見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
745 / 826

七四四

しおりを挟む
「や、ちょ!ちょっと待ってくれ!」

 俺は慌てた。

「なんだ?」

「何だじゃないだろう!俺はこの世界の人間だぞ。直接女神に手を掛けるのはさすがに抵抗がある!」

 俺は正直に言った。

「レオ殿!どうか、殺さないでくれ!」

 ヴァルキリーが突然俺に向かって哀願した。
止めてくれ。
そう言うのも困る。
話の中心になっていくのは嫌なのだ。

「またレオ君の気弱な一面が出ちゃったか」

 オオムカデンダルが言った。
いや、アンタがやってくれりゃ済むじゃないか。

「……しょうがない。退け、僕がやろう」

 蜻蛉洲がため息交じりに前へと出た。

「ひいぃ!」

 ヴァルキリーが腰を抜かして後ずさる。
ハッキリ言って見ていられない。

「助け……助けて下さい」

 後ろを向いた俺の耳にヴァルキリーの懇願する声が聞こえる。

「諦めろ。お前はやり過ぎた。巻き添えにいったい何人の人間を殺す気だったのか考えてみるが良い」

「そうそう」

「だって、人間なんてまた増えてくるし、神が創られた神の所有物ではないか。少しぐらい間引いても何の問題もな……」

「じゃあお前も同じような理由で俺に殺されても文句は言えまい」

「そう、それそれ」

「そ、それは違う!私は女神だ!人間などと比べられては堪らない。もっとも尊い存在なのだぞ。なぜ人間と比べられなければならんのだ」

「神でも悪魔でもどっちでも良いが、世に生まれたからにはそれが事実であり正史だ。今更無かった事にしようなどと言うのが気に食わん」

「馬鹿な!我らは神だぞ!?」

「それがどうした。馬鹿は貴様だ」

「もっと言ってやれ!蜻蛉洲!」

「うるさい!君は少し黙ってろ!」

 オニヤンマイザーとヴァルキリーの話にチャチャを入れていたオオムカデンダルは、やはりどやされた。
今回はかなり遅かったくらいだ。

「まあ、待ってくれ蜻蛉洲」

 九条晃が会話に割り込んだ。

「九条か……何だ。今は忙しい」

「判っているよ。少し彼女と話したいんだが」

 オニヤンマイザーは少し考えてから、良いだろうと言った。
オニヤンマイザーから九条晃の声が聞こえる。

「リーオ」

「晃……!な、助けてくれ!頼む!」

「リーオ良く聞け。助かりたいなら神を捨てろ」

「……え」

「神を切って僕らに付け。それしか生き残る道は無い」

「そ、それは……」

「判っている。だが、それしかお前を助けてやれん。お前を庇える要素は他に無い」 

「出来ない……出来ないよぉ……!」

「リーオ!もうチャンスは無いんだ。誓え。神を切ってネオジョルトに忠誠を誓うんだ。蜻蛉洲はそこの二人ほど甘くは無い。もう数秒後にはお前は殺されるだろう。これは最後のチャンスなんだ」

 九条晃がヴァルキリーを説得する。
さすがは元正義の味方だ。
一応元仲間だった訳だしな。
オオムカデンダルとはその辺が違う。

「ううぅぅー!ううぅぅー!」

 ヴァルキリーが苦しそうに涙を流す。
神への忠誠と、死への恐怖の狭間で、ぐちゃぐちゃになっている。
泣きわめく女神の姿を、俺は本当にこれ以上は見ていられなかった。

「出来ないー!出来ないよー!」

「リーオ……」

「……そうか。さすがは腐っても女神。見上げた忠誠心だ。見事だ」

 オニヤンマイザーが手刀を振り上げる。

「うあー!うあああー!」

 最後にヴァルキリーが一際大きく泣き声をあげた。

 どしゅ!

「……」

 どさっ

 唐突にヴァルキリーの声は聞こえなくなった。
やったのか。

「……後で墓を掘らせよう」

 オニヤンマイザーは静かにそう言うと、踵を返した。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...