苦い果実

花野未季

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機銃掃射⑴

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 戦争が始まって、四年目の春のこと。
 もう、その頃は勉強するどころでなく、私たち生徒も落ち着かない毎日を過ごしていたように思います。

 それでも、いつも通り学校に行くしかない私達は、学校終わりはその辺の原っぱで遊んでいましたし、比較的のどかな暮らしをしていたのです。
 しかし、実際は、日本は大変なことになっていました。

 都市部は、毎日のように無差別攻撃を受けていて、人的、物的被害は相当なものでした。
 皆さんも、空襲という言葉はご存知ですよね? 昭和二十年三月の東京大空襲を皮切りに、日本各地が大規模な爆撃を受けました。

 戦争が始まった当初は、主な攻撃目標は工場、及びその周辺でしたが、次第に住宅密集地や電車も狙われるようになりました。
 空襲による我々庶民の被害は甚大でした。

 しかし、この町は、そこまで攻撃を受けることがなかったので、何か恐ろしいことが起きているとわかっていても、遠い出来事のように私は思っていました。しかし、それが遠い出来事ではないことを、ある日、私は思い知らされたんです。

 その日は、級長をしていた私は先生に頼まれて、放課後に教室の棚の整理をしました。それを終えて、ひとり下校する私に、とんでもない災厄が襲ったのです。

 ふと、耳の後ろで虫の羽音がしたような気がして振り向くと、後方の空に艦載機かんさいきが浮かんでいるのが見えました。

 総毛立つ、とはこういうことか。今でも思い出すと、ぞっとします。

 敵機がただ一機、こちらに向かって飛んで来るのです。
 私は慌てて走り出しました、悲鳴をあげて。

 闇雲に走ったところで、追いつかれるのはわかっています。上から攻撃されたら、ひとたまりもない。でも走るしかない。

 その時、「たけぼん!」と声がして、兄ちゃんが草むらから飛び出してきました。彼は私を抱え、引きずるようにして走り、草むらの木の陰に転がり込みました。

 しばらくして、タタタッという破裂音が響き、地面が揺れたような気がしました。私は兄ちゃんに縋りつき、目を閉じて震えていました。

 さっき私が走っていた場所に、何発か銃弾を撃ち込んで、敵はそのまま去っていきました。
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