4 / 9
第四話 はじめての魔法
しおりを挟む怒号と共に衝撃に曝される。
「ッは、げぇはっ、はっ、ぐぅ……!」
背中を打ち付けた俺が咳き込んでいるのも気にせず、怪物が乗り移ったかのように豹変した父は恐ろしいことに杖を向けてきた。
杖は魔法使いの武器だ。
それを向けたということは、攻撃の意思を持つことを明確にしている。父が、俺を傷つけようとしている。
俺は戸惑い以上に悲しかった。
「まっ……まって、待ってください、私は必ず魔法使いとして立派になってみせます! だから」
「それはありえないことだな。お前の限界は、どこまでいってもみすぼらしいあの輝き程度にしかない」
それは微かにあった、まだこれから成長するかもしれないという希望をあっさり打ち砕いた。魔法使いとして一流の人間から証明された、あまりに低すぎる才能の限界。
俺は死刑宣告を受けた気分になる。
父はさらに追い討ちをかけるように、言葉を続ける。
「マクスヴェルの血がお前に魔法使いの才能を与えなかったのは、お前が純血を裏切ったからだ。マクスヴェルの穢れにお前は屈したのだ。そのような者がマクスヴェルとして子を残し、穢れを蔓延らせることは許されん。それがこの家の決定だ」
純血を裏切る? マクスヴェルの穢れ?
魔法の才能がないことで、これほど怒りに染まって排除しようとするのはそれが理由?
どれも理解できないことだ。俺は理解できない理不尽なことで、自分を否定されている。
「私がどれだけこの家を大切に思って尽くそうとするかより、魔法使いの才能がないことの方が重要な問題なのですか……?」
「そうだ。純血がなぜ尊いのか。それを理解するからこそ我々は血の純度を証明する、魔法使いの才能を重く見る」
「なら、裏切ったのはお父さまだ……」
「なんだと?」
俺は、昨日まで自分が優秀な魔法使いになることを疑っていなかった。信じ切っていた。
だがそれまで魔法使いの才能がないのを理由に人を見下したり、傷つけたり、嫌ったりはしなかった。
父もそうだと信じていた。たとえ魔法使いの才能がない自分にも、それ以外のいいところを見つけて認めてくれるとどこかで期待していた。
しかし父は違った。
魔法使いの才能だけを見て、俺を否定している。
俺はこれまで感じたことのない力の奔流を知覚した。怒りではなくもっと澄んだ、命の深いところから溢れて湧く強大な力。
それは俺の全身を満たし、今まで閉じていた感覚を開いた。
「あなたは、俺の愛を裏切った!」
杖から閃光が走る。同時に、俺は初めての感覚に身を委ねた。
「……!?」
今度は吹き飛ばされることもなく、痛みさえ俺の体に届かない。
目の前で石の床が盛り上がって、盾のように父の攻撃を遮っていた。一撃に耐えきれず、ボロボロと崩れかけているが父の魔法を防いだのだ。
「……これ以上私を失望させるな。それを見て私が考えを変えると思ったか? ふざけるな、こんな三流以下の魔法、マクスヴェルを貶めるだけだ!」
今度は溜めもなく、杖から放った魔法が床を抉っていた。
「もう一度告げる。ラルク、今後お前がマクスヴェルを名乗ることを禁ずる。出て行け!」
言われるまでもなかった。扉を乱暴に開けて、俺は父に背を向けた。
この屋敷からは出られない。
屋敷には人払いの結界が張り巡らされているから、合言葉か、家の人間から招き入れられた者でなければ出入りができないのだ。まだ子供の俺は合言葉を教えてもらっていない。
あれだけ威勢よく飛び出しても、行くあてなど限られていた。
俺は部屋に戻ろうとしていた。ひどく疲れている心身を休めなければ何もできそうになかったからだ。
初めて魔法使ったことによる疲労と、父からマクスヴェルを名乗ることを禁止され、この先どう変わっていくのか見当もつかない不安が重なり合い、悪魔的な乗算の結果俺の精神を追い詰めていた。
今は、心にのしかかるすべてにフタをして、狭い世界に閉じこもりたい。
「ビーンズ……こんなに散らばって、誰がやったんだ?」
足の裏に、何かを踏んづけた感覚があった。下を見ると箱ごとひっくり返したように大量のビーンズが転がっている。
今は片づける気力などない。俺は足をどかして立ち去ろうとして、その瞬間目を疑うことが起こった。ビーンズが爆発的に体積を増して、俺を上空に跳ね上げたのだ。
「がふ!?」
床に肩を強打し、視界が黒く染まる。
何が起きた、そんな疑問はない。俺はすぐに分かった。それを昔からよく見てきたからだ。
「こ、この魔法は……どうして」
一番上の兄、ワイズ・マクスヴェルは物の大きさを自在に操る魔法を使う。
それは、例えば床のビーンズを膨れ上がらせれば上を歩く人間を転倒させられる。
「どうしてだ……ウッ、ウゥ……」
俺は泣いた。
魔法使いの才能がない。たったひとつのことだけで父と兄からの愛情を、家族の絆をなくしてしまったのだ。
俺はこれまでこの家で楽しかったすべての思い出が虚しく思ってしまい、起き上がることさえできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる