602 / 826
六〇二
「万が一とな?」
「はい。陛下もご存知かと思いますが、例のネオジョルトなる盗賊紛いの者共です」
「……それがケーキの元と言うのか?」
皇帝は訝しげに九条晃とソル皇子を見比べた。
「まだそこまでは断言できませんが、可能性は無くはありません。食べてはならないとまでは申し上げませんが、ハッキリするまではお控え下さい」
九条晃の言葉に、ユピテル皇子も口を揃える。
「その通りです。この晃はネオジョルト討伐軍の隊長でもあります。陛下、私と晃の陛下と帝国を心配するこの気持ちを、どうか汲み取っては頂けませぬか」
そう言われれば父親として無下には出来まい。
状況は益々苦しくなった。
「ソルよ」
ユピテル皇子がソル皇子に尋ねる。
「そのケーキとこーひーなる物の出所さえ明かせば疑惑は晴れるのだ。問題無ければ陛下も心置無く好物を食せると言うもの。どうだ、出所を明かしてみよ」
俺にはどうする事も出来ない。
九条晃に察知されれば、たちどころに透明化は意味を失ってしまう。
一対一でも厳しいのに、敵のど真ん中で戦闘になるのは絶対に避けなければ。
ソル皇子は少しも表情を崩さず、取り乱さず、平然とたたずんでいた。
「どうしたソルよ。答えられぬか?」
ユピテル皇子がソル皇子に迫る。
九条晃は皇帝に語り始めた。
「私は食べた事があります。とても美味しい事も知っています。ですが、あれをこの世の中で作るには相当な難易度を要します。いや、ハッキリ言えば不可能なのです」
「……だが、実際に毎日食しておるぞ。余だけではない。この城の全ての人間がだ。全ては幻か幻術の類いだ等とでも言うつもりか?」
「いえ、そうではありません。その不可能な物を作る技術を持つ者こそ『ネオジョルト』だと申し上げているのです」
「ふん、ネオジョルトとは菓子屋か何かか。それを恐れるとは晃よ、そちも随分と臆病よの」
皇帝が不満を皮肉に変えて、九条晃を揶揄した。
「陛下。この世の『誰も作れない物を作る』、そう言う力を持っている、それが危険だと申し上げております」
「もう良い。下がれ」
皇帝は明らかに機嫌を損ねた。
よし、危なかったが首の皮一枚残った。
余計な反論をせず、落ち着いて過ごしたソル皇子はやはり見事だ。
「陛下!今一度お考え直しを!」
「くどい!」
皇帝はユピテル皇子の言葉を退けた。
「ソル皇子。どうしても出所を明かしては頂けないのですか?」
九条晃が突然標的をソル皇子に変えた。
「そう言う約束じゃ。約束を違えるのは余は好かぬ」
「そうですか……所で、先程から妙な気配を感じませんか?」
「妙な気配?」
ソル皇子が聞き返す。
「我々以外に何者かが潜んでいる。そんな気配です」
何を言い出す気だ。
俺は心臓が飛び出しそうになった。
くそ、心音さえ聞かれてしまいそうで、居ても立っても居られない。
移動すればわずかな足音さえも察知されてしまう。
俺は息を殺して、ただじっと身を潜めた。
「はい。陛下もご存知かと思いますが、例のネオジョルトなる盗賊紛いの者共です」
「……それがケーキの元と言うのか?」
皇帝は訝しげに九条晃とソル皇子を見比べた。
「まだそこまでは断言できませんが、可能性は無くはありません。食べてはならないとまでは申し上げませんが、ハッキリするまではお控え下さい」
九条晃の言葉に、ユピテル皇子も口を揃える。
「その通りです。この晃はネオジョルト討伐軍の隊長でもあります。陛下、私と晃の陛下と帝国を心配するこの気持ちを、どうか汲み取っては頂けませぬか」
そう言われれば父親として無下には出来まい。
状況は益々苦しくなった。
「ソルよ」
ユピテル皇子がソル皇子に尋ねる。
「そのケーキとこーひーなる物の出所さえ明かせば疑惑は晴れるのだ。問題無ければ陛下も心置無く好物を食せると言うもの。どうだ、出所を明かしてみよ」
俺にはどうする事も出来ない。
九条晃に察知されれば、たちどころに透明化は意味を失ってしまう。
一対一でも厳しいのに、敵のど真ん中で戦闘になるのは絶対に避けなければ。
ソル皇子は少しも表情を崩さず、取り乱さず、平然とたたずんでいた。
「どうしたソルよ。答えられぬか?」
ユピテル皇子がソル皇子に迫る。
九条晃は皇帝に語り始めた。
「私は食べた事があります。とても美味しい事も知っています。ですが、あれをこの世の中で作るには相当な難易度を要します。いや、ハッキリ言えば不可能なのです」
「……だが、実際に毎日食しておるぞ。余だけではない。この城の全ての人間がだ。全ては幻か幻術の類いだ等とでも言うつもりか?」
「いえ、そうではありません。その不可能な物を作る技術を持つ者こそ『ネオジョルト』だと申し上げているのです」
「ふん、ネオジョルトとは菓子屋か何かか。それを恐れるとは晃よ、そちも随分と臆病よの」
皇帝が不満を皮肉に変えて、九条晃を揶揄した。
「陛下。この世の『誰も作れない物を作る』、そう言う力を持っている、それが危険だと申し上げております」
「もう良い。下がれ」
皇帝は明らかに機嫌を損ねた。
よし、危なかったが首の皮一枚残った。
余計な反論をせず、落ち着いて過ごしたソル皇子はやはり見事だ。
「陛下!今一度お考え直しを!」
「くどい!」
皇帝はユピテル皇子の言葉を退けた。
「ソル皇子。どうしても出所を明かしては頂けないのですか?」
九条晃が突然標的をソル皇子に変えた。
「そう言う約束じゃ。約束を違えるのは余は好かぬ」
「そうですか……所で、先程から妙な気配を感じませんか?」
「妙な気配?」
ソル皇子が聞き返す。
「我々以外に何者かが潜んでいる。そんな気配です」
何を言い出す気だ。
俺は心臓が飛び出しそうになった。
くそ、心音さえ聞かれてしまいそうで、居ても立っても居られない。
移動すればわずかな足音さえも察知されてしまう。
俺は息を殺して、ただじっと身を潜めた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜
丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女──
その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。
病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。
白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。
自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、
父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。
ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。
皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、
側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。
その直後、父が危篤に。
泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。
「どうして平民の私に魔力が……?」
やがて明かされる真実──
ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。
王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。
不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、
幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。
「今度こそ、君を見失わない」
歌姫王女として成長していくミリアと、
彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。
やっかいな幼なじみは御免です!
ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。
アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。
整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。
いつも皆の注目の的だった。
ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。
それからアリスとシェイマスの婚約も。
家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが……
「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」
マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。
「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」
なんて、口には出さないけど……はあ……。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。