ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―

小松菜

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本編

なんだそれ

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翌日。
ジンとチャコの二人は、何故か体調を大きく崩した。
立ち上がるのも困難なほどだった。
高熱と言うほどでも無いが、発熱してそれがしばらく続いた。
外見上は特に何の変化も無い。
症状もそれほど重篤では無い。
しかし何故か意識は混濁し、立ち上がる事もままならなかった。

琢磨翁は狼狽えた。
しかし千代之助が居た事が、精神的な救いであった。
命に別状は無いが、診た事の無い症状だ。
千代之助も困惑していたが、熱が下がり始めてからは症状も改善傾向にあった。

結局、理由は解らないまま二人は全快した。
何か伝染病の様な物では無いかと千代之助は疑ったが、琢磨翁も自分にも何の影響も無かった。

二週間が経った頃、二人は普通の生活に戻った。
早朝から井戸の周りで身体を拭くジンの姿があった。
チャコも同様に顔を洗い、千代之助もそれに続いた。

琢磨翁が小屋の裏からザルを持って現れた。卵を回収してきたらしい。

「おお、もうええんか」

琢磨翁がジンに声をかけた。

「ええ、妙な時間を食ってしまいましたからね。次に掛からないと」

ジンはそう言って琢磨翁からザルを奪った。
琢磨翁はジンの後を着いて、小屋に入っていった。

朝食を済ませてから、一同は本題に入った。
まず、霊剣鬼殺しについてである。
二人が寝ている間に、琢磨翁が色々と調べてみた。

「これはワシも初めてなんだがな、何故か刃が付いとらん」

ジンもチャコも黙って聞いていた。
それは二人も最初に気付いた部分でもある。

「それから鞘が無いな。ま、それはワシがこしらえてやろう」

琢磨翁はそう言いながら、鬼殺しの柄を見せた。

「この刃文の部分だが、ここをこう……」

琢磨翁が柄の根本を軽く操作すると、刃文の部分に光が灯った。
一同がおおっ、とざわめく。

「どんな仕組みかは解らんが。この温い部分は触れただけでは何とも無い」

琢磨翁が光る刃の部分をテーブルの角に当てて見せた。
しかし、別に何も起きない。

「しかし、素早く引くと斬れる」

今度は素早く刀を引いて見せる。
テーブルの角は見事に切断された。
凄まじい切れ味である。
断面も、カンナを掛けた様に滑らかな切り口である。
チャコは背筋が冷たくなった。

「すげえ……。どうなってんだこれ」

チャコが思わず呟いた。
ジンも同感だった。

「抜き身では危ないからな。やはり鞘は必要だろう」

そう言って琢磨翁は鬼殺しをテーブルの上に置いた。
ガチャッと機械的な音がする。

「お前ら体調はどうじゃ?  違和感は無いか?」

千代之助が二人に尋ねた。

「それが何とも無いんですよね。何だったんですかね」

チャコが他人事の様にケロッとして答えた。

「自分は……」

ジンが静かな口調で答えた。

「前よりも体調が良い様な気がします」

ジンが千代之助を見た。

「前よりも体調が良い?」

千代之助が首を捻る。
顎に手をやりながら、ジンに尋ねた。

「例えばどんな風にじゃ?」

ジンは上着をたくし上げて、脇腹の傷を見せた。

「この前の男にやられた火傷の痕です。広範囲に渡ってやられましたが、この脇の部分は特に治りが遅かったんです」

千代之助が頷く。
その傷を治療してきたのは、他ならぬ千代之助自身であった。
部位によって傷の治りに差があるのは、珍しい事では無かった。

「しかし、この間体調を悪くしてから……」

ジンが脇腹の傷を指し示した。

「見て下さい。完全に治っています」

確かに傷口は塞がっていた。
ケロイド状になった火傷の後は消えていなかったが、体組織が露出する様な事は無くなっている。
化膿止めを処方するのに苦労していたのが、嘘のようである。

「確かにそう言われれば、自分もそうかも」

チャコもジンに言われて思い当たった。

「確かに痛み止めが無くても、前の様な痛みは無いですね。……何でだろ?」

千代之助は驚いた。
元々この二人は特別だ。
超人染みた身体能力の持ち主であり、精神力も並外れている。
本当は退院など考えられない程の重傷患者である。
それを平然と歩き回って居られたのは、人並み外れた精神力と体力である。
簡単に言えば、痩せ我慢だ。

しかし、物理的に傷が治っているのはどう言う事なのか。
いくら超人染みた体力と精神力の持ち主でも、痩せ我慢で怪我は治らない。
千代之助にもさっぱり解らなかった。

「まあ、治ったんだから理由は別に良いんですけどね」

チャコはあっけらかんとして笑った。
ジンも同感だったようで、チャコを見て自分も笑った。
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