見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四七二

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「お前は誤解している。武力による侵略だけでは世界は獲れん。力で挑めば必ず抵抗されるからな」

 それは確かにそうなんだろう。

「それでも我々なら征服は可能だ。だが、その維持は面倒になる。人々の心の中に火種はくすぶり続け、反逆者が地下に潜ってレジタンス活動を始める。そうしたら今度はそこに力を割かなければならない。全体的な生産性や国力自体が低下する。つまり、みんなやる気を無くすって訳だ」

 やる気だと?
悪の秘密結社の口からやる気とは。
俺は少し笑ってしまった。

「モチベーションと言えば判るか?強い国と言うのは国民のモチベーションが高いんだ。希望がなければモチベーションは生まれない。絶望の国ではモチベーションは生まれないんだ」

 それは判る。
圧政に民が苦しむ国は少なくない。
そんな国はまず間違いなく強制的に何かを国民に強いている。
そうでなければ国民が協力しないからだ。


「まあ、お前はしがない冒険者だから、能天気にモンスターを追っかけてりゃ良かったんだろうが、世界はそんなシンプルではないって事だ」

 しがない冒険者を舐めすぎだろ。
散々こき使いやがって。
こっちは一味になってからも、モンスターばっかり相手にさせられてるぞ。

 と、そんな事は言えないが、俺は黙って話を聞いていた。

「店舗やあらゆるネオジョルトの施設管理は、ほとんど管理人がやってくれる。まさに名前通りだな。後は現場で数人の客の応対が出来ればそれで問題ない。あのお前に懐いてるクロも働きたいと言ってるぞ」

 クロじゃない。
キロだ。
犬みたいに言うんじゃねえ。

「ま、子供でも勤まる簡単なお仕事だ。使ってやれ」

 キロの姉はどうするんだろうか。

「あれは好きにさせておけ。仲間とスラムを脱出すると言っていたからな。あれだけ金をやったんだ。自分たちで何とかするだろ。たぶんな」

 オオムカデンダルは興味無さ気にそう言った。

「さて、話はこのくらいにしてくれ。やる事は山積みだ」

 蜻蛉洲が会話を打ち切った。

「明日からは畑仕事をやりたい奴らと、商売したい奴らと、それぞれに仕事を与える。あと製造業もな」

 製造業?

「商品を作らせるんだよ。売る物がなきゃ始まらん」

 製造からやるつもりなのか。

「当然だ。高品質だと言っただろう。この世界の連中には作れないような高品質だ。我々が作るしかあるまい」

 高品質の何を作る気だ。
日用品だぞ。

「手始めに紙だ。製紙だな。あと紡績と生地の生産。そこから縫製までだ」

 聞けば聞くほど訳が判らん。
悪の秘密結社が、製紙と紡績?
生地を作って縫製までするのか。
服飾でも始めるつもりか。
だったらオレコの就職は決まりだな。

「なるほど。それは良いな」

 蜻蛉洲は本気でそう言った。
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