姫の歳月〜貴公子に見染められた異形の姫は永遠の契りで溺愛される

求愛

　ぼんやりとそんなことを考えていた姫は、不意に自分の体を持ち上げられ、「え！」と驚いた。
　宰相君は、いつの間にか帷子を軽く羽織っており、姫の体を軽々と抱え上げていた。

「どうかなさいましたか？」
　うろたえ尋ねる姫に、
「どうもこうも。こんなところであなたを抱くわけにはいかない」
　宰相君は囁いて、姫を抱えたまま早足で湯殿を出た。

　宰相君は湯殿のすぐ近くにある離れで暮らしており、彼はためらうことなく姫を自分の殿へやに運んで行った。
　彼は、一旦姫の体を下ろし奥の間まで彼女の手を引いて連れて行く。姫の心臓は、先ほどからずっと、音が聞こえそうなほど激しく脈打っていた。

　宰相君は几帳をずらし、彼女と共にその陰に入り、再び几帳を丁寧に下ろした。彼は、姫を座らせると、じっと彼女を真正面から見た。姫は恥ずかしくてたまらない。鉢のせいで自分の顔が隠れているのは有り難いが、同時に宰相君の美しく凛々しいお顔が見づらいのは歯がゆいことであった。

「さっきも言ったように、私は今まで女性に全く縁がありませんでしたし、実はあまり興味がなかったのです。しかし、あなたを見て、あなたに触れた刹那、この方こそ私の妻となるべき人とわかりました」

　姫は信じられない思いだった。
「誰か言い交わした人でもいらっしゃるのでしょうか？」
　宰相君が不安げに尋ねてくる。

　姫は彼の言葉に驚いて、慌てて否定した。
「私のような異形を、まともに相手にして下さる方などおりませぬ」
（あなた以外は）心の中で付け加えた。

（この方は本気で仰っているのかしら？ 私をからかっていらっしゃるのかもしれない。それこそ「怪ばけものと遊んでみたよ」などと、笑いものにされるおつもりかもしれないわ）

　ところが、宰相君は、
「よかった！ では私は、今この時からあなたの夫となりました」
　無邪気な歓声を上げた後、姫を抱きしめた。
　彼は「急ぎすぎている私を許して下さい」と呟いて、湯殿の続きを始めたのである……！