見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七七一

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「サンドラ王女はヴァルキリーに憑依されていた。おかげで王国は難儀しただろうな」

「なんだって……!」

 ケンが震えた。

「その様子じゃ知らなかったんだろうな」

「何故お前はそれを知っているんだ……」

 おっと。
そこから先はネオジョルトについて話さなければならない。
しまったか。

「……それを話すと俺の事も話さなければならん。悪いがそれは断る」

「……そうか」

 ケンは自らの怒りをコントロールした。
深呼吸すると、さっきまでのケンに戻る。
たいしたもんだ。

「……そもそも王女を守るのが騎士団の最初の理念だったんだ。今ではそれだけに留まらないけどね。でも王女は最近おかしかったんだ」

 なるほど。
その頃にヴァルキリーに体を奪われたか。
結果、死んでしまった。
その手を下したのがネオジョルトだとはとても言えない。

「……まあ、なんだ。お互いに色々あるとは思うが」

 俺の言葉は歯切れが悪かった。
自分でも何を言っているのか良く判らない。
慰めようとでも言うのか。
こう言う時には何と言えば良いのかも良く判らなかった。

「そのヴァルキリーはどうなったんだ?」

 それだ。
俺が悩んでいるのはまさにそれだ。 
聞かずにはおれんか。
おれんよなぁ。

「それは……」

 つくづく俺は嘘を吐くのが下手クソだ。
もう少し何とかならんのか。
我ながら嫌になる。

「しかし、女神ヴァルキリーに憑かれるとはさすがはサンドラ王女だ」

 ケンはポジティブに捉えた。
それが良いのか悪いのか。

「ケン、実はな……」

「まあ、怪我をされたと聞いた時にはこれは一大事かと慌てたんだけど、そうか女神ヴァルキリーのご意志で行動されていたのか。それなら合点もいく。きっと神に代わって大役を仰せつかったに違いない」

「え……?」

 俺は驚いてケンの顔をまじまじと見た。

「先日、サンドラ王女が大怪我をされたと聞いてびっくりしたんだ。でもそれも快方に向かっているらしい。一体何があったのかと城の内部は大騒ぎだったんだけど、僕は君の話を信じるよ。王女は女神ヴァルキリーの思し召しで行動されていたんだね」

 サンドラ王女は生きている?

「ああ。それがどうかしたのかい?」

 て事は、死んだのはヴァルキリーだけか。
サンドラ王女の体は解放してくれていたのか。
いや、むしろ俺たちと戦うのに王女の体は邪魔だったのだ。
人間の肉体では付いて来られない。

「いや、ご健勝なら何よりだ」

 俺はひとまず胸を撫で下ろした。
しかし、実際に顔を合わすのは止めておいた方が良いだろう。
記憶はあるだろうから、面が割れると厄介だ。

「話が逸れてしまったね」

「やる事は決まっている。別に構わん」

「へえ。さすがは君だ。もう何か思いついたのかい」

「いや全く。だがこんな時は単純な方が良い」

 そうだ。
難しく策を弄するより、シンプルな方が相手も引っ掛かる。

「張り込む。子供が消えた場所に偏りがあるだろう。一番多い所を見張り続ける」

 ケンの顔色が曇る。

「理屈は判るけど、いつ起こるかも判らないのにずっとそこを見張るのかい?無理がないか?」

「無い」

 俺は即答した。

「入れ替わり立ち替わりで三時間ずつとして……八人居れば何とかなるのか」

 ケンが腕組みをした。

「そんな必要は無い。俺が一人で見る」

「なんだって!?」

「問題ない。ただ見ているだけだ。それに、引継なんかしている間に事が起こっても対処できない可能性もある。そもそも騎士なんかに張り込みは務まらんだろ」

 ケンが笑った。

「そんな露骨に騎士団を下に見ないでくれよ。でもまあ、確かに務まらないかもな」

 そう言って一層笑った。

「けど、君はそんなに長時間見張れるのか?食事や睡眠やトイレなんかどうするんだい?」

「問題ない」

「問題ないって……漏らしちゃうの?」

 漏らすか。
普通の人間と一緒にするな。

「とにかく任せてもらおう。それと、こっちも頼みがある」

「なんだい?」

 俺はジョンビアの子供たちを救出してもらうようにケンに頼んだ。
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