見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九一

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 船と併走しながらトロールと相対する。
トロールはけして油断する事無く、慎重に俺に注意を向けている。
やはりイメージとは違う。
トロールはどちらかと言えば怪力にモノを言わせるファイトスタイルだ。
知能が低く、誘いや戦略的理詰めには滅法弱いとされる。

 だが、こいつはどうだ。

 先を読んでこちらが嫌がる方を優先し、こちらが嫌がるポジションを取った。
船にはけして敵を近寄らせず、船を沖へ逃がす事を最優先にしている。

 明らかに頭脳的だ。
どう言う事なんだ。
俺は走りながらトロールを観察した。
だが、余裕は無い。
考えるのは後だ。

「とおっ!」

 俺はもう一度船へとジャンプを試みる。

「ウアアアオ!」

 トロールが敏感に反応して迎撃の態勢に入る。

 ぶうん!

 正確に俺を狙って腕を振ってくる。
受けては駄目だ。
俺はトロールの腕を狙って飛び付いた。

「!?」

 トロールが腕に巻き付いた俺を、慌てて振りほどこうと暴れる。
予想外だったらしい。
肉弾戦はこちらに分がありそうだ。

 そのまま手首を掴まえて両手で腹に押し付ける。
両足を腕に絡めてトロールの腕を引き付ける。

「ウガアアアオ!」

 クロスアームロック。
オオムカデンダル直伝のプロレス技だ。
関節を決めると言う発想が俺達冒険者には無いが、素手で人型モンスターと戦うにはかなり有効だと思う。
何故なら、小さな力で強力な筋力を誇るモンスターに対抗できうるからだ。

「ウゴアアアア!」

 トロールが苦痛に叫ぶ。
だが、これではトロールを仕留められない。
再生能力をどうにかしなければ、トロールは何度でも立ち上がって来るだろう。

「うわあああん!うわあああん」

「怖いい!怖いよおぅ!」

「ええぇん!ええぇん!」

 トロールが暴れる度に、船が大きく揺れた。
子供たちの絶叫が続く。

 ぐいっ!

 トロールが痛みに耐えて立ち上がった。
俺ごと持ち上げて船底に叩き付けた。

 バッゴオッ!

 派手に船底が砕けた。
小さな木造船になんて事をしやがる。

 じゃばじゃばじゃばじゃば

 遠慮無く水が入って来る。
沈むぞ。
頭が良いのか悪いのか。
こうなる事ぐらい判らないのか。

 ずるずる

 子供を入れた鉄の檻が、船尾に向かって滑り落ちる。
マズいぞ。
止めないと。

「ウゴオオオオム!」

 トロールが再び腕を持ち上げる。
野郎、もう一発行く気か。
俺は急いでクロスアームロックを外すと、トロールから離れた。
あんなのをもう一発食らえば、その瞬間に船は沈む。
このままでも確実に沈むが。

 トロールが俺を見てニタリと笑う。
この野郎、わざとやったと言うのか。
自分は水辺で有利なのを理解している。
確実に俺を仕留める方を選んだのだ。

 ずるずる

「助けてえ!誰かあ!」

「お父さぁん!お母さぁん!」

 檻がもう半分、水に浸かっている。

「くそっ!」

 俺は檻を支えて押し返す。

「グアアアアアン!」

 トロールが雄叫びを上げて俺に襲い掛かった。

 どかっ!
ばきっ!
どごっ!
ばきっ!

 三度も、四度もトロールの拳が俺を打つ。
その間にも船は沈み、檻は水に浸かった。

「てめえ!いい加減にしろよっ!」

 俺はトロールに向かって顔を向ける。

 カシャッ

 俺の口が開く。

「サフィリナックスフレイム!」

 ごおおおおおおお!

 勢い良く炎が噴き出す。

「グギャアアアア!?」

 トロールが慌てて離れた。
驚き方が尋常では無い。

 火か?
火が嫌なのか。

 トロールはサフィリナックスフレイムを大袈裟にかわすと川の中へと逃げ込んだ。
水棲モンスターの弱点が火と言うのは良くある事ではある。

「今のうちに……!」

 とにかく考えるのは後だ。
俺は檻を三つ同時に抱え上げた。

 がしゃがしゃん

「うおおおっ!」

 渾身の力を込めて、俺はジャンプを試みる。

 がしっ

 水面からトロールの腕が伸びて来て、俺の足首を捕まえた。

「なに!?」

 これでは跳べない。
くそ!
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