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兄ちゃんが入隊する日が間近に迫ったある日、兄ちゃんと私達小学生は裏山に登りました。そこは、山というより低い丘です。
私達子供は、時たま、丘を開墾して作られた果樹園に行っては、盗み食いをしていました。大人達も、子供のすることなので、大目に見てくれていましたし、「実が熟れて落ちる前に食べたらいい」などと言ってくれる人もいました。
兄ちゃんは、その果樹園の晩生のみかんを一つ捥いで剥くと、実を一房ずつ、私たちにくれました。
「今年は、これで食べ納め。好きなだけ食べ」
兄ちゃんが言いました。
「いいの?」と、驚いたように尋ねたのは、大阪から疎開してきた山田君という男の子でした。
その子は、さすがに都会から来た子らしく、大人びた面白い子でした。
しかし、農村の暮らしを知らないせいか、時々、突拍子もないことを言ったり、やったりして、私達を呆れさせるようなところもありました。
果樹園の端っこには、小さなみかんみたいな実が生っている低木がありました。金柑です。
「食べたことあるじゃろ? 甘くてうまいんじゃ」
私は彼に一粒渡しました。
「こんなちっこいの、皮剥くんか?」と、彼が不思議そうに言うので、「違う違う、そのまま食べるんじゃ」と私が笑うと、山田君は、「あ、せやせや、そうやった」と口に放り込み、叫びました。
「苦!」
皆さんも金柑を食べたことがあるでしょう?
皮は苦いのですが、実は甘ずっぱくてお菓子みたいですね。
「うまいな」
私たちは微笑み合います。
「この木は放っておいても勝手に生ってくれる便利な木じゃ。来年もまた、みんなで食べよう。その時には、わしも戦争から帰ってきとるじゃろ」
兄ちゃんの言葉に、彼が戦争に行ってしまうという現実が押し寄せてきました。
私達子供は、時たま、丘を開墾して作られた果樹園に行っては、盗み食いをしていました。大人達も、子供のすることなので、大目に見てくれていましたし、「実が熟れて落ちる前に食べたらいい」などと言ってくれる人もいました。
兄ちゃんは、その果樹園の晩生のみかんを一つ捥いで剥くと、実を一房ずつ、私たちにくれました。
「今年は、これで食べ納め。好きなだけ食べ」
兄ちゃんが言いました。
「いいの?」と、驚いたように尋ねたのは、大阪から疎開してきた山田君という男の子でした。
その子は、さすがに都会から来た子らしく、大人びた面白い子でした。
しかし、農村の暮らしを知らないせいか、時々、突拍子もないことを言ったり、やったりして、私達を呆れさせるようなところもありました。
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「食べたことあるじゃろ? 甘くてうまいんじゃ」
私は彼に一粒渡しました。
「こんなちっこいの、皮剥くんか?」と、彼が不思議そうに言うので、「違う違う、そのまま食べるんじゃ」と私が笑うと、山田君は、「あ、せやせや、そうやった」と口に放り込み、叫びました。
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