見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
819 / 826

八一八

しおりを挟む
「レオ」

 アニーの声が聞こえる。

「今、その辺りに不思議な空間の歪みを感知しているわ」

 不思議な空間の歪み?
なんだそれは。

「良く判らないの。ただ『管理人』は、『時間』の流れが不規則だと言っているわ」


 管理人。
やっぱり居るのか。
もうずいぶん声を聞いていない。

 それはともかく。

 時間の流れが不規則と言うのは、王の力『クロノスのギフト』の事に違いなかった。

「今、交戦中だ。敵のスキルが時間を伸ばす事によって世の中全てをスローモーションにするスキルらしい。馬鹿馬鹿しいがそのスキルのせいだろう」

「時間に干渉するスキルがあるなんて……」

 アニーが言葉に詰まる。
スローモーションになっている間、誰もその事を自覚出来ない。
アニーもそんな事が起きている事を認識出来ないのだから驚くのも無理は無かった。

「管理人が言うには、『時間』を操るならそれに関する様々な事が可能かもしれないと言っているわ」

 関する様々な事?

「例えば、時をスローに出来るなら速くも出来るし、止めたり巻き戻したりも出来るかもしれないですって」

 そんな事が出来るなら無敵ではないか。
王が絶対に勝てないと言ったのはこの事か。

 俺は優勢なのにもかかわらず、追い詰められた気持ちになった。 
そんな相手にどうやって勝つと言うのだ。
そもそも、時間が操られている事を認識する事さえ出来ないのだ。
時が止まっても、止まっている事を認識出来ない。
自分にとっては別に何も起こっていないように感じるだろう。

 どうする。

 俺は戦いながらも考える。
俺は再び王を観察する。

「はあ、はあ」

 王がわずかに肩で息をしている。
さすがの王も少しは息が上がっているか。

 俺ははたと気が付いた。
さっきまで、ああも激しく戦っていたのに王は息一つ乱れていなかった。
それはレベル三〇〇からくる身体能力故だと思っていた。
それなのに、今は息が上がっている。

 何故だ。
考えられる事はただ一つ。
スキルを使っているからか。
これだけ途方も無いスキルだ。
全くのノーリスクと言う事は無いだろう。
あれだけの動きでも上がらない息が上がる程の消耗だとしても、なんら不思議は無い。
むしろ、平然としている方がおかしい。

 と言う事は、やはりスキルを無限に使う事は出来ない筈だ。
他に時間を止めたりなんて大それた事は、もっとリスクを伴うと見て良いだろう。

 時を止められたらヤバいな。
俺はそう考えていた。
もし、本当に管理人の言う通りなら時間に関するあらゆる行動、例えば『時を止めてくる』可能性は十分にある。

 その代償も王にはある筈だが。

 そこまで考えて、俺は突然王がさっき自殺しようとした事を、思い出した。

「そうか!」

 俺は何かが自分の中で繫がったのを感じた。

 発動条件。

 何かしらリスクを伴う最大の代償は何か。
それは命を失う事だ。
つまり死ぬ事によって発動する。
もしかして王は何度かこの戦闘中に死んだのでは無いか?
そして、それを俺たちは感知出来ない。
それなら序盤の『王がサフィリナックスカタラクトをかわした』事も説明が付く。

 王は食らって死んだのだ。
そして、それを『無かった事』にしてやり直している。
だから初見の技を知っていたのか。
その辺の違和感を、ウロコフネタマイトは認識出来ないながらもボンヤリと感じていたのかもしれない。

 まさか時間を『やり直せる』能力だとは誰も気が付かない。
恐ろしい能力だ。

 だとすれば、時を止めてくる事はほぼ無いだろう。
何故なら、やり直す為に死ななければならないのだ。
時を止める為に死んでしまっては、動き出した時に元も子も無いだろう。
あるいは、そのまま二度と動き出さないか。
その場合は、世界は永久に止まったまま。
止まっている事を誰も認識出来ないのだから、永遠に止まったままでも問題ないと言えば問題ないが。

 そうで無かったとしても、それに準ずる代償はある筈だ。
この状況で今、王に支払える代償があるようには俺には見えなかった。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...