるべく早く頼む。時間がない」

 ソル皇子の言葉に側近は再び頭を下げた。

「判りました。今すぐに手配致します」

「頼んだぞ。それと兄上と父上には内密にな」

「心得ております」

 側近はそう言うと、サッと部屋を出て行った。

「まだ兄上は諦めておらぬと言うのに……今度は何をやらかすつもりじゃ……?」

 ソル皇子はまたため息をついた。
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